“ライブを観た”オーストラリアの音楽紹介① まえがき

 自分は昨年9月からワーキングホリデー制度でオーストラリアに住んでいる。予てこの国の音楽シーンに興味があったのと、いつか海外で生活してみたかったので、会社を辞めて渡航するに至った。テーム・インパラやキング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードを本国で観たいというミーハー精神も、計画性のない重い腰を上げるには十分な動機になってくれた。

 新生活が始まってから6ヶ月が過ぎ、それなりにライブやフェスを楽しんだので、滞在記的に観たミュージシャンを記録していくことにした。正直、今の時代どこからでも世界各国にアクセスできるし、自分なんかよりオーストラリアの音楽に詳しい人はいくらでもいる。ただライブに足を運ぶ人はそう多くないのでは……ということで感想をネットの海に漂流させておけば誰かのためになるかもしれない。よほど印象に残っていない限りは極力取り上げていく。今回はそのまえがき。

半年過ごしてみてのライブ雑感

 まず、オーストラリアの音楽と聞いて何を思い浮かべるだろうか。昔でいえばAC/DC、先述のテーム・インパラやキング・ギザードに代表されるサイケ、ハイエイタス・カイヨーテのようなジャズ/ソウル系統、一部フジロッカーには豪雨のイメージがつきまとっているであろうシーア、昨年の来日も記憶に新しいステラ・ドネリー……今や日本のインディシーンに欠かせないアデレード出身のベーシスト、マーティ・ホロベックを連想するかもしれない。

 こちらに来て自分が特に感銘を受けたのは、ジャズやソウルを感じさせるメルボルン拠点のバンドだ。それもそのはずというか、DJのジャイルス・ピーターソンによるレーベル「Brownswood」が、メルボルンの同シーンを切り取ったコンピ『Sunny Side Up』を2019年にリリースしている。複数の関連ミュージシャンが来日するなど、日本でも盛り上がりを見せるUKジャズの知名度を一気に上げた『We Out Here』から約1年後のことだ。ちなみに、キーボーディスト/プロデューサーのカマール・ウィリアムスや雄大かつ都会的なアフロービート/ジャズを響かせるココロコといったUKジャズミュージシャン達のオーストラリアツアーでは、静かにグルーヴを奏でるメルボルンのサプライズ・シェフと、『Sunny Side Up』にも参加しているアリーシャ・ジョイ(30/70というバンドのボーカル)が各オープニング・アクトを務めており、親和性も感じられる。旬というよりかは成熟や定番化(もしくはより洗練された人達が残った?)という印象だ。

 サイケもやはり広く支持されているようだ。中大規模のフェスやイベントにはたいていサイケミュージシャンが出演しているし、彼等がステージに登場すると観客の数が増え、ボルテージが一段階上がるのを肌で感じる。安直に聞こえるだろうが、何よりサイケとオーストラリアの空気感がとても合う。

稼げるだけじゃない、ということ

 家族や友達から連絡が来て知ったのだが、先日オーストラリアに行くと稼げるというニュースが報道されたらしい。確かに自分のバイト先の基本時給は27オーストラリアドル(約2400円)で休日は10ドル増、祝日は平日の倍になる。そして、その分物価も高い。ワーホリ勢や学生は基本的にシェアハウスだし、外食は特に割高な上にだいたい美味しくない。スペインやフランスのような食が有名な国から来た人は口を揃えてそう言う。日本食のレベルの高さも痛感した。来日した海外の著名人が「日本はご飯が美味しいからつい食べすぎちゃった」的なことをよく言うが、あれは本心なのだろう。自分はもともと料理好きだったが、自炊に慣れてないと苦労するかもしれない。

 一方で、ライブが好きな人にとってはかなり良い生活が送れる。やはりテーム・インパラやフルームのようなヘッドライナー級を彼等の出身国で観られるのは嬉しいし、国外の人気ミュージシャンの“単独ライブ”も頻繁に行われる。ワールドツアーで日本に寄らないことはあっても、オーストラリアには大抵来てくれる。最近はケンドリック・ラマーやデュア・リパ、ボン・イヴェール、ロード、エルトン・ジョン、フローレンス・アンド・ザ・マシーンらがパフォーマンスした(ケンドリックだけ行けた)。ピンクパンサレスやフレッド・アゲイン、短時間のみだが100 ゲックスをまとまった時期に観られたのもとてもありがたい。また、日本との時差は都市やサマータイムによって-1〜+2時間のため、日本の配信ライブ等を無理なくリアルタイムで観ることができるのも特筆すべき点だろう。

 ただ、やはり現地のミュージシャンによる素晴らしいパフォーマンスを観られた時が一番嬉しい。今の所一番くらったのは メルボルンのNO ZUというバンドだ。

人生には良いレコード屋が必要だ

 音楽が目当てならメルボルンを選べばいいものの、自分は第3の都市であるブリスベンに住んでいる。日本で言うと博多や名古屋のような規模感だ。高校生の時に学校のプログラムで2週間だけここに来ていたので、再訪したかったのが理由である。結果的にこの都市を選んでよかった。

 ブリスベンにはいくつかレコード屋があるが、そのうちの1つにJet Black Cat Musicという店がある。オーナーは日本に何度も旅行したことがある親日家で、国内外の話題作のセレクトだけでなく、ローカルのインディ系ミュージシャンのサポートにも力を入れている。インストアライブやサイン会も頻繁に行っており、昨年は『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のトレーラーに楽曲が使用されたザンビア生まれのサンパ・ザ・グレイトや、サウスロンドンの新鋭ドライ・クリーニングら注目ミュージシャンも来店してファンと交流している。最近は、ドミノ直送のウェット・レッグの非売品グッズを詰め込んだボックスを無料で配っていた。

 また、国内外ミュージシャンのライブ数公演を手掛けているほか、「Nine Lives」というイベントも共催しており、今年は“砂漠のジミヘン”とも称されるニジェールのエムドゥ・モクターや、個人的に長年観たかったエンジェル・オルセンらをメインに据えながらも、サブステージにはオーストラリアのミュージシャンが出演する形態をとっていた。過去には幾何学模様も出演しており、会場で知り合った地元の人も彼等のファンだった(ちなみに幾何学模様の初海外ツアー先はオーストラリア)。音楽を楽しむ上で頼りになるセレクターやオーガナイザーがいることは重要だが、到着してからすぐこのレコード屋に出合えたことはかなり大きい。今後取り上げるミュージシャンの中には、このお店のお陰で知ることができたものもたくさんある。

 今や新しい生活にも慣れて怠惰な日々を過ごしているので、記録していかないと本当にオーストラリアにいるのかわからなくなってきた。これから定期的に2〜4組くらいずつ紹介していきたい。

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