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NY駐在員報告 「94年の回顧(と95年の展望)」 1995年1月

 今回は米国情報産業の94年を振り返り、(できれば)95年を展望してみたい。

旺盛な情報投資

 米国コンピュータ産業は、1992年からの景気回復が続いている。その原動力は企業の情報関係投資で ある。図-1 は米国のGDP統計の設備投資を「情報処理関係機器」と「それ以外」に分けたものであるが、情報処理関係機器の投資が92年以降、急激に伸びているのが分 かる。もっともこの数字は実質値(87年価格)であるため、急速な技術進歩によって、デフレーターが小さくなり名目値の伸びより実質値の伸びが高くなって いる点に注意する必要がある。
 名目値で設備投資全体に占める情報処理関係機器のシェアをみると、90年は32.6%、91年 33.5%、92年33.8%、93年34.2%、94年第3四半期は34.8%と徐々に増加している。
 言うまでもないが、この旺盛な情報投資の中心はクライアント・サーバー・システムに用いられるワーク ステーション、パーソナルコンピュータ及びネットワーク関連機器であり、従来のメインフレームやミニコンピュータに対する需要は低迷している。これをうけ て、米国の汎用コンピュータ製造メーカーは引き続きリストラクチャリングを国内外で進めている。
 一方、好調なワークステーション、パーソナルコンピュータについては、一層の高性能化、低価格化が進 行し、特にパーソナルコンピュータについてはマルチメディア対応のものが家庭に浸透しようとしている。

リストラ

 IBM社のリストラは94年には最終段階に入ったと思われる.四半期毎の決算をみると93年第3四半 期に▲4800万ドルの損失を計上して以来、黒字を続けている。たとえば、7月に発表された94年第2四半期の決算では、最終損益は6億8900万ドルの 黒字、総収入も前年同期比2.7%増の153億5100万ドルで、純益、総収入ともウォール街の予想を上回る好決算となり、リストラが順調に進んでいることをうかがわせた。株式市場もこの発表をうけ、同社の株価は6.5ドル高と急騰した。また、続く10月に発表された94年第3四半期の決算では、売上げは 前年同期比5%増の154億ドルで、利益は7億1000万ドルを計上している。(95年1月中旬には第4四半期の決算がでる予定)
 しかし、少なくとも94年中は継続してリストラが進められた。例えば、5月にはニューヨークのマンハッタンにある「IBMビルディング」の売却が発表された。このビルは78年にマディソン街に建設され、一時は本社もここに置かれていた由緒あるビルであ る。また、8月15日のビジネス・ウィーク誌によれば、IBM社は所有する4800点の美術品のうちかなりの数を売却することを決定している。ちなみに、 IBM社が美術品の収集を始めたのは1930年代で、創設者トーマス・ワトソン氏がウィンズロー・ホーマーなどの米国近代絵画の巨匠の作品約300点を購 入した他、ロバート・マザウェル、ヘレン・フランケンセイラーなどの近代絵画を数多く所有している。さらに、10月にはパソコン部門の再編、製品群の簡素 化(9シリーズを4シリーズに)及び開発販売拠点の統合も発表された。この合理化によってパソコン部門の従業員は11000人から9500人に減ることに なった。

 IBM社に比べると、DEC社はさらにリストラに苦しんでいる。5月6日のウォール・ストリート・ ジャーナルに、競争力回復のためのリストラの一環として、今後2年間で少なくとも2万人の人員削減と一部の部門の売却が検討されていると報道されたが、7 月14日には正式に、今後1年間で従業員を2万人減らし、年間18億ドルの経費を削減するという大規模なリストラ計画が発表された。競争が激化するコン ピュータ市場において業務体制を効率化し、顧客ニーズに迅速に対応するとともに収益力を強化するのが狙いと報じられているが、ワークステーションや高性能 化するパソコンに押され、ミニコン市場が縮小していることが最大の原因と考えてよいだろう。これによって、DEC社の従業員は95年夏には約6.5万人に なる。しかし、こうした努力にもかかわらず、決算はあまり芳しくない。10月に発表された第1四半期(94年10月1日まで)の決算では、欠損幅は前年同 期(▲1億5400万ドル)より縮小したものの、純損益は▲1億3100万ドルの欠損であった。(DEC社は95年1月に発表された次の四半期の決算で 1890万ドルの利益を計上し、1年半ぶりに黒字になった)

