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【物語】ケネディ大統領 歴史を楽しく

あーりーです。

歴史を楽しく身近に感じてもらいたいと思って書きました。

小説でもなく、シナリオでもなく、少し変わった会話形式の物語です。

ころんと寝転びながら、気楽に読んでいただけると嬉しいです。

それでは始まり始まり~。



第1話 暗殺される人ね

1963年11月22日(金)

アメリカ大統領ジョン・F・ケネディがテキサス州ダラス市で暗殺された。


それから150年後……。

博士「助手くん、そこの青いボタンを押してくれ」

助手「はい」

博士「間違って赤いボタンを押さないようにな」

助手「赤いボタンを押したらどうなるんですか?」

博士「完成まぢかのこのタイムマシンが、爆発してしまう」

助手「怖いですね。気をつけます」

博士「慎重にな」

助手「はい。……あ、間違えた」


どかーーん!


ケネディ「ちょっと、起きなよ」

助手「……ぅ……」

ケネディ「こんな道の真ん中で寝てたら、危ないよ」

助手「……ここは?」

ケネディ「道の真ん中」

助手「……君、ずいぶんレトロなファッションだね」

ケネディ「最新の流行だよ」

助手「まさか。それは20世紀のアメリカのファッションでしょ」

ケネディ「今は20世紀だよ。ここはアメリカ。酔ってる?」

助手「やばい……事故でタイムスリップしちゃったかも……」

ケネディ「酔ってるみたいだね。うちでちょっと休んでく?」

助手「あのさ、今、西暦なん年?」

ケネディ「1946年だけど……」

助手「僕の名前は助手。信じられないかもしれないけど、未来から来たんだ」

ケネディ「未来から? いや、おもしろそうだから信じる」

助手「ありがとう」

ケネディ「僕、ジョン・ケネディ。新聞記者です」

助手「ケネディ? ああ、暗殺される人ね」(ボソッ)

