見出し画像

少年~青年期インパクトを受けた10枚のレコード

Facebookでバトンが回ってきたので応じたのをここにまとめました。但し、2020年現在で50歳。幼少期からの音楽漬けの人生で聴いた中から10枚だけ選ぶというのは無理があり、強烈なインパクトを受けたという意味も汲んで少年~青年期(1990年より前)に於いてのセレクションにします。また同じアーティストで何作もインパクトを受けた例も幾らでもあるので多少そのアルバム以外の事も書きます。


Part 1 : The Beatles - Oldies

画像1

1975年(5歳の時)位に親父が買ってきたビートルズの初期~中期のオフィシャルベスト盤。当時は定番アルバムだったようだが、CD時代以降は廃盤となり忘れ去られたともいえる。これより前は、フィンガー5やアニメの主題歌、親が持っていたアンディ・ウイリアムズ等のレコードを好んで聴いていたが、これ以後の数年間はビートルズばかり聴くことになった。

このアルバム、本人達の視覚面の情報は少なく(裏ジャケと、ライナーに地味目な集合写真が一つあるだけ)、世間一般の評価等の情報も幼児は知る由もなく、しばらくはその音だけで純粋に気に入っていた(1~2年後、TVで動く彼らを観たときはそれはそれで大変な衝撃だったが)。初めて聴いたロックのレコードであり、歌声や音が衝撃的であると同時にメロディ、特にコーラスが凄く良い事が子供ながら強く感じられたのである。当時の自分の中では、コーラスというと〇×合唱団みたいな大仰なイメージが先行し、こういう最小限の人数で最大限の響きを産み、清涼でありながらもドライブ感を保ったコーラスというのはそれまで聴いた事がなかった。またパワフルなのだが、腹から歌い上げたりコブシをかけまくるタイプの歌唱(父親が持ってたレコードの多くはこのタイプだった)では無いのも新鮮で親しみを感じた(その後、コブシを掛ける表現も好きになったが)。そして、子供の為に買ってきたのだが両親も結構関心して聴いていたのを思い出す(60年代、リアルタイムではあまり気にしてなかったそうだ)。大ヒット曲が怒涛の如くプレイされるが、"Bad Boy"のみヒット曲では無い本作発売当時の未発表曲。しかし子供は当然そんな事は知らなないし、疾走感ある強烈なR&Rで大ヒット曲群の中にあっても全く違和感なく聴いていた。今聴いても"Bad Boy"はオマケTrack的な物とは一線を画す内容で凄いと思う。この盤を聴きまくり、ラジオの番組表を欠かさずチェックし、年1枚~2枚くらいのペースでビートルズ(ソロ作含む)のレコードを小遣いで買っていった。

本作を聴いたあとに後期の曲を聴いたのも更に驚き(時に戸惑う事も)や、世界が広がってゆくのを感じられて良かったと思っている。こういうことをやってもいいんだと。こうしてビートルズを聴いて自分のやりたいことは電気を使った音楽だと思うようになった。当初は純粋にバンドを組んでやるイメージがあったものの、小学生時代に一緒にエレキバンドをやる友人はいなかった。そんな中、次第に後期の作品も聴きその音の多彩さや怪しい曲や音に注目するようになり、自分の興味は電気で面白い音を作りレコーディングしながら音楽を組み立てることに移行し、必ずしもバンドでやらなくてもいいと思うようにもなった。結果30歳くらいまでは宅録がメインな音楽活動をすることになった。その辺についてはこちらの私的音楽史をよろしかったらお読み頂けたら幸いである。