 ユニシス社は、ソフトウェア部門やサービス部門は好調であるが、ハードウェア部門は売上げの伸びの鈍 化に悩んでいる。94年12月には、ハードウェア部門の従業員を約4000人削減すると発表したが、これは95年中にハードウェア部門の業務を縮小し、年 間2億ドル以上の経費削減を目指すリストラ計画の一環である。ユニシス社は、94年第4四半期の決算で2億ドル前後の特別損失をリストラ費用として計上す る予定である。

M&Aと事業提携

 企業の吸収合併や事業の提携の話も変わらず盛んであった。特に、通信及び放送分野の規制緩和の流れを 反映して、電話会社やCATV会社がらみのニュースが目立った。中には噂や交渉段階で消えてしまったものも数多くあったが、大規模なものとしては、7月に 発表された米国地域電話会社のUSウェスト社とエアタッチ・コミュニケーションズ社が携帯電話事業を統合するというニュースや、10月に発表されたスプリ ント社と大手CATV会社3社(TCI社、コムキャスト社、コックス社)が地域内電話、長距離電話、携帯電話、CATVのサービスを提供する合弁会社を設 立するというニュースがあった。前者は、AT&T社とマッコー・セルラー・コミュニケーションズ社やベル・アトランティク社とナイネックス社に続 く携帯電話業界における3番目の大型再編で、これによって、ミシシッピ川以西の大半の州をカバーする携帯電話網が一つの事業体によって運営されることにな る。また、後者は、規制緩和によって地域電話会社とCATV会社の境界がなくなることを見越した計画だと見られている。

 また、93年8月に発表されたAT&T社のマッコー・セルラー・コミュニケーション社の買収 計画は、94年8月に、ワシントン連邦地裁のグリーン判事がこの買収計画を認めるという判断を示したため、法律面でのハードルをすべてクリアしたことにな り、計画発表から1年を経てやっと本格的にスタートすることになった。この買収は、規模が126億ドルと巨大である上に、通信事業社としても最大級の企業 の合併であるため、独禁法上の問題が取り沙汰されていた。

 インターネット関係では、11月にアメリカン・オンライン社(AOL:米国第3位のパソコン通信会社)が、ANS(アドバンスト・ネットワーク&サービシズ)社を買収すると発表した。ANS社はインターネットの研究・教育用バックボーンである NSFnetを運営するためにMerit社、IBM社、MCI社が設立した非営利目的の企業で、90年9月の設立以来、NSFnetの運営を担当してき た。子会社にANS CO+RE社があり、商用インターネットサービスを提供している。買収規模は3500万ドル。AOL社はインターネット関係事業の強化を進めてきており、 95年の活動もさらに活発になるのではないかと見られる。また、AOL社自身も大躍進しており、95年夏には会員数が200万人を突破し、95年中に米国 第2位のProdigy社を抜くのではないかと予想されている。(ちなみに第1位のCompuServe社の会員数は現在約240万人である)

 コンピュータメーカー関係では、10月上旬からしばらくの間、アップル社が買収されるのではないかと いう噂がながれ、アップル社の株式が12%も跳ね上がるなど、様々な動きがあった。どうも、事の発端はモトローラ社がコンピュータ製造に進出すると発表し たことにあるらしい。通常、米国では新規に事業に乗り出す場合、有望な企業を買収するケースが多いため、モトローラ社と近い関係にあるアップル社が買収さ れるのではないかと憶測をよんだらしい。一時期、AT&T社もアップル社を買収するという話が報道されたり、IBM社がアップル社に投資するとい う噂もながれた。現在も日本の家電メーカーを含む数社が、アップル社を部門別に買収するという噂が流れている。ちなみにアップル社の株式の時価総額は50 億ドル以上ある。

