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【短編小説】郵便屋は錆びた夢を届ける

私はメッセンジャー。必ずあなたの声を届けます。
ある老人と少年の思い出話。

上記の話から緩く繋がっていますが、読まなくても読めます。

 十分な電力の回復を確認。起動。
 青白い画面に広がるのは巨大な瓦礫。小さな足を動かして、ロボットは障害物を登っていく。全ては使命を果たすために。
 メッセンジャーYB201は平べったい胴体に六本の足をもつ小型ロボットだ。役目は名前の通り音声、あるいは映像の記録と再生。落下の衝撃により一部部品が破損し、もう新規の登録はできないが構わなかった。既にやるべきことは定まっているのだから。

「ザザ……目標レオ……ザザ……」

 目標となる少年の居場所はわからない。位置検索機能はついてはいるが、目的の人物は登録されていないからだ。だが彼の思惑を知らなくとも、託された以上使命は果たされなければならない。自分はメッセンジャー。言葉を伝える者。必ず彼の言葉を目標に渡すのだ。
 小型ロボットは険しい道を一歩ずつ歩き始めた。


「でね、だんだんお客さんも増えてきたのよ。オリバーとレオのおかげ。ありがとう」
「違うよ。アンナが頑張ったからさ」

 にこにこと微笑む少女の名はアンナ。白いワンピースを着、ガラクタから作った花を売るアンドロイドだ。それに返すのは子猫のような印象を受ける少年はオリバー。アンナに懐き、いつも二人で花売りをしている。

「そうかい。よかったな。花モドキを買ってくれるような客がいてくれて」

 二人のやり取りを一歩離れたところで見守っている少年はレオという。右半身機械、左半身生身の異色な身体をもつ少年だ。オリバーよりも年上だが、その分どこかすれているところがある。

「もうレオったら! せっかくオリバーが花の作り方きいてきてくれたのよ。だからこんなに上手くなったのに」

 ずいっと前に差し出された花はたしかに初めてみたときよりもずっと花らしい形をとっている。しかしその精巧な花の作り方には嫌な予感がした。

「あ? おいオリバーそれどこで習ってきた」
「……べつにどこだっていいでしょ。レオには関係ないじゃない」

 オリバーはアンナの後ろに隠れながら視線を地面に落とす。ますます疑念が確信に近づいた。

「へえそうかい。ところでこの花どこぞの宗教団体とずいぶん雰囲気が似ているようだが、誰から教わったんだ? 後学のために教えてくれよオリバー」

 オリバーは身体を縮こませアンナの後ろに隠れた。が、レオは完全に隠れきるより先にその細腕を捕まえねじり上げた。小柄な身体はレオが腕を上げてしまえば、つま先立ちの体勢になる。風に揺られる肩を掴んでじろりと幼い顔を覗き込んだ。

「お前本当にどこに行ってきた。あ? もしかしてあのいかれた新興宗教にいってきたんじゃないだろうな」
「だからレオには関係ないって言っているじゃん」

 ふいっと顔をそらすのはもはや肯定しているのと同義だ。ただでさえ人相のよくないレオがさらに凶悪な顔つきになった。

「お前はそこのポンコツアンドロイドじゃないんだから近づいていい場所と洒落にならねえ場所の区別くらいつくと思ったんだがな。お前は思ったより賢くなかったらしい」
「ちょっとレオ! 暴力はいけないわ」

 血相を変えて引き剝がそうとする少女を冷たい目で見やり、レオは無言で腕を離した。落下したオリバーが尻餅をつく。レオは絡みついた細腕を振りはらって言った。

「俺はお前がどうなろうと知ったことじゃないけどな、そこの奴は違うだろ。格好つけたくなろうが、踏み越えちゃいけない線くらい気をつけやがれ。じゃあな、用事思い出したから俺は帰るわ」

