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2018年夏アニメ感想 バキ

 ある時、『バキ』の公式サイトを探そうとして「バキ アニメ」と検索したら、次の候補が「ひどい」だった。
 ……うん、ひどいよね、このアニメ。

 私はまだ『バキ』の原作を読んでなくて、このアニメを入門にしようかと思ったんだけど……。ああ「敗北を知りたい」って『バキ』の台詞だったのか……まあそれくらいの初心者。

 何が酷いって、ここで書く必要はないよね。見れば明らかだから。他のところで結構書かれているようだし。だいたいみんなと同じことを感じたよ。
 まず絵が動かない。ひたすら顔のアップだけ。やっと全身絵が動いたと思ったらCG……そのCGもクオリティはかなり低い。
 たしか第3話だったと思うけど、演出を見ると「アラン・スミシー」……アラン・スミシーとは、「関わったけどその作品では名前を残したくない」時に使う名前だ。演出も匙を投げるほどに、現場は崩壊していたのだろう。
 私はNetflixで見ていて、一応、「Netflixオリジナルアニメ」と冒頭に出るのだが……Netflixアニメはこれまで作画は高いレベルで安定していたのだが、何があった? ……というくらい崩壊している。作画スタッフを見ると、ほとんど海外制作……時々、制作が日本に移ってその時はそこそこクオリティは立ち直るのだが、それ以外はだいたい崩壊。ここまでひどいと、Netflixのブランドイメージにも関わると思うのだが……監修とか何も入らなかったのだろうか……。

 ちょっと脇道に逸れる話をしよう。  これはずいぶん昔の話だけど、岡田斗司夫さんが『ふしぎの海のナディア』での出来事についてこんな話をしている。

〈引用〉
 当時、韓国政府と取引というか、契約みたいなものが成立していたそうなんです。
 韓国の作画スタジオとNHKというレベルの話ではないです。
 日本国政府と韓国政府との間で、取り決めがあったらしいんですよ。
 それは別に密約とかではなくて、もっと健全で、文化的なものです。
 日本政府が「韓国がこういう事をするなら、それに対してお助けしますよ」と申し出て、韓国側も「資金援助とかじゃなくて、文化的支援だったら喜んで受けますよ」というやりとりをした。
 その取り決めの中に「アニメの作り方を教える」という項目もあったんですね。

特集『ナディアの舞台裏』(『遺言』五章より)その(2)国会で決められた「動画や撮影は韓国に発注せよ」

 なんと国会で動画を韓国へ送ることが決まっていた! でもNHKならありそうな話。
 ……まあこの辺りは本当に昔の話。日本だけでは作りきれないから韓国へ……ではなくて、国会で送ることが決められいました、そんなこともかつてはあったそうです。こういう経緯で突如作画崩壊するってこともあった……と。

 わりと最近、電ファミニコゲーマーにNetflixアニメに関するインタビューが載っていた。これを読んでいくと……。

〈引用〉
吉川:
 アニメの製作会社は、Netflixが作品に相当予算をかけるという期待が業界内で高まっていることについてはどうでしょう?
沖浦氏:
 その点は誤解を解いておきたいところがあって、Netflixはアメリカの会社なので、ハリウッドの映画のバジェットのようにみたいに思われるところがややありますが、それは完全な誤解です。
 予算は作品がどれだけ観られるかに応じて、決まっています。だから、ものすごく多くの人に見られる可能性のあるものはバジェットは上がりますが、すべてがそうであるわけではありません。

電ファミニコゲーマー:Netflixにとって、アニメとは何なのか? 日本は世界が見たがるアニメを生み出し続けることができるのか?

 「予算は作品がどれだけ観られるかに応じて、決まっています」……じゃあ『バキ』はそこまで期待されず、お金も回らなかった……と。にしても、制作がまともに回らないくらい予算が出ないって、それはいくらなんでも絞りすぎだ(下手すると、アニメ制作の最低ラインの予算も出ていなかったんじゃないかと)。もはやNetflixが現場を殺している……みたいにも読み取れなくもないが?

