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5月19日 3Dプリンターの家に住めるの?

世界最先端の家をつくる Sphere
(スフィア)家は24時間で創る

3Dプリンターの家、日本国内で今夏より発売開始! 2023年には一般向けも。気になる値段は?

 最近は3Dプリンターで色んなものが作られているけれども、「家」を作るとどうなるか……? という話。かなり興味深い。

 3Dプリンターで家を作ると、どんな利点があるのか? まずコストがかなり低く抑えることができる。期間も早い。現実であり得ないような構造の建築、例えばSF映画やファンタジー映画でしか見られないような建築物を本当に作ることができて、そこに住むことができる。
 従来の工法では、例えば窓枠は「四角形」でしかあり得なかった。でも3Dプリンターなら丸形の窓枠でも、三角型の窓枠でも、曲面でも、なんでもOKだ。自由に建物の形を作れる。映画『ロードオブザリング』に出てきた袋小路屋敷のような、全体が球面になった家も、作ろうと思えば作れる。

 例えばこちらの写真の家。3Dプリンターで作られた家だが、制作費はなんと……115万円! 安い! しかも制作期間はたったの24時間! ここまで来ると、家具代のほうが高かったはず。
(デザイン料やモデリング料や組み立て料もあるはずだから、さすがにもっと期間とお金はかかっているでしょうけど)

 3Dプリンターだからモデリングをして、プリントすればそれでおしまい……というわけではない。当然ながら「基礎」は作らなければならないし、プリントしたパーツを組み立てるために、職人さん達を呼んで重機で持ち上げなければならない。いくらなんでも、家そのものをまるごとプリントして出すわけにはいかない。パーツごとに分けてプリントするので、「組み立て」の作業は必要となる。(そもそも家をまるごとプリントできちゃったら、運べない)
 それでも、作ろうと思えば今までより圧倒的に工数を減らし、圧倒的に価格を安く抑えることができる。

 ちょっと違う話をする。
 実は近所で、新しい家が建った。その様子を遠くから見ていたのだけど、なんとすでにできあいの「部屋」をトラックの荷台に載せて運んできて、クレーンでつり上げて、所定の場所に組み込むだけだった。見ていたのだけど、釣り上げられる「部屋」にはすでに電源コードも入っていた。
 そうか、もう現場に資材を運んで、職人が部屋を一つ一つ作る……という時代ですらないのか……とその様子を見て驚いた。
(しかし家を建てた後、一家はすぐにその家に住まなかった。たぶん、新築特有の「匂い」を避けたんじゃないだろうか)
 3Dプリンターになると、さらに工数は減る。私が目撃した「トラックの荷台に部屋を載せてやってくる」というものでも、別の場所に工場があって、そこで職人さんが部屋を作っていたはずだ。そういうものも、次の世代には3Dプリンターで、ということになる。
 そんなことを考えていると、ひょっとすると、将来的には「引っ越し」となったとき、家ごと持って行ったりもできてしまうんじゃないだろうか……。

 しかし日本における3Dプリンター建築には大きな障壁がある。というのも、日本は災害大国。どこの国よりも建築基準法が厳しい。3Dプリンターの家はすでに海外ではあるが、日本では建築基準法に阻まれて、許可が下りなかった。
 3Dプリンターなら、内部に鉄骨を入れることなく、コンクリートで成型した「塊」をまるごとつくることができるのだけど、しかしコンクリートは地震に弱い。いくら分厚いコンクリートで成型しても、そこそこの地震でボロボロに崩れる。
 それに、日本には夏冬で極端な寒暖差がある。この寒暖差にも対応しなければならない。夏になったら熱がこもってとても住めない……とか、冬になったら床が冷えてとても住めない……では話にならない。寒くなって家が収縮してヒビが入る……もあってはいけない。日本で家を建てるには、乗り越えなければならないハードルがたくさんあるのだ。

 で、上に挙げたリンクでは、スフィアと呼ばれる家が紹介されてる。いよいよその「認可」が降りた家だ。
 SF的な曲面を一杯に入れた家は……正直なところ、居心地悪そうだな、という印象はあるが。でも、従来の建築ではあり得ない形状の家がいくらでも可能、というのは夢が広がる。

 私はやはり西洋建築に住みたい。ずっと憧れの家だ。でも洋館なんてものは、トンデモなくお金がかかる。それも、そこそこ安価な予算で作れるかも知れない。そう思うとかなり嬉しい。
 一見木造に見えるけれど、3Dプリンターで作ったこれまでにない素材の建築……そういうものもあってもいいかも知れない。

イギリスのコッツウォルズ。美しい景観だ。こんな景観の街に住みたくないかい?

 ちょっとテーマから外れる話だが、3Dプリンターでいくらでも好きなように建築をデザインできるようになった……すると引っ掛かってくるのが「街の景観」だ。みんながみんな、好きなように家をデザインしたら、街は一貫性のない建物だらけで景観がグチャグチャになる。個人の自己満足で、街の景観を破壊するのは、いかがなものだろうか?
 海外では古くからある街は、壁の色や材質、屋根の色は統一するように作られている。新築であっても、これはしっかり守らねばならない。こういう街を俯瞰で眺めた時、なんともいえない整った美しさとなる。
 ところが日本ではこういうルールは京都くらいしかない。日本人は自分の家そのものは気にするけど、街全体の「景観」をあまりにも気にしない。そういう審美意識を持っている人は少ない。
 日本は「全体主義」と言いつつ、実は意外と「個人主義」の側面もあって、こういう景観を破壊しないための建物のルールなんか設けると、多くの人が怒り出す。「行政で個人の感性を縛ろうとするな!」……と。さらに日本人は、行政が提案することに対して、無条件に反発する「癖」が付いてしまっている。
(個人で「景観」という審美意識を持ち得ないのだから、行政がルールを作る……という話だけど、その前提自体が理解されるかどうか……)
 そういうわけで、日本の街は、道路は整っているけれど景観は美しくない街だらけである。どこへ行っても同じ。個性のない街があちこちに作り出されることになった。
 「景観を守ろう」「個人の自由を阻害するな」の対立が起きそうだ。
 3Dプリンターで自由に家を作れるからこそ、むしろ逆に「景観」を重視して、整った街作りを……とはいかないものだろうか。京都のような昔ふうの雰囲気のある街を作るのもいいし、例えばイギリスのコッツウォルズのような一角を作ったりとか……。
(街の中に、いきなり赤と白のしましま模様の豪邸が一軒だけあったらビックリするけれども、そもそも区画全体がそんな感じだったら……ちょっと怖いか。でもそういう話だ。一件だけ突飛な建物がある街、じゃなくて、「区画」単位で景観を作る。そういう発想を持った方が、より美しい街に住める)
 自由に作れるからこそ、作るのは「家一軒」単位ではなく、「区画」ごとで考えていく……というわけにはいかないだろうか。
 といっても、そういうものを打ち出せる感性豊かな“長”が日本にはいないっていうのがな……。日本で政治を目指す人に、そういう美的感性のある人はいないものね。そもそも“長”になる人に審美意識がないから、この話も意味がないか……。

 技術があっても、最終的に「構想」できる人がいなければ、どうにもならない。3Dプリンターの家が普及してきて、「景観」の話に進むのはいつだろうか?


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