ケネディ「!Σ( ̄□ ̄;」

助手「ごめんごめん。気にしないで」

ケネディ「……気になるよ。まじで?」

助手「うん。僕、歴史苦手だけど、たしかケネディって暗殺された人だと思うなぁ」

ケネディ「でも、ケネディっていっても、アメリカにたくさんいるよね」

助手「ジョン・ケネディでしょ?」

ケネディ「うん。ジョン・フィッツジェラルド・ケネディ」

助手「そうそう、JFK。間違いないよ」

ケネディ「うっそぉ、めっちゃへこむ」

助手「……じゃあさ。親切にしてくれたお礼をさせてよ」

ケネディ「どういうこと?」

助手「君が暗殺されないように、僕がいろいろアドバイスするって言うのはどお?」

ケネディ「え?」

助手「僕、歴史は苦手だけど一応未来から来たから、君にちょっとくらいはアドバイスできると思うよ」

ケネディ「ほんと?」

助手「たぶん」

ケネディ「じゃ、お願いしちゃおっかな」

助手「君はね、アメリカの大統領になって暗殺されるんだ」

ケネディ「え、僕、大統領になるの!?」

助手「うん。だから、大統領にならなければ暗殺されないよ」

ケネディ「頭いいね~」

助手「でしょ。へへ」

ケネディ「よーし、大統領にならないぞ! これで僕は暗殺されないんだね」

助手「うん」

ケネディ「よかった。ねぇ、うちでお祝いの乾杯しない?」

助手「いいね」


というわけで…

ここはケネディ家。


ケネディ「ただいま~。友達連れてきた」

父「おお、息子よ、喜べ!」

ケネディ「なに?」

父「マサチューセッツ州第11選挙区の下院議員に欠員が出たんだ。おまえの名前で立候補届け出しといたぞ」

ケネディ「げっ!」

父「がんばれよ!」


ここはケネディの部屋。

ケネディ「やばいことになったね」

助手「でもまあ、下院議員になるくらい、いいんじゃない?」

ケネディ「でもさ、もしずるずる大統領になっちゃったら困るしょ」

助手「そうだね」

ケネディ「父さん、やたらはりきってるからなぁ、今さら立候補取り消すのもまずいし……」

助手「じゃあさ、この選挙、全力で落ちよう」

ケネディ「そうだね!」

助手「こうなったら常識はずれの選挙運動をして、確実に落選するんだ」

ケネディ「うん」

こうしてケネディは1946年、29歳のとき、マサチューセッツ州第11選挙区の下院議員選挙に立候補した。



第2話 上院議員に当選

2人は選挙で落選するための計画を練った。


助手「一切、選挙運動をしないでおこう」

ケネディ「おお……それは確実に落ちるね」

助手「でしょ」


そして1週間がたった。


ケネディ「最近、買い物とか床屋とか行ったらね、なんで選挙運動しないの?って聞かれるさ」

助手「だろうね」

ケネディ「どんな政治やりたいの?とかも聞かれる」

助手「なんて答えてるの?」

ケネディ「えー、なんかよくわかんないから、安い家がいっぱいある町にしたい……って答えてる」

助手「家?」

ケネディ「うん。僕、一人暮ししたいんだよね。だから、安い家いっぱいあったらいいなぁ~って」

助手「へぇ~」

ケネディ「一人暮ししたら、夜遅くとか友達呼んでも大丈夫でしょ」

助手「そうだね」

ケネディ「家でみんなで飲み会とかしてさ」

助手「いいね」

ケネディ「店で飲むより安いしさ、いつでも寝られるからダラッとできるし」

助手「それだったらでっかい庭付きの家が良くない?」

ケネディ「あ、それもいいね」

助手「暑い日にさ、そこでビール飲んで……」

ケネディ「ちょっと寒い日でも良いよ」

助手「そお?」

ケネディ「みんなでちょっと寒いね~って言いながらビール飲むの。空気は、今にも雪が降りそうな冷たい匂いで……」

助手「うん」

ケネディ「雪が降りそうだねってみんなと話してたら、そのうち本当に雪が降ってきて、 きれいだねって言いながら乾杯するの」

助手「いいかも」

ケネディ「いいしょ」


市民たちは……

市民1「今度の選挙、誰に入れる?」

市民2「いや~、その場で決めるよ。書きやすい名前の人」

市民1「ケネディって、ちょっといいよ」

市民2「ケネディ?」

市民1「あのね、演説会場とかでしゃべるんじゃなくて、床屋とか道端とかで自分の ビジョンしゃべってる人」

市民2「へぇ~、なんとなく身近だね。どんなビジョン?」

市民1「この町に安い家いっぱい作るんだってさ」

市民2「なんで?」

市民1「わかんないけど、たぶん、あれじゃない……」

市民2「?」

市民1「第二次世界大戦が終わってヨーロッパやアジアから兵隊が たくさん帰って来たしょ」

市民2「うん」

市民1「だから、その人たちの家を確保しようっていう考えだと思うよ」

市民2「へぇ~、いいことだね」

市民1「うん。いいことだよ」

市民2「じゃ、おれもケネディっていう人に入れようかな」


こうして、安価な住宅建設を唱えたケネディは下院議員に当選した。


ケネディ「やばい……なんで当選したんだろう???」

助手「謎だね」

ケネディ「ぅぅ……」

助手「ねぇ。ちなみにさ、このあとどんなルートで大統領になるのが一般的なの?」

ケネディ「いま下院だから、そのあと上院になって、そして大統領って感じかな」

助手「じゃあ、このまま、下院のままでいればセーフだね」

ケネディ「でもさ、なんかの勢いで上院になっちゃったら、やばいしょ」

助手「心配しすぎだよ」

ケネディ「だけど、もしもマスコミに注目されて急に知名度があがるとか、そんなことになったら…」


その後、ケネディの唱えた住宅法案が国会で認められた。

彼はマスコミに注目され、上院議員になった。


ケネディ「……しまった。勢いで上院議員になってしまった」汗

助手「断らなかったの?」

ケネディ「だって、党内の雰囲気がさ、『おまえ人気あるんだから絶対出馬しろよコノヤロウ』 っていう感じなんだもん」

助手「大統領に1歩近づいちゃったね」

ケネディ「う、うん…」



第3話 大統領選挙に立候補

ケネディ「ねぇ、思ったんだけどさ、なんか僕、このままだと本当に大統領になっちゃうかもしれないしょ?」

助手「うん」

ケネディ「だから、明日思いきって、党、やめよっかな……」

助手「それ、いいね」

ケネディ「でしょ? 明日、偉い人に言うよ」

助手「がんばってね」

ケネディ「うん」


翌日。


ケネディ「あのー、党、やめたいんですけど……」

偉い人「えー、まじで?」

ケネディ「はい」

偉い人「急にそんなこといわれてもなぁ~」

ケネディ「すいません」

偉い人「じゃあこれ、離党届。サインして」


ケネディは書類にサインした。


ケネディ「はい。書きました」

偉い人「じゃあ、受理するね。ハンコぽんっ!」

ケネディ「ありがとうございます」

偉い人「これからも、いろいろとがんばってね」

ケネディ「はい。お世話になりました」

偉い人「うん。……あーーーー!」

ケネディ「どうしました?」

偉い人「これ、離党届じゃなくて、大統領の立候補届だった」

ケネディ「え!」

偉い人「おれ、ハンコ押しちゃった」

ケネディ「間違いですね。じゃ、早く本物の離党届を……」

偉い人「すかさず党本部にFAX、ピッ!」

ケネディ「あーー、なんてことを!」

偉い人「言ったじゃん。これからもいろいろとがんばってね、って」

ケネディ「そんなぁ」泣


1960年、ケネディは民主党代表としてアメリカ大統領選挙に立候補した。



第4話 テレビ討論

その日の夜。

助手「どお? うまく辞められた?」

ケネディ「……大統領に立候補した」

助手「え!」

ケネディ「なんか、ハメられたかも」

助手「じゃあ、こうなったら大統領選で落選するしかないね」

ケネディ「うん」

助手「ちゃんと落選できそう?」

ケネディ「わかんないけど、アメリカの大統領ってね、プロテスタントっていう宗教に入ってる人しか、なれないんだよね」

助手「ぷろてすたんと?」

ケネディ「うん。でも僕はカトリック教徒だから、ダメだね。きっと落ちるよ」

助手「そうか、やったね」

ケネディ「うん」

助手「ところでさ、大統領選の相手はどんな人?」

ケネディ「副大統領を8年も経験したベテランの、ニクソンっていう人」

助手「ベテランか~」

ケネディ「それに対して、僕は若ぞう」

助手「いいね、きっと負けるよ」

ケネディ「ありがとう」

助手「でもさ、念のため、もうひと押し欲しくない?」

ケネディ「落ちるために?」

助手「うん。落ちるために」

ケネディ「そうだね。なにがいいかな……」

助手「君の最大の弱点は、青二才で頼りないことだと思うんだよね」

ケネディ「うん」

助手「その弱点を、できるだけたくさんの人に知ってもらえればいいんだけど……」

ケネディ「うーん……」

助手「ねぇ。この時代さ、テレビって、もうある?」

ケネディ「え、あるよ」

助手「じゃ、それを使おうか?」

ケネディ「……?」

助手「テレビでさ、そのニクソンっていう人と公開討論するの」

ケネディ「討論? でも僕、難しいことわかんないよ」

助手「そのほうがいい。頭悪そうにしてたほうがいいよ。 そのほうが、君の若さとか頼りなさが国民のみんなに生々しく伝わるしょ?」

ケネディ「なるほどね。これで落ちるね」

助手「うん。がんばろう」


ケネディは大統領選としては史上はじめて、4回のテレビ討論を行った。


国民1「昨日のテレビ討論見た?」

国民2「見た」

国民1「どっちに投票する? ニクソンとケネディ」

国民2「そりゃケネディでしょ」

国民1「だよね。ケネディって誰にでもわかる簡単な言葉しかしゃべらなくて、わかりやすかったもんね」

国民2「それにさ、テレビで見てはじめてわかったけど、ケネディって若くて初々しいよね」

国民1「うん。ルックスもいいしね」

国民2「もしテレビ討論がなかったら、ニクソンに入れてたとこだね」

国民1「そうだね。でもテレビ討論があって良かった」

国民2「うん。でもケネディってカトリック教徒でしょ?」

国民1「そうだね」

国民2「いままで、カトリック教徒が大統領になったことないよね」

国民1「でも、ま、いいんじゃない? わかりやすいし若々しいし」

国民2「そうだね。いいね。ケネディに一票だ」


こうして、1960年11月9日…

ケネディは史上最年少でアメリカ大統領に当選した。


ケネディ「なぜだ!」涙

助手「まだ望みはあるよ。大統領の就任演説でとんでもないこと言えば、 人気がなくなって早めに大統領を辞められるかもよ」

ケネディ「……うん。がんばってみる」


就任式の朝がやってきた。



第5話 CIA

1961年1月20日。

大統領就任式の朝。


ケネディ「どうしよう、就任演説、なに言おう……」

助手「思いっきり頼りないこと言ったほうがいいよ」

ケネディ「そしたら、辞められる?」

助手「うん。だからがんばって」


PM12:50頃、ケネディは演壇に上った。


ケネディ「えー、国民の皆さん、僕、なんもできないので、皆さんで勝手にがんばってください。 あ、それと、世界各国の皆さん。僕、平和とか自由とか全然わかんないんで、そのへんよろしく」


