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なつかし劇場/1-3x8月

曲がりくねった坂道をドロップハンドルの自転車で登る、クマ、へーちゃん、小生。


3馬鹿は疲れていた。


坂を登る我々に、ひっきりなしに追い抜いていく観光バスから、



「がんばれ〜!カッコイイ!」



など、小学生の声援が飛ぶ。


その度に、昭和天皇のように片手を上げ、ほとんど片手離しで走行しているのだ。


ドロップハンドルを引きつけるように持ち、足に力を込めねばならないのに、、、


ここは第2いろは坂。
言わずと知れた、中禅寺湖に向かう、とんでもなくぐにゃぐにゃの登り坂なのです。


限界を迎え、途中休憩へ。


そこに、また声援が、、


「お兄さ〜ん、カッコ満点だよ〜!」


昭和の掛け声である。


自転車を止め、ギブアップの相談をする3馬鹿。


カッコ満点、中身は0点の我々なのです。


しかし、声援が絶えない。


バスガイドのねえちゃんが、無線で連携しているようで、コチラの位置は筒抜け。

話術レベルが低く、話題に困ったねえちゃんは、我々を極上のネタと捉え、食いついてくるのだ。


「さあ、みんなで応援しましょ〜う!」


「馬鹿がぁ!」


しかし、声援を受けると下町のお調子者魂が反応する。


「がんばるよ〜っ!」


とんでもない愛嬌者だぜ、オレたちは。


なんとか登りきったものの、目的地の日光湯元キャンプ場をキャンセルし、中禅寺湖にある近場の菖蒲ヶ浜キャンプ場に予定変更。


東京から自転車でやってきた我々、馬鹿高校生。


昭和の愛嬌者は、大家(たいけ)の若旦那並みの体力しか、持ちあわせていないのでございます。


しかし、計画立案者のクマは日光湯元温泉に入れないのを、悲しんでおります。

へーちゃんと小生のチャリは、プチ金持ちのクマからの借り物、立場の弱い店子は、ちょびっとゴマをすらねばならんのです。


「ここまで来たんだから、行くか!」


次の日に、日光湯元で温泉を満喫。

そして3日目、日光湯元からダイレクトに東京を目指さねばなりません。


「下り坂だから楽勝、楽勝」


しかし、いろは坂の渋滞、パンク、田舎の書店でのエロ本購入などのアクシデントが連発し、埼玉県に入った時点で、夜の9時です。

どうすることもできず、見つけた公園でテントを張る3馬鹿。


「これって、警察につかまんないかな」


と、へーちゃん。


するとそこに、ラピードのサングラスをかけた、強面のおいさんがチャリに乗り登場。



「お前ら!こんな町中の公園でキャンプするんか?」



ビビリながらもいきさつを説明する3馬鹿、、


ペットのマルチーズを抱きしめながら、熱心に耳を傾けるおいさん。

何故か、マルチーズは小刻みに震えております。



「ヨッシャ!オイラが寝るとこ用意してきてやる。ウチの事務所に泊まんな」



言うが早いか、おいさんはチャリをこいで夜道を疾走。


「クマ!ヤバイよ!」


と小生。




何しろ、刑事ドラマの「太陽にほえろ」でしか聞いたことの無い



「ウチの事務所」



という、パワーワードが強面のおいさんの口から飛び出したのですから。

菊のご紋と、日本刀が飾られた、ヤーサンの事務所に違いないのです。


「お前ら、安心しろ。若え奴らに準備してもらったぞ!」


帰ってきたおいさんを、必死の熱弁でお断りする3馬鹿。



「僕たちは、最後まで自力で、この旅をやりきりたいんです」



心にもない事を口走る小生。


結局、テントで就寝し、日の出を迎え、テントのチャックをあけると、、、


あのおいさんが、公園のベンチに座り、ニコニコと近づいて、缶コーヒーを渡してくれます。



「お前ら、悪いんだけど。俺にもメンツがあるんだわ。事務所の若えヤツに、チョットお礼だけ言ってくれよ」



緊張が走る3馬鹿。



「俺の親戚が経営してる、この先のガソリンスタンドの事務所なんだわ」


「ヤーサンの事務所じゃないんか!」


朝焼けの日差しを浴び、アブラセミが勢いよく鳴き始めた。


オレたちの夏は、まだまだ終わらない。











最後までお付き合いいただき
ありがとうございました。(*´∀`*)











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