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~意志~ J1第5節 ベガルタ仙台vs北海道コンサドーレ札幌

明治安田生命J1リーグ第5節 ベガルタ仙台vs北海道コンサドーレ札幌 2020.7.18

過密日程の2020シーズン。ここまで両チーム4試合を消化し、前節から1週開けてこの試合に挑みます。会場となったユアテックスタジアムは再開後初の有観客試合を実施。2597人のサポーターがユアスタに駆け付け、約5か月ぶりにベガルタゴールドの彩をスタンドに加えました。そんな一戦を振り返っていきます。

試合前両チーム状況

ベガルタ仙台(11位)

再開後の3試合を1勝1分け1敗という結果で終えたホームチーム。いずれの試合もチームとして準備していた狙いは発揮され、得点もあげたものの、それぞれ追加点を奪うことはできなかった。今節こそ追加点をあげ、試合を有利に進めたい。再開後も怪我人は数名いたが、道渕やスウォビィクが順調に復帰しており、スタメンに名を連ねるかどうかは気になるところ。

前節のレビューはこちら

北海道コンサドーレ札幌(8位)

対して再開後は一時的に千葉県に拠点を置き、3試合をすべてアウェイで戦った札幌。結果は2勝1分けと負けがない。ミシャ体制4年目のチームは円熟味を増してきている一方で、ここまで好調だった鈴木武蔵が3節に負傷。エースを欠くチームにとって、このユアスタでの試合がアウェイ4連戦最後の一戦となるが、勝って北海道に帰ることはできるか。

スタメン

スライド2

仙台は注目の道渕が左のインサイドハーフに入った。その他は前節から変更はなく、ゴールマウスは引き続き小畑が守る。クバは控えに入った。

札幌は前節のスタメンからの変更点としてセンターフォワードにドウグラス・オリベイラが入った。前節の彼はシャドーの位置で途中投入され、身体の強さと技術の高さを見せた。またセンターバックの中央に宮澤が起用された。代わった田中はベンチスタート。

前半ー今日も今日とてシンプルに

攻撃のシンプルさ、相手の急所を確実に狙っていくことが木山ベガルタの特徴であることは言うまでもない。目的地を設定し、そこに向かって前進する。このようにして前節横浜FC戦はCB-WB間をクロスで狙い撃ちし、前々節浦和戦ならSB-CB間を目的地にし、IHやWGがランニングを繰り返した。この日の仙台もこれまでの試合のように目的地を明確に設定し、札幌に対して攻撃を仕掛けた。その目的地はずばり札幌3CBの脇のスペース。

そもそも札幌はボールが仙台陣にある際に523のような形で守備をする。まずはCFのオリベイラが椎橋をマークし、中央で軸となる彼のプレーを制限。さらにシャドーの2選手がCBに対してにらみをきかせる。このような守備に対して、CBの脇を使うために仙台は以下のような逆算をしていた。

最終的に3CBの脇を使いたい→それならその脇を埋めるWBを引き出せばいい→それならSBがボールを持てばいい→SBに対して523のシャドーが出ないようにするには、なるべく彼ら中央に寄せる必要がある→GKとCBで横パスを繰り返し引きつければいい

これを図にするとこんな感じ

スライド3

この戦い方を選択する上で、シャドー2枚に対して数的優位を確保するためのGKのビルドアップ能力は必要不可欠だった。技術ある小畑はCBと共同で横パスを繰り返し、3v2の数的優位のもとシャドーを引き付けたのち、フリーのSBにボールを届けることが出来る。こうしてSBが受けると、WBが引き出されCB脇が開く。するとそこに立つWGや流れたIHにCBやSBがボールを届け、素早く3CBの左右の選手に1v1を仕掛けることでゴールに迫った。またそのCBが引き出すことが出来れば、その間のスペースが空くので、そこにIHが走り込みゴールにより近くこともあった。他にも吉野から直接ウイングにいれる(むしろこっちの方が多かったかも)など、CB脇を開けるというテーマのもと多くの仕掛けを見せた。

このような仕組みのもと活躍したのがジャーメイン。彼は幾度となくCB脇でボールを持って果敢にゴールへと向かった。先制点も、カウンターからではあったが、CB脇のスペース=目的地で生まれたものだった。また逆サイドのゲデスもこのスペースを活用し、こちらはボールをキープしつつさらに進藤を引き付けることで、その裏のスペースを長沢や石原に提供した。14分にはそのような前進から逆の蜂須賀へとボールを届け、チャンスへとつなげている。