 ソフトメーカー関係では、3月にノベル社がワードパーフェクト社及びボーランド社のスプレッドシート 部門であるクアトロ・プロを買収すると発表して話題になった。市場関係者からは「パソコンネットワークで圧倒的なシェアを持ち収益率も高い会社が、なぜ収益率の低いアプリケーションビジネスに手を出すのか」という声が聞かれた。

 ソフトウェア最大手のマイクロソフト社は、従来から不得意なソフト分野では、既存のソフトの権利を買 い取ったり、その企業を買収したりしてきたが(そう言えばMS-DOSも元は他社のソフトだった)、10月に発表したイントゥイト社の吸収合併は、また独 禁法の問題になりそうだ。イントゥイト社は個人資産管理(家計簿システムの高度なものと考えればよい)の「Quicken」で有名なソフト会社である。こ の「Quicken」というソフトは、この分野で70%のシェアを持っているベストセラーである(そう言えば我が家もユーザだ)。マイクロソフト社は同様 のソフト「Money」を持っていたが、市場シェアが5%と低いため、この「Quicken」を買収、反トラスト法抵触を避けるため「Money」をライ バルのノベル社に売却していたのだが、司法省とFCCは、反トラスト法に抵触している疑いがあるとして調査を始めたのである。この他、マイクロソフト社 は、VISAインターナショナル社と決済ソフトの共同開発、チェース・マンハッタン銀行とパソコンを利用したホームバンキングサービスの開発などを進めて おり、こうした一連の戦略はエレクトロニック・コマース市場における事実上の独占を狙ったものと見られており、マイクロソフト嫌いが少なくないこの業界で は、この反トラスト法問題の成り行きに注目が集まっている。

 この他、シンオプティクス・コミュニケーション社(LANシステムの設計・製造・構築を中心とする メーカー)とウェルフリート・コミュニケーション社(広域ネットワークに必要なルーター等のネットワーク機器メーカー)の対等合併(7月発表)やリード・ エルゼビア社によるミード社のオンライン情報サービス部門のレキシス・ネキシスの買収(10月発表)などがあった。

パソコン用MPU

 MPU関係で94年最大の話題は、ペンティアムの欠陥問題だろう。この欠陥はある割り算を実行した場 合に演算結果が正しくないというもので、Lynchburg 大学のDr. Thomas R. Nicely 氏 (nicely@acavax.lynchburg.edu) によって発見され、10月30日にCompuServeに投稿されている(どうしてインターネットではなかったのだろう?)。彼が発見したのは 「1/824633702441」という割り算であるが、その後、インターネット上の「comp.sys.intel」などのニュースグループに様々な ケースが報告されることになった(たとえば、5505001を294911で割ると18.66665197になるはずなのに、欠陥のあるペンティアムは 18.666093と答える。ペンティアムを搭載したパソコンが近くにあれば試してみることをお勧めする)。社会問題化したのは、11月24日以降ニュー ヨーク・タイムズ紙などマスコミに取り上げられてからだが、問題は欠陥そのものよりむしろ、インテル社がこの欠陥を6月以前に知りながら、ユーザに何の連 絡も謝罪もしなかったことにある。インテル社はこの欠陥が発覚してから、「ワープロと簡単な表計算を利用しているユーザには影響がほとんどない、間違いが 起きる確率は、割り算を90億回行って1回の割合であり、平均して27000年に1回だ」とし、高度な数値計算に利用している大学や研究所のユーザのみを 対象にチップの交換を行うという方針を明かにした。これに対し、怒ったのはユーザである(ということになっている)。パソコンメーカーは、欠陥をカバーす るソフトウェア(欠陥の見つかった浮動小数点演算ユニットの機能を停止させ、代わりにソフトウェアで演算をさせるソフト)の開発を開始するとともに、欠陥 チップの交換サービスを行う方向でインテル社と費用負担などの交渉を始めた。そしてついに、IBM社は12月12日、欠陥のある「ペンティアム」が計算間 違いをする確率が、インテル社が発表した確率より高いとし、「ペンティアム」を搭載したパソコンの出荷を全面的に停止したと発表した。IBM社のレポート によれば、1日わずか15分表計算を繰返し使うだけで24日に1回の計算間違いが起きる。これに対し、インテル社は、一般的なユーザで計算間違いが起きる のは、平均して「27000年に1回」だという主張を繰り返し、IBM社の出荷停止措置は不当であるという声明を発表した。ちなみに、両社のレポートや声 明はWWWサーバーで容易に見ることができた。

