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タクシーは半額になるか?(後編) 【マーケティング戦略の観察】

タクシー配車アプリサービスのジャパンタクシーとMOVが、2020.04.01で経営統合するという。
今回の記事は前編に続き「後編」。
タクシー料金をもしも半額にできたら新たなユーザーが増えると予想できるが、タクシー運転手の数が飽和していて2倍3倍の需要になったらさばききれない。
この解決策の可能性として登場するのが「相乗りタクシーの合法化」ではないだろうか。

※前編はこちら↓

(この記事は、2020.03.21時点の記録です)

1、“ピークボトムの平準化”の課題

一般人を相手にした「移動ビジネス」の難しい点のひとつに、ピークとボトムの需要ボリュームの差がとても大きいという課題がある。

具体的にいうと、人の流れのピークが「出勤時間帯」と「退勤時間帯」という2つの波に偏っているという事だ。
しかも、特に朝は、7時〜9時のたった2時間ほどのあいだに勤務者の大半が“自宅から勤務先へ”と移動をする。この“ピークポイント時間帯”に合わせてタクシー業界は運転手の数を準備するわけにはいかない。それをしてしまうと、それ以外の22時間という大部分の時間帯で運転手が“さらに余ってしまう”からだ。

日本中のタクシー需要が一日24時間のあいだ中、“まんべんなく使われる”なら運転手の雇う数は計算しやすい。しかし往々にして、需要というのはデコボコがある。平準化したいと経営層は望むが、ピークとボトムとのあいだの大きな差はなかなか埋められない。

2、“移動方向の偏重”という課題

特に都市近郊の生活者導線というのは、朝には“外側から内側へ”に偏った移動量があり、夜には逆で“内側から外側へ”の移動が大半となる。
住居は都市近郊のベッドタウンにあり(外側)、勤務地は都市の中心部にある(内側)ため、このような現象が起こる。

これも本来なら“内側と外側”まんべんなく移動量があれば、外側から内側へとタクシーで客を乗せたあと、今度は内側から外側へと客を運べれば効率良く稼げるはずである。
しかし実際のところは、外側から内側へ客を乗せたあと、外側へ行く客は少なく、中心部にタクシーが滞留しがちになってしまう。

これは、移動ビジネス周辺のありがちな悩みだ。近年成長している「シェアサイクル」のビジネスでもこの“移動方向の偏重”が頭を悩ます原因だ。

自転車のポート(置き場)を住居周辺地域と、中心部の勤務先周辺地域とに設置するが、朝は、住居周辺地域から自転車がなくなり、中心部に溢れてしまう。これを事業者側がトラックに積んで“外側地域”に再配置し直すのだが、この再配置作業に費用がかかってしまい、赤字の原因となっているという。


3、“平日休日の平準化”が課題

こういった“平準化の悩み”は、旅行業にもある。
タクシーの話しは「朝の通勤時間と、昼の閑散時間」という一日の時間帯の問題だったが、旅行業だと「平日と休日のピークボトムの差の大きさ」が課題になる。

この課題に対して、星野リゾートの星野社長は「地域別の休日平準化」を提唱して国に働きかけているという。

星野 私は以前から“休日の平準化”を提唱しています。GWなど一部の日程に需要が集中しすぎているのです。GWや連休になると施設は混雑し、時に満室になり、価格も高騰します。その一方、平日は施設が空いて人手も余り、観光産業全体の生産性が上がりません。すると、新しい投資も生まれなくなってしまいます。当然、人材を確保するリソースもなくなります。
例えば“シルバーウィークをつくろう”という議論がありますが、これを、日本全国を5つの地域にわけてこの時期は九州の方が休暇を、この時期は中国地方、四国の方が休暇を……と平準化していけば、ホテルや旅館の価格も安くなり、今まで二泊しかできなかった方が三泊できるようになるかもしれません。

どの業界にも“平準化の悩み”はある。その業界中心に世界は回っていないからだ。いかに社会にフィットさせていくかが各業界の手腕だ。

4、相乗りタクシーの解禁?

2020.03.19の産経新聞に「相乗りタクシーの解禁」の記事が出た。他の新聞には出てないので、まだ信憑性はよくわからない。内容はこうだ。

朝の時間帯のタクシー不足解消のため、見知らぬ乗客が同乗して一定区間を運行する「相乗りシャトル」を6月にも実施する方針を固めたことが18日、分かった。

日本の法律では、他人同士のタクシー同乗は禁止されていた。これはそろそろ解禁されるのは前々から告知されていた。「相乗りをさせる」ということは、「割り勘」を意識させる。わざわざ“知らない人とタクシーに乗るストレス”の代わりに、“金額が安くなるという交換価値”を期待する。そうじゃないとわざわざ相乗りする理由がない。

この報道記事の中には、乗車価格の話しは触れられていなかった。タクシー1台あたりの効率をあげる”とはコメントされているが、“これに合わせて乗車料金を下げる”とは言及されているわけではない。

でもここが、タクシー業界にとって“イノベーションのジレンマの分かれ目”だと思う。過去の業績規模に固執せず、ひとりあたりの乗車金額を“割り勘レベル”ではきっちり落とし、新たなユーザーたちの獲得、そして業界全体の成長軌道を見たい。

相乗りをスムーズにしてもらうには、ここまで育ててきた配車アプリが生きるだろう。ユーザー側に“配車アプリを使う理由”が登場する。
マーケティング観察者としても大変興味深い変化点がやってくる。

(おわり)
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