 栗色の双眸が丸くなる。呆然と見上げるオリバーに鼻を鳴らして背を向ける。

「レオ!」

 背後から追いかける二つの声を無視してレオは早足で広場を後にした。


 埃っぽいベッドに横たわっても眠気は訪れない。当然だ。まだ日は高い。だからといってもう一度外に出る気も起きないが。あの二人は自分の住処を知らない。故にここを訪ねてくることはないだろうが、如何せん二人の行動範囲と自分の行動範囲はかぶっている。下手に出れば鉢合わせる可能性があった。左腕で頭を覆いながら深々とため息をつく。
 死ぬことを最終目的とする自殺集団に近づくのはたとえ彼らの主義に興味がなかったとしても褒められる行為ではない。ただでさえオリバーはまだ子どもだ。“楽園行き”を強要されたらどうするつもりだったのだろうか。

「……って俺が考えても仕方ねえことだけどな」

 壁に開いた大穴から光が差しこんでいる。星の粒のように埃が舞い散って、気まぐれのように眩い光を反射する。その奥にはひしゃげたラジオが転がっていた。適当に隅へ蹴飛ばしてから探す気もわかなかったがこんなところにあったとは。あとで放り出そう。
 と、その奥に何かがある。しかし陽光のせいでなかなか奥のものの全貌がつかめない。かぶりをふってレオは薄いベッドから抜け出した。距離を縮めるにつれて輪郭がはっきりしてくる。ついにその正体がわかったとき、レオは髪を荒々しくかき混ぜながらしゃがみこんだ。それは見覚えのある古い工具だった。

「ったく今日は嫌な日だ」

――机に置かれた一枚の紙。奴が遺していったレンチ。流れるラジオ。立ちすくむ自分。
 穴から冷たい風が吹きつける。レオは雨除け代わりにつけた布を引っ張って光ごと遮断した。


 翌朝ドアを叩く音で目が覚めた。今日の予定をざっと思い返し、来客の予定がないことを確認する。別の部屋の奴とでも間違えているのだろう。レオは毛布をかぶり直し、二度寝を決め込もうとした。
 が、音はいつまで経っても鳴り止まない。

「うるせえ! ったくこんな朝っぱらから何の用だよ!」

 乱暴にドアを蹴りあけると、そこには別の階に住む男がにやにや笑いながら立っていた。

「ようレオ。お前に客がきているぜ」
「あ? 客がくる予定なんてねえぞ」
「でもきてるぜ? 可愛らしい嬢ちゃんと坊やがな。外に出たらよ、街中を歩き周りながらお前の名前を呼んでいる二人組みつけてな。面白そうだから案内してやった」

 目つきの悪い三白眼が吊り上がり、盛大な舌打ちをしたが男はにやついたままだった。

「余計なことしやがって」
「お前の部屋までは教えてないって。下で待たせているからよ。いってやんな」

 それはほとんど教えたのと同義ではないだろうか。右腕から蒸気が上がる。

「今度会ったら覚えておけよ」
「おお怖い怖い」

 男は軽く肩をすくめただけで階段を上っていった。板の苦しげな音に眉をしかめ、レオは渋々手すりを掴んだ。


「んで、朝から大声で人の名前を呼びまわってくれたお二人さんは何の用なんですかねえ」

 二人は居心地悪そうに眉を下げた。

「えっとそれはごめんなさい。レオの住んでいるところある程度はわかるんだけど、正確な場所わからなかったからいろんな人に聞いて回っていたの。そうしたら親切な人が教えてくれて。悪気があったわけじゃなかったんだけど、迷惑だったわよね」

 親切な人ねえ。むしろあいつはその対極にいるような男だが。身体中の呆れを息にこめて吐き出すと、二人はびくりと身体を震わせた。

「で、要件は? まさかおしゃべりしにきたわけでもねえだろ」

 これで昨日の件を謝りにきましたなどとぬかしたならば、右腕の仕込み銃を放っていたところだっただろう。アンナはちぎれんばかりに首を振った。

「ち、違うの。レオに伝えたいことがあるってこの子が」

 アンナが手のひらを差し出した。そこでようやく虫のような黒い物体が乗っていることに気がついた。だが生き物ではない。汚れをかぶり、ところどころ錆びているものの、金属特有の鈍い輝きは失ってはいなかった。