 ペンティアムを搭載したパソコンの出荷停止に踏み切ったのはIBM社のみであったため、ペンティアム に対抗するMPU「Power PC」グループの一員であるIBM社は、ペンティアム叩きのために出荷停止を行ったのだという説が流れた。
 結局、この騒ぎは、12月21日にインテル社が、欠陥の見つかった「ペンティアム」の交換を希望する すべてのユーザを対象に、無料で欠陥のないチップを提供すると発表して終息に向かった。

 現在のところ、この欠陥問題がクリスマス商戦にどのような影響をもたらしたかについてはよく分からな い。12月7日付けのウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「ペンティアム」を搭載したパソコンの売上に影響はでていないと報じているが、12月16日 発売のインフォメーション・ウィーク紙は、大手企業55社にアンケートを行った結果、約半数の企業がペンティアムを搭載したパソコンの購入を延期または中 止していると伝えている。
 12月20日にインテル社の関係者は、欠陥製品の取り替え費用については、どのくらいの顧客が取り替 えを要求してくるか不明であるので答えられないが、94年度第4四半期の決算で1株当たり5セントの特別支出を計上する予定になっていることを明かにして いる。7月に発表されたインテル社の第2四半期の決算によれば、純益は前年度同期比12%増の6.4億ドル、総売上は同30%増の27.7億ドルと過去最 高で、これは8期連続の過去最高記録の更新であった。また、10月に発表された第3四半期の決算も収益は6.6億ドル、総売上は28.6億ドルと好調を維 持している。もし、12月20日のインテル社の話のとおり、交換に要する費用が1株あたり5セント程度ですむのであれば、ほとんど影響はないとみてよいだ ろう。(95年1月に発表されたインテル社の94年第4四半期の決算は、売上は前年同期比35%増の32.3億ドルであったが、収益は同▲37%減の 3.72億ドルであった。欠陥のあるペンティアム回収のために計上された費用は、約4.75億ドルとなっている)

 衆知のとおり、インテル社はパソコン用MPU市場では8割以上のシェアを持っている。94年3月には 90/100MHzの新ペンティアムとi486DX4を発表した。新ペンティアムは従来60/66MHzであった動作周波数を1.5倍に高めたもので、パ フォーマンスも1.5倍に高まっている。またDX4は75MHz版と100MHz版があり、i486DX2の上位に位置する。新ペンティアムがPower PCを始めとするRISCチップに対抗するものであるとすると、DX4はインテル互換MPUに差をつけるためのチップだといえるだろう。DX4のピン配列 はこれまでのi486チップとほとんど同じで、パソコンメーカーにとっては非常に扱いやすい(簡単にDX4を搭載したマシンをつくれる)ものとなってい る。なお、これらの新製品は従来の0.8μのプロセスではなく0.6μのプロセスで製造されているという。
 インテル社はi486からペンティアムへの世代交替を早く進めたいようであるが、現段階では約8割が 486系のチップであり、思うようには世代交替は進んでいない。ただ、同社の見通しによれば、95年中にペンティアムと486の比率は逆転するそうであ る。

