天国へ旅立つ際の準備

医療看護系の方なら知っているだろう旅立ちのサイン。

私の母の場合、1日の間で眠っている時間が多くなった。ご飯を食べたり、トイレに行ったり、それらの時間をすべて足しても1日2時間もない。あとはほとんど眠っている。よくそんなに眠れるものだと思っていたが、それは旅立ちの準備だったと今さらながらに知る。

生きがいや生きる目的も失っていた。以前は「あと10年は生きたい」や「おまえのために頑張る」、「寿司食べたい」とか言っていたが、そういうことも言わなくなっていた。

今思えば、「死ぬんでないかい?」と言っていたが、そのときは、まさか死ぬそうな感じはしなかったので「そんなすぐには死なないよ」と返していたが、それから1か月後に案外、すぐ死んだ。

危篤になってからは、呼吸と血圧に変化が現れた。

死が近づくと無呼吸になるのだ。母の場合は8秒無呼吸になって、そのあと息を吸い、ああーっとうめき声をあげる。このサイクルを危篤になった夜に朝方までずっと続いた。

このまま無呼吸の時間が長くなって、最終的には呼吸をしなくなると看護師さんから言われたが、朝方には通常の呼吸に戻り一晩目はなんとか乗り越えた。

だが、夕方には血圧が血圧計で測れないほど下がっていった。60くらい。そうすると、何が起こるのかというと「尿と便」を漏らす。

昔々、何かの記事で在宅介護をする際、看取りの時にものすごい量の便をするので大変だったというのを読んだことがあった。

また、自ら死を選び首を吊ったときには、同じように尿と便がでるので、ドラマでよく描かれているのは美しすぎるんだというのも聞いたことがあった。

そうか、そういうことか。

血圧が下がり、肛門などの筋肉が緩んで便などを漏らしてしまうんだと、その時知った。

母は3回、おむつを交換してもらった。

夜中にうめき声が続いた。モルヒネを打っても効かない。手をじたばた、空中でかき回すように動かす。助けを求めている顔と声。今でも忘れられない。その状態が朝方まで続いた。

2晩目も乗り越えたが、もう、回復はしないだろうと思えた。

「肩で呼吸をしている間はまだ大丈夫。そのうち、呼吸も静かになっていきます。まだ時間はありますよ。」とお医者さんは言ってくれたが、その1時間半後に天国に旅立ってしまった。

それは、ほんの一瞬の出来事。

体を拭いてもらうために、病室から出ていた私に看護師さんから声をかけられた「娘さん、来てください!」

病室に入ると、もう、母な息をしていなかった。

看護師さんが体を拭いて、一瞬目を離した瞬間に、その瞬間にあっけなく天国へ逝ってしまったのだ。

母は最期、本当に静かにスゥーっと息を引き取ったんだと思った。
そういえば、生前、「コロッと死にたい、寝ている間に死にたい」って言ってたっけ。

母の目には、うっすら涙が光っていた。

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