こうして就任演説は終わった。


助手「よかったよ。最悪だった」

ケネディ「ほんと? やったぁ~」

助手「でも最後のよろしくっていうところ、4649にしたらもっと最悪になれたと思うよ」

ケネディ「あ、それ最悪だね。目に余るね」

助手「とにかく、この演説、きっとばんばん叩かれるよ」

ケネディ「そしたら大統領を辞められるね」

助手「うん!」


その日の夜のニュース。


キャスター「今日、ケネディ大統領が就任演説を行いましたが、それについてはいかがですか?」

評論家「素晴らしい演説でした。 アメリカ国民の自立を説き、そして、世界の国々の自発的な自由と平和の実現を訴えていましたね」

キャスター「それをあえてわかりやすい言葉で述べるところも、いいですよね」

評論家「まさにその通りです。ケネディこそ真に偉大な大統領です」


…………


助手「なんか、評判いいね」

ケネディ「マスコミがどう受け止めるかで、こんなに演説の印象が変わるとは」汗

助手「ねぇ、いいこと思いついたんだけどさ」

ケネディ「なに?」

助手「せっかく大統領になったんだから、それを利用して平和な世の中つくっちゃえばいいんじゃない?」

ケネディ「え?」

助手「平和な世の中になれば、君も暗殺されないしょ。世界から戦争や暴力をなくしちゃうんだよ」

ケネディ「なるほどね」

助手「明日からホワイトハウスで仕事でしょ、がんばってね」

ケネディ「うん。がんばるよ」


翌日。

ここはホワイトハウス。


CIA「CIAの人です。よろしく」

ケネディ「あ、どーも。よろしくね」

CIA「さっそくですが大統領」

ケネディ「ん?」

CIA「我がアメリカは東南アジアに軍を派遣してるんですが、その数をもっと増やしませんか?」

ケネディ「え、東南アジアにアメリカ軍を派遣してるの?」

CIA「正確に言うとややこしいんですが、まあ、そんなところです」

ケネディ「なんかよくわかんないけど、やばくない? 他の国に軍隊なんて派遣したら……」

CIA「いずれ東南アジアで戦争のひとつふたつ始めようかなぁ~って思ってるんです」

ケネディ「戦争!?」

CIA「はい。ベトナムあたりで」

ケネディ「ダメだよ、戦争や暴力はダメ!」

CIA「意見が合いませんね」


その夜。

とあるバーで。


CIA「ねえ、聞いて。今度の大統領、なんか嫌ださ」

戦争産業の人「え、なんで?」

CIA「戦争ぎらいなんだ」

戦争産業の人「げ! 戦争ぎらい!? なんでそんなやつ大統領にしたのさぁ」

CIA「だってノーマークだったんだもん……」

戦争産業の人「アメリカ経済はおれらみたいな戦争産業が支えてるんだよ」

CIA「わかってるよ」

戦争産業の人「なんでもいいから戦争やってよ。戦闘機とか戦車とか銃とかがんがん使ってもらわないと、 おれたち儲からないしょ」

CIA「なんとかするよ。本当はベトナムで戦争をって考えてたんだけど、 ちょっと方向変えてみる」

戦争産業の人「どうするの?」

CIA「キューバ」

戦争産業の人「キューバ?」

CIA「うん。キューバとの戦争をなんとかセッティングしてみるよ」

戦争産業の人「ほんと? 頼むね」

CIA「うん」

戦争産業の人「でもさ、そのケネディっていう大統領、なんとかなんない?」

CIA「……考えてみるよ」


ケネディ暗殺まで、あと2年10ヶ月。



第6話 ピッグス湾侵攻

夜。

助手「1日お疲れ様」

ケネディ「あー、疲れたぁ~」

助手「どう? うまくやっていけそう?」

ケネディ「いやぁ自信ないよ。僕、世界情勢とか全然わかんないし」

助手「……でもさ、主な国名くらいは知ってるしょ?」

ケネディ「もちろん。えーと、アメリカ、ソ連、フランス、イギリス……」

助手「うん」

ケネディ「……イギリス、それから」

助手「……」

ケネディ「フランス。……そんなとこだね」

助手「……応援するよ」

ケネディ「ありがとう」

助手「……うん」

ケネディ「そうだ、気分転換にちょっと散歩でもしてくるね」

助手「ああ」


散歩道。


ケネディ「犬の散歩ですか、小さくてかわいい犬ですね」

キューバ人「はい、キューバっていう名前なんです」

ケネディ「キューバ」

キューバ人「アメリカに亡命してきてずいぶん経つんですが、祖国が懐かしくて……」

ケネディ「キューバ……」

キューバ人「……はい」

ケネディ「この犬、けっこう有名ですよね?」

キューバ人「え?」

ケネディ「キューバって、そういえばなんか聞いたことあるな~と思ったら、 この犬の名前だったんですね。ほんと、ちっこくてカワイイ♪」

キューバ人「……ていうか」

ケネディ「ニュースとかでもたまに聞きますよ、この犬のこと。有名ですね」

キューバ人「いえ……」

ケネディ「じゃ、またどこかで」

キューバ人「は、はい」


翌日。

ホワイトハウス。


CIA「あの~、大統領」

ケネディ「なに?」

CIA「今度、キューバを攻めていいですか?」

ケネディ「え! キューバを!」

CIA「びっくりするのはわかりますが、まあ聞いてください」

ケネディ「キューバって、あのキューバでしょ?」

CIA「はい。あのキューバです」

ケネディ「攻めるってなに? どうすんの?」

CIA「軍事的に攻めるんです」

ケネディ「軍事的に!? あのキューバを!?」

CIA「はい。あのキューバを」

ケネディ「なんでそんなことするの? そんなことしたら、かわいそうだよ」

CIA「必要なことなんです。でも、正規のアメリカ軍を投入するつもりはありません」

ケネディ「当たり前だよ」

CIA「我々CIAが秘密のうちに訓練した精鋭部隊を送り込みます」

ケネディ「……けっこう、おおげさだね」

CIA「けっしておおげさではありません。そういうものなんです」

ケネディ「でもさ、そんな必要あるの? 攻める必要」

CIA「はい」

ケネディ「……あのさ、確認しておきたいんだけど、キューバって、あの小さい……」

CIA「はい。キューバは小さいです。しかしアメリカの脅威になりえます」

ケネディ「……そうなの?」

CIA「今のうちにぜひ、攻めておきましょう」

ケネディ「……うーん。どうしても必要なら仕方ないけど、やさしくだよ」

CIA「え?……は、はい。ではそういうことで」


こうして1961年4月17日、CIAはキューバのピッグス湾に侵攻した。

その夜。

ホワイトハウスの電話が鳴った。


ケネディ「はい、ケネディです」

CIA「あ、もしもし、大統領?」

ケネディ「そうだけど、なした?」

CIA「今、キューバ攻めてるところなんすけど……」

ケネディ「ああ、どお? いい感じ?」

CIA「いや、負けそうです、かなり」

ケネディ「弱っ!」

CIA「お恥ずかしい……」

ケネディ「精鋭部隊で攻めてるんじゃないの?」

CIA「そうなんですけど、向こうも必死で反撃してくるんですよぉ」

ケネディ「でもだからってさぁ……」

CIA「そこでお願いがあるんですが」

ケネディ「なに?」

CIA「ちょっとだけアメリカの正規軍を投入していいっすか?」

ケネディ「え!」

CIA「ピッグス湾沖にアメリカ軍の空母が停泊してるんですよ。 そこから戦闘機を出撃させてください……」

ケネディ「な、……空母!? 戦闘機!?」

CIA「はい、お願いしますよぉ」

ケネディ「……いや、お願いしますよぉって、ホントこっちこそお願いしますよぉ」

CIA「戦闘機があれば勝てるんです」

ケネディ「なんで!? 相手は犬でしょ? キューバって犬じゃないの?」

CIA「確かに犬野郎かもしれませんが、てごわいんです」

ケネディ「ダメだよ、犬相手にそんな、空母とかって」

CIA「そんなぁ~」


ケネディはアメリカ正規軍の投入を拒否した。

こうしてCIAによるキューバ侵攻は失敗した。 この作戦の責任者チャールズ・キャベルは失敗の責任を取り、ケネディを恨みながら辞職した。


ケネディ暗殺まで、あと2年7ヶ月……



第7話 ベルリンの壁

ここはホワイトハウス。

側近「大統領。今度の6月3日、喫茶ウィーンに行ってもらえますか?」

ケネディ「いいけど、なんかあるの?」

側近「ソ連首相との会談があるんです」

ケネディ「えー、嫌だなぁ……アメリカとソ連って、仲悪いんでしょ?」

側近「はい。……わかってると思いますけど、間違っても仲直りしないでくださいね」

ケネディ「え? なんで? 仲良くなったほうがいいんじゃない?」

側近「ソ連と仲良くなっちゃうと、兵器とかの使い道がなくなって、戦争産業の人が困るじゃないですか」

ケネディ「そういえば僕、相手の顔知らないよ。相手も僕の顔知らないんじゃないかな」

側近「胸に白いバラを付けて行ってください。目印です」

ケネディ「そんなカッコウするの? けっこう恥ずかしいんだね、会談って」

側近「ソ連の首相も胸に白バラをつけてますから、お互いすぐにわかりますよ」


1961年6月3日。

ケネディはひとりで喫茶ウィーンの前にやって来た。


ケネディ【心の声】「ここが喫茶ウィーンか。入ろう。いや、でもその前にこの白バラ、とちゃおう。 恥ずかしいもんな。相手の人が付けてるだろうから、こっちから相手を見つければいいや」


