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[読書記録番外編]ヤンソンとムーミンのアトリエ(木之下晃) / 北欧の妖精トーベ

何年か前、映画「TOVE」を観ました。
芸術家として絵を描きながら、家族との確執や保守的な芸術界に心を痛め、同性愛が許されない時代に女性を愛し、その中で生まれた自由を求めることへの執着を痛烈に感じたことを覚えています。そんな葛藤の中から生まれたムーミンの世界。トーベヤンソンさんは自由を、生きている間中求め続けていたことを感じました。

この写真たちを見ていて、あの映画がはっきりと蘇りました。
夏の間の島での自由な暮らし(映画では殆ど描かれない)、旅の心、お父さまの芸術に対する尊敬と愛情。そんなものが散りばめられて、少し嬉しくなりました。

卵みたいな石を抱くトーベさんの写真もとても好きでしたが、緑のランプシェードが好きだったのかもしれない、と一番最後に筆者によって書かれていて、緑のランプシェードが、暗くなった世界のトーベさんの部屋で、ふわっとその場所だけを照らすのを思い浮かべました。きゅ、となります。


私はムーミンに登場するキャラクターの中ではモランがとびきり好きです。かわいらしいものや美しいものが大好きなおばけなのですが、「まあかわいらしい」と思って触れた途端に全てを凍らせてしまうモラン。自分の意思で凍らせてしまうのではなく、触れると勝手に凍ってしまうものたちを悲しく見つめるモラン。
求めるものを傷つけてしまう悲しさは、その動かない表情から痛いほどに伝わってきます。
ムーミン一家は誰からも恐れられるモランのことをとても可哀想に思っていて、その深い愛情にも心を打たれます。


トーヴェさんは、パーティーが上手で自由に踊るのが大好きだったという。この時も、きっと彼女は踊りたいから踊っていたのだろう。その踊りはまわりをほんとうに幸せにしていた。自身のために書いたムーミンのお話が、今も世界中の人を楽しませているように。

「ヤンソンとムーミンのアトリエ」木之下晃より

映画「TOVE」のエンディングでも、トーベ・ヤンソンさんは踊っていました。くるくる回りながら、弾むみたいに。劇中は俳優さんが「トーベ」を演じていましたが、エンディングで踊っていたのはご本人だったはず。私はその姿になんとなく胸を打たれて、その日夜眠るまで、ふわふわしたみたいな、不思議な気持ちに包まれていました。

そして今も、トーベさんが葛藤の中生み出したムーミン谷の、寂しくて静かで自由で、あたたかい愛情に満ちた、小さな不思議がたくさん詰まった世界は、私の心を膨らませてくれるのです。


有名かと思うのですが、島のトイレの壁の落書き、胸がぎゅうっと締め付けられるほど大好きです。

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