見出し画像

タクシーは半額になるか?(前編)  【マーケティング戦略の観察】

タクシー配車アプリサービスのジャパンタクシーとMOVが、2020.04.01で経営統合するという。将来統合を見据えて社名も「モビリティテクノロジーズ」と新しく変更する発表もされた。
しかし、2020.02.04の統合発表の会見では、現状のタクシー業界の改革の難しさも垣間見えた。
タクシー市場の考察を前後編で記録する。
(2020.03.18時点での記録)


1、「わざわざアプリでタクシーを呼ぶメリット」がない問題

統合発表の中で驚かされたのは「配車アプリサービスの利用率は、全国のタクシー乗車回数のうちの2%」という数値だ。こんなに少ないか。
「didi」とか「みんタク」とかの市場参入も続き切磋琢磨している印象だったし、消費者にもそこそこ浸透してきている気もしていたが、このスコアをみると「アプリ配車はまだほとんど使われていない」とも呼べる。

画像1

これは結局のところ、「わざわざアプリでタクシーを呼ぶメリット」がつくれていないのが原因と言える。顧客付加価値の不足だ。

東京で暮らしているとだけど、
タクシーは“流し”で捕まえられるのでおおむね困ってないし、雨の日とか道で捕まえにくいタイミングほど“アプリで呼んでも応答してくれない”し、呼ぶと“迎車料金がかかる”し、結局「流しでいいか」ということになる。

逆にいうと、日本は、アプリなんか使わなくてもこれだけ流しでも捕まえられるんだから「すでに相当便利」ともいえて、これはタクシー会社による今日までの努力によるたまものといえる。そこはまず尊敬できる。

でも、このままの状態が続けば、「タクシー利用」は特に増えもしないだろう。
それだけでなく、カーシェアとか、MaaSとか、他の交通手段やモビリティサービスが進化していく中で、“タクシーという業態”が置いてきぼりになるリスクもあるだろう。だからこそタクシー業界も変わろうとしている。そういう動きのあらわれだと読める。

2、“マッチング”が付加価値の源泉

タクシー業界が配車アプリに注目する狙い(メリット)は、やはり「マッチング」だろう。

このスマホの「マッチングパワー」にはあらゆる業界が期待しているが、タクシー業界なんてまさに打ってつけではある。
タクシーに乗りたいというニーズが“いつどこで発生するかわからないせい”で、“とりこぼし”が発生しやすいサービスだからである。

今回の会見の中でも「乗車時間割合の向上」という課題点がとりあげられていた。

乗務員の就労時間のうち、客を乗せている時間が業界平均で20~30%にすぎない

このスコアも、なかなか衝撃的だ。
勤務している時間のうち「客を乗車できている時間が20%しかない」のだという。
ここを改善したい。
「乗りたい客」と「乗せたいタクシー」を“最適にマッチングする”ことで、利用者を増やせ、売上を上げる事ができるはず。そこに配車アプリの期待がある。
“取りこぼし”をこれまでより減らすのだ。

画像2


3、乗車料金を落とせるか?

アプリを使ってシームレスに速報的に顧客から呼び出してもらえるようになれば、「一本隣の筋でタクシーを乗りたがっている人がいる」のがわかって、タクシー会社にとってはうれしいことだろうけれど、“ユーザー側の受ける価値”は、実はそんなに変わらない。
だって、一本隣の筋までちょっと歩けば、流しのタクシーは捕まえられるから。配車アプリで呼んだら、わざわざ数分迎えに来るのを待たないといけないし、迎車料金までとられるのだと、アプリでわざわざ呼ぶ理由がない。

なのでやっぱり「わざわざアプリで呼ぶメリット」をつくらないといけない。

一番わかりやすいのは、やっぱり「アプリで呼ぶと安くなる」とかだ。
なんでもかんでも価格訴求するのは知恵がないが、今のタクシー市場を考えた時、もっとも新規ユーザーを増やせるチカラがあるのはまず「価格」だろうと思う。(現在は日本のタクシーの料金設定には法的規制が絡んでいるので、それを横に置いた場合の話し)

今回の会見で、
米国のウーバーやリフトといった新興ライドシェア企業の参入した場合の“治安悪化等の諸問題”が語られて、「ライドシェアの導入が日本の解決策とはいえない」と示されたが、それはそれでもいいと思ってて、
ユーザーからみると、迎えに来てくれるのは別にライドシェアでもタクシー会社でも実はどっちでもよくて、ただし「ライドシェアを許可すれば、今よりタクシー料金が安くなる可能性がある」という点については“業界としえどう捉えているか”はコメントがあるとより良かった。

ちなみに、アメリカのウーバーやリフトの価格帯と、かるく比較分析してみよう。

簡易的にGoogleマップを使って運賃検索してみただけなので、正確性は保証しないが、
たとえばニューヨークの「コスモポリタン美術館」から「タイムズスクエア」までがおよそ4km。この距離をUberXだと、約1,000円〜1,300円と表示された。
対して、日本。
「六本木ヒルズ」から「銀座四丁目」までが約4kmで、ほぼ同じ距離。
これをジャパンタクシーで料金検索してみると、2,460円(迎車料金420円を含む)となった。
およそ2倍にもなる。


4、「価格」と「利用回数」の関係

でも、あらゆる業態でもそうだけど、「これまでやってきた価格帯を半額に落とす」のなんて、従来からの企業にとったらデメリットでしかない。何か工夫を加えないと“利益を削ること”でしかないからだ。そんなの進んでしたがる会社はない。

価格変動には、需要頻度が重要になる。
単純な方程式で書くと、こうだ。

「価格を半額」にすることで、「利用数を2倍」にできたら、これまでと同じ売上。
「価格を半額」にすることで、「利用数が2倍以上」になれば、業界全体売上は増加する。

でも現状でも「タクシー運転手の人員不足」は深刻だという。成り手がいない。
もし利用数が3倍4倍にできたとして、今の運転者の数でさばけるかというと、需給バランスが崩れてしまって今度は「タクシーが捕まらない問題」がより深刻化するのだろう。

当記事の前編はここまで。
「安くしないと新規ユーザーは増えないが、回数を増やすには運転手が少ない。」

この打開策が見出せるかが、タクシー業界に問われているといえる。

(おわり・後編に続く)


コツコツ書き続けるので、サポートいただけたらがんばれます。