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2018年秋アニメ感想 BANANA FISH

 ストリートギャングとマフィア、ドラッグとアニメではあまり取り上げられないユニークなテーマをがっしり描いた作品。後半戦は一地方の抗争に留まらず、政府、世界を巻き込んだスケールで展開していく。

 さて13話、オーサーとの対決で幕が開けるわけだが、ちょっと残念な感じになっている。アッシュが銃とナイフだけで突撃し、無双するのだが、立ち回りに無理がある。弾丸が不自然にアッシュをよけていくし、敵がわざとらしく死んでいく。
 アクションは第1クールほどのエネルギーはない。そろそろ絵に疲労が見えてくる頃で、アクションだけではなく、キャラクターのデッサンも崩れるし、構図も後半へ行くほどどんどん単調になっていく。1クール目のポテンシャルを維持したまま……というわけにはいかなかったか……。
 これなら分割にしてもう少し余裕ある体勢で作ってほしかったな……。あと、アクションシーンは専門のスタッフを付けてほしかった。銃撃戦の立ち回りがどうしてもわざとらしさがあるし、画としても力強さがない。アクションはやっぱりその筋のプロが担うべきだったんじゃないかと。

 それはそれとして、オーサーとの戦いが終わり、精神衛生センターに監禁されるアッシュ。アッシュは面白いキャラクターで、「捕らわれ姫」と「騎士」の両方の役割を1人で演じてしまう。美貌の少年であるアッシュをみんな捕獲したがっているし、自分の所有物にしたがるが、アッシュはあくまでも飼い慣らされてない野生のヒョウ。監禁されてどうなるかと思ったが、自力で脱出してしまった。
 脱出劇はこういった作品の見所。回りがいろいろ動いてどうなるかな……と思ったら結局自力で脱出。それどころか潜入しようとして捕まりかけていた2人を救出するというおまけ付き。アッシュの万能さはわかるが、脱出劇の緊張感が弱くて残念。
 アッシュは「捕らわれ姫」と「騎士」の役割を属性を持っている、ある種完璧な存在。それゆえに、どうにも(ある意味でのヒロインである)奥村英二になかなか活躍が回ってこない。アッシュの強さは魅力的だが、強く設定しすぎている感じはある。

 ついにマフィア界の変態王ゴルツィネに捕らわれ、その養子となるアッシュ。『BANANAFISH』は歪んだ愛の物語だ。ゴルツィネはアッシュにさんざん手を焼いているが、しかし未だに愛し続けている。愛しているからこそ側に置き、半ば監禁状態に置き、精神的に破滅させようとする。時にDV夫のようにアッシュを殴りつける。ゴルツィネにとって感情をかき乱す存在であるのに、決してアッシュを追放しないし、殺しもしない。愛情と憎しみが危ういバランスで拮抗し、そのエゴをアッシュに注ごうとする。
 もう1人の変態、李月龍。李月龍は全てが憎いし、“愛”という感情を持つこと自体に怯えている節がある。李月龍はアッシュと奥村英二との関係に嫉妬し、英二のみを殺そうと執拗に追い回す。アッシュへの妬みだけで破滅させてやりたいと願う、とんでもない変態だ。
 変態に囲まれるアッシュだが、隠れ家では奥村英二と疑似家族、疑似夫婦としての平穏な時間を過ごしている。物語は過酷に、血生臭い展開が多くなる中で、英二とのまるで夫婦のような描写もまた深く掘り下げられる。
 夫婦的な描写だが、かといって肉欲的に求め合う場面は描かれない。(同じ部屋で寝ているのに)プラトニックで潔癖な関係。ゴルツィネと月龍との変態的な肉欲、一方的な搾取が描かれるのに対して、英二との関係はひたすら美しいものになっていくし、描写としても穏やかなものになっていく。この辺りの対比もなかなかいい。
(印象的なのが後期エンディングの絵。草原の中、夕日の眩しい光を浴びている英二。その英二をまるで遠いものを見るかのように立っているアッシュ。……2人の関係性、理想化される英二と、愛しく感じているが距離を感じているアッシュの心理が絵にされている。ただこのエンディング、実際に放送で流れたのは数回しかない)
 この関係の中に、女性はほぼ描かれない。というか『BANANAFISH』にちゃんとした女性キャラクターはほぼおらず……マックスの奥さん……ジェシカだったかな。ジェシカは唯一といっていいくらいの女性キャラクターだが、この作品に出てくる女性は主張が強く高圧的で、くつろげる環境を作ってくれそうな感じが全くしない。この女性に対する奇妙な距離感は何だろう?
 ヒロインに女性が出てくる……という展開もあり得たかも知れないが、男同士だったからこその、肉体を絡めない愛の物語が生まれている(アッシュは性的に搾取されまくってきた人だから、性的な関係を意識しない相手を求めているのだと思う)。主要キャラクターがみんな男性だったからこその、「変態性」と「純潔」の対比が生まれたように感じられる。

 物語の後半、この混沌とした物語をどうやって収束させるのだろう……と思っていたら、終盤で現れたのがエドアルド・フォックス。もとフランス傭兵のキツネだ。
 フォックスは物語に引導を渡すためにやってきたデウス・エクス・マキナで、ここまで物語のラインが複雑になりすぎると、こういった役割が必要になるのはわかるが、登場が唐突すぎて少し残念な感じがある。都合のいい存在になってしまっている。そこまでの物語ががっちり作られていただけに、外部から迷い込んできた感じがしてしまう。雇われ暗殺者にはブランカがすでにいたから、ポジションが被ってしまうのもちょっと引っ掛かる。

 さて、最後にゴルツィネを演じた石塚運昇について。今年8月13日、突然の訃報の知らせが入り、もしかしてゴルツィネ役は変わるんじゃないか……と思ったが、最後までしっかりゴルツィネを演じてくれた。どうやらだいぶ前に全ての収録を終えていたようだ(この辺りの正確な事情は知らない)。おそらくはテレビシリーズとしては『BANANAFISH』が遺作になるのだろうと思う。
 石塚運昇が演じた最後のキャラクターとなったゴルツィネ。マフィアのボスらしい力強さ、危うさ、時折見せる変態性……全てを十全に備えた存在だった。高圧的な男性、あるいは良くない意味での父親的存在。ただの悪役に納まらない強さと恐さを兼ね備えたキャラクターを見事体現していた。
 そのついでのように語ってしまうが、アッシュを演じた内田雄馬も素晴らしかった。単なる「いい声」ではない。凶暴さと迷い、その一方で英二といる時の「飼い猫」感。普通のアニメキャラクターではなかなかない複雑な経歴だし、一筋縄ではいかないシーンばかりだったが、どの演技も素晴らしかった(もちろん「キャンディーバー」も)。石塚運昇や平田広明といった大ベテランを前にして堂々たる演技。たぶん、私は内田雄馬を今年のベスト声優に選ぶんじゃないかと思う。

 舞台をアメリカにして、ドラッグをテーマに扱う。ユニークな試みだと思うし、文化面について調査しなくてはならないところは相当あったはずだが、本当にしっかりした作りで、まるで海外ドラマを見ているような作品だった。このまま実写化してもいけるんじゃない……というくらい。アニメの裾の広さを見せた作品だった。

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