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5 サプライズ


スカイダイビングを愛好するカップルがいた。結婚を決意した男は、サプライズが好きな恋人のためにフリーフォールの最中にプロポーズをすることにした。

高度3,500メートルの地点でセスナ機から飛び出した二人は、うつ伏せ体勢になって手を取り合い、時速200キロのスピードで空中を落下していった。

男がポケットからおもむろに指輪を取り出してみせると、恋人は歓喜の叫びをあげた。男は身振り手振りで結婚を申し込んだ。恋人は目に涙を浮かべて繰り返しうなずいた。

男が恋人の左手の薬指に指輪をはめると、高度1,000メートルが近付いてきた。二人は口づけを交わし、見つめ合いながらパラシュートを開くのに安全な距離まで離れた。

開傘高度になり、二人は同時にパラシュートを開いた。開いたのは男のパラシュートだけだった。男が顔を下に向けると、恋人が必死にもがいているのが見えた。成す術はなかった。男は恋人が豆粒のように小さくなっていき、地面に叩きつけられるのを見た。

男は恋人からかなり離れたところに着地した。しばらく身じろぎもできないでいたが、やがてよろよろ起き上がると震える手でパラシュートを外した。男は重い足取りで恋人に近づいていった。生死を確かめるまでもなかった。男は恋人の傍らに膝をつき、左手から指輪を回収した。

一年半後、男は新しくできた恋人にその指輪をプレゼントした。

〈了〉

いただいたサポートは子供の療育費に充てさせていただきます。あとチェス盤も欲しいので、余裕ができたらそれも買いたいです。