話をビートルズに戻すと、4人のルーツやソロ活動も含めた関りのあるミュージシャンを辿ることで、プレスリー、チャック・ベリー、ディラン、ストーンズ、モータウン、クラプトン、フィル・スペクター、ピンクフロイド、ザッパ、マーク・ボラン、ボウイといった所から、ラヴィ・シャンカール、オノ・ヨーコ、ウィリアム・バロウズ、ジョン・ケージ、カールハインツ・シュトックハウゼン、モンティ・パイソン、ボンゾ・ドッグ・バンド、デビッド・ピール・・・といった所にも行き着き、そしてプロデューサーのジョージ・マーティンのクラシック~近代音楽~ジャズの素養、コメディや実験音楽の経験、といったこれまた大変興味深いキャリアを辿ることも加えると、底なし沼の様な多種多様な音楽と巡りあう事が出来た。音楽的にも商業的にも最も成功しているロック/ポップ・グループであると同時にその多様性も最高峰といえるのではないだろうか。優れたアーティスト、モノつくりをする人というのは、様々な要素を取り入れつつもそれらを単純にトレースするのではなく、かつルールにも縛られず、DIY精神を発揮し自分ならではの物をアウトプットする姿勢があると思うのだが、それを私的に最初に示唆してくれたのもこの人達だった。

因みにこのレコード、散々聴いたのでもう盤が痛んで聴けたものではないだろうと思いきや、最近聴きなおしたら意外にまだOKな音質だった。1966年末にオリジナルリリースで、いま見るとサイケ感とオールディーズ感が混ざったジャケットが中々いい感じである。

Part 2 :野坂昭如 - 鬱と躁

画像2

小学3年か4年くらいの時、つまり78~9年頃にワーナパイオニアで掃除仕事をしていた叔父から大量のレコードをもらったのだが(検閲全くなしで、フォークからパンクまで様々だった。写真を良くご覧頂くと分かるように見本盤のシールが貼られている)、その中で極めて強い感銘を受けた1枚が野坂昭如のこのアルバムだった。マリリンモンローノーリターン、バージンブルース、黒の舟唄、サメに喰われたあの娘、黒の子守歌といった曲の数々、、、その深い歌声、楽曲の良さ、奇妙な歌詞、絶妙な音程の外し具合、力強い脱力感に小学生でも十分な衝撃と笑撃を受けた。ノリのよさ、ブラックなユーモア、言葉遊びを絡めエンターテイメント性を出しつつも、恐怖、悲しみ、戦争、人の本能、社会への警鐘を何気に表現したものが多いことに気づく。どん底なまでに絶望的だったりネガな歌詞が多いが、この歌声とそれに絡む演奏を聴くと逆説的に活力が湧いてくるのは私だけではないだろう。意外にも自身で作詞はせず他の作家陣に任せ、歌手に専念しているのだが、野坂以上の適任歌手は居ないと感じさせる絶妙なマッチングさである。実際、このアルバムを中学、高校、大学、職場、ネットで知り合ったミュージシャン達、、と時代ごとに知り合った仲間に聴かせてきたのだが、大抵の人が笑撃を受けつつも深い感銘を受けていた。日本のロック系のミュージシャンでフェイバリットにあげる人が多いのも知り、妙に納得した。また随分後になって気づいたのだがエンジニアが吉野金次氏というのにも驚いた。そして時は過ぎて2000年頃、この作品を含めたCD再発ラッシュがあり、歌手としての活動も再開。何度かその歌唱と説法を間近で見聴きすることができたのは幸いだった。御大亡き今は、乞うサブスク解禁か。また多くの人に聴いて頂きたい作品だ。