「なんだこれ? 見たことない型のロボットだな」

 平べったい長方形の胴体に六本の足。正面の面には眼の代わりに巨大なレンズがついている。そのレンズも汚れでほとんど曇っている状態であった。そっとガラスを指ですって、透明な輝きを表に出した。瞬間、光が点滅し、シャッターが瞼のように開閉する。

「目標ヲ発見。メッセージヲ再生シマス」

 突然レンズが光り出し、甲高い起動音が響きだす。レオは慌てて命令した。

「待て待て待て。まずお前は何もんだよ。お前の機能を説明しろ」
「承知イタシマシタ。私ノ機能ヲ説明イタシマス」

 耳障りな高音は急速に弱まり、数度レンズが点滅した。レオは密かに胸をなでおろす。アンナのように高度で複雑な機能をもつロボットは別としても、回路が壊れてさえいなければ大抵の機械は人間の命令を聞くように設計されている。話のわかる奴でよかったと心底思った。

「私ハメッセンジャーYB201。音声、映像ノ記録ト再生ヲ行イマス。現在新規ノ記録ハ必要ナ部品ガ損傷シテイルタメ不可能デスガ、再生ハ可能。アナタ宛ノメッセージヲ記録シテイマス。再生シテモヨロシイデショウカ」
「俺宛に? 誰から?」

 わざわざロボットにメッセージを託すような人物に心当たりはない。

「再生シテモヨロシイデショウカ」

 メッセンジャーYB201は同じ調子で繰り返した。もしやどこかしらが壊れていて他人のメッセージを届けにきたのではなかろうか。不審な目を向けるレオに小さなロボットはさらに続けた。

「間違イハゴザイマセン。タシカニレオ様宛ノメッセージヲ受ケ取ッテオリマス。メッセージヲ再生シテモヨロシイデショウカ」
「断ったら?」
「再生シテモヨロシイデショウカ」

 どうも自分が諾と言わない限り引く気はないらしい。ロボットのくせに強情な奴である。まるでどこぞの花屋だ。

「わかった、わかったよ。じゃあメッセージを再生してくれ」
「承知イタシマシタ。アリガトウゴザイマス。メッセージヲ再生シマス」

 レンズが発光し、空中に青白い一人の人物を作り出した。それは腰あたりまで白髪を伸ばした老人だった。顎髭もたくわえており、姿勢は若干前のめりなもののまだ足腰もしっかりしているようにみえる。

「この人が言伝を残した人?」
「そうなんじゃないかな。ねえレオ、この人ってたしか……」

 二人はレオを仰ぎ見、そして絶句した。驚愕を体現したならば、今のレオの表情になるであろう。レオは震える唇を動かしてぽつりと呟いた。

「クソジジイ……」

 映像の老人は真っ直ぐこちらを見た。まるでそこにレオがいることをわかっているように。

『あーテストテスト。これで記録できているはずだが……ああ、ちゃんと作動しているようだ』

 一度ぶれたのはメッセンジャーYB201に触れたからだろうか。老人は一度咳払いし、再びこちらに向き直った。

『さてと、まあちゃんと修理できたか確認ついでに頼んでおくが、このメッセージを受け取ったということは既にわしはこの世にはおらんのだろうな。おいクソ坊主、元気にしてるか? 天才と名高いわしの腕だからな、よっぽどのことがない限りお前のへっぽこなメンテナンスでもくたばるまではもつだろうよ』
「余計なお世話だクソジジイ」