 インテル社に対抗するインテル互換MPUメーカーも、パソコン市場の拡大もあって好調である。例えば 10月に発表されたアドバンスド・マイクロ・デバイス社(AMD社)の第3四半期の決算は、総収入が5億4310万ドルと前年同期比30%増、純益が 8670万ドルで同41%の増加であった。この背景には互換MPUを採用するパソコンメーカーが増えていることがある。例えば、コンパック社の家庭用マル チメディアパソコン「PRESARIO」はAMD社のAm486SX2/66MHzを採用している。
 互換MPUメーカーの中で、最も注目を集めたのはNexGen社だろう。NexGen社は従業員が約 100名というベンチャー企業であるが、ここが発表したNx586というMPUがとんでもないチップだったのである。このNx586は、性能がペンティア ムクラスのインテル互換MPUでありながら、RISCのアーキテクチャを採用していたのだ。つまり、外から見ればi486やペンティアムと同じようにみえ るが、中はまったく違ったRISC型のMPUだったのである。こんなMPUがベンチャー企業から発表されることが実に恐ろしく、また米国的である。6月に はIBM社が、このMPUの生産についてNexGen社と合意したことを明らかにした。IBM社が0.5ミクロンの微細加工技術を使ってNx586を製造 するというものである(ちなみにIBM社はサイリックス社ともインテル互換のMPUの開発・生産について提携を結んでいる)。現在50社以上のベンダーが NexGen社とMPUの利用で契約を結んでいるという。

 一方、IBM社、モトローラ社、アップルコンピュータ社が共同で開発したRISC型のMPU 「Power PC」は、RISC型のチップとしては生産、出荷は好調に推移している。IBM社の発表によれば、93年第3四半期から量産が開始された「Power PC601」の生産個数は7月に100万個を超えた。RISCチップで、量産開始からわずか10カ月で100万個を超えるのは異例の速さである。問題は依 然としてIBM社がPower PCを搭載したパソコンの出荷を開始していないことにある。当初、94年夏の予定であったものが、94年第4四半期に延期され、現在でもまだ発売されてい ない。業界紙によれば、基本ソフト(OS)やアプリケーション・ソフトの開発が遅れていることが原因とされている。

 95年のパソコン用MPUの世界は、94年以上に複雑になるような気がする。まず、インテル社はペン ティアムの次の世代のMPU「P6」を95年第3四半期に発表する予定である(余談であるが、インテル社は、いったい何時までx86系MPUと完全にバイ ナリ互換のあるMPUを開発しつづけるのだろうか? もちろん新しいチップにはRISCの技術は取り入れられているが、バイナリ互換を維持するために本質 的にはCISCであるチップはますます複雑になっている。次世代のP6ではチップ上の回路は600万トランジスタと言われているのだが、………)
 インテル互換メーカーはペンティアム互換のMPUに力をいれてくるに違いない。AMD社はK5と呼ば れる(同じ動作周波数なら)ペンティアムより30%は性能の良いMPUを95年半ばから量産する予定である。サイリックス社は、現在、サンプル出荷してい るM1を95年第1四半期から本格的に出荷するとみられている(このMPUの生産はIBM社が行っている)。
 Power PCシリーズでは完全な64bit設計の620の量産が95年半ばから開始される予定である。また、世界最高速のMPUであるDECのAlpha AXP21164(94年9月発表)は、266MHzのものが95年1月から、300MHzのものが95年3月から本格的に出荷される予定になっている (でも誰がパソコンに組み込むのだろう?)。

パソコン

 米国の調査会社IDC社によれば、94年の米国におけるパソコンの出荷台数は1840万台で、93年 の1495万台に比べて約23%の増加である。また、95年度の見通しは約10%増の2016万台となっている。メーカー別のシェアは、調査会社によって 異なるが、94年はコンパック・コンピュータ社がトップに立った模様である。四半期別にみると、コンパック社は第1四半期に前年同期比55%増の 487,984台とシェアを12.4%に伸ばして初めてトップに立ち(データクエスト社調べ)、引続き第2四半期も首位をキープした。第3四半期は季節的 要因もあってアップル社が第1位になった(インターナショナル・データ社発表)が、年間ではコンパックが1位になった。94年12月に発表されたIDC社 の出荷台数予想ではコンパック社は235.5万台で市場シェア12.8%で第1位、第2位はアップル社で222.4万台(シェア12.2%)、第3位は パッカード・ベル社で199.5万台(シェア10.8%)、IBM社は4位に転落し186.8万台(シェア10.2%)である。

