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天気の子、転勤の子

数年前の夏の終わり。
僕は生まれ育った地元を離れ、
都会というにも田舎というにもなんだかしっくりこない街、名古屋にいた。

新天地での家探しと新生活に想いを馳せて、一日あてもなく名古屋を徘徊する予定のその日。
初めての転勤に、初めての一人暮らし、普通ならワクワクする場面のはず。
ただ、僕はそうでもなかった。

雨で足元も悪い上に、天気のせいで内覧する家も暗くてなんだかジメジメしている気がする。
不動産屋のいう南向きで日差しも良く〜、という言葉も僕には届かない。

だって日差しが良くないのだから。

湿度も温度も人口密度も高い街に僕は早くもヘキヘキしていた。

これから本当にこの町で暮らすのか?

なんていう当事者意識のかけらもない疑問を頭に抱えたままの僕。

憧れの新生活を始めるための綺麗な水回りも、使う予感すらないロフトも
男一人暮らしじゃ意味のない治安のいい地域も、まるで他人事だ。

普通の買い物だったらその日中に決めなくても、人生に大した影響もないだろう。

ただ今回に限って言えば、それは家だ。

明日、着るTシャツがないのとはわけがちがう。

今日中に、決めないといけないことがこんなに大変だと知らなかった。

もうユニクロでTシャツ如きに悩むの、私やめる。変な色のTシャツも買え。

色々な情報が頭の中で駆け巡り、
わかりやすくいえば、僕はむしゃくしゃしていたんだと思う。

そこでなんとなく吸い込まれるように、
そして人混みから逃げるためという明確な目的も持って
都心から少し離れた映画館併設のショッピングモールに僕はひたすら歩いた。

現実逃避のため、という映画を見るのにはうってつけのコンディションで
選んだ映画。
テレビのCMでよく聞いていた「ねぇ、今から晴れるよ」というセリフに
願いを込めて。

映画が終わる頃にはもう外は夕なずんでいた。

外に出て夕焼けを見たとき、この映画を見るのはきっと今日って
決まってたんだろうなと思った。

願いが叶ったのか元からそういう予報だったのか知らないが
それなりに綺麗な夕焼けに「映画のまんまだな」と一人納得して。

家も何も決まらなかったが、なんとなくスッキリした気持ちだけを携えて
そのまま帰りの新幹線に乗った。

なんの目的も果たさなかった。
見事なまでに何も決めなかった。

ただ、この清々しい気持ちはきっといい映画と綺麗なシーンの数々のおかげ

結局、家は適当にネットで探して内見もせずに決めた。

ロフトもエントランスもない、何もない簡素な四階の1K。唯一のこだわりは精一杯でかい窓に、南向きだけ。

ただ、それが今思い出しても短い名古屋生活にはうってつけの部屋だったと思う。

また、引越しで息詰まったら全て投げ出して映画でも見よう
考えすぎるには現実は俺には少し色々多いのだ。

人生で大事なことを決めるときには少し現実逃避してるくらいの方が
なんだかんだ上手くいくんじゃないかな。

知らんけど。

#映画にまつわる思い出


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