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「本の福袋」その9 『お楽しみはこれからだ-映画の名セリフ』 2012年3月

このコラムの第1回で書いたように、就寝前に本を読む習慣がある。仕事でクタクタになった日や、宴会でベロンベロンになった日は別にして、少し読書してから眠ることが多い。寝付きが良いし、悪い夢を見ないで済むように思う。
第1回を書いていた時には村上春樹の『おおきなかぶ、むずかしいアボカド』をゆっくりと大切に読んでいたのだが、さすがに3、4週間で読み終えてしまった。その後、就寝前に読んでいたのが今回紹介する『お楽しみはこれからだ』である。
 
副題に「映画の名セリフ」とあるように、筆者である和田誠が古今東西の映画における名セリフをとりあげつつ、映画や俳優を語る楽しいエッセイである。映画に関する蘊蓄満載で、読んでいるとちょっと映画に詳しくなった気がする。しかし、記憶力が落ちているために、数日もすると読んだ内容はほとんど忘れている。まあ、それでも楽しく読める。
 
このエッセイは、書き下ろしではなく、映画雑誌『キネマ旬報』(略称『キネ旬』)に連載されていたものをまとめたもので、連載中は、8ページが1回分だった。もちろん、和田誠の本業はイラストレーターなので、登場人物の似顔絵を描いたイラストも入っている。さすがにイラストはうまい。写真より本人あるいはその役柄の特徴を捉えている。イラストはたいていが1ページ分で、ほぼ2ページに1枚の割合で入っているので、本の約半分はイラストだということになる。この和田誠のエッセイはとても好評だったようで、書籍化されてPart7まで出ている。つまり全部で7冊。合計すると1757ページになる。一冊に連載30回分がまとめられているそうなので、一日に8ページ、つまりキネ旬1冊分を読んだとして、210日間も楽しめることになる。
 
 この本のタイトル「お楽しみはこれからだ」も映画のセリフである。歌手であり俳優でもあったアル・ジョルソンの半生を描いた『ジョルスン物語』(原題は“The Jolson Story”)で、主人公のジョルスン(ラリー・パークス)が、観客に向かって“You ain’t heard nothin’ yet”と言うのだが、これが字幕スーパーでは「お楽しみはこれからだ」になっていたのだそうだ。この和訳は素晴らしい。
 
 ところで、この『お楽しみはこれからだ』のシリーズを7冊まとめて買ったのは2001年6月26日らしい。なぜそんなことが正確にわかるかと言えば、Amazon.co.jpでこの本を検索すると「お客様は、2001/6/26にこの商品を注文しました」と表示されるからである。つまり7冊まとめて大人買いをしてから10年間ずっと本棚にしまわれていたことになる。他にも同じような仕打ちにあっている本が何冊もある。これは、あまり褒められたことではない。
 
 さらに話が脱線してしまうが、この和田誠のエッセイを初めて読んだのは高校生時代である。キネ旬でこの連載が始まった頃なのだが、何年前なのかは秘密にしておこう。
高校では図書部に所属していた。図書委員ではなく、クラブ活動としての図書部である。お昼休みや放課後に当番制で貸出カウンターに立たないといけないのだが、それ以外の時間は部室でのんびりと本を読んだり、友達とおしゃべりをしたりしていた。図書部に入ったのは、もちろん本が好きだったからだけれど、人気のある本や新刊本を事実上優先的に借りられるというメリットがあったからでもある。たとえば、人気のある本が返却されてきたとき、本棚に戻さず、自分のためにカウンターの下にとっておくことができたし、新しく配本された本の場合は、書架に並べる前に借りることができた。
当時、映画雑誌では映画スターのカラーグラビアが掲載されている「ロードショー」や「スクリーン」が人気だったのだが、高校の図書館にはなぜかキネ旬しかなかった。ただ、雑誌は貸出禁止で、図書館内で閲覧するしかなかった。そんなわけで、「お楽しみはこれからだ」は、いつも図書館のカウンターの中や部室で読んでいた。
 そんな訳で、この数カ月、就寝前に和田誠のエッセイを読みつつ、高校時代にタイムスリップしたような時間を過ごしていた(何を思い出していたかはちょっと書けない)。
 
 すっかり話が脱線してしまったが、映画が好きならば、間違いなく楽しめる本である。
 
 【今回取り上げた本】
和田誠『お楽しみはこれからだ-映画の名セリフ』文芸春秋、1975年1月


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