喫茶店の中では、ソ連首相が先にひとり席についていた。


ソ連首相【心の声】「いや~、こんな白いバラ付けてきたけど、めっちゃ恥ずかしいや。とっちゃえ」


ケネディは喫茶店に入った。


ケネディ「えーと、白バラの人……白バラの人……いないなぁ……。あ、すみません、この席、空いてますか?」

ソ連首相「え、ああ、ちょっと待ち合わせてるんですけど、その人が来たらここ出ますんで、いいですよ。どうぞ」

ケネディ「じゃ、失礼して」

ソ連首相「お一人ですか?」

ケネディ「僕も実は待ち合わせなんですけど、まだ相手の人、来てないみたいで……」

ソ連首相「どんな方と待ち合わせですか? 僕も探してあげますよ」

ケネディ「かなり恥ずかしいカッコウの人のはずなんですが……」

ソ連首相「実は僕も、かなり恥ずかしいカッコウの人と待ち合わせなんです」

ケネディ「お互い、恥ずかしい人と待ち合わせると、大変ですね」

ソ連首相「僕たちも、『恥ずかしいカッコウの人』とだけは言われないようにしたいですね」

ケネディ「まったくです」

ソ連首相「話は変わりますが、僕は小さい頃からひどい恥ずかしがり屋でね」

ケネディ「僕は小さい頃は、うーん、あぁ、基地つくってました」

ソ連首相「基地?」

ケネディ「子供のつくる、秘密基地ですよ」

ソ連首相「あー、僕もつくってました」

ケネディ「一度、川のそばにある背の高い草むらの奥に秘密基地を作ったことがありましてね……」

ソ連首相「あ、いいですね」

ケネディ「でも、次の日行ってみたら、河川敷の工事とかで草むらが全部刈られてて、基地、丸見えになってました」

ソ連首相「ふふ、全然秘密じゃないですね」

ケネディ「そう、全然秘密じゃない」

ソ連首相「僕も失敗談はありますよ」

ケネディ「ほぉ」

ソ連首相「材木置き場に秘密基地を作ったことがありましてね……」

ケネディ「お、本格的ですね」

ソ連首相「ある日仲間たちとそこでお菓子やなんかを食べたんですよ。ポテトチップとか チョコレートとかをね」

ケネディ「はい」

ソ連首相「で、次の日行ってみたら、アリさんが大量発生してて足の踏み場もなかった」

ケネディ「アリさんに基地を奪われたわけですね」

ソ連首相「こんな話してたら、また基地が作りたくなってきました」

ケネディ「僕たち、もう大人ですから、昔よりでっかい基地が作れますね」

ソ連首相「基地の基本って、外部とへだてることですよね。草むらでへだてたり、 あるいは材木でへだてたり」

ケネディ「そうですね」

ソ連首相「よーし、帰ったらさっそく、作ります」

ケネディ「でっかいの、作ってくださいね」

ソ連首相「はい」

ケネディ「それにしても、待ち合わせ相手、来ないなぁ~」

ソ連首相「僕の相手も来ません」

ケネディ「遅すぎる。もう怒った。帰ります」

ソ連首相「僕も怒りました。帰ります」

ケネディ「またどこかで会いましょうね」

ソ連首相「あなたとはもっと仲良くなりたい。子供の頃の話とか、またしましょうね」

ケネディ「ぜひ」


ここはホワイトハウス。

側近「どうでした、会談は?」

ケネディ「話にならない。僕は怒ったよ」

側近「決裂ですか。けっこうです」


こうしてケネディとソ連首相フルシチョフのウィーン会談は決裂した。

一方、ソ連のクレムリンでは……


ソ連首相「よーし、基地作るぞ~」

部下「え、基地を作るんすか?」

ソ連首相「基地の基本は、外部とへだてることなんだよ。というわけで、でっかい基地作るぞぉ」

部下「どこに?」

ソ連首相「うーん、じゃあ、名前がカッコイイからベルリンに」

部下「ベルリンの町を外部とへだてるんですか!?」

ソ連首相「うん」


会談決裂後の8月13日、ソ連首相フルシチョフは『ベルリンの壁』を築いて東ベルリンの町を取り囲んだ。

こうして米ソの冷戦はいっそう深刻になっていった。



第8話 チャップリン

ここはホワイトハウス。

側近「チャップリンがね、大統領とお話したいんですって」

ケネディ「え! チャップリンって大御所のお笑いタレントでしょ」

側近「もうすぐ電話がかかってきますよ」

ケネディ「うっそぉ。なんで僕なんかと話したいの?」

側近「あなたのファンなんだってさ」

ケネディ「えへへ。チャップリン、笑わせてくれるかなぁ」

側近「たぶんいろいろギャグとか言ってきますよ」

ケネディ「意外と、おもしろくなかったりしてね」

側近「おもしろくなくても笑わないとダメですよ。 なんたって相手は大御所なんですから、敬意を払わないと」

ケネディ「えー、できるかな……」

側近「ギャグの意味とかわかんなくても、とにかく爆笑してればOKですよ」

ケネディ「とにかく爆笑かぁ……」


そのころ……


戦争産業の人「あれ? おまえさぁ、名前に『元』って付いてるよ……」

元CIA「うん……クビになった」

戦争産業の人「なんで?」

元CIA「戦争起そうとしてはしゃぎすぎたら、怒られた」

戦争産業の人「戦争ぎらいの大統領はこれだから困るね。 よし、おれにまかせて。腹割って話し合ってみる」

元CIA「無駄だよ」

戦争産業の人「まず若い頃のおれがどんな奴で、 どんな夢を持ってて、どうやって大人になったかをケネディに話すよ」

元CIA「なんで?」

戦争産業の人「分かり合うには、まずおれという人間を理解してもらわなきゃね」

元CIA「うまくいくかな?」

戦争産業の人「まじめに心をこめて語れば、きっとケネディもわかってくれるしょ」

元CIA「だといいけど」

戦争産業の人「よし、今からケネディに電話する!」


彼は電話をかけた。

同じ頃、やや遅れて電話をかける男がいた。


チャップリン「……あれ~。はなし中かぁ……。まあいいや、またあとでかけよっと」


ホワイトハウスの電話が鳴った。


戦争産業の人「もしもし。はじめまして……」

ケネディ「はじめまして。わざわざ電話どーもです。チャップリンさんでしょ?」

戦争産業の人「え? いや、戦争産業の人ですが……」

ケネディ「あはははは」

戦争産業の人「……???。実は、僕のことをよく知ってもらいたくてさ……」

ケネディ「そりゃ爆笑ですね」

戦争産業の人「え……。僕、学生の頃は、大学のすぐ裏のアパートに住んでて……」

ケネディ「っぷ。おもわず吹き出しちゃいました!」

戦争産業の人「と、とにかく、 皿洗いとかレジとか家庭教師とかクリスマスケーキ作りとかいろんなバイトをして……」

ケネディ「ふふふ。こりゃ傑作だ!」

戦争産業の人「酒もたくさん飲んで楽しい毎日だったけど、ときどき不安にもなった。 自分が、人生のどの場所にいるのかわからないっていう種類の、そういう不安だったと思う……」

ケネディ「あっははははは。そりゃ笑える!」

戦争産業の人「僕は君と分かり合いたいんだ……」

ケネディ「こりゃまた爆笑だ!」

戦争産業の人「……」(放心)


