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南方郵便機、星に届く

小さな飛行場が隣り街にあり、毎朝私が家を出るのに合わせてセスナが飛んでいく。サン=テグジュペリや『紅の豚』を思い、飛行機乗りの気分になりながら、駅までの道をすっ飛んで行く。なんと言っても今は五月だ、内田善美の『五月に住む月星』も忘れてはならない。

そんな飛行機な毎日の今週のある日、
調べたいことがあって昔の手帳を開いたら、はらりと、自家焙煎珈琲豆の『南方郵便機』さんの栞が出てきた。
仙川でお店を開いていた頃もらったもの。
サン=テグジュペリが好きで「南方郵便機」も好きな作品の一つだったので店主さんにそう言ったら、その作品名を出したお客さんははじめてですねと微笑まれて、それを分かち合えたことを私は多分少し誇りに思ったのだ。その感じが甦る。
『南方郵便機』さんは移転され、早稲田店にはついに行かなかった。今度府中店に行ってみよう。

そうして南方郵便機がふと出てきたと思ったら、
次の日、
勤め先の駅の、普段行かない側にふらっと寄ったら、路地のビルに『自家焙煎珈琲工房 飛行島』という看板を見つけた。
「南方郵便機」は「夜間飛行」に収録されていて、その本の面影で『飛行』という文字が目に引っかかったんだと思う。しかもコーヒー繋がりだ。いいな、と思った次の瞬間、しかしそれはもうないと知った。見れば分かる。そのビルにその店はない。そこを入った路地にもない。

覗いた路地の先には小さな店があった。
そこに、ひっそりと、と言ってよいような雰囲気で、一つの店が光っていた。
『アルタイル』。
これまた佳き雰囲気の自家焙煎珈琲豆屋さんだった。おそらくは『飛行島』の後を継いだのだろう、大きな銀色の焙煎器が路地に面して気品のある表情を見せていた。中には、素朴にして美しい珈琲豆のキャニスターが並ぶ。私は深煎りは好きではない。某⭐️バックスのコーヒーは時々これは焦げを煎じて飲んでるんじゃ?と思ったりする。(もちろん人の好き好きです。)繊細なセピアブラウンのグラデーションの中から、比較的明るいグァテマラのシティローストあたりを買って帰った。

飛行機、空飛ぶ島に案内されて、夏の夜空の一等星にたどり着いたという話
週末、美味しいコーヒーを飲みながら、ここまでが今週のひとつながりの冒険の旅だったことにした。

追記
飛行機乗りの話は
毛色が違うが、森博嗣『スカイ・クロラ』『ナ・バ・テア』も良い。アニメではなく小説が良い。

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