ぐらんぶる_アニメogp

2018年夏アニメ感想 ぐらんぶる

 アニメ冒頭に、「登場人物は20歳以上です」という注意書が出る。今の時代、仕方ないか……。
 アニメのキャラクターは顔がどうしても子供っぽく見えるから、早とちりな人が「子供が飲酒をしている!」とクレームを入れる恐れがある。そういう人に向けて、大きく注意書きを出さなくてはならない。大学入ったばかりの学生が20歳越えている……という設定にちょっと「おや?」と感じるところがあるのは確かだけど。

 一応ダイビングがモチーフになっているが、海には滅多にもぐらない。だいたい酒を飲んでの乱痴気騒ぎ、ところかわまずフルチン(肌色率でいえば今期では『Free!』と並ぶだろう)。ただそれだけの内容で、豪快に笑いをもぎ取ろうとする。
 登場人物の大半は男性で、ただただバカをやって、時々ちょっといい話(かな?)をする。いつもの高松信司監督。高松信司監督が得意とするものがだいたい全部入っている。安定の面白さ、笑いどころたっぷりのギャグアニメだ。
 大学に入って、強引な先輩に無理矢理にサークルに入れられる……。個性的な先輩に振り回され、次第に同化していく展開は、部活ものギャグストーリーの王道、由緒正しき構成をそのまま採用している。それも、巨漢マッチョな男がフルチンで迫ってくる、という誰もが考えそうなネタを何の工夫もなく突っ込んでくる。いや、スタンダードな作法を丁寧になぞった作品ということだろうか。
 ギャグシーンになると顔の掘りが深くなり、凹凸を誇張したコントラストで描かれる。これもギャグ絵としてあまりにも描かれがちな画だ。この作品ならではの工夫、オリジナリティはあまり読み取れない。この作品独自の、誰も見たことのないギャグ顔の創出は見られなかった。
 が、なんだかんだでこういうわかりやすいギャグものが一番面白い……ということに行き着く。最近は『ポプテピピック』のような3周くらい回ったトリッキーな作品がブームになってしまっていたからというのもあるし、こういう素直なギャグもの、わかりやすいコントがなんだか安心してしまう。
 王道スタンダードなギャグものをベテラン高松信司が監督する。ある意味、今季でもっとも「安心できるギャグアニメ」かも知れない。

 ちょっと気になるのは映像。絵の作りが雑。といってもこれも高松信司監督のいつものこと。画作りにこだわりがないのが高松監督。
 今さら言っても仕方ないところはあるけども……。ちょっとだけ取り上げておこう。

 引っ掛かったエピソードを1つ挙げよう。8話だっただろうか……友人グループの1人に彼女ができて、その初めてのセックスという場面に乱入し、妨害を試みるという話がある。
 この話に疑問を感じた。今の若者は「彼女がいる・いない」が価値観の中で非常に大きく、それが社会性を獲得できるか否か……という話にもなってくる。私はこれまでに、「すべて現代人は社会の獲得に失敗した」と何度も書いてきた。その自覚を持ちつつ気付かない振りをし、獲得できた幸運なものに対して異常な妬みを抱いている――これが現代人の姿だ。社会の獲得に成功するか失敗するか、という不安、あるいは得られなかったルサンチマンが現代人の心理様式、行動様式に多大な影響を与えている。人によっては、この価値観が自分のアイデンティティの全てだ……という人も今どき珍しくない。
 第8話、彼女ができた友人の妨害しようという話は、まさにルサンチマンの物語だ。アニメはどうにもこの脱落者の僻みを肯定しようという立場で描いているように見える。これは、物語の作り手として、どうなのだろう?
 いやいや、そういったらこの作品は問題があちこちにある。飲酒に露出。3秒おきに問題行動を起こし、それで笑いを取るのがこの作品の趣旨だ。その中の1つを問題視するのは、あまりフェアな視点とは言えない。だいたい笑いは、不謹慎なものの中から起こる。深刻ばるものを笑い飛ばすのが笑いの本質だ。この部分を問題視するのは、単に私がここ数年、ずっと引っかかり続けているテーマだから……それだけの理由だ。
 問題の軽さ重さは描き手それぞれの問題で、単純にこの作品の描き手は問題ないと思ったから作品にした、笑いにできると考えた。素直に笑って楽しむのが正解だ。
 「性と人格形成の問題」については、別のところで書く予定があるので、そちらでがっつりと取り上げたいと思う(FANBOXのコラムで一応予定している)。
FANBOX:とらつぐみ

 季節は夏。背後には海。出てくるのはバカばかりで、見苦しいフルチンが画面一杯に覆う。しかしそのバカさ加減を含めて、なんともいえない開放的な気分にさせてくれる。夏に相応しい、清々しいまでのバカさ一杯の作品だ(ちょうど『Free!』の対比になっている。同じタイミングで映像化されて良かった)。夏にアニメ化されて正解の作品である。

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