Part 3:Yellow Magic Orchestra - BGM

画像3

アルバムを手に入れたのは中学の終わりの頃だったが、音は小学6年(1981年)の時、クラスメイトに熱心なYMOファンが居てよく聴かせてもらっていた。つまり出て間もない頃に聴かせて貰っていた事になる。当時この"BGM"の前衛的な内容に戸惑った小学生YMOファンは多かったようだが、彼は"BGM"や坂本龍一の"B-2 Unit"、そしてその後のYMOの"Technodelic"も懲りずに熱心に聴いていたし、遡ってYMO以前の細野晴臣のトロピカル3部作からの曲も聴かせてくれたりもした。小学生なのに音楽を非常に掘り下げて聴くタイプの仲間だった。 自分的には、いずれもなんか変な音楽だと感じていたが、その頃ビートルズのホワイトアルバムを聴いて「なんて変な音楽だ。なんでもありだな。面白い」と刺激を受けていた事もあり、その延長線な感じで興味深くもあった。特に"BGM"は不思議で冷たく不気味な感じが強かった(今、聴いてもそう感じるが)。そして数年後レコードを買って改めて聴いてこれは本当に凄い!と感じた。これより前のYMO作品も勿論好きだが、それらに比べシンセサイザーはシーケンシャル・サーキット社のプロフェット5を最大限に活用し、クロス・モジュジーション等を駆使した複雑な倍音をもったサウンドに変貌しており冷たくも深みのある響きがすばらしい(私的には”BGM”と、ジャパンの"錻力の太鼓"がプロフェット5を最大限に活用した2大アルバムである)。前衛性とNew Waveの影響を受けた不気味なポップさが見事に融合し昇華されている。年を経れば経るほどその凄さを痛感させれられ、新たな驚きもある。
 それにしてもこのグループ、5年程度の活動期間の間にテクノポップという根幹は保ちつつも実に大きな変化を遂げているのが見事であるし、もっと幅を広げて個々のメンバーの活動履歴を俯瞰してもやはり根幹となるものを保ちつつも見事な変遷があり興味がつきない。

Part 4:David Bowie - Alladin Saine

画像4

ボウイを初めて聴いたのはラジオ流れたジョン・レノンが亡くなる直前のインタビュー番組に於いて、自身が手を貸した事で紹介していた"Fame"で、ビジュアル面などは知らぬままカッコいい曲だと思ってた。暫くして"レッツダンス"や"戦場のメリークリスマス"でリアルタイムに名前や曲を聞くようになり興味を持ち始めた。そのリアルタイムに聴いた"レッツダンス"もかなり好きなので、どっちを選ぶか悩んだが、同時期にレコード店でジャケットに慄き買ったこちらを。近年あったBowie展の宣伝では、この時の写真を使ったポスターが駅に普通に貼られまくったりしたが、当時このレコードを買うのは少々勇気が要りました。怖いもの聴きたさ半分で購入したが、期待を裏切らないデンジャラスな面白さで、ハードな音と切羽詰まるような緊張感とフリークアウト感があり、ジャケットのような先鋭さが全編を貫く。だが尖がったままオールドタイムな雰囲気や優しい面も時に出てくるのがまた面白い。特に約半数の曲でMike Garsonのフリージャズ的な面もある激しいピアノが絡む様には兎に角びっくりさせられた。この作品に限ったことではないが意外なものも含む様々な要素を、足し算でなく掛け算して膨らませて自分の物にしているのがこの人の凄い所。そしてこの人の多岐に渡る活動を追うことで様々な音楽やアートに巡り合うことができたのは言うまでもない。ラストアルバムBlack Starも素晴らしかった。

Part 5:Cream - Goodbye

画像8

これは中学生の時にまずA面のライブサイドをラジオで初めて聴いた。その時、ラジオがぶっ壊れたのかと思うほどびっくりしたのがI'm So Gladでのジャック・ブルースの歪んだ破天荒なベースプレイで、ジンジャーベイカーのドラム共々まぎれもないロックなプレイでありながらも、一般的なロックのビートとは異なる自由奔放さも感じた。唯一エリック・クラプトンは既に知っていたがこんなに激しい音楽をやってたという事も驚かされた。勿論音楽的に優れた人たちのアウトプットなのだが「バンド・アンサンブルはこうでなければならない」みたいなのをことごとく無視しまっくてる感じが最高だった。中学生的には訳の分かんない演奏を長時間よくできるなとも思っていたが、それが即興を重視した演奏だということ知ったのもこのアルバム辺りからだった。B面には打って変わって3人それぞれが主導のポップでコンパクトなスタジオ録音3曲を収録。メンバーのソングライティングの個性がよく分かる。クラプトンの"Badge"は、ジョージハリスンが参加してて中盤からのレスリースピーカーを掛けたギターのアルペジオがまさに!って感じでにんまりさせられた。最近Deluxe Editionがリリースされ、Spotifyなどでこのライブの全貌がより高音質で聴けるようになり、このトリオの自由自在さ、パワフルさを再認識した。

