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事業戦略大学(教員1名、生徒無限大) 第15回 リスクを意識し、対応策を企画検討する「考え抜くための戦略フレームワーク入門」

設問1:経営における「リスク」とは何かを説明してください。

設問2:多くの日本企業が低い営業利益率、ROEにどどまっている理由をリスクの観点で説明してください。

設問3:大企業にいながらにしてリスク感覚を磨く方法をできるだけ多くあげてください。


■リスクを選別し、投資するのが経営者

事業のリスクをどれだけ意識した経営なのか、またそのリスクは具体的に計画に組み込まれているのかは、経営者の市場環境変化に対する感度やマネジメント力、計画力の実力を推し量る重要な観点である。スタートアップ企業であってもリスクを意識せず、その対応も考えていない起業家は単に無謀なだけである。どのようなリスクをとり、どのくらいのリターンを得るかがビジネスである。

したがってリスクをとらない経営もまた問題である。リスクを取らない経営は、小さなリターンで終わる可能性が高い。リスクを分析、選別し、その中で自社で強みが発揮できる事業機会を見つけ、より高いリターンを得ることが必要である。ここ20年間、多くの日本の経営者はリスクを選別することなく、過去の延長線上で経営してきた。その結果、営業利益率でもROEでみても、欧米、中国、韓国の先進企業と比較しかなりの低レベルにある。オペレーションだけであれば経営者はいらない。リスクを選別して投資するのが経営者の責務である。

■リスク分析の対象を2つに分ける

さて、事業戦略計画のリスク分析の対象は、戦略ビジョン達成をゴールにした場合、①事業環境変化のリスクと、②達成方策である基本戦略のアクション実行に関するリスク、という二つに分けられる。

①の事業環境変化のリスクは、マクロ環境変化要因と顧客、競合、サプライヤーなどの事業環境変化要因に分類される。それぞれのリスク要因は、基本的に事業環境分析で分析されているものを活用し、リスクシナリオを作成する。その上で、対策案を考える。ここまでを下記の図表で表している。

②の基本戦略のアクション実行のリスクは、投資計画にたいするリソース不足や事業の内部環境変化により、プロジェクトの目標が達成できないリスクであり、その対策案を企画検討する必要がある。いづれも、重要なリスクをリストアップし、優先順位付けしたうえで、リスクシナリオを分析し、その対応策を検討する。

20202事業戦略大学図表第15回 (2)

日本の経営者のリスク感度が低いわけ

日本の経営者は総じて投資・リスク感度が低い。それは前にも述べたとおり、欧米企業や、アジアの先進企業と比較した営業利益率やROEの低さでも否定できない事実だ。ではなぜリスク感度が低いのか?日本企業では若い時からリスク感覚を磨く機会がないからだ。

ではリスク感覚はどのような場面でみがくのか?それは単品の利益管理である。多くの日本企業は、単品という事業の最小単位の利益管理がおろそかで、いうなれば事業部どんぶり勘定なのだ。単品の利益管理は、当然製品担当者が実施するもので、比較的若い年齢の人が担うべきものである。利益管理ができている企業はプロダクトマネージャー制がしっかりしていて、その役割をになうことで若い時から利益管理力、つまりリスク感覚が鍛えられる。欧米の企業では20歳代後半のプロダクトマネージャーはごく普通の話だ。

一方日本の企業は、開発、生産、営業と部門た縦割りで、一機能の仕事だけで管理職となり、おかしな話であるが、実力があっても運が悪ければ「事業部長」になってしまう。そこで会社人生初めて利益というものを真剣に意識することになるが、事すでに遅しである。さらに運が悪いと「できの悪い事業部長」として、役員候補から外される。運が良ければ何もしなくても利益が上がり、晴れて取締役になるが、その人はの利益管理力、リスク感覚は過去の実績からするとゼロに等しい。かくして長期間低利の経営が続く。これが日本企業の多くの現状で、実は誰も悪くないのだ!

リスク感度を磨くには

日本企業に所属しながらリスク感度を磨くのは難しい。ではどうするべきか?出来ないことはない。いくつか無謀な提案をさせてただく。

①小さな事業部へ公募で移動する

多くの日本の大企業には公募制がある。事業部門はじめ部門組織が、同じ会社の中で、人材を公募するのだ。大きなメジャーな事業や部門は人材が豊富なので、あまり人材公募をしない。新規事業や長期低迷する小さな事業が公募をすることが多い。そこに公募で移籍するのだ。当然想像を絶する様々な苦労が待っているが、投資・利益感覚は身につく可能性が高い。

②社内ベンチャーを立ち上げる

昨今大企業病を脱するために社内ベンチャー制を実施する企業は多い。このベンチャー制度に応募して、がんばって審査を通過し、社内ベンチャーを始めるのだ。サラリーマンといえども、一つの会社なので、損益状況が丸見えなので、自ずから投資・リスク感覚は身につく。大きな事業部門にいては経験できないことだ。しかし相当な苦労があるだろう。

③真剣に副業に取り組む

公募もない、社内ベンチャーもないとなると、個人で副業をするしかない。身銭をきって投資するのだ。10万円でも、20万円でも損をしたら悔しい。自分で事業を立ち上げると人格が変わった様にケチになり、投資回収するためには自分でも信じられない努力をするようになる。サラリーマンをやっている優しい自分と、副業をやっているときのアニマルスピリッツ丸出しの二重人格に悩むかもしれないが、そんなことたいしたことはない。失敗したとして、大企業でもビジネススクールでも簡単には学べない「投資・リスク感覚」が身につく。


これで「考え抜くための戦略フレームワーク入門」15回シリーズ一旦終わります。さて明日から何を書こうか?と考えましたが、そもそも事業戦略計画は何なの?何のためのものなの?とういう原点に返り、「事業戦略計画なぜ書くのか?」シリーズを4,5回で展開したいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。





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