4月11日 Apple社再びゲーム事業参戦……か、どうかわからない。
GIZMOODE:ピピン後継機!? Appleが新ゲーム機開発の噂
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最近、急にあちこちで出てくるようになった「噂話」がAppleが新型ゲーム機を作っているらしい……という話。
うーん……ありそうといえば、ありそう。
だって、Appleは『Apple arcade』というゲーム配信サービスをやってるし、それ以前に『App Store』というゲームプラットフォーマーでもある。さらに独自開発でチップも作っているわけだし、ゲーム機を作る技術もある。
ゲームプラットフォームをすでに持っていて、ゲーム機を作る技術も予算もある。なのに「ゲーム機を作る計画なんて一切検討していません。毛頭考えていません」……とか言われるとそっちのほうが信用できない。「試作機を作って検討している」、というほうが自然だ。
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Appleにとって問題なのは、ゲーム機を作れるかどうかではなく(作れるかどうかで言えば作れるし)、「事業を軌道に乗せられるかどうか」のほう。現在は任天堂、ソニー、Microsoftの3社がゲームハードで競っているけれども、昔からこの3社しかなかった……というわけではなく、色んな会社が参入しようとして弾かれてきた歴史がある。
松下3DO。バンダイのプレイディア。Appleもかつてピピンアットマークで失敗している。アタリもゲームハードを作って返り咲こうとしたが挫折。最近ではグーグルもStadiaで参戦を試みたが、壮大な計画を一部しか達成できず、地味に退場(Stadiaのサービスは今も続いている)。Amazonもゲーム配信をやろうとしたが、ゲーム内容も運営もうまくいかず、地味に退場。かつての「3大ゲーム機メーカー」だったNECのPCエンジン、セガのメガドライブ、セガサターンもある。ゲーム機の歴史を振り返ると死体の山。生き残れるのはいつも3社だけ。それくらいのゲーム機競争で生き残るのは難しい。
(その中に、日本企業が2社入っていることは実は凄いことだ。これこそ、日本が誇れること。特に任天堂はゲーム史の初期時代から勝ち上がり王者。凄い)
では、Appleが本当にゲーム機を作っているということにして、どういうゲーム機なのか、どういうゲーム機であれば生き残れるのか、という予想を立ててみよう。
画像は『Steam Deck』というゲーム機。SteamはPCを中心にゲームプラットフォームを持ち、膨大な量のコンテンツを持っていて、そこにはたくさんのユーザーがいる。そうしたユーザーに向けて、PCよりもお手軽にゲームを楽しめるように……と開発したのがこのSteam Deck。2022年2月25日に発売。
SwitchやPS5ほどの旺盛な売り上げを伸ばしてないし、ファミ通のようなゲームメディアでは売り上げデータすら出ていない(そもそも発売からそこまで日数が過ぎてないので、どの程度売り上げたか……という話題はあまり出ていない)。しかし、Steamはすでに多くのユーザーを獲得しているので、一定以上のコアユーザーがいるはずなので、利益を出すくらいには売れるはずだろう。
AppleもすでにApp StoreやApple arcadeのようなプラットフォームがあるのだから、「ゲーム専用」「もっとゲームをお手軽に」するためのゲーム機を作っていたとしても不思議ではない。Steam Deckと同じ路線であれば、任天堂やソニーと競い合わず、一定のポジションを獲得できる。
ではあえて任天堂やソニーと同じ路線で戦えるか……という話をしよう。Appleが「ゲーム機3大メーカー」に加われるかどうか?
はっきり言えば非常に難しい。Appleならば自社開発でPS5やXbox Series Xと対抗できるハイスペックゲーム機を作れるかも知れないけど、それだとPS5とXbox Series Xの市場を取り合うだけ……というオチになる。対応ソフトもPS5とXbox Series Xとほぼ一緒……それじゃどのゲーム機を買っても一緒じゃない? となる。
(PS5とXbox Series Xのまずさは、「どっち買っても一緒じゃない?」みたいに思われてしまうこと。ゲーム機としての中身、コンセプトがあまりにも似すぎている。するとどちらのメーカーに親しみを持てるか……が基準になる。性能やソフトの差は関係なくなる。この状況に陥ると、市場が分裂する)
任天堂が独自のポジションを取れたのは、PS5とXbox Series Xがやっている殴り合いに参加しなかったから。任天堂は「スペックの高さ」で勝負するのではなく「ゲームをやるシチュエーション」を提示できたから勝利できた。
すると賢明に考えると、任天堂とソニーと違うポジションを目指したほうが良い、ということになる。「スペック」ではなく、「ゲームをやるシチュエーション」あるいは「サービス」の違い。そういったところでどれだけ独自性を出せて、それが魅力的に感じられるかどうか。Appleはすでにゲームプラットフォーマーだから、それを武器に押し出していく手もある。
ゲーム機の話をすると、そのゲーム機が優れているかどうか、でまず性能の話になる。性能の話に終始してしまう。これに捕らわれすぎると、PS5とXbox Series Xの殴りあいに巻き込まれる。スペック競争の路線に加わると、2分割している市場を3分割する、ということになる。これは不毛だ。
噂ではSwitchに似た形状のゲーム機になるらしい、というけど、すでに1億台売れている市場に殴り込みをかけて、なぜ勝てると思うのか。勝とうと思うのではなく、「独自性」を示すほうが先だ。
それでも「ゲーム機3大メーカー」に挑戦するなら……。もしもゲーム機メーカーが3社しか生き残れないというのが神が定めたルールだとしたら、Appleが参戦して好評を得た場合、退場するのは3番手のMicrosoftということになる。
でも……そうなったらなったで、ゲーム業界的に面白くなるんじゃないかな。任天堂とソニーと違う、新しいスタイルのゲーム機がこの間に割って入ったら、結果的にゲーム業界全体が活性化する。そういう未来があり得るなら、噂が本当であってほしいと思える。
(今ゲーム機戦争はAMDとNVIDIAの代理戦争的なところがある。ある意味で、「3社」の競争ではなく「2社」の競争だ。Appleが加われば、正しく「3社」の競争になる。今のゲーム機は、ゲーム史的に見ても不思議なくらい「違うハードで同じゲーム」が出てしまっている。ゲーム機初期時代なら、ハードが違ったらソフトの挙動が違っていた。例えば『ぷよぷよ』のメガドライブ版とPCエンジン版ははっきり挙動が違っていた。同じソフトでも、ハードが違えばどうあがいても個性の差が生まれていた。さすがに今の時代に、「ハードごとに挙動が違う」なんて許されないけれども、そのハードならではの「特性」はあったほうがいい。Nintendo Switchは間違いなく「特性」があるから売れている。AMD、NVIDIAの競争の中に、第3局としてAppleが入ってきてくれたら、ここで間違いなく多様性は生まれる。ここで個性の差が生まれる期待ができる)