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~劇場~ J1第6節 ベガルタ仙台vs川崎フロンターレ

明治安田生命J1リーグ第6節 ベガルタ仙台vs川崎フロンターレ 2020.7.22

2週連続となるユアテックスタジアム仙台でのゲーム。両チーム前節から中3日でこの試合に挑みます。どのような戦いが劇場「型」スタジアムで繰り広げられたのか。今回も振り返っていきます。

試合前両チーム状況

ベガルタ仙台(11位)

前節札幌を相手としたホームゲームでは一時2点リードするも、終盤に追いつかれドロー。再開後初戦の湘南戦以来勝ち点3からは遠ざかっている。木山監督が表現したいものが、ゲームに着実に反映されているだけに、今節こそ勝利し、結果でそれを裏付けたい。

前節のレビューはこちら

川崎フロンターレ(1位)

ここまで2020年のJ1リーグは5試合を消化したが、川崎はリーグの中で唯一黒星が付いていない。昨年3季連続優勝を達成出来なかったチームは、鬼木監督のもと戦術にテコ入れを図り、シャーレ奪還に挑む。そのためにもこの試合は落とすわけにはいかない。

スタメン

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仙台は怪我から復帰したヤクブ・スウォビィクが開幕戦以来のスタメンに。また前節のスタメンとは異なり、右サイドバックに柳、左のウイングに西村がそれぞれ起用されている。いずれも縦への速さがある選手であり、道渕や関口と連携しつつカウンターから得点したい。

一方川崎は前節同様のスタメンとなった。中3日での試合ということで、少なからず選手には疲労感がありそう。

前半-相性の良さ

川崎がボールを保持しつつゴールに向かい、それを仙台が凌ぎつつカウンターの機会を窺う。戦前の予想通りこの構図で試合は進んだ。ここまでチームとしてリーグで唯一2桁得点を取っている川崎だが、それに対し仙台は前半を無失点で終えることに成功する。その無失点の背景には川崎の攻撃の特徴に対する、仙台の守備の特徴の相性の良さがあった。それぞれを以下で確認していく。

まず仙台の守備について。湘南戦で触れたように、仙台は433、もしくは451のシステムを用い、中央のスペースを消すような配置を取る。特に中盤の3人(関口、道渕、椎橋)の動きはそれを象徴しており、彼らは基本的にペナルティーエリアの幅でプレーを行う。ボールがサイドにあったとしても、相手はゴールを目指して最終的に中央に来る。そのスペースを埋めておくことで失点を防ぐのが仙台の守備システムだ。

これに対して川崎はボール保持時、まずはウイングが幅を取って中央の空間を広げる。これにより中盤の3人がプレーしやすくなり、大島や脇坂はそのスペースで受けることでボールを前進。ある程度相手ゴールに近づくと、ウイングに一度預け、ペナルティーエリアの角のスペースに侵入し再び受けることでチャンスを作り出そうとする。ウイングのカットインとIHのランニングでSBに対して1v2を作るといった攻撃だ。

スライド3

しかしこのプレーこそが仙台にとっての好都合だった。カットインのコースにはすでに中盤の3人が待ち構えており、さらに縦のコースも内側からSBが出ることで、(タッチライン際のスペースを残しつつも)消すことが出来ている。タッチラインとの間で包囲されたウイングが出来るプレーは多くはなかった。もちろん長谷川が途中で筋肉のトラブルを起こしたように、川崎の面々のコンディションの影響もあったとはいえ、ここまでやってきた仙台の中央を消す守備システムがしっかりと機能し、川崎相手に中央への侵入をなかなか許さず、無失点で前半を終えることができた。

前半-帰ってきた守護神

さて次に仙台がボールを奪ってからの展開について見ていく。攻撃のシンプルさが木山サッカーの特徴であるとここまでのゲームレビューで書いてきたが、この試合も例外ではなく、ウイング周辺にスペースがあればボールをすぐに渡し、縦に仕掛けるという形を取っていた。前半2点取った仙台であったが、いずれもボールを奪ってからすぐジャーメインに渡し、仕掛けたところから生まれたものだった。ジャーメインは確実に木山仙台にとって欠かせない選手となっている。

しかし仙台の好き勝手にさせるほど、川崎も甘くはない。上図に示したように、川崎はボール保持の際、SBは高めの位置を取らず、ある程度低めの位置をとっていた。そのためウイング周辺にスペースがなく、奪ってから即カウンターに出ることは容易ではなかった。

そのようにウイング周辺のスペースを消された際、仙台の選手はその状況をみて、攻撃を次のフェーズへと移行する。自らボールを持って、相手を引きつけることで、ウイング周辺にスペースを作り出すというものだ。