そして。


元CIA「どうだった?」

戦争産業の人「ぶっ殺す」

元CIA「でしょ」

ケネディ暗殺計画はこうして始動した。


一方、ホワイトハウスでは。

側近「どうでした? チャップリンさんとの電話」

ケネディ「ばっちり」

側近「よかった」

そんなある日、ケネディは人類の存亡にかかわる大問題に巻き込まれる。



第9話 キューバ危機

事件が起きたのは1962年10月。

ケネディ「ねぇ、いいこと教えてあげるか」

側近「はい」

ケネディ「あのね、キューバってあるしょ?」

側近「はい。ありますね」

ケネディ「キューバってね、国の名前なんだよ」

側近「……?」

ケネディ「びびった? 国の名前。びびった?」

側近「……え?」

ケネディ「犬の名前かと思ってなかった? でもね、僕も最近知ったんだけど、キューバってね、 じつは国の名前ださ」

側近「はぁ……」

ケネディ「みんなたぶん、キューバのこと犬の名前だと思ってるよ。ふふ。 本当は国の名前なのにね」


ニュース速報。

アナウンサー「ソ連がキューバにミサイル基地を建設しました。アメリカを攻撃するつもりです」

ニュース速報 終わり。


側近「えー!」

ケネディ「今の聞いた?」

側近「はい。聞きました! びっくりです!」

ケネディ「うん。このアナウンサー、キューバが国の名前だって知ってたね」

側近「いや、ていうか……」

ケネディ「ていうか?」

側近「ソ連、めっちゃケンカ腰じゃないですか。このままじゃ、やばいですよ」

ケネディ「なんで?」

側近「アメリカとソ連が戦争になったら、核戦争です。人類が滅びますよ」

ケネディ「おお。それ、まずいね……」


1962年10月、米ソの核戦争は今にも始まりそうだった(キューバ危機)。

アメリカの各都市は夜間灯火管制下におかれ、 万一に備えて全米各地の核シェルターのドアが開け放たれた。


側近「このままじゃ、人類は滅亡ですよぉ」

ケネディ「じゃあさ、人類滅びるとしたら、最後になに食べたい?」

側近「え」

ケネディ「僕ね、シチュー」

側近「なに言ってるんですか!」

ケネディ「わ、ごめん。じゃあ寿司。それかラーメン。いや、寿司」

側近「そんなところでパニックにならないでください。それより、キューバのミサイル基地をなんとかしましょうよ」

ケネディ「なんとかって?」

側近「キューバを攻撃してミサイル基地を潰すんですよ」

ケネディ「えー、戦争するのぉ? やだなぁ……」

側近「でもこのまま黙ってたら、こっちがやられちゃいます!」

ケネディ「僕さ、戦争や暴力や……暗殺……のない世の中を作りたいんだよね」

側近「理想だけじゃ、どうにもならないこともあるんですよ」

ケネディ「うーん、いや、やっぱキューバ攻撃はやめておこうよ」


ケネディはキューバ不侵攻を表明し、平和的解決を模索した。

しかしソ連はケネディの呼びかけを無視し、ミサイル基地の建設を続けた。


アメリカ軍「大統領!」

ケネディ「は、はい……」

アメリカ軍「ソ連にあんな好き勝手やらせていいんですか!」

ケネディ「いや、そういうわけじゃないけど……」

アメリカ軍「もう我慢できません。我々アメリカ軍は、キューバを攻撃します」

ケネディ「そんなことしたら、それこそやばいしょ。ここは話し合いで行こうよ……」

アメリカ軍「ソ連の奴らは話し合うつもりなんてないんですよ。実際に大統領の呼びかけを無視してるじゃないですか」

ケネディ「でもさ、もうちょい、待ってみようよ」

アメリカ軍「待てば待つほど、キューバのミサイル基地は増設されて、こっちが不利になるんですよ」

ケネディ「うん、それはそうだけどさ……」

ケネディはもはや軍部を抑えきれなくなっていた。



第10話 ペンコフスキー

ここはソ連。

大佐「いや~、戦争起きそうっすね」

閣下「うん。やだね」

大佐「うちらとアメリカが戦争したら人類、滅びますかね?」

閣下「滅びるでしょ。だって核だよ、核」

大佐「じゃあ今のうちにいろいろ楽しいことやっといたほうがいいっすね」

閣下「そうだね」

大佐「なんか、やりたいことあります?」

閣下「ハイキングとかしたくない? ハイジの住んでるみたいなところで」

大佐「ハイキングいいっすね~」

閣下「いいしょ。やろう」

大佐「でも、ハイジの住んでるところはアルプス山脈っすよ。ここはソ連だから、ちょっと遠くないですか」

閣下「でも、山脈ってかっこいいよね。響きが。ソ連にも山脈ないかな……」

大佐「ウラル山脈ありますよ」

閣下「あ、いいね。じゃ、そこでハイキングするか」

大佐「わかりました。でもあそこは我がソ連軍のミサイル基地とかあるから気をつけないとダメですね」

閣下「悪いけどさ、基地の場所やなんか調べといてくれる? ハイキングコースを考えるときの参考にしたいから」

大佐「はい。調べときます」

閣下「調べたら、あとでFAXしといて」

大佐「はい」


一方、ここはアメリカ。

ホワイトハウスのお昼休み。

ケネディ「やっばい。もうホントやばい」

助手「なにが?」

ケネディ「ソ連と戦争になるかも知れんさ」

助手「大丈夫。僕は未来から来たから知ってるけど、20世紀後半のアメリカとソ連は、いつも戦争やるやるって言って、結局やらないんだ」

ケネディ「ほんと?」

助手「うん。口ばっかりなんだよ」

ケネディ「でもさ、いまソ連がキューバにミサイル基地つくって、めっちゃ攻撃してきそうだよ」

助手「でも歴史では、ケネディ大統領はその危機を回避するんだよ」

ケネディ「どうやって?」

助手「知らないよぉ、自分のことでしょ」

ケネディ「えー、僕だってわかんないよー。思い出してよぉ、歴史の授業で習わなかった?」

助手「いやぁ、そんなことまでは習わなかったよ。ていうか忘れたし……」

ケネディ「そんなぁー」


ここはソ連。

大佐「でーきた。ウラル山脈の基地の場所を紙にまとめたぞ。あとはこれを閣下のデスクにFAXするだけ。 えーと、番号は短縮の6番。ぽちっとな」


FAX送信!


そこへ閣下登場。

閣下「どお? ハイキング計画すすんでる?」

大佐「あ、閣下。いまウラル山中のミサイル基地ぜんぶ調べて、閣下のデスクにFAXしたところだったんですよ」

閣下「おれのデスクのFAX番号わかったの?」

大佐「はい、この通りメモしてありますから。短縮の6番でしょ」

閣下「え、0番だよ」

大佐「うそぉ! あー、メモの字ぃ汚くて、間違えちゃった…」

閣下「あーあ。もう一回送ってよ。短縮0番に」

大佐「はい」

閣下「でもさ、ふふ。短縮6番の人、びびるだろうね。いきなりわけわかんないFAX来て」

大佐「ふふ。笑っちゃいますね」


その頃…

アメリカのホワイトハウスでは。


ケネディ「あれ、なんだこのFAX」

側近「どうしたんですか?」

ケネディ「なんか変なFAX来た。気持ち悪っ」

側近「おお! こ、これは! ソ連軍の極秘情報!」

ケネディ「え?」

側近「ウラル山中にあるソ連のミサイル基地の情報ですよ!」

ケネディ「それってすごいの?」

側近「めっちゃすごいっすよ~♪」

ケネディ「ほぉ」

側近「これで戦争が回避できますよ」

ケネディ「そうなの?」

側近「ソ連にこう言うんです。 『おまえたちがアメリカにちょっとでも手ェ出したら、こっちはおまえたちの 主要なミサイル基地を全部正確に破壊して、戦闘不能にしてやるぞ』って」