Part 6:Pink Floyd - The Dark Side of the Moon

画像5

Pink Floydもどれを選ぶか悩む所で、例えばPiper at the Gates of Dawn、Atom Heart Mother、これと、Wall、どれも傑作なのだが単純に4つを比較すると4つの別なバンドに聴こえてしまうほど音が違う。勿論、その間の作品を聴けばその連続性にある程度納得いくし、このバンドでしかありえない要素がどの作品にもあるので、ただ単に別物という話では全然ないのだが。という訳で、1つ選ぶとなるとベタではあるが中学時代に最初に聴いたフロイド作品であり、かつ多分一番聴いてるであろうこれになる。

当時、音を組み立ててレコードを作りたいという思いが強くなっていたのだが、このレコードは正にそんな感じの作品で、演奏とスタジオテクニックの駆使による音響に、同じくらいの重要さを感じた。売れまくった、聴かれまくった事もあり今やスタンダード音楽の様になってしまった感もあるが、仮にそんなに売れなかったレコードであったなら中々変な作品に聴こえないだろうか。実際初めて接した時はそう感じたし、まっさらな気持ちで改めて聴くと音つくりとそれを絡めた作品の構築の仕方とかがやはり大変ユニークに感じるのである。前衛的な試みが多い一方、個々の曲はある意味シンプルで覚えやすい。そういった元々はシンプルな曲を壮大で深みのあるものにする能力が他より遥かに抜きんでているのがこのグループの強みで、このアルバムに限らず売れた要因なのかもしれない。歌詞は抽象的で難しいが特にBrain Damage~Eclipseのそれは感銘を受ける内容で、この最後の盛り上がりは実に素晴らしい。

付録も豪華で、ブックレット中の立川直樹氏作成の年表がバンドを知るうえで役立った。立体的な音つくりゆえにサラウンドに適した作品であろうと思っていたが、近年、5.1ch盤や、1973年のオリジナル4ch盤を自前のサラウンド環境で聴くことができ改めて楽しんでいる。どちらも期待に応えるサラウンド感満載のミックスなのだが、オリジナル4chミックスのほうがリバーブ少な目で音像がクッキリしてて通常2chミックスとは違和感が多少あるものの、定位やその移動感強くて自分的には好み。(4chレコード再生方法に関してはこちらの拙文を参照ください)

画像6

Part 7:Emerson Lake & Palmer - Tarkus

画像7

シンセサイザーに興味を持ち、80年代半ばでもまだキーボード雑誌なんかでテクニックナンバー1奏者みたいな感じでキース・エマーソンが紹介されていたこともあり興味を持ち聴いてみたら、ぶっ飛んでしまった。まぁとにかく圧倒させられた。近年改めて聴いても素晴らしいと感じる。この作品はオルガン中心でシンセサイザーは実はそんなに使われていないのだが非常に効果的に使われているのでとても印象に残る。ジャケットの如くアホなまでに徹底的にエンターテイメントしてるのだが、グレッグ・レイクのボーカルが入るとなんか高尚なものに感じる気がするアンバランスさもいい。エマーソンを通じてバルトークやストラヴィンスキーにも興味をもつようになった。それと近年エマーソンの自伝で読んだのだが、このタルカスはフランク・ザッパからの影響も大きかったようで(当時、ザッパから譜面をもらったりしてちょっと交流もあったそう)、初っ端のリフを基に複雑怪奇に畳み込んでゆく感じとか確かにザッパっぽくもあり(具体的に言うとPound for Brownあたりか)興味深く成る程と納得した。
 それにしても以前はエマーソンについて"プレイは凄いがハートがない"とか評されていたのをよく目にしたが、いま聴くと現代のメタルやマスロックとかの極めて精密な演奏に比べて全然人間味があると感じられるのが微笑ましい。
 最後に余談だが晩年のエマーソンは、ジョン・ライドンと近所住まいで仲が良かったそうだ。ライドン曰く「グレートな男だ。俺たちを敵同士と思ってる連中が多いようだが、そんなことはない。俺たちは仲間だ」みたいなことを言っており、その死もとても残念がってたようである。興味ある方はjohn lydon、keith emersonで検索してみて欲しい。まぁエマーソンの音楽というより人柄が好きなんだろうが、PILに1~2曲ゲスト参加したら中々面白かったんではと思う・・・。