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この際、GKには後方でCBと協力しつつボールを繋ぎ、相手を出来る限り引き付けることが求められる。再開後のここまでの試合、小畑がこの役割を完璧にやり遂げていたが、この日のキーパー、クバもこの役割を得意でないながらもしっかりと務め、引き付け作業を行いつつ、引きつけられた際にはSBやウイングにフィードを届けるなど、練習の成果を発揮していた。

とはいえ前半の飲水タイムまではこの形からの前進は少なかった。それを見て引水タイムにはIHの立ち位置を修正。道渕や関口がビルドアップ時はCBから楔を直接受けることが可能な立ち位置を取り、川崎IHの注意を引く。さらにウイングまでボールが渡った際には、近くにまで流れることで、川崎SBに対して2v1を作り押し込んだ。

攻守で狙いを発揮して川崎と互角に渡り合った前半。2-0で折り返す。

後半-伏線回収

食い下がるわけのない川崎。ハーフタイムに小林悠、旗手怜央を投入する。小林はダミアンに代わってトップに、旗手は脇坂に代わってウイングに入り、元いた家長が2列目に移動した。右利きの旗手が右ウイング。中央を固める仙台に対し、サイドを直線的に突破し、小林の動きに合わせてシンプルにクロスを入れよう。そんな狙いがあったはずだ。前半、仙台のウイングにすぐ対応出来るような立ち位置を取っていた川崎のSBだったが、後半はそのクロスのために大外高い位置まで侵入することが多かった。その代わり大島が比較的前には出ず、後方でバランスを取っている。

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反撃の狼煙となる川崎の1点目はまさにその形から生まれたものだった。後半、主にボールサイドIHの背中側でプレーした家長が、このシーンでも関口の背中でボールを受ける。すると大外山根へ展開。西村がゴール方向に立って対応するが、タッチライン側が空いている。そこに旗手が走り込んで受け、そのままワンタッチで右足クロス。小林がそれを合わせた。

仙台としても、後半序盤から主導権を握るために、川崎のビルドアップに対して3トップ+IHで積極的に圧力をかけていた。しかしながらそれが功を奏さず、失点に繋がってしまったということでなんともやるせない。チームは中央遮断をもろともしない三笘のドリブルや登里の上がりでさらに押し込まれ、2点を献上し、2-3で逆転される。仙台がスペースを消し切る前に、長いボールを入れ、利用してしまう。川崎の着実な修正と息つく間も与えぬ攻撃。格の違いを見せつけられる。

後半-猪突猛進

逆転された仙台。ここはユアスタ。行くしかない。73分に中原、82分に蜂須賀と浜崎を投入し、リスクを顧みず相手ゴールへと向かう。あえて数字にすれば3-2-5のような形になっていた。

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そのアンバランスな陣形を機能させたのが中原と道渕だった。中原は小林悠の脇のスペースでCBからボールを受け、ビルドアップを安定。道渕は中原に引きつけられる川崎の中盤の選手の背中を取り、前半同様ウイングと連携してSBに対して2v1を作るなど、川崎ゴールに迫った。彼はこの試合で両チームの中で最多のスプリント回数、最長の走行距離を記録している。

しかし同点弾を奪うことは出来ず、試合はそのまま2-3で試合は終了する。

雑感

中から侵入できないのなら、簡単に、スペースが新鮮なうちに外側から攻め立ててしまおう。そんな割り切った修正を機能させ、3点立て続けに取ってしまうのだから川崎は恐ろしい。強い。いつだってそう感じさせられる。

しかしもどかしい。強い川崎相手に逆転されながらも、終盤に反骨心を持って攻勢に出る仙台がいた。木山監督率いる強気な仙台が。アグレッシブさ、リスクを顧みず全員で相手ゴールに押し寄せるその姿は、現在の木山仙台であり、ユアスタ劇場を作り出してきたサポーターでもある。コーナーキックを蹴る瞬間、スピードを上げてカウンターに出る瞬間、ユアスタがいつものユアスタなら。劇場に響いていたのは押し寄せる波のような仙台レッツゴー、風を吹かせるカモンの掛け声、狂ったようなTwisted。あの場で、あと一歩に耐え、あと一歩に迫る仙台の選手を後押しできたのなら。そこが形だけの、あくまで劇場「型」でしかないスタジアムではなかったのなら。共に闘えたのなら。そんなことを考えてしまうゲームだった。

しかしながら、反対の側面から考えれば、ユアスタがユアスタしてなくとも彼らはここまで毎試合得点を重ね、充実の闘いを見せている。足りないのはあと一歩だけなのだ。もし僕等がいなくともその一歩を踏み出すことが出来たのなら、僕等が戻ってきたときには、スタジアムで共に闘うことが出来た日には、どんな仙台が見られるだろう。闘いの記録を、その日を楽しみにしながら綴っていきたいと思う。



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