ケネディ「おお~」

ソ連軍のオレグ・ペンコフスキー大佐はウラル山中のソ連軍ミサイル基地の情報をアメリカに漏らした。 アメリカはこの情報を武器に水面下でソ連と交渉した。


そして……


記者会見。

ソ連首相「アメリカを攻撃しようと思ったけど、やっぱりやめます」

記者「どうしたんですか、いきなり」

ソ連首相「いや、べつに…」

記者「アメリカに弱みを握られたんですか?」

ソ連首相「いや、そんなことないよ。違うよ……」

記者「ではなぜ?」

ソ連首相「いや~、なんか、なんとなく」


10月28日、ソ連首相フルシチョフはキューバからのミサイル基地撤去を発表した。

こうして人類滅亡の危機は去った。

しかしこのことがケネディの暗殺を早める結果となった。



第11話 ホットライン

ホワイトハウス。

側近「やりましたね大統領。ソ連はキューバから撤退しましたよ」

ケネディ「それ、いいこと?」

側近「アメリカの勝利ですよ」

ケネディ「戦争してないのに勝利とかあるの?」

側近「かけひきですよ」

ケネディ「なんか、むずかしくてよくわかんないな」

側近「それにしても、ホント、戦争起きなくて良かったですね」

ケネディ「うん」

側近「はだか踊りしなくてよかったぁ~」

ケネディ「え!?」

側近「どうせ核戦争で人類滅びるんだったら、思いっきりはだか踊りしてやる!と思ってたんですよ、密かに」

ケネディ「……」汗

側近「密かで良かったぁ~」

ケネディ「……危なかったね」

側近「あ、そろそろ記者会見の時間です。大統領、準備してください」

ケネディ「記者会見!?」

側近「勝利の記者会見をするんですよ」

ケネディ「えー、たくさん人来るんでしょ? やだなー。緊張するしょ」

側近「でもソ連首相もやったんですよ、記者会見」

ケネディ「ソ連首相って勇気あるね。緊張しなかったのかな……」

側近「とにかく、急いでください」


ケネディの記者会見が始まった。

記者「今回のアメリカの勝利についてひとことお願いします!」

ケネディ「いや、いまいちわかんないんだけど、勝ったとか負けたとか、そういう問題なの?」

記者「なるほど、勝敗の問題ではないということですね。では、キューバからの撤退を決定したソ連首相については?」

ケネディ「勇気ある人だと思います」

記者「なるほど、プライドにこだわらずキューバから思いきって撤退した勇気をたたえているんですね。わかりました。今日はどうもありがとうございました」


一方……

ここはソ連。

ソ連首相「はぁ……」(ため息)