Part 8:Action! - Action Kit

画像9

これは中学2年の終わり(1984年3月)にリリースされたアクション!のデビューミニアルバム。kitと名付けられているように豊富なグッズが付いているのも特徴である。発売当時、巷のレコード店が非常にプッシュしててかなり目立っていた。当初、仲間とそのミーハーなルックスやグッズ群を笑いながらコケにした感じで見てたが、段々気になる存在にもなってきた。小学生にもわかるポップなメタル(曰く、ハードポップ・レボリューション)を標榜していて、その一環でFree Kids Concertという小~中学生なら抽選で無料というコンサートツアーをやっており、それに当選した中学校の仲間が3枚チケットあるから行かないか?と誘ってくれた。
 というわけでその年の半ばに仲間3人で後楽園ホールへ。このライブは色んな意味で衝撃だった。中学生の頃は、既に洋楽ポップ・ロックに結構親しんでいたが、本格的なロック・コンサートは未経験で、只でさえ大きな音量には慣れて無かったのに、いきなりメタルの超大音量に曝され慄いた。低域も凄まじく耳だけでなく内臓にも来た感じ。そして異様に熱狂し延々荒れ狂う観客たち。こういうノリは初めてで満員のホールで我々3人だけがただ茫然と立って観ていた。完全に浮いていた。そして肝心の音楽はメタルなんだけど本人たちが自負している通りポップスのツボを押さえた歌と曲の作りで、そこにメタルお家芸の超絶演奏もちゃんと入っており驚愕させられた。
 その後、余韻の有る内に友人からのテープコピーであったがこの作品を追体験する形で大いに楽しんだ。チープな面もあるのだが、それが良さでもあるし、何より実にパワフルで曲と演奏が良いのである。その打ち出し方はKissの影響もあるとは思うが、よりスピーディーな感じでアクション!ならではの個性が十分ある。数年後、中古でレコード盤だけ入手し時折聴き返していたが、近年にヤフオクで、会員証やステッカー以外の全てのパーツが揃った状態でゲットすることが出来、30年以上の年を経てやっとそのほぼ全貌を知ることが出来たのが嬉しい(テープコピーや中古品ばかりで済みません・・)。ついでに他のアルバムも手に入れ楽しんでいる。が、やはりインパクトと威勢はこのファースト・ミニ・アルバムが一番ある。

画像10
画像11

その後のアクション!だが、リーダー格の高橋ヨシロウさんを中心に断続的に活動を続け現在も健在である。詳しくはサイト"100000 volt club"で伺うことが出来る(サイト名は代表曲"アクション10万ボルト"から来ている)。 一方、超絶なギターを聴かせて驚かせてくれたMockこと山根基嗣さんは85年に早々とアクション!を脱退し90年代前半まで音楽活動していたようだが、その後、音楽業界からは身を引き、なんと鋼業会社の社長をしているそうだ(音楽はマイペースでやってらっしゃる様子)。こちらに当時と近年の写真が比較紹介されており大変興味深い。色んな人生があることを痛感する。

