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ジャガー自伝 戦後育ちの実業家ミュージシャンのDIY精神

80年代半ばよりUHFテレビやサブカル・メディアに出現し、当時の中高生を中心に衝撃(笑撃)を与えた千葉のロッカー、ジャガーさん。私も当時そんな一人の高校生であり、それについては彼の音楽性を含めこちらで詳細を記したりもしている。そしてその後も(活動中断した時期はあったものの)最近まで突っ込みどころ満載なのに決してブレることのない姿を見せてくれていた。そんな中、2021年の秋に各メディアよりジャガーは地球よりJAGUAR星に帰還したとの発表があった。近年の再活躍ぶりも考えると寂しい限りだが、高校時代より様々なインスピレーションと思い出を与えてくれた事に感謝したい。そして「帰還」前に執筆した自伝『ジャガー自伝』が年末に出版され昨日kindle版で一気に読んだ。

想像していたよりも歳は行っており、産まれてまもなく東京大空襲で火だるまになったとの始まりに驚かされた。戦後まもなくで物や情報が少なく、手探りとDIYで様々な実験と物作りをした少年時代。特に蒸気機関、エンジンや溶接などを独学で学んだ末に高校生で三輪自動車をつくってしまったエピソード(写真あり)は凄い。そして成人し洋服仕立て等の事業を起こし成功し、DIY精神そのままに様々な規格外なことに手を付けてゆく様は実に面白く痛快そのものである。余談だがジャガーより9歳年上の私の父も、自身で本棚、ステレオ装置、ラジオ、ベランダを作ったり後年はコンピュータプログラミングをするなどDIY精神の強い人物で、多くの物事が自分でやった方が安いという時代柄そういう自給自足タイプの人は多かったようにも感じる。しかしジャガーの様に作品や行動が枠からはみ出てしまうような人はやはり特殊だったといえよう。音楽に関しては勿論若い時から思い入れがあり70年代からロック喫茶などのスペースを主宰していたようだが、ミュージシャンとしての本格的な活動は私らが知ることとなる80年代中ば、つまり40歳の頃からのようだ。

社長業としての洋服仕立て屋は一流だったのだろうし、無茶をしつつも会社や人生を破綻させないという意味では一流の計算が働いていたのだろうと思う。一方でその音楽性、芸能は唯一無二の物で、優れた面もあるのだが、良くも悪くも通底してB級以下さがあり、ある種の壊れ方が他にない強烈さで放たれていた。一般性に媚びる事無く自分が良いと思ったものを力づくで発信する。それが滑稽でありながらも大きな魅力であった。そこに"俺にもできる"的なパンク/インディーズ精神を感じ取った子供たち(私もそう)も多かったのではないかと思う。尤も彼を知れば知るほどとんでもないスケールの人という事を逆説的に痛感させられもするのだが・・・。一方で本人は、こんなことやってるやつ他にいないだろ?的な感じでひたすら夢中だったであろう事が伝わってくる。其々役割を極めた者達が集まり一定水準をクリアしたものを作るのではなく、パフォーマンスから制作まで、スタイリングからライブ設営まで、基本的には自分(ないし身内な仲間)ですべてやる(80年代は腕利きのミュージシャンが参加してたが)というのが自給自足の彼のスタイルであり、その張りぼて的な世界観に自分は強く共感する。

ジャガーが出てきた80年代半ばをちょうど境に世の中、徐々に物と情報が手に入りやすくなってゆき、安価にそれなりのクオリティで音楽が自主制作できるようになって行った。発表に使うメディアもカセットからMD,CD-R(ないしプレスCD)、そしてネット配信と変化していった。さらにここ10~15年程は録音機材、映像機材などが飛躍的に性能アップ、コストダウン、軽量化がなされ、かつそれらによる制作物の高音質、高画質発信もyoutubeや近年の各種ストリーミングサービスなどで飛躍的に手軽に成っていった。多くの閲覧数を得るには良い作品である事だけでなく、その広報の工夫なども重要だが、いまや個人レベルで全世界へ配信可能なのである。その変化は実に興味深く、近年のありようは大変ありがたいもので、自分も裾野ながらそういった流れのなかでずっと音楽活動してきたことを痛感する。そんな中でも、いやそんな中だからこそ、パイオニアがやってきたことは実に面白いと感じるし、今の時代もその精神に敬意を持ちつつ自分なりのアウトプットをささやかながらしてゆけたらと思わせる、そんな一冊である。

追記


この本を読んで、2021年の大晦日はジャガーさん年越しで古い動画を観ながら過ごした。youtubeを検索したところ、86年に千葉テレビで放映された30分スペシャル番組がフルでアップされていたのである。この中にある、「アン」と「春の嵐」のクリップで私はジャガーと出会った。近年のジャガーもユニークでユーモラスで好きだが、歳をとりライブ・パフォーマンスが落ちたのは致し方ない(只、復帰第一作の"Time Machine"は好盤である)。また90年ころのメジャーからCDを出したり、民放キー局への出演が増えたりしたものの、オチャラケ気味な要素が増えた感のある時期も私的にはベストでない("房総半島"など名曲も多いが)。私にとってのジャガーは初インパクトを受けたからというのもあるが、この映像、つまり1st~2ndアルバムの時期が最高である。このころのジャガーは、改めて観ると思ってた以上にカッコよく純粋にアーティストと言えると感じるのだがいかがだろう?

ジャガーの音源

近年の話題性に比してジャガーの作品は、多くの人に聴かれているとはいいがたいと感じる。現在、ほぼ全作品が主要音楽ストリーミングサービスより配信されているのでぜひチェックして頂きたい。

Spotify
https://open.spotify.com/artist/5LStOb23PkmxlJHFFeLCLh?si=w6JfKUpmRouV89vY-dNmRQ

Youtube

apple music

またSpotifyに私のジャガー・オールタイム・ベスト・セレクション・プレイリストを作成したのでご利用頂けたら幸いである。

こう通して聴いてみると、ジャガーのボーカルのユニークさはもちろんだが、すぐそれとわかる哀愁あるハーモニカ・プレイが絶品である(特に後期の作品で多く聴く事ができる)。

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