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【M-1グランプリ2019】Final Round 「ミルクボーイ」漫才ネタを文字起こし [定量的に分析してみた]

2019年12月に催されたM-1グランプリ決勝戦、ファイナルラウンドに進んだうちの1組、「ミルクボーイ」の漫才のネタを文字起こしした。
この年のファイナルラウンドは、ぺこぱ、かまいたち、ミルクボーイの3組で、優勝はミルクボーイが獲った。
データ分析の側面から、その優劣の差異が見られるのか調査してみる。

◆ミルクボーイの簡単な紹介

駒場 孝(ボケ担当)と内海 崇(ツッコミ担当)のコンビ。
2007年結成。2019年M-1グランプリ王者。

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◆書き起こしデータの読み方

・駒場のセリフには「駒」とつけた
・内海のセリフは「かっこ」にくくった
・ネタのタイムをはかり、秒数をいれた
・「ボケ」のセリフには、秒数の隣に※をつけた
・観客が笑ったシーンに(観客笑)をつけた
・特にウケたシーンに(観客笑★)をつけた

◆決勝ネタの“文字起こし ” 「モナカ」

(ふたりで)
どうもー、どもーミルクボーイですー。お願いしまーす。ありがとうございますー。

[00.05秒]
「あっ、ありがとうございます!」
(駒場が、観客席のほうに歩み寄り)
「いま、『ねるねるねるね』の実の粉をいただきましたけども(おじぎ)」(観客笑)
「ありがとうございます、ねーもう、こんなんなんぼあってもいいですからね。」
「ありがたいです、いうとりますけどね。」

[00.19秒]
駒:うちのおかんがね
「おー、わからへんのがあるんでしょう?」(観客笑)
駒:ようわかったね
「なにがわかれへんのよ」

[00.27秒]
駒:好きなお菓子があるらしいんやけどな、その名前を忘れてもうたらしくて。
「お菓子の名前を忘れてもうた、どうなっとんねんそれ」
駒:まあいろいろ聞くんやけどな、全然わからへんねんな
「わかれへんの。ほなオレがね、オカンの好きなお菓子、一緒に考えてあげるから、どんな特徴をゆうてたか教えてみてよ。」

[00.42秒]
駒:あの、和菓子でね、薄茶色のパリパリの皮であんこを挟んだやつやゆうねんな。

「ほー。モナカやないかい。」
「その特徴はもう完全にモナカやがな。
すぐわかったよ、もうー。」

[00.55秒]※
駒:いや、でもわからへんねんな。オレもモナカや思たんやけどオカンが言うには、スーパーで子どもがそれ欲しくて泣いてた言うねんな。

[01.03秒]
「ほー。ほなモナカと違うかー。」(観客笑)
「モナカで子どもはごねへんもんね。
モナカはね、あんなに甘いクセに子どもからまったく人気がないねんから。」(観客笑)
「ヘタしたらね、オレらより人気ないんとちゃう?」

駒:それはないやろ。

「それはないかー。」(観客笑)
「モナカのほうが上かー。モナカのほうがまだテレビでてるか。くやしいけどね。ほなモナカとちゃうがな。ほな、もう一度詳しく聞かせてくれる?」

[01.25秒]※
駒:食べたら、皮がぜんぶ上あごにひっつくらしいねん

「それモナカやないかい。」(観客笑)
「あれ全部上あごにもっていかれんねんから。」
「皮とアンコのハーモニー感じたことないのよ。」(観客笑)
「モナカに決まりやそんなもん。なにがわからへんのそれで。」

[01.40秒]※
駒:いや、オレもモナカや思たんやけどな
オカンが言うにはな、
1個食べ出したら止まらへんって言うねん

「ほなモナカとちゃうやないかい。」(観客笑)
「モナカは一口食べたらすぐ止まんのよ。」(観客笑)
「モナカ2個目いってるヤツ見たことないんやから。“モナカの大食いギネス記録”は2やねん。」(観客笑★)
「モナカちゃうやろほんだら。」

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「もうちょいなんか言ってなかったか?」

[01.58秒]※
駒:皮の模様がなんか怖いらしい。
「モナカやないかい!」(観客笑)

[02.00秒]
「あれ菊の花とかね家紋とか、見た目怖すぎんねんから。モナカと山根会長は見た目怖すぎるのよ。」(観客笑)
「モナカ決まりよそんなもん。」

駒:いやわからへんねん

「何がわからへんのよこれで」

[02.13秒]※
駒:オレもモナカかなと思てたんやけど
オカンが言うには、お菓子の家を作るとしたら、絶対そのお菓子使うって言うねん

「ほなモナカとちゃうやないかい。」(観客笑)
「お菓子の家の施工にね、モナカは関わらへんのよ。」(観客笑)
「だってモナカの模様は怖いんやから。“お菓子の組事務所”みたいになるがな。」(観客笑★)
「モナカちゃうがな。ほんだらもうちょいなんかゆうてなかったか?」

[02.30秒]※
駒:関係性でいうと、マカロンの先祖らしい

「モナカやないかい!」(観客笑★)
「どこか面影あるやろあれ。マカロンのひいひいひい爺さんがモナカやねん、たしか。そんなもんモナカで決まり。」

[02.45秒]※
駒:でもわからへんねん
オカンが言うには、お菓子というよりもスイーツに近いって。

「ほなモナカとちゃうやないかい。
モナカはお菓子というよりお供物やねんあれ。」(観客笑)
「モナカてそういうもんやねん。ほなモナカちゃうやん。他なんかゆうてなかった?」