このようにして仙台は明確な狙いのもと攻撃を仕掛け、前半の多くの時間を主導権を握りながら戦うことが出来た。

前半ー木山ベガルタvsミシャ式

次に札幌の攻撃の狙い、仙台の対抗策を見ていく。札幌はボール保持時にボランチの一人がCB間に入って全体を415とするおなじみミシャ式のもと攻撃を仕掛ける。

スライド4

仙台にとって厄介なのが大外で高い位置を取るWB。中央のスペースを埋める仙台のSBにとって、大外まで出てWBに対応することは避けたい。かといってWGがそこにマークにつけば全体が631のような形になり、重心が後ろに下がってしまう。このジレンマの中で仙台がとった対応策が以下のようなもの。

スライド5

まずは長沢が荒野へのコースを切りつつCBに寄せ、ボールをサイドに誘導。するとWGがWBへのコースを消しながらSB化した福森進藤にプレッシャーをかける。その際内側のスペースが多少なり空き、そこにチャナティップや駒井が受けに来ることもあったが、それに対しては椎橋がマンマークでつき、前を向かせないように寄せていた。

スライド6

相手陣形がセットされた際にはこのようにして割りきって引くことを選択した仙台だったが、問題となったのは長沢の脇を宮澤深井に運ばれること。SBがボールを持った際にはWBへのコースを切れるが、中央から持ち上がられるとその遮断は意味をなさず、背後のWBに届けられてしまう。19分にはその形から菅へとボールが渡る。ジャメが対応に下がることで重心が低くなり、長沢が孤立。そうなるとカウンターにつなげることは難しい。仙台は先制後、この運びに対して道渕が寄せることで何とか対応していたが、この問題はまた後にも再び発生する。

仕組み上重心が下がるなどしてジャメの寄せが遅くなれば、札幌の起点となる福森から速いロングボールが中央や対角の逆サイドに飛んでくる。しかしながら結局は中のスペースをしっかりと埋めているため、どこにボールが届こうが大きなチャンスにはならなかった。むしろ脅威はセットされてない状態、カウンター局面でのチャナティップの運びであり、小畑が瀬戸際でしのぎ切った。

前半ー軽率なレッドカード

攻守ともになかなかうまくいかない札幌。そのフラストレーションからかはわからないが、32分に荒野が関口に対して暴力的な行為をはたらき、レッドカードでピッチを退く。あまりに軽率だった。札幌はこれを受けてシステムを441に変更する。

スライド7

一人減ったものの攻撃に対してリソースをかけることは怠らず、保持時には菅を高い位置にあげた315のような形をとり、長沢脇を運んでのマークずらしなどを引き続き行った。一方で守備は前後分断されることが多く、仙台はライン間でジャーメインや道渕が仕掛けシュートを放った。が、いずれも菅野に阻まれ得点には至らず。1-0で前半を折り返した。

後半ー無難な試合運び

追いつきたい札幌はハーフタイムに田中、ルーカス・フェルナンデスを投入。全体的な数的不利を感じさせないべく、仙台のボール保持時にはオリベイラがボールをサイドに誘導すると同時に、同サイドの選手に対してマンマーク気味につくことで仙台の前進を阻むことを試みた。しかしながら仙台も冷静。空いている逆のスペースにCBを経由したU字パスでボールを届ける。するとジャメが菅をピン止め。空いた福森とのスペースに道渕が走ることで追加点のチャンスをうかがった。前半のように5バックであればこのようなU字からDFラインに穴は開かないが、4バックかつ前線があまり制限をかけられていないため、このスペースがどうしても空いてしまう。このずれを突いた采配も、道渕らIHの動きも非常に良かったといえる。

スライド8

逆に札幌のボール保持時に対してはSBへのコースをWGが遮断し、パスを内側に誘導。その内側でIHや椎橋がボールを刈り取るという形をとっており、実際に椎橋の追加点はその守備から生まれたものだった。一方中盤で取れなければWG背後のSBへとボールは容易に渡る。チャナティップのヘディングゴールもその形から。中央で取り切れず進藤にボールが渡り、ルーカスのクロスへとつなげた。

