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ツァイガルニク効果とクリエイティブ

受け手の想像力を掻き立て、ツァイガルニク効果が作用すると、クリエイティブはより深いものになる。反面、ツァイガルニク効果を駆け引きとして多用する宣伝や、WEBマーケティングへの違和感について。

ツァイガルニク効果手法

ツァイガルニク効果とは、「人は完了した物事よりも、未完了の物事の方に強く興味を惹かれる」という心理効果のことです。つまり不完全なものの方が人は記憶に残るということ。

私たちの日常にはたくさんのツァイガルニク効果を利用した戦略が溢れています。もちろん一定の効果はあるのでしょうが、テクニックとして多用され過ぎていて、個人的には違和感を感じます。

TVドラマやアニメでは、気になるところで翌週に持ち越されたり、CM視聴率を上げるためにいいところで寸止めされます。オンラインコンテンツでは、無料コンテンツに制限があり、途中から課金コンテンツというビジネススキームが当たり前になっています。WEBバナーでもCTRを上げるために、興味を煽るコミュニケーションが目立ちます。それらはツァイガルニク効果を利用した戦略と言われています。

マーケティング的には一定の効果があるのかもしれませんが、人を惹きつけるってそういうことなのかな?と思うと同時に、手法に溺れ過ぎていて、そのもの自体の本質的な価値を伝えることを見失っているように思います。

解釈が異なる文脈のデザイン

そもそも、未完か完成かの基準は曖昧で、受け取る側に依存する部分もあるのではないでしょうか。映画でもなんとなく結論がはっきりしないまま終わるストーリーがあります。観る人の想像力に委ねられる映画で私の記憶に新しいのは、2019年に上映されたトッド・フィリップス脚本の「JOKER」です。トッド・フィリップスは、観る人の想像力まで想定し、様々な解釈が生まれるよう文脈をデザインしているように思います。当時はどう解釈したかを、色んな人に聞いて盛り上がりました。

新しい価値を生むツァイガルニク効果

歴史的な彫刻や、建築物でもツァイガルニク効果が作用していると言われており、その代表作とて両腕のないミロのヴィーナスや、未完の世界遺産サグラダ・ファミリアがよく上げられます。未完であることで、その背景にある文脈を人々は想像し、惹きつけられます。未完であることが受け手の中で新しいストーリーを生み出し、新しい価値を作り上げていると思います。

ツァイガルニク効果の本質

スポーツの世界に目を向けると、大リーグで二刀流に挑戦している大谷翔平も未完成だと言えると思います。誰も成し遂げていないことに挑戦している姿に、観る人はワクワクします。白血病からの復活を目指す池江璃花子も、金メダルに届かなかったフィギュアスケートの浅田真央も、50歳を過ぎて現役を続ける三浦和良も、未完と言えるかもしれません。未完とは、何かを目指している途上とも言えます。その背景には様々なドラマがあり、共感や感動が生まれます。だからこそ、興味を惹かれ、人々の記憶に残りやすいのではないでしょうか。


まとめ

ツァイガルニク効果は、心理学的にも実証されているように様々な局面において、有効な手法であることは間違い無いと思います。とは言え、ツァイガルニク効果が単に興味を煽るテクニックとして利用されているケースと、受け手の想像力を掻き立て、そこに新しいストーリーを生み、ツァイガルニク効果が作用しているケースとがあることを理解しておく必要があるのではないでしょうか。

勿論、完成しているものは美しいし、感動もあります。未完か完成かの尺度も人によって異なります。つまり、未完でも完成していても、そこに共感や感動が生まれ、受け手の中にストーリーが生まれるクリエイティブや、コミュニケーションが重要なのではないかと思います。

ツァイガルニク効果を宣伝や、WEBマーケティングで意図的に多用することへの違和感の正体は、駆け引きを仕掛けられていることへの気持ち悪さなのかもしれません。


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