[02.58秒]※
駒:関係性でいうと、もみじまんじゅうのいとこらしい。
「モナカやないかい。」(観客笑)

[03.00秒]
「なんとなく似てるやろあれ。モナカの親父の弟の子どもがもみじまんじゅうやねん。モナカに決まり。」

[03.11秒]※
駒:わからへんねんそれが。
オレもモナカや思たんやけどな、オカンが言うには、こうやってしゃべってたら食べたなってくるって。

「ほなモナカとちゃうやないかい。」(観客笑)
「(観客を指差して)だーれも今モナカの口になってないねん」(観客笑★)
「絶対モナカちゃうわ。ほなもうちょっとなんかゆうてなかったか?」

[03.25秒]※
駒:関係性でいうと、八ツ橋の腹違いの兄弟らしい。

「モナカやないかい。あれ見た目は違うけど他人とは思われへんやろ。」(観客笑)
「あれモナカの親父が京都に単身赴任した時できた不倫相手の子どもが八ツ橋とオタベやねん。」(観客笑★)
「モナカで決まりやだから。他なんかゆうてなかった?」

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[03.45秒]※
駒:関係性でいうと、モナカの双子らしい。

「モナカやないかい!」(観客笑★)
「モナカの双子はモナカや!
オカン、モナカの家系図わかってる?モナカの家系図わかってる?
マカロンの先祖がモナカや。モナカの従兄弟がもみじまんじゅう。そんでモナカの腹違いの兄弟が八ツ橋とオタベ。ほんでモナカの双子がモナカ。」

[04.02秒]
「そんでモナカとアイスの子どもが、モナ王やないかい。」(観客笑)
「そうよ。これちゃんとわかっとかんとあかんねんオカンの好きなお菓子はモナカや。」

[04.13秒]※
駒:わからへんねん。オカンが言うには、モナカではないって言うねん。

「ほなモナカちゃうやないかい。」(観客笑)
「だったら先ゆえよ。
オレが家系図ゆうてる時どう思ててん。」

駒:申し訳ない、だから

「ほんまにわからへんがな。どうなっとんねん。」

[04.24秒]※
駒:オトンがいうにはな、ピザポテトちゃうかて。

「絶対ちゃうやろ。もうええわ。」
(ふたりで)
「ありがとうございました!」
(ネタおわり)

◆データによる定量分析

まず、4分間強のネタを“1分間区切り”にして、その構造を要因分解してみよう。

【0〜1分】(00.00秒〜00.59秒)
ボケ数:1
(観客笑)数:2
(観客笑★)数:0

【1〜2分】(01.00秒〜01.59秒)
ボケ数:3
(観客笑)数:9
(観客笑★)数:1

【2〜3分】(02.00秒〜02.59秒)
ボケ数:4
(観客笑)数: 7
(観客笑★)数: 2

【3〜4分】(03.00秒〜03.59秒)
ボケ数:3
(観客笑)数: 5
(観客笑★)数: 3

【4分〜】(04.00秒〜)
ボケ数:2
(観客笑)数: 2
(観客笑★)数: 0

【合計】
ボケ数:13
(観客笑)数: 25
(観客笑★)数: 6

笑いの“回数”のピークは「1分台(1分0秒〜1分59秒)」で、この60秒間に実に9回もつくれている。この数はファイナルラウンドの3組の中でも最多である。

逆に、最初の1分間にはほとんど笑いがない。これは、最初は笑わせることよりも「ミルクボーイ特有の漫才構造のフレーム設定」を丁寧に観客にまず伝えることに時間に使っている事がみてとれる。
ミルクボーイの漫才フレームはシンプルで、とにかく同じパターンを繰り返す「ループ構造」をしている。下記のようなループだ。

オカンが好きなお菓子の名前を忘れてしまった→(ループ1)
「そのお菓子の特徴を話す」→「その特徴なら“モナカやないかい”と断言する」→「そう思った理由を語る」。
→(ループ2)
「そのお菓子の他の特徴を話す」→「その特徴だと“モナカとちゃうやないかい”と断言する」→「違うと思った理由を語る」。

とにかくこのパターンを延々と繰り返す話芸だ。
この“ループパターン”をまず観客に知ってもらう。慣れてもらう。
「モナカやないかい!」と叫ぶタイミングがわかってくるので、「そこがくると笑える」という“リズム”が客席に浸透してくる。
その“リズムの浸透注力期”が、最多回数をはじきだした「1分台」にあたり、
この60秒間には実は“大きな爆笑”がほぼないのも特徴で、まずは爆笑よりも「笑いのリズムをつかんでもらう事」を重視し、小さな笑いを“同じリズム”でコンスタントに体感してもらいながら、舞台に“リズム”を生みだしていくのである。

ミルクボーイは特に、この“前半の2分間の使い方”がとても上手いなという事が、データ分析からわかった。

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あと最後に。
ぺこぱもそうなのだが、「ボケ」で観客が笑うのではなく「ツッコミ」のセリフで笑わせるのがミルクボーイの漫才の特徴だ。
今回のモナカのネタでいうと、全編で25回ある“笑えるタイミング”は、実はすべて「ツッコミのセリフのあと」に巻き起こる笑いである。

ファイナルラウンド3組のうち、2組もがこの「ツッコミのあとに笑いが起こる」タイプの漫才コンビであったから、このパターンがここから先数年、“最新の流行形態”と呼べるのかもしれない。

(おわり)
※ファイナルラウンドで戦った他の漫才コンビ「ぺこぱ」「かまいたち」の「ネタ文字起こし」は、こちら↓


コツコツ書き続けるので、サポートいただけたらがんばれます。