仙台がチャンスをうかがいボールを保持し、時間は経過していく。その中で札幌が前半同様の鋭いカウンターを仕掛けるなど、一進一退の攻防が続いていた。

後半ー失うものがない者、ある者

追いつきたい札幌は62分に福森を高嶺に代え、田中がCBに。さらに最前線にジェイ、左サイドに金子を投入し前線の迫力を強める。とにかく前へ。失うものはない。対する仙台も赤﨑、田中、西村を投入し、リフレッシュ。追加点を狙いつつ、1点差も失いたくない。このどっちつかずな難しい状態に打撃を与えたのが札幌の交代出場選手だった。

スライド9

なかでも直接的にゲームに影響を及ぼしたのは田中駿太の動き。彼はボール保持の際、CB間に入り、宮澤と高嶺にワントップ赤﨑脇を使わせ、仙台ブロックを押し下げる。このスペースから二人運ぶと、ボールはルーカスや金子の大外の選手へ。大外で仕掛けることでWGの位置も下がっていく。ジェイに対するクロスをはじき返しても、最前線にはポストプレーに長けているわけではない赤﨑しかおらず、簡単にCB+田中にボールを回収され二次攻撃につなげられてしまう。一度押し込んでしまえば全体が10人でも関係ない。こうして仙台が押し込まれる時間帯が続いた。

交代枠を使い切ったミシャに対し、あと2枚カードを切ることが出来る木山監督。押し込まれた状態で守備の選手を入れて1点差を守り抜く、もしくは攻撃の迫力を強め追加点を取りに行く。この二択が彼の中にはあったはずだ。その中で選んだのは後者だった。80分に山田と柳を投入。それぞれに大外の相手のケアについての守備タスクを与えつつ、積極的に相手ゴールへと迫るよう発破をかけた。実際に試合終了後のインタビューでも監督は

守備の選手を入れて守りを固めるというよりも、少しサイドの選手の守備の仕方を注文した中で送り出していきました。だから、守備を固めるということよりも、少し守備の修正をしながらゲームを進めていきたいと。

と語っている。チャレンジの姿勢。実際にこの投入によって仙台のカウンターからの決定機は増加。ゲームをコントロールするというよりかは、むしろ落ち着けることなく積極的に前に出る。しかしいずれも決められず。咎められるかのようにコーナーキックから札幌に同点弾を許す。ゴールは田中駿太のものだった。試合は2-2の引き分けで終了した。

雑感

まず札幌の後半の修正はお見事。前半に仙台が少し対応に苦しんだCBの運びを、リスクがある中でも1点取るために終盤に行い、主導権を手繰り寄せていました。交代で入ったどの選手も自分の役割を完遂し、高嶺の左足なども驚異的でしたね。そうして着実に勝ち点につなげるのが百戦錬磨のミシャという監督なのだろうと。そう感じました、戦術を見るのが好きな一サッカーファンとして。

で、次に仙台サポーターとして。とにかく勝利する姿を見たかったです。押し込まれた中で相手を押し返すことを決断した木山監督の姿勢、もちろん勝ち点を失うことのプレッシャーが今年のレギュレーション上比較的弱いこともあるかと思いますが、これが彼のスタイルなのだと、見せたいのは強気な仙台なのだと、そう感じました。多分クラブの歴史上、ああいう局面では引いて守り切るみたいな姿勢を貫くことが多かったと思います。その文化からか個人的にはあの場面で守り切る采配をしなかったのが衝撃でした。しかしこれはそれとは違う、新しい仙台なのだと。変わらなくてはならない、時計の針を戻したくはない、そう語った人がいましたが、仙台の歴史はこうやって、チャレンジを繰り返し、時に勝ち点やなにかを失いながら、進み、作られ、進化していく。我々は今その変革の真っただ中にいる、そういうことなのだと、この一戦から伝えられたような気がします。その姿勢が結果に結びつくようになれば、そんな強気なチームになれれば、もう今日のような日はやってくることは少なくなるんでしょうし、サポーター含めクラブが強気になっていくのだと思います。まあそんな日がいつくるかはわかりませんが、とにかくそれを信じて、こういう状況でサポーターの思いがスタジアムの熱量として届けることが出来ずもどかしい中ではありますが、応援していければと思いました。

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