 レオは悪態を吐き捨てる。が、どこか親しみのある優しい口調だった。心なしか目元も緩んでいる気がする。

『どうせ下手に仕込んだ銃ぶっ放して肩壊したりしているんだろうが、まあいい。もう生き抜く術は叩きこんだからな。今から話すのはあえて話さなかった昔話にでも付き合え』

 ボリボリと頭をかきながら老人は胡坐をかいた。

『さてどこから話すか……。そうだな、お前との出会いからにしよう』

老人はコホンともう一度咳払いをした。

『大戦が終わってからも、まあ天才技師であるわしの仕事は消えなくてな。全世界を飛び回っていたわけだ。で、そんなある日のことだ。瓦礫の下で身体半分潰されたガキを見つけたのは』

 気遣わしげにこちらを見やる視線には気づいていたが、レオはあからさまに無視した。

『大戦が起こってからそう珍しい光景でもない。だがせめて祈りでも捧げてやろうかとしゃがみこんだら何と息してやがる。そこでふと前に思いついたことを試してみようと思った。もしもここで死んだらそれまで。だがもしも死ななかったら、両足でしかと立てるようになるまでは面倒をみてやろうと思ってな。
 当時のわしは傲慢だった。植物なき今、人類の頼みの綱は先人たちが築き上げてきた技術だけ。特にわしが得意とする技は重宝された。わしはなんだってできた。正直、今だからこそ言えるが、お前を拾ったときわしの心に浮かんだのは高揚感だ。それも自分の技量を試せるといった倫理的に最低なもの。そこに正義感も何もありはしなかった』

 衝撃の事実にアンナたちは口を開けることしかできない。レオは険しい顔のまま一言も発しなかった。

『だがお前と過ごすうちにそれはやがて変質していった。痛みに喚き、何かにつけて口答えし、可愛げの欠片もないガキだったが、同時に心地よい賑やかさをくれた。灰色の日常はゆっくりと色を取り戻し、いつの間にかわしの中にも温度が戻ってきていた。仕事漬けでは手に入らなかった穏やかな温もりがな。
 そのときふと思い出したことがある。わしの古い友人の話だ。大戦が収束してから同僚だったあやつはすぐに一線を退き、土壌の改善や緑化活動に勤しむようになった。わしは問うた。なぜそんなことをすると。あやつはわしと肩を並べるほどの腕があった。そんなもの他人に任せておけばいいのだと。わしらがみるべきなのは機械だ。今や高度な技術や機械が世界の要。人を救うにはまず技術による生活基盤の安定が必要なのだと。
 あやつは首を振ってこう言ったよ。まず私たちが救うべきは心だ。私たちはとんでもなく愚かしいことをしでかしてしまった。太古からもつ心の拠り所を失くしてしまったのだ。拠り所無くして人は生きられないとね。あやつは早死にした。あやつが開発した戦闘用アンドロイドに撃たれてな。今思い返せば見た目は少しお前に似ていたかもしれぬ。中身はまったく、一かけらも似とらんがな』

 老人は苦笑した。

『今ならあやつが言っていたことがわかる。わしは馬鹿だった。機械だけではどうにもならないことだってある。人には心が必要なのだ。そして心は温度のない機械だけでは癒されぬ。言語化できない何かが心には必要なのだ。わしの場合はお前だった』

 そこでふっと老人は笑った。

『なあレオ、お前はゆっくりこっちにこいよ。わしにとってのお前のように、お前も心の拠り所を見つけろ。そうすれば荒れた世界でも生きていける。もし早々に来やがったらレンチで殴りつけて追い返すからな。……まあなんだ、お前との生活はそれなりに楽しかった。今までありがとうよ』

 最後の言葉は周囲の物音に溶けこんでしまいそうなほど小さく、だがしっかりと三人の耳に届いた。プツンと間抜けな音を立てて老人は消え去る。通り抜ける風は雨の匂いをまとっていた。

「以上デメッセージハ終了デス。モウ一度再生シマスカ?」
「……いやいい。ありがとうな」
「承知イタシマシタ。再生ヲ終了イタシマス。――電力ノ低下ヲ確認。スリープモードニ入リマス」

