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「本の福袋」その5 『はじめてのGeneXus』、『開発・改良の切り札 システム内製を極める』 2011年11月

 今回は情報システム関係の専門書を紹介しよう。
 まだパソコンがオフィスにやってくる前、つまり情報処理の中心がメインフレームであった時代、業務アプリケーションを社内で開発することはそれほど珍しいことはではなかった。私が通商産業省(現在の経済産業省)に入省したのは1978年だが、その頃、通産省でも多くの業務用アプリケーションを内製していた。実はかく言う私もプログラムを書いていた。
 
 入省して最初に配属された部門は「大臣官房 情報管理課 計画班」で、本来の仕事は通産省本省の情報システム(メインフレームと端末、ネットワーク)の計画作成と調達だったのだが、不思議なことにいくつかの業務アプリケーション開発を担当した。開発経験がないとよいシステム設計できないだろうという親心だったのかもしれない。
 ちなみに、担当したのは工場立地調査の集計プログラム開発、通商白書分析用のプログラムのマイグレーション、予算作業補助のためのプログラム開発などである。プログラム言語はCOBOLとFortranだった。
 
 ところが、いつの間にかアプリケーション開発を外注するのが当たり前の世界になってしまった。経産省はもちろん、多くの企業が業務アプリケーション開発をまるごとアウトソーシングしている。70年代から80年代にかけて大企業の情報システム部門は子会社化され、その一部はユーザー系情報サービス企業として親会社以外の企業から開発を受託するようになり、独立性を高めていった。子会社にとってこれは悪いことではない。問題が生じているのは、システムの開発や運用をアウトソーシングに頼るようになったユーザー企業の方である。
 
 環境の変化にあわせて業務システムを修正しようと思っても、仕様書の作成や調達手続、契約を経てようやく開発がスタート、出来上がるのが半年後、あるいは1年後。しかし、その頃には別の修正が必要になっているということも少なくない。企業を取り巻く環境はめまぐるしく変化している。その変化に適応できなければ、淘汰されることになる。変化に合わせて業務システムを機敏に変更していく最もよい方法はシステムの内製化である。自分で素早く業務システムを作成・変更していく能力を持てば、ビジネスの強力な武器になる。
 
 実際、こうしたユーザー企業のニーズに応えようとする動きがいくつもある。たとえば、11月7日にサイボウズがサービスを開始した「kintone」はユーザーからの要求を素早くシステム化できる「ファストシステム」をコンセプトに開発されたPaaS(Platform as a Service)である。ドラッグ・アンド・ドロップなどの簡単な操作で、商品管理、営業案件管理、売上げ集計、クレーム管理などの業務システムが簡単に作成できる。
 
 前置きが長くなったが、今回取り上げる『はじめてのGeneXus』は、アジャイルなシステム構築を可能とするGeneXus(ジェネクサス)の日本初の解説書である。GeneXusは、南米ウルグアイの企業が開発したアプリケーション自動生成ツールで、設計情報を入力するだけでアプリケーションが100%自動生成する機能を持っている。プログラミング・レスという点では、kintoneと同じ方向性である。
 日本でもGeneXusの利用企業が着実に増えつつあるのだが、これまで解説本も入門書もなかった。この『はじめてのGeneXus』は待望されていた入門書であり、解説書である。情報システム部門のマネージャーはもちろん、融通の利かない情報システムに頭を抱えているCIOや企業経営者にも一読をお薦めする。
 
 今回紹介するもう一冊、『開発・改良の切り札 システム内製を極める』は、ユーザー主体開発の実践事例を集めた本である。社内ですべてを開発した例もあるが、この本のテーマは「ユーザー主体開発」である。ユーザーが本当に必要とする業務システムを構築するのであれば、ユーザーが設計し、ユーザーがイニシアティブを持って開発することが望ましい。この本はユーザーが主体となって業務システムを開発した事例を数多く取り上げている。業務システムを自分たちの手に取り戻したいと考えている企業のCIOや企業経営者には最適の本である。
 
 
【今回取り上げた本】
株式会社ウイング『はじめてのGeneXus』カナリア書房、2011年11月、1890円
日経コンピュータ編『開発・改良の切り札 システム内製を極める』日経BP社、2011年7月、1700円

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