 パソコンの市場の大部分は企業向けで、家庭用パソコンは約3分の1と推定されている。ただ、7月に データクエスト社が発表したレポートによれば、93年に530万台であった米国内の家庭用パソコンの台数は、今後4年間に年率約21%で拡大し、98年に は1390万台に達するという。この時点で、家庭用パソコンのシェアは全体のパソコンの約半分を占めるという予測になっている。コンサルタント会社のチャ ンネル・マーケティング社も同様のレポートを6月に発表しているが、これは多少異なる予測を立てている。このレポートによれば、93年のパソコン市場のう ち、家庭用の占める割合が92年の27%から30%に増加しており、現在、多くの消費者がパソコンをVTRや8mmビデオと同じように手軽に購入している と指摘し、このシェアは95年はさらに上昇し、42%に達すると予測している。現在米国におけるパソコンの家庭への普及率は34%であり、96年に家庭が 購入するパソコンの台数は1900万台に達すると(データクエスト社に比べてやや大きく)予測している。

 パソコンの家庭への普及率も確かなデータはない。8月に調査会社アダッシ社が発表した全米の1500 世帯を対象に行われた調査結果では、従来33%あるいは34%とされてきた家庭へのパソコン普及率は27%というやや低い結果となっている。また、現在パ ソコンを保有していない家庭のうち、購入の可能性が極めて高い家庭は4%であり、83%(つまり全世帯の61%)の家庭はパソコンを購入する可能性はない と答えており、悲観的な調査結果になっている。
 将来の予測はともあれ、パソコンの価格は激しい価格競争の結果、確実に低下した。現在、ペンティアム を搭載した最高級のパソコンが(様々なソフト付きで)3000ドル以内で購入できる。

 もう一つ注目すべきことはCD-ROMドライブの普及である。データクエスト社が8月に発表した調査 報告によれば、CD-ROMドライブの94年の販売数量は、世界で1750万台と、93年の670万台の2.5倍以上に達する見込である。世界中のデスク トップ型のパソコン1億2200万台のうち約20%が94年末までにCD-ROMドライブを搭載することになる。CD-ROMドライブの販売個数のうちで パソコンに内蔵されているものの割合は、94年は78%に達したとみられ、昨年の58%から大幅に上昇し、CD-ROMドライブを内蔵したパソコンの普及 が急速に進んだことを示している。
 特に家庭用パソコンと位置付けられたシリーズのほとんどはCD-ROMドライブを備えており、価格も 1000〜2000ドルである。例えば、コンパック社が9月に発表した「プレサリオ500」「プレサリオ700」「プレサリオ900」は、1499〜 1899ドルでボイスメール、FAX、ステレオ、テレビを楽しめるマルチメディア機能が充実しており、コンパック社では「究極の家庭電気製品」だと宣伝し ている。これに対抗してIBM社が同じく9月に発表した「アプティバ」シリーズは、各種のマルチメディア機能を搭載した家庭用パソコンで、全機種がCD- ROMドライブ、ステレオスピーカー、FAXの送受信機能、データ通信機能を搭載しているほか、一部の機種は音声認識機能もあり、1199〜2599ドル である。おそらく、この低価格化と高性能化・高機能化は95年も続くと思われる。

 最後に、94年夏に販売が開始されると見込まれていた「Power PC」搭載のIBM社の新型パソコンの発売が大幅に遅れているが、さすがに95年には発表されるだろう。市場からどういう評価をされるか楽しみである。