 メッセンジャーYB201はぎこちなく一、二度点滅し、やがて動作を完全に停止した。辺りに静寂が訪れる。レオは唇をかみしめて俯いていた。だが二人にはどのような言葉をかけていいかわからず、ちらちらと視線を投げかけることしかできない。
 ふいに視界の中にきらめく何かが飛びこんできた。それは光り輝く銀貨数枚。反射的にアンナは硬貨を手のひらに収めた。そんなことをする人物は一人しかいない。

「おいアンナ、お前がもっているやつ全部よこせ」
「えっ、でもこれじゃもらいすぎているわ。おつり」
「いらねえ」

 少女が最後まで言い切ることはなかった。突風が細腕からかごをかっさらっていく。

「よこせって言ってんだ。聞こえなかったのか? それともついに耳までいかれやがったか」

 中身を一切合切取り出してかごだけ投げ渡す。よろめきながら受け止めたアンナの横をレオは通りすぎていく。

「ちょっと待ってレオ! どこに行くの」
「どこでもいいだろうが」

 ぶっきらぼうに、しかし声の調子とは正反対に花の茎一本も曲げないように丁重に抱きかかえ、レオはどんどん離れていく。アンナが一歩踏み出したとき、突然裾がくいっと引かれた。振り返るとオリバーが神妙な顔つきで見つめていた。

「アンナ、今はそっとしておいてあげて」
「でも……」
「おねがい」

 真剣に乞われればアンナも無理には押し通せない。

「ねえオリバー」
「なあにアンナ」

 アンナはじっとレオが去った方向を見つめていた。レオの背はもう見えない。廃ビルの向こうに消えてしまったからだ。

「私、ずっと彼女の言う通り花はみんなをシアワセにしてくれると思っていたわ。でもさっきのレオはシアワセにしては悲しそうだったの。……あれはシアワセっていうのかしら」

 その碧眼には迷いが生まれていた。アンナは初めて人格を形作っている少女に疑念を抱いてしまったのだ。もちろんモデルとなる人間の人格を否定するようにはできてはいない。この疑念もいずれは消去されてしまうだろう。それでもオリバーは嫌だった。システムが正常に働いたとしても彼女の大事な何かが崩れてしまう感じがして。
 しかしだからといって即座に言葉を返すこともできなかった。高度な技術を組みこみ、人に寄り添うよう設計されたアンドロイドであったとしても、この複雑な感情を完全に理解できるか確証が持てなかったからだ。オリバーは慎重に言葉を選んだ。

「あのね、アンナの感じているシアワセっていうのはみんなが笑顔でいることなんだよね?」
「そうよ。それがシアワセってことなんじゃないの?」

 まるで汚れを知らぬ無垢な子どものようにアンナは首をかしげた。尻ごみしそうになる自分を叱咤し、オリバーは美しい青を見つめた。

「ううん、それも幸せの形っていえばそうなんだけど、幸せっていうのはねもっとたくさんの種類があるんだ。たしかに今はちょっと苦しそうな顔かもしれないけど……でもねアンナの花のおかげでレオは育て親を亡くした悲しみを乗り越えられると思うんだ。だからね、彼女の教えは間違ってないよ。乗り越えた先にはアンナの知ってる幸せがあるから」

 アンナの美しい美空色がようやく和らいだ。

「……そう。じゃあやっぱり彼女は間違っていないのね」
「そうだよ。だってアンナの大事な人なんでしょ?」
「そうよね。私をつくってくれたとってもとっても大切な人だもの。二人が愛した彼女だもの。うん、ありがとうオリバー」

 花がほころぶようにアンナは笑った。どうやら正しい選択ができたようだ。オリバーは胸をなでおろした。
アンナはそっとしゃがみこむと、くたびれた郵便屋を持ち上げて空のかごの中にしまいこんだ。

「この子ここに放置しておくのはさすがにかわいそうだからもって帰るわ。太陽光で充電できるみたいだし、日当たりのいい場所に置いておくつもり」
「そうだね。それがいいよ」

 空の彼方に雨雲が見える。きっと明日は雨だ。だが雨が上がった後は洗われて澄みきった青が一面に広がることだろう。

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