一人駐在員のミッション

ぼくは一人でベトナムに送られてきた。会社から言い渡されたミッションは簡単で、「日本語の通じる技能実習生を日本に送り出すこと」だ。

そんなの当たり前じゃないか、という向きもあるだろうが、これまで取引していた送り出し機関からやってくる実習生たちは、日本に入国した時点で「今、何時?」という質問にもまったく答えられなかったり、自分の名前をカタカナで書くこともできなかったりと、惨憺たる状態だった。

そんな実習生が受け入れ企業で仕事を始めると、当然問題が起こる。多くは建築現場や工場内で働くので、事故のリスクも高まるし、連日怒られて最後は失踪、という末路を辿るのだ。

ぼくの会社は教育の重要性をよく理解していた。日本語がもっと上手なら、実習生の仕事は充実するし、できることが増えれば給料も上がる。自立した生活を送ることもできる。
企業からのクレームを減らすことにもつながるし(実習生に関するあらゆる問題は監理団体にクレームが来る)、評判が良ければ取引先も増えるというものだ。

携わったものがWIN WINになるための鍵が、日本語教育というわけである。

ところが、どういうわけかベトナム側の送り出し機関はどこも、それほど日本語教育に力を入れているようには思えなかった。あるいは力を入れていたのかもしれないが、上記のような生徒ばかりを送り出してきていた。

うちの監理団体はそれにしびれを切らし、ぼくを現地に送り込むことで日本語レベルの改善を図ったというわけである。

ぼくの教育の成果によって、実習生の生活が充実し、会社の発展にも寄与できるのだとしたら、これほどやりがいのあるミッションはない。

そういう風にしてベトナム暮らしが始まったのだが、蓋を開けたら問題ばかりだったのだった。

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