パソコン用OS

 この項で最初に取り上げるべき話題はマイクロソフト社のWindows95だろう。93年3月に DOSを必要としない新しいWindowsとして正式にマイクロソフト社から発表されたこのOSは、94年9月まではその開発コードである「シカゴ」とい う名前で呼ばれており、94年8月までは、94年中には出荷が始まるものと考えられていた。ところが、8月には出荷延期の噂が流れ、9月にはマイクロソフ ト社から「Windows 4.0」ではなく「Windows95」と命名するとの発表があり、併せて出荷時期は95年上半期とアナウンスされた。ところが12月になって、その直前 にビル・ゲイツが業界紙のインタビューで6月には間違いなく出荷すると答えていたに関わらず、8月に延期された。業界の中にはさらに遅れる可能性を指摘す る専門家もいて、半ば冗談に「Windows96」と改名されるのではないかとも言われている。最初のテストバージョン(アルファ版)が一部のソフトデベ ロッパーに渡されたのが、93年8月であったことを考えると、出荷延期がかなり深刻なものに思えるかもしれないが、Windowsの歴史を知っている専門 家はあまり驚いていない。出荷遅延の理由は必ずしも明確ではないが、夏には、Windows 3.1で稼働するアプリケーションソフトの一部がWindows 95の上でうまく動かないことと、機種によってはWindows 95自体がインストールできないためだと言われていた。その後、ベータ版のユーザインターフェースの評判が悪くてWindows 3.1に近いものに修正しているとか、マイクロソフト社が始めるオンラインサービスへアクセスする機能を追加しているとか、様々な噂がながれていた。

 既に94年6〜7月に最初のベータ版(M6)がテストのために一部に配られ、10〜11月には 48000のベータ版その2(M7)が配布された。95年3月にはベータ版その3(M8)が約40万のユーザに配られる予定で、このテスト結果を踏まえて 若干の修正を行ったものを5月ないし6月から生産し、8月に出荷というのが現在の計画である。

 Windowsがもたついている間に、IBM社が力を入れているOS/2の新しいバージョンは(少な くともIBM社の発表では)順調に売れている。8月に10月発売がアナウンスされたこのOS/2の改良版は、インターネットへのアクセス機能を持ち、マル チメディア機能が強化されている他、OSの必要とするメモリ容量が小さくなっている。新製品にバグは付きものであるが、「OS/2 Warp」と命名されたこのソフトも出荷直後にバグが見つかり、初期に出荷された製品の出荷は回収された。ただ、業界紙によれば、このバグは致命的なもの ではなく、一部のアプリケーションで軽い問題が起きる程度で、すぐにバグは修正され、1週間ほど遅れた11月上旬から販売されている。IBM社の発表によ れば、OS/2 Warpの出荷は順調で、11月第1週の発売から1カ月半で80万本以上を出荷したそうである。
 「デイトナ」と呼ばれていた「Windows NT 3.5」は、9月に生産が開始され、10月には出荷が始まった。マイクロソフト社の発表によれば、Windows NT 3.1に比べて処理速度が2倍程度速くなっているという。モトローラ社は、Power PCを搭載したコンピュータの製造・販売を始めたが、このコンピュータのOSとしてWindows NT 3.5を採用した。モトローラ社は11月にマイクロソフト社との間で「Windows NT 3.5」のOEM契約を締結している。

インフォバーン

 「情報スーパーハイウェイ」の文字がマスコミに登場したのは(おそらく誰も覚えていないに違いない が)約4年前の91年2月のことである。だからと言って古くさい言葉になったとわけではないが、94年には「インフォバーン (Infobahn) 」という新語がデビューした(4月19日、ニューヨークタイムズ)。別に中身が変わったわけではないが、日本のマスコミには受けるかもしれない。

 余談はさておき、94年はゴア副大統領のインフォバーンデビューで始まった(そうか、この時はまだ 「インフォバーン」という言葉はなかったから、………)。1月11日にゴア副大統領はホワイトハウスの執務室のパソコンとCompuServeを使って一 般市民とリアルタイムのオンラインコンファレンスを行った。45分間という短い時間であったが、キーボードとディスプレイを用いて市民と会話をした副大統領は彼が初めてに違いない。