Part 9:Frank Zappa & Mothers of Invention - Uncle Meat

画像12

80年代半ば当時、ザッパの名前やその変態的な音楽の噂は聞いて興味を持っていてもレコードに妙なプレミアがつき半端なく高値になってて中々手を付けられなかった(時たまラジオでかかったり、ジョン&ヨーコの"Sometime in New York City"での共演を聴いていた程度)。満を持して87年位から旧作のCD化が徐々に始まり、その第一弾で出ていたデビュー作のFreak Out!の次に買ったのがこれ。Freak Out!も怪しいロックで大好きだったが、このUncle Meatでザッパの音楽性が想像をはるかに上回る高度な物である事を知らされた。のっけのマリンバとヴィブラフォンを中心にしたアグレッシブな合奏からして衝撃的。複雑怪奇なのだが曲が魅力的で緻密に作編曲されており、タイトル曲、Dog Breath、Pound for a Brownといった代表曲は言うまでもなく、Zolar Czakl、Project Xみたいな現代音楽的な曲ですらメロディが脳裏に残る。製作年は67年~68年で、Pet SoundsやSgt.Pepperと同じくまだ機材が限られた中、録音スタジオを楽器的に扱いライブでは出来ない実に多彩なサウンドを生み出しているのも大きなポイント。ロック室内楽~ジャズロック的なアプローチがカンタベリーシーンなどに影響を与えているのを強く感じさせられ、実際そういった人達が影響を公言しているのを目にした。随所に挿入されるフリージャズ的演奏や、ミュージックコンクレート的なサウンドコラージュもいい。

ザッパについて私感を書くと、その後の作品でよりパワフルかつ忠実な演奏家を従えライブ・パフォーマンスを極めて強化し、テクノロジー面も進化した事でアルバムで相変わらずスタジオ・マジックを披露しており、70年代の作品も多くが非常に聴き応えがある(特にGrand Wazoo, Roxy & Elsewhere, One Size Fits All, Sheik Yerbouti, Joe's Garageあたりが好き)。80年代になるとバンドは相変わらずウルトラ・ハイテクなのだが、どうもこの時期は私的にバンド・サウンドの質感がフィットしないのと、好きな曲もあるのだがアルバム単位では魅力が減ったと感じ愛聴度は下がる。ただシンクラヴィアを駆使したJazz From Hellという打ち込み物のアルバムは、このUncle Meatの延長を感じさせると同時に、現代のマスロックの幾つか(Polyphiaあたり)にも通じる事を30年以上前に(打ち込みでだが)やっている感じがして興味深く好きである。ロンドン・シンフォニー・オーケストラに演奏させた作品も今聴くと面白いし、同じくオーケストラ物で遺作のYellow Sharkはリリース時から好きである。

ザッパは常に挑戦していたと感じるが、この作品は技術的に成熟していない時代と環境で築いた一つの頂点だと思う。60年代後期、複雑怪奇で緻密な演奏、スタジオテクニック駆使しまくり、曲が良い、そんな大傑作だと思う。

Part 10:Soft Machine - 1st & "Volume 2"

画像13

CDの時代になった80年代末に入手した68年の1stと69年の"Vonlume 2"の2 in 1。写真で1stとVolume2が上下逆なのだが、そういう仕様。

1stは、ロバート・ワイアットの独特なボーカルとドラムが既に素晴らしいが、自分的には何といってもマイク・ラトリッジの歪やワウを効かせたオルガンが強烈で、カオスチックなプレイとサウンドが良い。もう一人、ワイアットと同様に後にソロで人気を博すケヴィン・エアーズは"Did it Again"と"Why Are You Sleeping"でしか歌っていないが、後者は非常にエアーズらしいのと、歌が少ない代わりにこのアルバム以外では殆ど聴けないオーバードライブ気味の唸りまくるベースプレイを全編で聴かせてくれる。繊細(でもソウルフル)な歌声ゆえハードロックとは言えないが、非常に疾走感があるパワフルなキーボード・トリオと感じる。暫く経ってから観た当時の映像ではエアーズがグラムロック時代に先駆けケバケバしい化粧をしていたのにも驚かされた。

2ndは、エアーズと交代したヒューホッパーのベースとその兄のブライアンのホーンなどその後のマシーンの特徴となるジャズロック要素が導入され大きな変化がある一方、1stのイメージも確り残っているので別バンドという感じはしない。ラトリッジと同じくホッパーもベースにファズやワウを掛けて強烈なサウンドを作り出している。音がもこもこしている録音が少々残念ではあるが、真っ当にジャズを導入するのでなくあくまで異質な音楽を創造しているのが素晴らしく、知的でありながらナンセンスな遊び部分も随所に散りばめられているのがいい。これを機にカンタベリーシーン関連の作品も聴きあさることになった。