部下「どうしたんですか、元気ないですよ」

ソ連首相「いや、なんかおれ、カッコ悪いなーと思って」

部下「なんでですか?」

ソ連首相「だってさ、すっごい世界の注目集めてキューバにミサイル基地つくったのに、 あっさり撤退しちゃってさ。なんかケネディに負けた~って感じ」

部下「そんなことないですよ」

ソ連首相「おれ、辞任させられるかも。アメリカに負けた責任とって」

部下「そうかなぁ」

ソ連首相「そうだよ。あーあ、ケネディむかつく~」

部下「でも、さっきテレビの記者会見でケネディが言ってましたよ」

ソ連首相「なんて?」

部下「『勝ったとか負けたの問題じゃない。キューバから撤退したソ連首相の勇気に敬意を表する』って」

ソ連首相「え、ケネディ、そんなこと言ってたの?」

部下「はい。ちらっとしか聞きませんでしたけど、そんなようなこと言ってました」

ソ連首相「……ケネディって、実はいい奴かもね」


国際社会での面目を失ったソ連首相は、ケネディのこの声明に助けられ、失脚の危機をのがれた。


ソ連首相「ケネディ、そんなこと言ってくれたのか~。いいなぁ。ちょっとカッコ良くない?」

部下「カッコイイですよね」

ソ連首相「今さ、米ソは仲悪いとかいわれてるけど、ケネディとだったら 仲良くやれそうな気がする。じっくり話してみたいなー」

部下「電話かけます?」

ソ連首相「でもさ、ホワイトハウスに電話かけるのってめっちゃメンドクサイんだよね。 取り次ぎとかいろいろあって」

部下「じゃあ、直通電話、つくっちゃいますか」

ソ連首相「ケネディに直通の電話?」

部下「はい」

ソ連首相「それ、いいね」


このときはじめて、アメリカ大統領とソ連首相の間に直通電話(ホットライン)が設けられた。


ここはアメリカの片隅。

元CIA「戦争、起きなかったね」

戦争産業の人「うん」

元CIA「せっかく兵器とか売るチャンスだったのに残念でしょ」

戦争産業の人「それもそうだけどさ、ケネディが最近、ホットラインとかいうの作ったらしいんだよね」

元CIA「ホットライン?」

戦争産業の人「うん。ソ連首相との直通電話」

元CIA「え! すごいね」

戦争産業の人「あいつ、もしかして冷戦終わらせてさ、世界中のみんなで仲良くしようとしてるのかもよ」

元CIA「そんなことされたら、戦争のチャンスますます減るね」

戦争産業の人「うん」

元CIA「じゃあさ、暗殺する?」

戦争産業の人「……しちゃうか。でも、どうする? 具体的に」

元CIA「いい考えがある」



第12話 ケネディ暗殺計画

ふたりはケネディ暗殺計画を練った。

戦争産業の人「いい考えって?」

元CIA「今度の22日に、ケネディがテキサス州のダラス市に行くんだ。そのとき、どっかから狙撃しよっか」

戦争産業の人「でも、大統領の警護ってかたいしょ」

元CIA「おれ、元CIAで、ようするに内部関係者でしょ。その辺はなんとかするよ」

戦争産業の人「なんとかって?」

元CIA「シークレットサービスに頼んで、その日の大統領の警護をゆるめてもらう」

戦争産業の人「どんなふうに?」

元CIA「まず、その日、大統領の車は空港から貿易会館までパレードするんだ」

戦争産業の人「うん」

元CIA「そのとき、大統領にはオープンカーに乗ってもらう」

戦争産業の人「防弾設備なしで?」

元CIA「なしで」

戦争産業の人「それ、すごいね……」

元CIA「それだけじゃない」

戦争産業の人「まだあるの?」

元CIA「普通そういう時ってさ、パレードルートのビルの窓は全部閉めさせるんだ。でもその日は、窓を開けてもOKにする」

戦争産業の人「え? どういうこと?」

元CIA「つまりおれたちはパレードルートのビルの窓をどうどうと開けて、大統領を狙い撃ちできるってわけ」

戦争産業の人「なるほど。でもさ、肝心のパレードルートはどうなってるの? 狙撃に適してる?」

元CIA「ちょっとこれ見て。当日のパレードルートの地図。大統領の車はこの赤い線のところを走る予定なんだ」

戦争産業の人「これだと狙撃できそうなチャンスなんてないよ」

元CIA「でしょ」

戦争産業の人「うん」

元CIA「だからね、パレードルートを変更してもらおうと思って」

戦争産業の人「そんなことできるの?」

元CIA「実はね、このダラス市のアール・キャベル市長はおれの兄弟なんだよね」

戦争産業の人「なに! そうか、だからダラスを暗殺の舞台に選んだのか!」

元CIA「市長の権限ならパレードルートの変更ができる」

戦争産業の人「なるほど。で、どんな風に変更するの?」

元CIA「この通りからきゅっと曲がってエルムストリートに入ってもらう」

戦争産業の人「すごい急カーブだね」

元CIA「うん。このとき大統領のオープンカーの速度は時速10マイルに落ちる」

戦争産業の人「のろのろだ」

元CIA「そう、のろのろ」

戦争産業の人「そこをビルから狙撃するってわけか。でも、どこのビルから撃つ?」

元CIA「エルムストリート沿いにあるテキサス教科書倉庫ビルの6階からがちょうどいいと思うな」

戦争産業の人「でもさ、誰が撃つの? 捕まったらやばくない?」

元CIA「おまえ、撃ってよ」

戦争産業の人「えー、おれ? やだよ、そんなやばいこと」

元CIA「おれだって嫌だよぉ」

戦争産業の人「……じゃ、だめじゃん」

元CIA「……やめとく?」

戦争産業の人「じゃあさ、そのテキサス教科書倉庫ビルの従業員の人に撃ってもらうか」

元CIA「あ、いいね。そういえばそのビルでおれの知り合い、働いてるさ」

戦争産業の人「ほんと! 誰?」

元CIA「オズワルドさんっていう、めっちゃいい人」

戦争産業の人「じゃ、その人にお願いしちゃおっか」

元CIA「うん」


さっそく電話。


元CIA「もしもし、オズワルドさん?」

オズワルド「はい。オズワルドですけど」

元CIA「あ、どーも。元CIAです。おひさしぶりです」

オズワルド「あ、どーもどーも」

元CIA「実はですね、あまり大きな声じゃいえないんですが……」

オズワルド「なに?」

元CIA「今度の11月22日、教科書倉庫ビルの6階からケネディを撃ってもらえませんか?」

オズワルド「えー、でもその日、仕事あるしなぁ~」

元CIA「いや、合間にちょろっと、なんとかなりませんか?」

オズワルド「でもなー」

元CIA「お願いしますよぉ」

オズワルド「うーん、昼休みだったらいいけど……」

元CIA「何時頃ですか?」

オズワルド「昼の12:30くらいならいいかな」

元CIA「じゃ、そのくらいの時間に大統領の車がビルの前を通るように手配しますんで…」

オズワルド「わかった」

元CIA「詳しいことはまたあとで。じゃ、お願いしますね~」


元CIAは電話を切った。


戦争産業の人「引きうけてくれた?」

元CIA「うん」

戦争産業の人「……でもさ、この暗殺計画、本当にうまく行くかな」

元CIA「パレードルートを変更して、 車のスピードを時速10マイルに落とさせて、近くのビルの6階から狙撃する……。最低でも3発くらいは撃てるはずだ。完璧だよ」

戦争産業の人「3発も撃てばどれか当たるか。完璧だね」


しかし彼らはひとつ重大なミスを犯していた。



第13話 ダラスへ

ここはテキサスの酒場。

オズワルド「ねえねえ聞いて。おれ今度ね、大統領を撃つさ」

友人「え! だっておまえさ、別に殺し屋とかじゃないしょ」

オズワルド「うん」

友人「普通の市民でしょ」

オズワルド「うん」

友人「やばくない?」

オズワルド「でもね、友達に頼まれたんだよね。すげえ困ってるみたいでさ。ほっとけないしょ」

友人「で、いつ?」

オズワルド「22日」

友人「それ、もうみんな知ってるの?」

オズワルド「知らないよ。ばれたら捕まるしょ」

友人「ほんと、大丈夫?」

オズワルド「きっとうまくいくよ」

友人「どんな計画?」

オズワルド「エルムストリートに左折してきた車を、教科書ビルの6階から狙撃するの」

友人「撃てる?」

オズワルド「車の時速は10マイルだし、まあ直線道路だから、大丈夫だよ。3発は撃てる」

友人「木、あるよ」

オズワルド「木?」

友人「街路樹」

オズワルド「あ!」

友人「標的が街路樹にさえぎられちゃうよ」

オズワルド「それ、盲点だったかも…」

友人「だめじゃん」

オズワルド「でも、ずっとさえぎられるわけじゃないし。ちらっと出たところを撃てば…」

友人「チラッと出るのなんて、すごく短い時間だよ。そんな短い時間に3発も撃てる?」

オズワルド「……じゃあ、1発か2発でしとめるしかないか…(汗)」

友人「無理だよ」

オズワルド「無理だね」

友人「ねぇ、思ったんだけど、ビルの上から撃つよりもさ……」

オズワルド「うん」

友人「車の進行方向の正面にある小高い丘から撃ったほうがいいんじゃない?」

オズワルド「小高い丘?」

友人「うん。グラシーノールっていう丘」

オズワルド「いや、まあ、計画通り教科書ビルの6階から撃ってみるよ」

友人「じゃあ、念のためおれがグラシーノールからも撃ってやるか?」

オズワルド「おまえまで巻き込みたくない。いいよ、おれひとりでなんとかするよ」

友人「……そうか」


ホワイトハウス。

ケネディ「ねぇ、僕ってさ、いつどこで暗殺されるの?」

助手「え、いや、わかんないな。でもたぶん1960年代のいつかだったと思う」

ケネディ「1960年代?」

助手「うん」

ケネディ「いま、1963年だよ。まだ60年代は始まったばかりだ。じゃあ、まだ大丈夫だね」

助手「うーん、わかんないけど。でも用心したほうがいいよ。って、なにニヤニヤしてるの?」

ケネディ「ふふ。今からちょっとね、テキサスに行くさ」

助手「お。カッコイイね。アメリカ!って感じだね」

ケネディ「カッコイイしょ、テキサス。砂漠とかあるし」

助手「アメリカってさ、砂漠とか大都市とか平原とか山脈とか、なんでもありだよね」

ケネディ「自由の国」

助手「うん。自由の国」

ケネディ「テキサスで、おみやげ買ってくるよ」

助手「楽しみに待ってる」

ケネディ「じゃ、行ってくる」

助手「気をつけてね」


ケネディはテキサス州ダラス市に向けて出発した。



第14話 狙撃

1963年11月22日金曜日。晴れ。

ケネディの乗ったオープンカーは空港から演説会場の貿易会館に向けて動き出した。


そのころ。ダラスの街角で……

友人「よ!」

オズワルド「おお、友人。どした?」

友人「心配でさ。ちょっと見に来た。どお?」

オズワルド「そりゃあ、すっげえ緊張してるよぉ」

友人「ケネディの車、さっき空港を出たって」

オズワルド「じゃあ、もうすぐこっちに来るね」

友人「うん。そろそろ準備しておいたほうがいいんじゃない?」

オズワルド「じゃ、もう6階に行ってスタンバイしとくよ」

友人「力になれればいいんだけど……。だってさ、 しくじるとおまえの立場やなんかも危なくなるかもしれないし…」

オズワルド「ありがと。でも、おれひとりで十分だよ」

友人「うん」

オズワルド「じゃあね」

友人「ああ」


オズワルドは教科書倉庫ビルの6階に上って行った。


友人「……一応、おれも」

友人はグラシーノール(小高い丘)に向かった。


一方、ここはワシントン。

助手「あ、テレビにケネディさんが出てる」


TVのアナウンサー「大統領を乗せた車はダラス市の貿易会館に向かっております」


助手「え?ダラス……。どっかで聞いたことあるなぁ…。たしか『ダラスの熱い日』っていう映画、むかし見たっけ。 デビッド・ミラー監督の。どんな映画だったかな……うーん。思い出せないと気持ち悪い。 ……あ! 思い出した! そうそう、ケネディ大統領の暗殺の映画だ。あー、すっきりした」


