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2018年夏アニメ感想 ヤマノススメ サードシーズン

 登山アニメ第3シーズン。といっても、登山シーズンを終えてしまったので、今回はあまり登山はなし。普通の女子高生らしい、カラオケ行ったり群馬に小旅行に行ったりと、「番外編」的なエピソードが中心となっている。
 作品のお題目である登山からは離れてしまったが、しかしこの作品も第3シーズン。作品のコンセプト的なものはすでに了解してもらえている空気があるし、そこから離れても魅力が減退するわけがない。この作品の場合、キャラクターの強さがあるしそのキャラクターに対するユーザー達の支持も厚いから、「登山」というお題目を外しても作品が持っている個性はきちんと生きてくれる(というか登山シーズン終わってしまっている。サードシーズンは「登山」というか「小旅行」アニメ)。むしろ思い切って「登山」を作品から外したことによって、改めてキャラクターの内面をずっと掘り下げ、ゆるやかな成長のドラマにうまく変換している。登山をやらなくても、『ヤマノススメ』はちゃんと『ヤマノススメ』であり続けることが証明されたシーズンだといえよう。

 毎度のことだが、『ヤマノススメ』のサードシーズンは作画が非常にいい。「日常もの」だがキャラクターがしっかりうごく。なんでもない動きやキャラクター同士のやりとりなど、本当にきちんと捉えている。
 キャラクターの頭身は5頭身以下、頭も目も大きく、パッと見、小学生くらいにしか見えない。幼すぎる。デフォルメの強い絵だが、身体の表現は非常にしっかりしている。特に衣服に入る皺の動き。
 私はセーラー服の縫いの位置や皺の動きにうるさいのだが、『ヤマノススメ』はそんな私でも大満足。というか、勉強になった。あれだけ線の少ない、影塗り分けの少ない中で、服の厚みや質感を表現する方法があったのか、と驚いた。前回の漫画制作の前に『ヤマノススメ』を先に見たかった。ああいったデフォルメされた体型で感じさせるリアリティ……それでいてデフォルメされた表現とも乖離しない、このバランス感覚は、もっと早く知りたかった。
 作画スタッフが少なく、エピソードによってはたった1人で全てが描かれることがあるが、クオリティは高い。エピソードごとに描き手のクセが出ているが、それが嫌な感じには見えないし、むしろ描き手の個性が見えてくる画のほうが気持ちよくすらある。
 背景はいつものことだが、周到にロケーションされた上でがっつり描かれている。ここまで背景書き込まれていても、キャラクターと乖離しないものなのか……と感心した。あれくらいやってもいいんだ。

 私個人的に好きだったエピソードは第5話山形ロックハート城を訪ねるエピソード。あおいたち4人がドレスを着てお互いを撮影する。ロックハート城というロケーションの良さ、ドレス姿の美しさ、止め絵のうまさ、どれも本当に素晴らしかった。キャラクターの可愛らしさとロケーションの美しさが見事にはまっていた。
(注目すべきシーンは一杯あるが……第2話、登山靴を買いに行くエピソード、靴紐を結ぶ動きをきちんと描いているのに驚いた。あれはそうそう描けるものではない)

 ただ後半、第7話以降、あおいとひなたの間に微妙なすれ違いが生じるが……この物語運びがあまりよくなかった。すれ違わせて、後で仲直りさせる展開ですね、と後の展開が読めるし、そこへ持っていくやり方も強引さを感じた。普段のあおいなら、普段のひなたならああいう行動は取らないでしょう、と思える場面があちこちに。そういう展開を作るための段取りに見えてしまう。(似たような印象を、『けいおん!』第1期後半にも感じた)
 後半に向けてのドラマ作りだが、展開にわざとらしさが見えてしまったのが惜しい。ああいった展開がなくても、12話を迎えてぬるっと終わっても『ヤマノススメ』らしさとしての魅力が減じるとは思えないから、仲違い展開は必要なかったように思える。仲直りの描き方にしても、安っぽい言葉の掛け合いで解消されてしまう。ドラマを描くにしても、もっと静かな描き方で良かったのではないだろうか。

 季節の問題もあるが、結局のところ第3シーズンも「富士山登頂」という目標は先送りに。いや、先送りにしたことによって、第4シーズンへの期待が持てた。『ヤマノススメ』作品人気は相変わらずだし、第4シーズンは間違いなくあるでしょう。
(ただし、このまま話が進むと、第4シーズンは冬……登山描写はなくなるかも知れない。冬をスルーして一気に春がくるのだろうか? ここまで丁寧に時間の流れを追ってきたのだから、冬をスキップしてしまうのはもったいない)
 もう1つ期待したいことは、『ゆるキャン』とのクロスオーバー。作っているところが違うし、フォーマットも違う(15分と30分)から、かなり難しいかも知れないが……。
 『ヤマノススメ』と『ゆるキャン』。テーマは近いし、キャラクターの印象もそこまで遠い気はしないから、同じ世界観に同居していてもそこまでの違和感はないかと思う。そのまま合流できそうな感じがある(東山奈央は似たようなキャラを演じているわけだし)。展開としては『ヤマノススメ』メンバーが山梨へ小旅行へ行くだけでいいのだ。
 ただ、両者の目標達成場所が微妙に違うこと……『ヤマノススメ』は山頂で、『ゆるキャン』はキャンプ場。同じ場所にやって来たのにすれ違う……みたいなことになりそう。

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