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【九州下道ツーリング】杖立温泉で野菜を蒸して、自分も蒸される。

ツーリングシーズンである秋が終わり、今年も冬がやってきました。
路面凍結や積雪によってツーリングルートに制限が掛かってしまう季節でもありますが、筆者の暮らす九州地方では、幸いにしてまだその類の影響は少ないので
路面が凍らない内に、山間部に行っておこう!
という訳で…

いつもの日田ルート(冬季Ver.)

熊本県と大分県の県境を跨ぐ山間部にある温泉地「杖立温泉」へ行く事にしました。
 
杖立温泉は源泉の温度が98°Cと高く、あちこちで高温の蒸気がもくもくと噴き出ています。実はこの「蒸気」こそが杖立温泉最大の魅力のひとつであり、豊富な蒸気を用いた蒸し風呂に加え、エリア内のあちこちに設けられた無料の「蒸し場」では蒸気によって野菜・卵等を蒸す事ができます。
杖立温泉では、この蒸し場が調理のため集まる地元民の交流の場としても機能しているのです。

シートバッグ容量の半分を占める蒸し場用装備…

そりゃもう杖立行くのなら蒸さない選択肢なんてありません。
現地で野菜を切るための道具のみならず、蒸し器に食材を入れるためのザルも持参します。
 
野菜は近所のスーパーで買って持ち込む事にしましたが、もし買い忘れても地元には「野菜の自販機(蒸し場使用者向け)」という非常にありがたいモノもありますので、ご安心下さい。
なお、ザルは現地の蒸し場にもありましたが少数なので…基本的に持ち込み推奨です。(蒸し器に裸で食材を入れる行為は、衛生面の問題ゆえ殻付きの卵を除き推奨しません)

トウモロコシがなかったのが痛手だったが
実はこの時点で卵を買い忘れており、後で後悔する事に

近所のスーパーにてカボチャとサツマイモ、そして焼売を買ってシートバッグに収納し出発です。焼き芋ではなくふかし芋なので、サツマイモはかなり甘めの品種をチョイス。
 
ただ、天候が曇りがちでぐずついていた点のみが不安でした。
何はともあれ出発です!

蒸し場の前に駐輪。蒸す気ビンビン丸

福岡市街地から筑紫野・甘木・日田を経て、阿蘇に続く道に入った頃には天気が晴れ始め…山間の絶景を楽しみながら杖立温泉に到着!
 
福岡市街地からの距離にして100kmにも満たない場所なので、下道ツーリングの目的地としてはかなり敷居の低い部類に入るといえます。
道中も適度の起伏があり景色も楽しめ、おすすめです。

むしむし〜

蒸し場から漂うあたたかな蒸気が温泉ムードをおおいに盛り上げます。
ちなみに杖立温泉の湯質は弱アルカリ性の弱食塩泉で、お湯にも煙にも硫黄臭の類はありません。
個人的な印象としては、単純泉である由布院より気持ち(嗅覚的に)浸かり応えが増した感じでしょうか。なお、単純泉にせよ弱食塩泉にせよ、刺激が少なめなので湯に浸りながらぼんやり考え事をするのに良く、好きです。
 
早く野菜を蒸したい所ですが、まずは散策とお風呂です。

可動橋「杖立橋」を上から眺める

杖立温泉は、杖立川を跨ぎつつ熊本県と大分県の県境をも跨いでおり、県境を跨ぐ旅館の建物の中には県境を示す線まであります。
 
渓流の畔に位置する関係上、大雨に伴う河川氾濫のリスクに晒されており、川沿いの無料駐車場も浸水の可能性があるので「自己責任で使って下さい」という旨の警告が貼られています。
というか、河川氾濫のリスクがあるような日に行く場所ではありません。
 
渓流の畔の斜面にしがみつくように林立している古い旅館や商店・家屋が杖立温泉ならではの美観と風情を醸し出しており、散策スポットとしてもたいへん魅力的です。

ちょっと外れまで歩くと…ん?

杖立温泉は湯治の名所としての長い歴史を持ち、昭和時代には歓楽街としても栄え「九州の奥座敷」とまで呼ばれていました。要するに芸者とか○芸者とかそのあたりの話でもあります。
確かに、こんな山奥の温泉地ならバレを気にせずはっちゃけられそうな気がしなくもありません。
 
しかし時を経るにつれ衰退し…今は過去の繁栄の名残をあちこちに残した、古びた温泉街としてこじんまりと存続しています。
近年は「鯉のぼり祭り」という杖立温泉の景観を活かしたイベントで脚光を浴びる等、古き伝統と旅情と新しい試みが渾然一体となった魅力を兼ね備えつつあります。
 
そんな杖立温泉、ちょっと外れに足を運ぶと…
昭和時代で時が止まったかのような風景が。

ある意味、この地のかつての繁栄をなぞった建物ではある

NIGHT IN 夜の城
ハートマークを含め、何のひねりもありません。
スナックかバーの類だったのでしょうか?
 