60年代末期辺りから、ジャズ方面からマイルス・デイビスとそこから枝分かれしたグループ群、ロック方面からはシカゴ、BS&T、ピンクフロイド、キングクリムゾン、ザッパ、コロシアムあたりがジャズ、ロック、現代音楽の要素を混ぜエレクトリック音楽の可能性を広げる動きを打ち出してきており、それぞれに特徴があり多くを好んで聴いているが、このソフトマシーンを始めとするカンタベリーシーンもそんな動きの一つで、キャラバン、ゴング、ハットフィールド&ノーズ、ヘンリーカウなどそれぞれのバンドに共通項がある一方で強い個性もあり好きなバンドが多い。またジャズロックの視点でマイルス、ザッパ、シカゴ、クリムゾン辺りと比べながら聴いてみるのも共通点や相違点が感じられ面白い。

オルガンやベースやギターを歪で倍音を増やし、ワウなどのフィルターでその倍音をコントロールし色付けして行くサウンド作りはカンタベリー・シーンの大きな特色の一つで、シンセサイザーが高価だった時代、低予算でそれ的な事をやり、結果的に個性的な音となったというのが持論である。Dave Sinclair、Dave Stewart、Steve Hillage、Phil Manzaneraといった人たちのサウンドはラトリッジの手法から大きな影響を受けているだろうと感じる。そして僕の自作楽器で日々演奏しているリボンコントローラー回擦胡などの音つくりもこの方法に大きく影響を受けている。

番外編:ジャガー - Second Album

これまで自分が10代だった80年代末迄に聴き衝撃を受けた10枚を紹介しました。10代までに聴いたという範囲であっても衝撃を受けたレコードはまだまだあるので中々10枚に絞るのは難しかったです。そんな中どうしてももう一つ紹介しておきたいのがあります。千葉のロッカー、ジャガーのセカンドアルバム。ただアルバムというよりその存在と活動スタンスが自分にとって重要という事でやはり番外編としつつも、一番ディープに書くのでタフな方、お付き合いください。

ジャガーセカンド

85年か86年の事だと思うが、高校の仲間の間でUHFテレビで歌がヘタクソで怪しく派手なおっさんが自分の歌を紹介する5分番組を毎週やっているという話で盛り上がっていた。自分はUHFが観れなかったので暫く想像するしかなかったのだが、1年ほどして番組をマメにビデオテープ録画していた友人からそれを借りて観る事が出来た。

ハローーージャガーでーーーーす。みんなげんきかーーい。

ド派手な衣装とメイク、エフェクト掛けまくりの映像(サイケだが60'sなレトロ感は無くあくまで御大の世界)、歪み気味でディレイ・エコー掛かりまくりの声、ブーンというバックグラウンドノイズ・・・・

ビデオを再生した途端に壊れかかった自分がいたが、その後、始まった「アン」というバラード曲のPVを観て意外にも高校の仲間連中が言ってたほど悪くはなく、寧ろいいじゃんという印象で、次にかかった「春の嵐」という曲も大変気に入った。(以降、リンクのある曲は、ズバリその当時私が観たPVに飛びます。ニコニコ動画にアップされていました。当時のジャガーはPVで視聴するとより説得力が増すと感じるのでぜひご覧を) 確かにオッサンな歌声で歌詞も極めて聞き取りにくいのだがその唱法、音とビジュアルは妙に訴えかけられるものがあり、前者は、妖艶ながら不思議な渋さが、後者はややパンク・ニューウェーブ的な疾走感があった。他にも数曲入ってて、確かに滑稽で笑えてコケにしながら観られる面もよくわかり自分もそんな感じ半分ではあったが、その存在が気になりだした。そこで自分もUHFテレビを観れるようにアンテナを買ってきて、ベランダに長いポールを設置しそのてっぺんにそれを付け、手回しで方向を変えて、ある時はテレビ神奈川、ある時は千葉テレビ、ある時はテレビ埼玉と照準を合わせた。当時ジャガーは、地元の千葉テレビだけでなく関東域や近畿圏などの幾つかのローカルUHF局の番組枠も買取り自身のPVを流していたのである。 ハロージャガーwikipedia