 2月には少し暗いニュースが流れた。93年10月に発表されたベルアトランティック社とTCI社の合 併が白紙に戻ったのである。直接の原因は、CATVの料金を7%引き下げるべきだというFCCの決定であった。この後、タイムワーナー社のフロリダにおけ る双方向CATVの実験が延期されたり(これは12月にスタートした)、ベルアトランティック社の双方向CATV計画が思うように進んでいないという ニュースが流れたりして、米国のビデオ・オン・デマンド熱は平熱に戻った。冷めてしまったわけではない。数多くの計画が着実に(一部遅れたものもあるが) 進んでいる。例えばTCI社は、ベルアトランティック社との合併がご破算になった後、3月にはマイクロソフト社と双方向CATVの実験をシアトルとデン バーで行うと発表した。シアトルの実験は94年秋から行われており、デンバーの実験は95年春にスタートする。専門家はこのTCI社の決定をより現実的な アプローチだと評価している。この他に次のような計画が進んでいる。

  • バイアコム社とAT&T社によるカストロ・バレーでの双方向CATV実験(対象:1000世 帯)

  • USウエスト社によるオマハでの双方向CATV実験(対象:1500世帯)

  • ナイネックス社によるニューヨークでのビデオ・ダイヤルトーン実験(対象:2500世帯)

  • パシフィックベル社によるサンタルシアでのFTTH実験(対象:111世帯)

  • TCI社とパシフィックガス社の光熱モニタリング実験

  • コムキャスト社のバルチモアにおける疑似ビデオ・オン・デマンド実験

 一方、連邦議会で審議されてきた通信法の改正案は、下院で圧倒的多数の賛成を得て可決されたものの、 上院では9月に会期末を待たずに流れてしまった。マスコミではRBOC(地域ベル会社)が改正案に猛反対したからだとされているが、ワシントンDCでは、 民主党と共和党の議会戦略をめぐる取引の結果だという話が聞かれた。通信規制を緩和する法案は、共和党が再び作成し提案する計画を持っているので、95年 には改正案が議会を通過することになるだろう。
 94年は(日本ほどではないが)インターネットに注目が集まった年でもあった。その原動力は World-Wide Webである。10月にはホワイトハウスがWWWサーバーを立ちあげて話題になったが、94年末で1000前後と思われるWWWサーバーの数は95年中に 5000以上になると予測されている(インターネット・インフォ社のMichael J. Walsh社長)。

 95年はインターネットの商用利用がさらに進むと思われる。ごく最近の動きをみてみよう(米国のインターネットの現状については2カ月前と3カ月前の駐在員報告も参照されたい)。

  • ネットスケープ・コミュニケーション社とファースト・データ社は、暗号技術を利用してクレジットカー ドを利用した商品の売買をインターネット上で行うと発表した。

  • オープン・マーケット社は、当面はクレジットカード、将来はデジタルキャッシュを用いた決済が可能な オンラインビジネス用のツールを発表した。

  • マイクロソフト社とVISA・インターナショナル社は、クレジットカードの番号など機密を要する情報 を安全に送受信できるソフトを共同で開発すると発表した。

  • MCI社は、商用インターネットサービス「インターネットMCI」を開始し、そこで暗号技術を利用し たオンラインショッピングサービスを提供すると発表した。

  • ネットスケープ社は、バンカメリカがインターネット上でネットスケープ社が開発したセキュリティを高 めたソフトを用いてクレジットカードによる決済サービスを開始すると発表した。

  • IBM社は、インターネット上でギフト商品などを販売する事業を試験的に開始すると発表した。

 この調子でいくと、95年にはインフォバーンは世界最大の商店街になってしまって、情報スーパーハイ ウェイは「スーパー・デジタル・ショッピング・ストリート」と改名されることになるのかもしれない。

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