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『みほ』カースト

『名前の由来を調べて、作文を書きましょう。』

小学何年生だったか、こんな宿題が与えられた。

SNSでは『とろん』なんて名前でやっているが、実際の私の名前は『美穂』だ。当時、学校には私と同じ名前の人が何人もいた。後にではあるが、ひとクラスに3人も美穂が集まった時は美穂、いすぎじゃない?と呆然としてしまったこともある。

うちの苗字はなかなかに珍しく(日本中に50世帯あるかないからしい)その上うちの家系の男性は個性的な名前が名付けられるという風習を持っていた。だからうちの家系の男性の名前で同じ名前の人には出会ったことがないほどだ。すごいカッコいい!幼いころから厨二病の気があった私はそんな名前に強い憧れを抱いていた。名前ってすごい、私の大好きな漫画やアニメに出てくるキャラクターたちは個性的な名前が多い。私もそんな人になりたい、普通じゃなくなりたい的なことを淡く考えていた私は常々人の名前には敏感だった。

そんな私に、上記の宿題が与えられたのだ。

私は嫌な予感がとまらなかった、どう考えても自分が理想とするような由来なんて出てこないだろうと思ったからだ。宿題の提出期間までは1週間もあって、その間私はもんもんとし、周りが自分の名前の由来を両親に聞いた話で盛り上がっているところに遭遇しては泣きそうになるのを堪えていた。

宿題の提出前夜、どうしても聞かなくては、と思いせめてもの抵抗で母親と二人っきりの時に聞いてみた。

『あのさ〜、あのね、宿題でね、自分の名前の由来を教えてもらいなさいって言われたの。それでね、●●ちゃんとかはね、こういう意味なんだって...かっこいいよね?わたしにもそういうのあるかな?』

『あら〜そうなの!それはね、お父さんに聞いてみな〜!』

母は絶望的なことをニコニコと告げた。私は父が苦手だ、気が強く亭主関白のお手本とも呼べるような父は酒乱で声が大きくとにかく恐ろしい存在だった。絶対ヤバイ。直感的にそう感じた。絶対コレ怒られるやつ。(当時はとにかく会話をすれば怒鳴られていたのでそう思ってました。)でも宿題はやらないと怒られるやつ、もう苦しくて仕方なかったけど、私は父に聞いた。

『お父さん、ごめんなさい、学校の宿題でね、あのね、自分の名前の由来を聞いて来いって言われてね、お母さんがお父さんに教えてもらいなさいって...』

『はぁ?名前の由来?お前はな、お父さんが当時”中山美穂“のファンだったから美穂になったんだよ。』

そうドヤ顔で言われた。言われた瞬間に私は無言で大号泣だった。父が怖いとか色々な理由はあったけど、1番は美穂という名前が私につけられる前から『誰か』の名前で、父はそれを自分につけたからだ。誰かの名前を真似した。そう感じて私は自分の名前がその瞬間さらに嫌いになった。と同時に怒りが吹き出してきた。

いつもは厳しい父もさすがに、なんで泣いたのか全くわからなくて困惑していた。そりゃそうだろう、その場にいた私以外の家族はみんな『なんで!?』と思ったと思う。

『そんな理由で名前付けたんだ、考えるのが面倒だったから適当につけたんでしょ!?』

ほぼ叫ぶ様に父に怒りをぶつけ、反撃にあう前に私は急いで自分の布団に逃げこんだ。もう宿題なんてどうでも良かった宿題はやらないで学校に行こうと決意し、完全なるふて寝。我ながら女々しいが多分30分くらいは布団を被りながら泣いていたと思う。落ち着いたころに母親と姉が部屋に来た。私は折角治ったのにまためそめそ泣きながらお父さんが酷いと、自分の名前は適当だったんだ、将来は絶対に自分の名前を変えてやると訴えた。

母と姉は呆れながら教えてくれた、父は酔っていたから言い方が悪かったんだと。姉は私と年子なので去年全く同じ宿題を出され、父に自分の名前の由来を聞いていた。その時父は『お前は叶姉妹の美香さんが美人だから美香なんだ〜』と言って姉を激怒させた。同じ轍踏みまくりか?

だが私と違って、気が強い姉はそこで負けじと

『それだけ!?じゃあそれだけ作文で書いて学校で発表するからね!?』と叫び父を脅し(?)たらしい。そこでやっと父はそれだけじゃないけど...と由来を教えてくれた。父は私たちが生まれるとき、女の子なら自分の名前から1文字『美』という文字をとって名前の頭文字にしてあげたいと考えていた。父は自分が珍しい名前だったことで色々な思いがあったのか、誰にでも覚えやすくすぐに伝わる名前にしたいと思っていた。

そして

美しい花の香りの様に人を安らがせる、 美香

美しい稲穂の様に豊かで実りのある人生を、 美穂

という名前にしたらしい。父は気恥ずかしさとそんな話を子供にしても意味わかんないだろという謎の持論で、わかりやすく有名人の名前を出していた様だ。私は理由があるならちゃんと言ってよ!とかでも美穂って名前はいっぱいいるし...とか我ながら面倒くさいことを考えながら宿題を終わらせた。

そんな経緯もあってか、というか元来の面倒くさい性格と気質のせいで私は自分の名前が少々嫌いだった。(自己紹介では絶対に名字を名乗り、あだ名も名字に関連付け、出会う人全てにとことん自分の名前を伝えないようにするくらい。)

でも、昨年結婚して十分のアイデンティティーと言っても過言ではないほど、愛してやまなかった名字が変わったのだ。変わってしまった名字の後に残ったのは自分の名前だけだ。『美穂』という名前はなんとも普通で世の中にありふれている。でも、なんとなくだが、今は名前を気に入り始めている。いまだに名前を呼ばれなれてないので、美穂ちゃんとか美穂さんとか言われるとちょっと気不味くなるのだが、これからも何があっても私は美穂なのだ。それはもう諦めようというか、納得して生きていてもいいのかもしれない。

タイトルの『みほ』カーストは、私が過去1番みほ密度が高かった中学3年生のクラスで考えていたこと。クラスには3人のみほ、うち2人は『美穂』という漢字だった。だが、1人のみほは今まで出会ったことのない『未帆』という漢字だったのだ。私の中でうちのクラスのナンバーワンみほは、この子に決まった。漢字の印象だけでここまで印象が変わるとは...名前とはなんとも奥深いものだ...。

#名前の由来  

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