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ドラマ『MIU404』【第8話の感想】 そして伊吹はその手を強く握り返した。

『MIU404』第8話は重く暗い。
最愛の人を失った時に人はどうなってしまうか。「復讐と赦し」という深いテーマに、宗教思想、発病・記憶障害、不自然死までがごった煮になった悲しい回だった。
物語の中身については他の詳しいまとめ記事に任せて、僕の感想ブログでは“希望の光”が感じられた“ラストの2シーン”についてのみ、抜き出して書き留めておく。
今話は特に、先にネタバレ読まないほうがドラマが楽しめるので、この記事は視聴後に読むのをオススメしますね。

1、“君の笑顔”を想い合うばかりに。

今回のサブタイトルは「君の笑顔」だ。
ここでいう“君”とは、まずは伊吹(綾野剛)の恩師、蒲郡(あだ名はガマさん、小日向文世)が“亡くなった奥さんを想う気持ち”をあらわしたタイトルだ。だが『MIU404』というドラマには、ガマさんひとりのエピソードだけでもなく、“君を笑顔にしたい”と願うたくさんの人々と物語にあふれている。

隊長の桔梗(麻生久美子)は、命を狙われるハムちゃん(黒川智花)を自宅にかくまい生活を共にしている。伊吹は、恩人の蒲郡の進む痴呆症を心配して「一緒に住もうか」と提案をする。志摩(星野源)は、伊吹が何か悲しい出来事に内心気づいているのを悟り、初めてらしくもなくオフに自宅に押しかけたりする。そして、事件顛末の結果を無線で聞きながら、機捜の仲間たちが、伊吹の悲しみに心を痛め、遠くから見守っている。
“君に笑顔が戻りますように”と、誰もが誰かを想い合って、循環が生まれている。そういうドラマだ。

蒲郡は、連行される最後の場面で、志摩にこう諭される。
「ガマさん。何があってもあなたは人を殺しちゃいけなかった。全警察官と、…伊吹のために。」

蒲郡はその返事に、最後、こう言葉を残した。
「あの子に、…伊吹に伝えてくれ。」
「お前にできることは何もなかった。何もだ。」

“あの子に”。
蒲郡にとって、伊吹は“あの子”、
つまり、出会った高校生の頃の伊吹のままなのだ。かわいくて大切に育てた子供。

課題を抱えた青少年少女たちに寄り添い、更生までを伴走してきたガマさんの、人生の成果のひとつが伊吹なのだ。
そしてきっと伊吹だけでなく、何人もの若者たち、そして外国人たちを、社会へと羽ばたかせてきたのだろう。それが蒲郡の誇りであり喜びでもあり。

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彼ら彼女らをガマさんは巻き込みたくはなかったのだと思う。「君たちとは関係はないし、君たちにできる事は何もなかったし、すべて私自身の問題だ」と距離をとった。伊吹からも。それは蒲郡からすれば「“君の笑顔”を守りたい」と想う気持ちが生んだ行動だったのだろう。

しかし、伊吹は悲しかった。
配属した最初の頃にはわからなかったが、伊吹は伊吹なりに“機捜という仕事”にやりがいを見つけていた。こういうセリフが過去にあった。

「機捜っていいな。誰かが最悪の事態になる前に止められる。超いい仕事じゃん」

難事件を中心に立って解決する主人公では決してないが、誰よりも先に駆けつけて、初動捜査を専門にする仕事の重要性を自分なりに意味づけ始めていた。

それなのにだ。それなのに、一番大切なガマさんのことを“最悪の事態になる前に”止める事はできなかったし、たとえ、どのタイミングで駆けつけていても「お前にできることは何もなかった」と言われてしまったのだった。

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呆然と立ち尽くす、伊吹。
道の先を先導してくれていた、明るい堤防の光は消えてしまった。

2、志摩がついに差し伸べられた“手”

さて、志摩について書こう。
志摩は昔の相棒、高坂のミスを叱責し、声もかけてやれないうちのその日の夜、高坂は事故死し、見殺しにしてしまったと後悔していた。「かけてやるべき声をかけていれば、違った未来があったのでは」と悔やんでいた。そのエピソードが描かれた第6話について、当ブログの感想記事ではこう書いた。転載する。

現実にはそうはできなかった過去。志摩は、その世界の中で、相棒にこう語りかける。
とても単純な言葉だ。
「刑事じゃなくても、お前の人生は終わらない」それと、高坂に、握手を求めて差し伸べる手。

たったそれだけだ。
ここにすべてが詰まっているのだ、「二度と言い逃さない」と誓った思いのすべてが。

実際には、高坂に出してやれなかった、手。
“出してやりたかった”と死後に何度も何度もシミュレーションした、手。

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“二度と同じ過ちはしない”と誓った志摩が、今回の最後のシーン、悲しみにくれる伊吹に、夜の屋上、手を差し伸べる。やっと、差し伸べられた。そして初めて伊吹をこう呼ぶ。「相棒」と。

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足りないところはたくさんあるが、尊敬できる部分もたくさん見つかった。いま志摩が相棒にしてやれることは、“手を差し伸べる事”だった。
そして伊吹はその手を強く握り返した。
伊吹は志摩の手に支えられて立ち上がった。
ひとりではやり直せなかったかもしれない。

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伊吹に課せられた十字架、ガマさんから渡された“大きな宿題”は、伊吹だけのものではない。

伊吹も志摩も「次こそ、止める」。そう誓う。

伏線で明確にひとつ張られているのは、久住(菅田将暉)の下で働く、元陸上部員の成川岳。
彼を救い出せるかが、きっと次の物語だ。
高校生だった頃の伊吹が、ガマさんに救われたように。
道を踏み外しそうな人々にとって、分岐点を変える“スイッチ”になる。
憧れのガマさんに教わったように。

(おわり)

※他の回の感想はこちら↓




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