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デジタルIDウォレットに関する雑感

最近、「デジタルIDウォレット」と言う専門用語を聞くことが多い。
これは、EUが推進している「欧州デジタルIDウォレット」"European Digital Identity Wallet"(EUDIW)の構想から来ていると思われるが、日本国内ではほとんど知られていない。
日本で普及しているiPhone のユーザー達は、スマホアプリの一つである「ウォレット」を連想するかもしれない。文字通り、iPhone の中にクレジットカード、電子マネー、交通機関の乗車券等をデジタル化して、財布代わりにするものに近いと言えば、少しはわかるだろうか。

「デジタルIDウォレット」の定義は明らかではないが、私は、個人がパソコンやモバイル端末を用いて、自らの身元を示すための情報に加えて、自らの属性情報等を管理し、自分の意志で他者に提供する仕組みであると、認識している。
ここでいう身元を示すための情報及び属性情報は、一般にアイデンティティ(Identity)と呼ばれる概念に近い。日本では、基本4情報と呼ばれる「氏名」、「生年月日」、「性別」及び「住所」が、身元を示すための情報として使われることが多いが、日常生活では、経歴(学歴証明書・保有資格証明書など)、健康・生活習慣情報(保険加入内容・処方箋など)、金融・決済情報(口座情報・ローン履歴など)等を、様々な手続において関係機関等に提供する。

以前の私の投稿「自己主権型アイデンティティとマイナンバーカード」において、デジタル化された個人のアイデンティティがネット空間を飛び交っている状況の下、個人が自らの属性情報を管理し、利用シーンにおいて必要な情報のみを提供することの重要性を書いた。そして、マイナンバーカードを身元確認に用いた民間デジタルIDの必要性を示した。

私は「デジタルIDウォレット」は、民間デジタルIDの入れ物に相当すると考えている。そして、細かく分ければ、以下の機能を有するものと思われる。
(1)信頼される情報保有(発行)機関から、自己に関する真正な情報(身元を示すための情報を含む)を入手することができる
(2)入手した自己に関する真正な情報を安全に管理することができる
(3)自己に関する真正な情報を他者に提供できる
(4)(3)の情報の提供を受けた他者及び第三の依拠者は、当該情報の真正性を検証できる
   (注)(1)~(4)の順番は、説明の仕方によって変わる。

EUは、米国の巨大ITプラットフォーム企業に欧州市民のアイデンティティに係る情報を独占されないよう、自己主権型アイデンティティの思想に依拠して、「欧州デジタルIDウォレット」を提唱していると考えられる。しかし、その実装は、おそらくスマートフォンを使うことになるであろうから、アップル社、グーグル社との関係がどうなるか興味深いところだ。

ところで、私の仕事上で知り得た事実なので詳細に書けないのだが、「デジタルIDウォレット」は、けっしてEUのみによるプロジェクトではなく、世界的に検討が進んでいるらしい。
例えば、多くの国民が自身の身分を証明する公的手段を持たないアフリカなどの新興国では、デジタルIDウォレットの実現に対するニーズが高まっている。その場合に、参考になるのは、インドの国民ID「アダール(Aadhaar)」を基盤とした「インディア・スタック」だ。
インドは、MOSIP(Modular and Open Source Identity Platform)というプロジェクトを展開し、デジタル公共財の仕組みを諸外国で開発できるよう、「インディア・スタック」のアーキテクチャーを公開している。

翻って、日本は、「マイナンバーカード」というICカードを国民に無料で発行する大胆な施策を選択した。欧米諸国、中国、インド等とは異なる戦略だ。
私が個人的に推奨している「マイナンバーカード」を身元確認に用いた民間デジタルIDは、国際的な「デジタルIDウォレット」に関する検討と、どのような関係になるのだろうか。

日本のデジタル政策の立案者の考えをお聞きしたいところだ。

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