満足の笑み。


助手「……。うわっ、やばっ!」


助手は部屋を飛び出した。


助手「ダラスに行かなきゃ! ケネディさんが危ないケネディさんが危ないケネディさんが危ないケネディさんが危ない!」


そのころ……

ワシントンのある公園では。


元CIA「今頃、ダラスではケネディを乗せた車が走り始めた頃だね」

戦争産業の人「オズワルドさん、うまくやってくれるかな?」

元CIA「大丈夫だよ」

戦争産業の人「でもさ、本当に誰にも気づかれてないかな?  もしかしてもう誰かにばれてたりして」

元CIA「まさか……」

戦争産業の人「そして、今にもおれたち逮捕されちゃったりして」

元CIA「心配しすぎだよ。大丈夫、誰にもばれてないよ」

戦争産業の人「……でもさ」

元CIA「?」

戦争産業の人「向こうから走ってくる人。めっちゃ『ケネディさんが危ない』って連呼してるよ」

元CIA「うそっ!?」


助手「ケネディさんが危ないケネディさんが危ないケネディさんが危ないケネディさんが危ない!……」

助手はそう叫びながら走り過ぎていった。


元CIA「やばい…」

戦争産業の人「うん、やばいよ。あいつ誰だか知らないけど、おれたちの計画知ってるね」

元CIA「なんでだろう」

戦争産業の人「とにかく、こうなったら、なんとかしないと……」

元CIA「あいつの口を封じるか……」

戦争産業の人「あるいは……」


一方、ダラスでは……

教科書倉庫ビルの6階ではオズワルドがケネディの頭に狙いを定めていた。


オズワルド「来た、ケネディ来た。よし、撃つぞ。今だ」

オズワルドは引き金の指に力をこめた。



第15話 ウォーレン報告書

そのとき…

教科書倉庫ビルの電話が鳴った。


オズワルド「わぁ! くそっ、なんだ、こんなときにぃ~!」


オズワルドは電話に出た。


オズワルド「毎度ありがとうございます。テキサス教科書倉庫ビルでございます」

元CIA「あ、オズワルドさん?」

オズワルド「……はい。あぁ、元CIAさん?」

元CIA「もう、撃っちゃった?」

オズワルド「いや、今撃とうとしてたとこ」

元CIA「それね、やっぱね、撃たんでいいわ」

オズワルド「え、なんで?」

元CIA「なんか、おれらの計画、漏れてるっぽいんだよね」

オズワルド「まじぃ? やばくない?」

元CIA「うん。だから中止。中止ね」

オズワルド「わかった、OK。じゃコーラでも飲んでゆっくりするよ」


オズワルドは電話を切った。


しかし。


午後12時20分過ぎ。数発の銃声が、エルムストリートに響いた。


ここはワシントン。

戦争産業の人「ねぇ、ちょっと!」

元CIA「ん?」

戦争産業の人「大統領、撃たれたさ!」

元CIA「まさか」

戦争産業の人「いや、ほんと」

元CIA「だっておれ、オズワルドさんにちゃんと『中止ね』って言ったよ」

戦争産業の人「どっちにしろ、やばいって」

元CIA「おれらが計画にかかわってたのがばれたら、逮捕されちゃうね」

戦争産業の人「じゃあ、オズワルドさんの単独犯行ってことにしちゃう?」

元CIA「そうしちゃうか」

戦争産業の人「あのね、この事件の調査はウォーレンさんっていう人がやるらしいよ」

元CIA「じゃ、おれ、ウォーレンさんを丸め込んでくる」



そして……

ここはウォーレン事務所。


元CIA「ねぇ、ウォーレンさん。暗殺事件の調査すすんでる?」

ウォーレン「いや、まだ全然」

元CIA「これね、オズワルドさんが勝手にやったことだから……ひとりで」

ウォーレン「え、オズワルドさん? あのビルの従業員の?」

元CIA「うん。大統領が狙撃されたときに教科書倉庫ビルの6階にいたんだ。彼が大統領を撃ったんだよ」

ウォーレン「そうなの? 有力情報だね」

元CIA「とにかく、これはあくまで単独犯行だからね。いい?」

ウォーレン「でもね、多くの目撃者の証言によると、銃声は 教科書倉庫ビルからじゃなくて、グラシーノールから聞こえたっていうよ」

元CIA「え? グラシーノール?」

ウォーレン「うん。小高い丘」

元CIA「なんでだろ?」

ウォーレン「しかも、オズワルドさんは銃声のすぐ2分後に、ビル2階で目撃されてるんだ」

元CIA「2階で?」

ウォーレン「うん。彼は2階の食堂の自動販売機でコーラを買って飲んでた。銃声の2分後にね」

元CIA「それがどうかしたの?」

ウォーレン「もし彼が犯人だとして、6階から大統領を撃ったとしたら、たった2分の間に 6階から2階まで移動して自販機でコーラを買うなんて不可能だと思うんだ」

元CIA「いや、それはよくわかんないけど……」

ウォーレン「それに、オズワルドさんからは硝煙反応が出なかった」

元CIA「しょうえん反応? なにそれ?」

ウォーレン「つまり、オズワルドさんはあの時、一発も銃を撃ってないってこと」

元CIA「なんか、よくわかんなくなってきた」

ウォーレン「だから、この件はもっとよ~く調べて……」

元CIA「だめだめ!」

ウォーレン「え!?」

元CIA「よ~く調べるなんてだめだよ。絶対ダメ!」

ウォーレン「いや、でも……」

元CIA「オズワルドさんの単独犯行。協力者はいなかった。それでいいじゃない」

ウォーレン「しかし……」

元CIA「ね、そういうことにしておこう。スピード解決! 君の評判も上がるよ」


こうしてウォーレン委員会は、数々の不都合な証拠や証言を無視して、 事件がオズワルドの単独犯行だったという報告書を提出。 以後しばらくのあいだ、これがケネディ暗殺の定説となった。


そのころ。

オズワルドの友人は……


友人「おれが念のためグラシーノールから狙撃したおかげで、暗殺は成功したな、よかった。 でもオズワルド、捕まっちゃった……。拷問とか受けるのかな? かわいそうだな。いっそ、ひと思いに、おれの手で……」


彼はピストルを手にして、歩き出した。



最終話 アーリントンの雪

2日後。

オズワルドは警察に連行される途中、友人にピストルで撃たれて死亡した。


そして11月25日。

ケネディの葬儀には各国首脳も参列した。


首脳A「いや~、びっくりですね」

ソ連首相「……はい」

首脳A「ケネディがいきなり撃たれるなんて」

ソ連首相「……はい」

首脳A「おたくはケネディとは敵でしょ、ソ連だから」

ソ連首相「……でもケネディさんはキューバ危機のとき、おれをかばってくれたんですよ」


棺は7頭の白馬にひかれ、アーリントン墓地に埋葬された。

葬儀に出席していた各国首脳の中で、ソ連首相フルシチョフだけがひとり涙を流した。


数日後。

助手がケネディの墓を訪れると、花を供えている人物がいた。

助手はその人物に声をかけた。


助手「こんにちは!」

ソ連首相「ぎくっ!」

助手「あなた、ソ連首相……ですよね?」

ソ連首相「え、まあ。はぁ」

助手「はじめまして。僕、ケネディさんの知人です」

ソ連首相「あ、どーも。はじめまして」

助手「いやぁ~、こんなところでソ連首相に会えるとは、びっくり」

ソ連首相「君もケネディ大統領の墓参りに来たの?」

助手「うん。ビール持ってね」

ソ連首相「ビール? いいね!」

助手「ケネディさん、みんなでだらっと乾杯するの好きだったから」

ソ連首相「それにしても、今日はちょっと寒いね」

助手「雪、降りそうだよね」

ソ連首相「……ところで、ねぇ、あのさ」

助手「?」

ソ連首相「ここでおれに会ったこと、あんまりみんなに言わないでね」

助手「え、なんで?」

ソ連首相「いや、今さ、冷戦時代で米ソの仲悪いのに、おれがこんなふうに一人でアメリカ大統領の 墓参りに来たら、なんか変でしょ」

助手「……あ、雪」

ソ連首相「わ、まじで降ってきた」

助手「きれい」

ソ連首相「うん。きれいだ……」

助手「でも、自由に墓参りも出来ないなんて窮屈な時代だよね」

ソ連首相「ケネディさんとなら、こういう時代を終わらせられると思ったのに」

助手「あと30年もすれば終わるよ」

ソ連首相「え? なんでわかるの?」

助手「いや、ただそんな気がするだけ」

ソ連首相「そうなるといいね」

助手「これからどうするの? すぐ、ソ連に戻るの?」

ソ連首相「戻るよ。長居はできないし。君もまっすぐ帰ったほうがいいんじゃない? 雪、降ってきたし」

助手「僕は、戻れるかもしれないし、戻れないかもしれない。わかんない」

ソ連首相「……めっちゃ遠くから来たみたいな言い方だね」

助手「ちょっとね、まあ、ケネディさんの生きたこの時代のこの国で、 このまま生きていくのもいいかな~って」

ソ連首相「ふうん。なんか、いろいろあるみたいだね、事情が」

助手「うん。……ねぇ、いま思ったんだけどさ」

ソ連首相「ん?」

助手「雪を見ながらみんなでビール飲みたいって、ケネディさんが言ってたの、わかる気がする」

ソ連首相「へぇ~、そんなふうに言ってたの?」

助手「うん。雪って、ふわふわしてて、あったかそうかも」

ソ連首相「そうかもね」

助手「……乾杯しようか」

ソ連首相「雪に?」

助手「あったかい雪に。3人で」

ソ連首相「いいね。3人で」

助手「うん」

ソ連首相「乾杯」

助手「乾杯」


雪が、ケネディの墓をつつんだ。



ケネディ大統領 完


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