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[小説]幻の終着点 1

首をさわる。血管がうつ。ああ生きてる。いつものルーティン。何にもない日、幸せな自分、そして中途半端な自分いつもの日常。私は日常が嫌いだった。目を覚ますと針が刺すのは午前5時、いつもよりもちょっと早く始まる今日に落胆し、迫り来る学校という義務に心拍も早くなる。ボサボサの髪をかき揚げ、そして自分の手の震えを肌で感じ自分の人より少し違うものに毎日戸惑いを感じる。午後7時学校への道、小学校男児の凍えそうな半袖姿を見てこっちが寒くなる。午後8時机に伏せて寝ていたのにチャイムに起こされまた始まるんだという残念な気持ちに押しつぶされた。私は自分のこの感情が異常で無いことを知っていて、こんな自分を可哀想だと思っている自分が嫌いだった。

「斎藤さん、今日は面談ですよ。」

さっきまで寝ていた私の肩を叩き、びっくりして振り向いた私に少し笑いながらクラスの担任の山中先生が話しかける。

「はい、すみません忘れてました。今行きます。」

私は丁寧に返事を返し、すらっとした若くて美人な山中の後をついていった。

「最近調子はどうですか。いつも眠そうにしてますが。」

「ちょっと寝不足なもので」

「ちゃんと寝ないと勉強は捗りませんよ。最近授業中寝るのも気になりますので、治そうとしてください。」

先生としての何気ないちょっとした注意だろうが、今の私には鋭い針で刺されたようなちくちくと侵食されているような痛みがする。

「すみません。」

山中は私の顔を心配そうに覗いて話を続けた。

面談が終わった後私は死のうと思ってしまった。先生の言葉に応答した一言一言の自分の言動を振り返って苛立ちを感じる。ひとり反省会の開催である。クラスの一番はじの窓側の席教室の温かくなまったるしい空気を解放し冷え切った空気を取り込む。この階から落ちたらどうなってしまうのだろうか。私は窓から下を覗き込み自分の皮膚から破れ溢れ出した赤い鮮血を想像する。再びのチャイム。朝礼の合図と同時に山中がドアを開けた。
午後5時、私はいつも通りカラオケに入る。スマホで予約した偽名を伝えてボックス席に入った。最初に歌う曲は決まっていて、歌っていて恥ずかしさが込み上げけくるラブソングを室内から漏らした。歌い終わり結露まみれのグラスを口に当てる。少しずつ少しずつ朝から大きく育っている恐怖の足跡が最大へと達した。
「やっほーみずきちゃん。今日も元気。」
一気に男物の香水の匂いが充満し、どくどくと私の心拍音が聞こえてくる。
「お久しぶりです。」
そっけない返事を返して震える手を必死に隠し、いやらしく腰に回された田中の手を今日も振り払うことはできなかった。
カラオケとラブホテル。こんなにも寒いのに上から滴れる他人の汗、勝手に口からこぼれる喘ぎ声、ああこれが日常なんだと前あんなに嫌っていた今は大好きなはずの日常はどこにいってしまったんだろう。泣きたかったのに田中に見られていると思うと泣けなかった。
「みずきちゃん気持ちよかった。」
快感なんて全然なかった。
「また今度連絡するね、次もいい子にするんだよ。」
もう連絡しないでくれ。
ドアが閉まる音がした。私はもう涙を抑えきれない。自分が嫌いだ。こんなにも汚れている自分が大っ嫌いだ。テーブルに置いてある諭吉さんを手にして分厚いドアをひく。
午後9時、家に帰ると直接お風呂へと走った。できるだけ汚れを洗い流す。全身を3回も洗った。でもまだ汚れている気がし辛かった。ご飯を食べるお母さんはあたかも私が今まで勉強していたと思って接する。私は罪悪感で満たされた。午後11時自室に入る。スマホでもいじろうとベットに横になったが何故か急に早く寝ろと山中が頭の中で話しかけてくる。寝るのは嫌だ。明日が来るから。私は頭の中の山中に反抗して机に座り数学と対峙した。しかし今日の田中との記憶が蘇り苦しみで胸が徐々に満たされてくる。もう勉強すらまともに集中もできないなった自分に嫌気がした。私はベットに入り想像を始める、いつか田中の手から私を救い出してくれる王子様の想像だ。

私は段々と学校を休むようになった。夜が怖くて眠れないくて家だけが安全地帯だった。


お読みいただきありがとうございました!!
初めて小説を投稿です!下手くそなのはご了承ください
続編は、評価が高ければ投稿しようと思っています(*´`*)


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