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セーラームーンとわたし

わたしは俗に言うゆとり第一世代であると同時に、セーラームーン世代でもある。
ありとあらゆるセーラームーングッズを持っていたが、やはり一番大切にしていたのは、セーラームーンの着せ替え人形だった。毎日毎日そのお人形で遊んでいた。ずっとずっとセーラームーンと一緒にいたかったが母から「ばあちゃんが帰ってくるまでに片付けなさい」と言われていたので、渋々その言いつけは守った。ばあちゃんが仕事から帰ってくる夕方5時をすぎると大好きなセーラームーンとはお別れである。
そんなある日猛烈な欲求にかられる。
「セーラームーンと一緒にお風呂に入りたい」
すぐに母にお願いする。しかし「カビが生えるからダメ」と言われてしまった。諦めきれないわたしは「絶対にお湯にはつけない」という約束でお風呂場にセーラームーンを持ち込むことを許可してもらった。「今日は一人でお風呂に入る!」とウキウキワクワクしながらセーラームーンの服を脱がせる。濡れないようにタオルの上に寝かせた。自分だけ湯船につかりなんとなく物足りなさを感じる。「髪の毛だけなら乾かせば大丈夫かも」と我慢できずにセーラームーンの髪を湯船につけてしまった。黄色くて長い髪がキラキラと広がる。その光景が乙女心に刺さりとてつもなくうっとりとした。満足してお風呂から出る。セーラームーンはタオルにくるんで隠した。セーラームーンに憧れて伸ばしている髪は自分では時間がかかるのでばあちゃんに乾かしてもらう。ばあちゃんの素早い乾かし方を今日は念入りにチェックした。その後、母がお風呂に入り、ばあちゃんが時代劇を見始めたのを確認し、タオルにくるんでいたセーラームーンとドライヤーを自分の部屋に持っていった。カビが生えたらバレてしまうので念入りにやるぞ。まずは髪を乾かそう。ドライヤーを握りしめる。さっきばあちゃんにしてもらったようにセーラームーンの髪をわしゃわしゃする。するとあんなにキラキラと美しく湯船に浮かんでいたセーラームーンの黄色い髪がジリジリになった。「やばい…!!」どうにか綺麗にしようとクシでとこうとするが絡まっていて通らない。必死に髪を引っ張りすぎて、先程まで美少女戦士セーラームーンだったはずのわたしの大切なお人形は、7等身の巨大金髪トロール人形と化していた。
「どうしよう…」怒られたくない一心で頭をフル回転させる。するといいことを思い出した。少し前にわたしはガムを食べながら寝てしまい、それが髪の毛にべったりひっついたことがあった。その時母は必死にガムをとろうとしたが取り切れず、仕方なく髪を一部分切ったのである。そうだ、これだ!と希望の光を見つけたわたしは引き出しからハサミを出し、セーラームーンの髪の絡まりだけを切り落とすことにした。


数分後、そこにはサボテンヘッドのセーラームーンがいた。「取り返しのつかないことをした」それだけははっきりと分かった。


そこから情緒が不安定になり、家にあった人魚姫の絵本に赤ペンで乳首を書き足すという行為をした。魔が差したとはこのことである。人魚姫じゃ物足りず家にあるすべての絵本に出てくる女の子に乳首を書き足した。シンデレラも白雪姫もかぐや姫も服を突き抜けるほどの強靭な乳首を書き足されていた。なんのストーリーも入ってこない絵本になってしまった。


それでも心が晴れないわたしは、日曜日の朝大好きなセーラームーンのパンツをスカートの中に履き公園に向かった。一心不乱に滑り台を滑りまくったのである。最初は付き合ってくれた友達もいたがさすがに飽きて一人減りまた一人減り、最終的にひとりぼっちになったがわたしは滑るのをやめなかった。時に刺激が欲しくなり、砂場の砂を滑り台にまいて滑ったりした。大食いチャレンジ中の味変と同じ感覚であろう。夕方になるまで滑り続けた。するとなんだかお尻がスースーすることに気が付いた。なんと滑り台の摩擦によりパンツに穴が開いてしまったのだ。この年はもしかしたら大殺界だったのかもしれない。家に帰ってから尻を抑えていたら母にすぐにバレてしまい、コテンパンに怒られた。セーラームーンのパンツは普通のパンツより高いことが母の怒りを倍増させたのである。怒り狂う母に犯行動機を問い詰められ、セーラームーンをサボテンヘッドにしてしまったことも芋づる式でバレてしまった。やっぱり絶対絶対大殺界だったと思う。セーラームーンにも乳首を書いていた。

それから十数年後。まだ小さい娘を連れ実家に寄った。娘が「ママ!これ読んで」と本棚から絵本を持ってきた。「いいよ!」とその本を手に取ると表紙の人魚姫の胸に赤いペンで乳首が書き足されているのである。「なにこれ!?誰よ!書いた…の……」と声のボリュームは尻窄みになった。危ない。こんな乳首本を保育園児の娘に見せるわけにはいかない。娘の手が届かないように本棚の上のほうに隠す。ついでにシンデレラも白雪姫もかぐや姫も隠す。ふぅ、危ない危ない。
桃太郎を手に取り娘を膝に乗せる。桃太郎は男の子なので安心だ。
その時わたしは気づいていなかった。桃太郎にはおじいさんと、おばあさんがでてくることを…。

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