こういうド直球の豪速球には時空を越えて心惹かれます。

裏側は…崩れていたんだ…

夜の城を過ぎると、今も健在な個人宅を挟んで何軒か空家か店舗跡と思しき建物が眠っていました。
 
調度品や長期間放置されていたバイクからして、昭和か平成初期の時代から時計の針が止まっているようです。こういう「天空の城ラピュタの実は崩れてた裏側」的な場所にも惹かれてしまいます。
但し、遠目にはどう見ても廃墟にしか見えなかった建物の一軒に電気が灯ったりもしていましたので、一絡げに「廃墟」としてwebに掲載するのは危険です。ご注意下さいませ。

旧日田往還道 入口

遥か昭和に思いを馳せた後もあちこちを歩き、散策は続きます。
北側道路沿いには「旧日田往還道」の入口があり、急な石段がそびえています。かつて日田に行き来するために使われていた古の街道です。
 
ここを登ると白糸の滝を拝めるそうなのですが…今回はパス。

昭和時代からの狭く曲がりくねった道を
上手くおしゃれにアレンジしている

川沿いの斜面を利用した温泉街なので、車道のすぐ脇を狭く急傾斜の歩道がグネグネと縦横無尽に走っており、長崎の古い街並を思わせます。
 
但し、長崎がそういった古き良き情緒ある景観を無粋な開発工事でブチ壊し続けているのに対し、この杖立温泉は景観を生かしつつ平成・令和の世の感性を反映したおしゃれで素敵な補修・ドレスアップを行なっており、長崎生まれの筆者としては本当に羨ましく思えます。

何気ない小径を展示スペースとして活用

そういった小径の一部には、往年の杖立温泉の景観や歴史を知る事のできる写真資料がおしゃれに展示され、散策しながら昔と今の景観比べをしたり、杖立温泉の歴史に思いを馳せる事ができます。

歩いてるだけで楽しくなる景観が多い
絵馬を買ってぶら下げて願掛けを行う橋もある
こういう、ふとした小径のさりげない「昭和」に胸が鳴る
泉屋さん。無料駐車場のすぐそばにあり、アクセス良好

ひとしきり散策を楽しんだ後は「泉屋」さんでお風呂。
ソロツーでも立ち寄り風呂でき、蒸し風呂付きで価格もリーズナブルなので大変おすすめできます。
 
なお、泉屋さんの蒸し風呂は複数の種類がありますが、昔ながらのオールドスタイルのものは天井が低く、閉所恐怖症の方にはおすすめできません。
但し非常に気持ち良いのと、古墳の石室に葬られた古の豪族たちの気持ちがちょっぴりわかったような気がしました。

という訳で、野菜より先に自分を蒸しました。
泉屋さんには他にも通常の温泉や露天風呂がありますが、露天風呂の男湯は遊歩道に面しているのに柵が隙間だらけで、どうかすると筆者のビッグシングル(サイドバルブ+圧縮抜け)を女子に晒す悲劇を招きかねないので、
露天風呂というよりは露出風呂かな?と感じました。
※立ち寄り風呂で入浴可能な大浴場の男湯・女湯は日替わりで、筆者が入浴したのは奇数日なので「岩の湯」付属の露天風呂になります。※
 
ちなみに露天風呂自体はちょっとぬるめですが、大変いいものです。
総じて、古き良きおおらかさと豪快さとリーズナブルさ、そして親切さを感じた良い湯処でした。いずれ泊まってみたいですね。

本日のメインディッシュ、蒸し場

泉屋さんで露天風呂と蒸し風呂を堪能し「ととのった」ので、続いて野菜を蒸します。
 
蒸し場は杖立温泉のあちこちにあり、無料で使用できます。

卵忘れた(この時点ではまだ気付いてない)

買ってきたカボチャとサツマイモをザクザクとスライスし、熱の通りを良くしておきます。蒸し場に貼られていた説明によると「サツマイモは30分程度掛かる」そうです。
 
野菜のスライスには、筆者愛用のモーラナイフが大活躍します。
カーボンスチール製の分厚い刃を備えたモデルなので食材の細やかなカットは苦手なのですが、ちょっとした藪くらいならナタ代わりに切り開いて進んでいける程の高い攻撃力が特徴で、カボチャの重装甲を物ともせず切り裂いていけます。

蒸し器

カットした野菜と焼売をザルに盛り、蒸し場に積んである蒸し器に詰めて蓋をし、温泉の蒸気で蒸します。
 
この時、先に食材を蒸していた地元のおじちゃんズの蒸し器の上に置かせてもらう事になったのですが…その食材の中には当然のように卵が入っており、卵を買い忘れていた事にようやく気付きました。
温泉で食材蒸すのに卵忘れるとか、我ながらアホの極みです。
 
しかしもう手遅れ。
ガッカリしながら蒸し器の蓋を閉じました…
 
とはいえ、食材は卵が全てではありません。
気持ちを切り替えてポジティブにいきます。

むしむし〜〜〜〜〜〜〜
もくもく〜〜〜〜〜〜〜
神☆降臨

しかし、捨てる神あれば拾う神あり。
先に蒸し器をセットしていた地元のおじちゃんズと雑談していると
 
おじちゃんズ「そういえばアンタ、卵入っとらんね。どうしたん」
筆者「わ…忘れてしまいました…(死にそうな顔」
おじちゃんズ「野菜自販機で売っとうよ!」
筆者「もう蒸し始めましたし…次は忘れないようにします(死んだ顔」
 
おじちゃんズ「なら、卵一個やるけん!元気出しい!
筆者「ま…マジですかありがとうございます!神様!!!!
 
