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としょかんでしりとり 「す」

推薦図書

図書館、というか行政はいつも何かイベントを開催しないといけないという強迫観念に捉われた組織です。なんかやってないと税金ドロボーと呼ばれる気がして、それを極度に恐れています。むしろ誰も必要としないことをやってること自体が税金ドロボーと思うんだけど。


さて多くの図書館では、毎月テーマを決めて「今月のおすすめ」みたいなタイトルでブックフェアをやってますね。夏ならレジャーとか、冬なら健康問題とか。担当者が特に何のポリシーもなく機械的に図書館システムの検索機能でキーワードを打ち込んでヒットした書籍を集めて平積みにしておくだけだと思います。
ちょっとやる気のある担当者なら、わざわざそのために(余計な)図書を購入して充実を図ったり。たまに「お、こんな本があったのか」的な発見があったりして、これはこれで意義があると思いますが。

でも、ちょっと立ち止まって考えてみよう。それって、大丈夫なんかな?

ちょっと古い辞典ですが、そのまま引用します。
「推薦図書はある基準や価値判断に基づいて良書と認めるわけであるから、これが国家権力によって行われると、『思想善導』への道を開くことにつながってくる。本を読むという行為は、自由な思考・精神によって成り立つものであるから、権力を持つ側が、ある基準のもとに図書の推薦を行うことの誤りははっきりしている。」『図書館用語辞典』(角川書店,1982)

これが、2024年発刊の『図書館情報学用語辞典』第5版(丸善出版)ではこうなります。
「団体、機関、個人などが、ある基準または価値判断のもとで、主題ごとにあるいは出版物全体を通して、適切なもの、優れたものとして薦める図書。」

出版者及び出版年が違うとはいえ、すごい落差ですね。「図書館の自由に関する宣言」(注1)の観点が後者ではすっぽり抜け落ちていないかい?
前者のいう「権力を持つ側」とは、市民に規制をかけることが可能な立場にいる者のことであり、図書館もそれに含まれます。
ということは、図書館が「今月のおすすめ」とか無邪気にブックフェアを行っているのは、根本的に誤りである、というわけです。

いくら何でもそりゃ言い過ぎだろ、と思う気持ちもわかります。
でもね、例えば9月1日の防災の日に合わせたブックフェアを企画して、そこに江馬修『羊の怒る時』(筑摩書房, 2023)を展示したらクレームが来て、ビビってそれ関係の資料を引っ込めざるを得ない、ということが起きるわけですよ。

で、結果的に偏った資料を利用者に提供する、あるいは提供しない(注2)ことになり、図書館の公平性が失われます。

これはかなり危険です。そんなつもりはなくても、市民の思想を一定の方角に導いていることになるからです。図書館は自らの影響力が持つ危険性について、もっと自覚的でなくてはならないと思いますが、こんな意見は「いちいちうっせえな」でポイ捨てされそうだなあ。

次回は「」だよ! お楽しみに!

【すいせんとしょ】
本文中で紹介した通り。


注1:図書館の自由に関する宣言
1954年採択、1979年改訂。以下の日本図書館協会のページを参照のこと。
ところでどこの公共図書館にもこの宣言文のポスターが掲げられていると思いますが、もしかしたら掲げていない図書館もあるかもしれません。スタッフにどこにあるか聞いてみてください。
なかったらそこは図書館ではない可能性があります。

注2:提供しない
個人的に、図書館には資料を提供しない自由は無いと思っています。
図書館を含む行政が保有する全ての資料は市民の所有物であり、法に反しない範囲で全ての人が閲覧可能です。何やかんや理由をつけて資料を出さない図書館は、そもそも図書館ではありません。


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