 もう1つ、第1話からずっと気になっていたのだけど、エンディング最後に出てくる「バキ製作委員会」として出てくるプロデューサーの名前……多すぎ。アニメーターよりも多い。あれだけプロデューサーがいて、現場がまともに動いていないって状況的にとんでもないのだが……。

 私は原作を読んでないからなんとも言えないのだけど、話もわりとひどかった。登場人物が「噛ませ犬」と「それ以外」しか出てこない。メインとなる格闘家以外は全員噛ませ犬。この噛ませ犬がまたバラエティ豊かで……噛ませ犬演出のお手本のような話の作り。中心となるバトル以外は、ただただ噛ませ犬が出てきて、やられる……時には噛ませ犬が解説をする。プロットといえばそれしかない。
 世界中から死刑囚が脱走、日本へ集まってくる。名だたる格闘家と日本の格闘家がバトルを繰り広げ、それを止めようとした警察が次々と殺されていき……という凄惨な戦いが繰り広げられている間、主人公バキ君は何をやっているかというと……デート。もちろん、デートの途中にも噛ませ犬が出てくる(『バキ』の世界観では噛ませ犬はエンカウントするものらしい)。
 バキ君の恋人、松本梢江は本編より先にエンディングに出てくるのだけど、なんともいえない男前。バキ君よりよっぽど格好いい。男前の顔でセーラー服を着ているし、体の線もかなり太いから……「うん? 女装?」と最初の頃は思っていた。
 中盤からバキ君はひたすら松本梢江とデートを重ねるのだが……その背後、すぐ近くで死刑囚と格闘家が殴り合っている。そんな様を見ていると、お前らはいったい何をやっているのか……と問いたくなる。危険な死刑囚が日本にやってきて自分も狙われていることを知りつつ、脳天気にデートを続けるバキ君もどうかしているが。
 バトルの内容は極めてファンタジック。桁外れの超重量級がぶつかりあうダイナミックなバトルシーンが描かれる。あり得ないような技が繰り出された後に、解説役がなんとなくそれっぽい話を挿話する……「あれは……かつて聞いたことがある」と、いかにもな話が描かれる。ありそうな話をして、ファンタジーに権威付けをしている。
 これまたバトル漫画の教科書のような描かれ方だが、噛ませ犬オーディションに加えて解説で話があちこちに飛んでいくので、メインとなるバトルが、ストーリーそのものがなかなか進まないし、明らかにテンポを悪くしている。いや、そういうのはいいから。バトルそのものでバトルを解説してくれればいいから。絵に凄みがあれば解説なんて入れなくても、観ている側は納得するものだから(『はねバド!』は詳しい解説なんて何もしないけど、絵だけで充分納得できるものが作れていた)。
 バトルの脇道に話が逸れている間に、いつの間にか20分を消費。バトルの結末は次回……いや、そんなとこ引っ張らなくてもいいから。

 私がこれを書いている段階では、スペックとドリアンの戦いがようやく終わったところだが……作画や演出はともかくとして、キャラクターにはなんともいえない強烈さ、魅力がある。出てくるキャラクターがことごとくいい感じの野太い声で、耳に心地よい。
 『バキ』はストーリーがどうこうではなく、格闘家キャラがいかにユニークであるか。“ストーリー漫画”ではなく、“キャラもの漫画”だ。
 ドリアンを演じた銀河万丈……ひさしぶりに銀河万丈の「ラスボス声」を聞いたけどやっぱり貫禄がある。声だけで説得力がある。
 ドリアンの勝ちへの異常な執着もいい。屈強な男達がドリアンの前に次々に敗北し、勝ったと思ってもそれは作戦で、どう考えても卑怯としか思えないような方法で勝ちをもぎ取ろうとする。結局、ドリアンと戦った格闘家は全員、死亡か半死にの重傷。その後ドリアンは精神崩壊して最後まで負け知らず……いや、勝ちはなく「負けなかった」というだけ。戦いに対する貪欲さと執着さは本当に見事で、ドリアンは私のお気に入りキャラになった。

 原作の『バキ』を知らず、アニメを入口にしようと思ったけど、それはよくなかったようだ。Netflixではいつでも見られる作品だけど、あまりお薦めはしない。この内容なら、原作を読んだほうがいい。

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