当時自分は、カセットMTRを使って多重録音をし始め「ヘタでもオリジナル」をモットーに製作した作品もまとまってきた感じで、自主製作カセットや違法ハイパワー地下FM放送局とかからそれを拡散させていた(詳細はこちらで)。ジャガーの活動はそれととても重なる感じがしてDIY精神旺盛なスタンスにとても共鳴した。明らかな違いは、湯水の様に金をつぎ込むか、極力低予算で頑張るかである。そんな中で買ったのがこのアルバムであった。本八幡のジャガーオフィスから通販で買った。このセカンドは先述の「春の嵐」が収録されているのと、ハードロックな作風が多い中、極めて個性的なボーカルが炸裂している。特に「ジャガーとブルースを」で聴かせる独特なドスを効かせた汚いシャウトや、「悪魔の女」で、"♪悪魔の~"でそのドスの効かせてから、"♪オンナ~"で超ハイトーンに昇りつめシャウトする場面など巧い歌手とは一線を画した唱法に痺れる。またゴージャスな機材を使っているにも関わらず80年代インディー感満載で、逆の意味で音楽は必ずしも機材が重要なのではないという事を痛感させられる。ノリのいい曲が多いが、やや残念だったのは「春の嵐」を超える曲は無いと感じた点か。だがこのアルバムはこれまで記した背景もあり大変思い出深いのである。いい曲が多いという意味では、10年程あとになってから聴いた渋さのあるファーストのほうが好きである。先述の「アン」が入ってるのと、ディランっぽい作風が多かったり、レゲエ調の曲もあったりする。特に「ブレーキン・オン」と「アン」は名曲だとおもう。オープニングの渋くポップな「エメラルドの瞳」、ダサい音なのに数十回ほど聴いていると魅力的になってくるシンセが炸裂する「くもり空」や、ジミークリフのWonderful World, Beautiful Peopleにインスパイアされたと思わしきレゲエ調ローカルソング「船橋・市川の娘」も実に良い。現在、Spotifyなどの配信サービスでファーストもセカンドも聴く事が出来るのでぜひチェックして頂きたい。
First Album on Spotify
Second Album on Spotify
※それどころか現在ジャガーのアルバムはほぼ全作がSpotifyで聴ける

また1986年放映の千葉テレビ、ジャガースペシャルがyoutubeにアップされていた。これは先に紹介した曲の映像がまとまった形になっており初期ジャガー入門にうってつけである。

また当時の話で、自身が経営していた本八幡のジャガーカフェにライブを観に行った事もある。PVの撮影にも使われてる場所だという事がすぐに分かったが、PVでは広く感じたものの、実際は驚くほど狭かった。いまいち盛り上がらなかったライブの後、御大と握手し、大学で使っていた難解な電気磁気学の教科書にサインをしてもらった思い出もある。

ジャガーのその後は、メジャーのポリドールから何作かアルバムを出しつつも90年代中盤で疲弊し一旦音楽を休業。2005年あたりに復活し話題となり、当時出た「ファイトファイト千葉」はジャガーらしさ満点でいい曲だと思うのと当時出たアルバムTime Machineも集大成的内容を自身によるポンチャックを彷彿させるプロダクションで昇華させ新たな魅力として打ち出した中々の力作だった。80年代当時は迷惑に思っていたかもしれない千葉テレビも、千葉の名物キャラクターな扱いをするようになった。さらにここ数年、マツコ・デラックス氏の番組などで取り上げられることが多く、流石に80年代のPVで観れるような派手な体の動きは無くなったものの、相変わらずその特異なキャラとトークで話題になっている。古くからの思い出を持つ自分には嬉しい話だ。

2021年12月31日追記
この年の秋に各メディアよりジャガーは地球よりJAGUAR星に帰還したとの発表があった。近年の活躍も考えると寂しい限りだが、高校時代より様々なインスピレーションと思い出を与えてくれた事に感謝したい。「帰還」前に執筆した自伝『ジャガー自伝』が年末に出版され昨日、一気に読んだ。

この本についての感想をこちらにnoteしたのでご覧頂ければ幸いである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?