別のおばちゃん「アハハ、福岡から来て卵忘れたとか災難ね〜」
別のカップル「卵ないのは確かにつらいですね」
 
という訳で、卵一個いただきました!改めてありがとうございます!
 
 \ 卵 は 人 権 /
次回は絶対に忘れないようにします。

本当に良い景観であり、四季折々の表情がある

蒸し時間は30分あるので、雑談を終えた筆者は付近をちょっと散策。
この付近に「元湯」なる、杖立温泉が開かれるきっかけになったという古からのお風呂(無料)があるのだとか…

鯉のぼり祭り
(画像:杖立温泉公式サイトより)

春になると、この杖立川には大量の鯉のぼりが泳ぎます。
杖立温泉で近年最も有名なイベント「鯉のぼり祭り」です。
 
今や全国各地で類似したイベントがみられますが、発祥はここ杖立温泉だそうです。非常にSNS・Vlog映えするビジュアルなので、ソッチ方面の需要も多いようですね。

ぐねぐね〜〜〜〜〜〜 

元湯を目指しずんずん歩いていきますが、そのまま直進してもすぐに着いて面白くないので、斜面側の小径を探検っぽいノリで進みます。
ちなみに迂回路なので、近道とかでは全然ありません。

坂道マニア大歓喜

グネグネのカックカクで狭い道は、もはや歩いていい道なのか単なる私有地なのか判別困難ですらありますが、どうにか私有地への不法侵入を避けながら元湯を目指します。
 
途中、道に迷った観光客のカップルさんから道案内を頼まれました。
幸いにして案内希望のルートは既に散策し全容を把握していたので案内はできましたが…
 
なんか、ここはやたら他人様との絡みが多くて面白いです。
杖立温泉という場の空気が醸し出すマジックなのでしょうか?
ともあれ、退屈しないのはいい事です。

元湯

そうこうしている内に元湯へ到着。
 
見事なまでの露出風呂です。
遊歩道沿い+駐車場そばという最高に見晴らしの良いロケーションで、遮蔽物は腰までしか隠せない程度の岩しかなく、しかも隙間だらけです。
無料とはいえ、観光客が入る類のお風呂ではない…という印象でした。

一応洗面器とかは用意され、お風呂としての体裁は成している

お風呂だけを見ると入りたくなるんですけどね…
間違っても「元湯は無料だからここに入る予定でツーリング予算やスケジュールを組む」などというミステイクを犯さぬようご注意下さい。
 
あと、エリア内には「御前湯」等のリーズナブルな公衆浴場が複数存在しますが、本項執筆(2022.12)時点では例の流行り病の影響で殆ど「外来客お断り」となっており、入浴はできなくなっていました。
普通の旅館等でも休業している店舗がみられましたので、入浴予定の湯処・旅館の最新情報を確認した上での来訪をおすすめします。
(杖立温泉公式サイト掲載情報は若干古いようです)

山間部なので日没が早い。
こういう情景を見てしまうと、このまま泊まりたくなる

元湯を発見したのと時間なので、そろそろ蒸し場に戻ります。
 
本当に良い景観、良い湯、良い人々です。

温泉の蒸気でがっつり蒸し上がり!

蒸し場に戻り、さっそく野菜&焼売を取り出して卵と一緒に実食。
当たり前ですがうまい!
硫黄泉と異なり温泉卵のような味こそ付きませんが、それがシンプルなおいしさに繋がっており、ちょっぴり早い夕食を楽しめました。
 
なお、野菜自販機はラブホコインロッカーのような形式となっており、無料駐車場そばにも設置されていました。注意点としては、コインロッカー方式のため在庫が少ない+補充頻度も低い事でしょうか。
あと、当たり前ですが…調理や実食に伴い出たゴミは現地で捨てずに持ち帰りましょう。
 
…と、滞在時間は短時間ながら、非常に密度の高いひとときを満喫できました。次回以降はもっと長い時間滞在したいですし、スケジュールが合えば1〜2泊程度泊まってみたいですね。
 

<杖立温泉 まとめと注意事項>

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①アクセス良好、わかりやすい場所に無料駐車場がある
②湯質は弱アルカリ性の弱食塩泉
③鯉のぼり祭りが有名だが四季折々の表情を楽しめる
④入浴予定の湯処・旅館はオープンしているか事前確認要
⑤元湯は露出風呂。公衆浴場は殆どが外来お断り(2022.12現在)
⑥リーズナブルな食堂は少ないが無料の蒸し場がある
⑦蒸し場で出したゴミは現地で捨てず持ち帰ろう
⑧唯一のコンビニはコンビニの皮を被ったカオス空間(ほめてる
⑨唯一のガススタンドはエネオス(セルフではない)
⑩旅館内施設だがボウリング場がある
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