ヒナまつり_pv1

2018年春期アニメ感想 ヒナまつり

 異空間から唐突に女の子が現れ、若いヤクザと同居する……というコメディ作品だ。
 まず絵が非常にいい。身体の捉え方や動きがしっかりしている。冒頭のヒナが現れるシーン、新田の服の内側にも空気が強く流れ込んでくる。こういった描写の細かさがいい。作画の高いポテンシャルを持ちつつ、なんでもない日常ものという舞台をしっかり描いている。シンプルな線で作られたキャラクターはギャグものと相性がいい。

 しかしギャグ作品として見ると、ネタの一つ一つが弱い。いまいちクリティカルではないネタに、リアクションが大袈裟。新田はいつも漫才風のスピーディな突っ込みで返すし、三嶋瞳は常に全力の「ええええええ!」と声を上げる。そのネタに対してその熱量での返しはおかしくないか……という微妙なズレを感じる(「あ、いったー」は好き)。このズレがなんとも居心地が悪く、全体的に滑っているような印象になってしまっている。あと『ターミネーター』ネタって何番煎じだよ!
 設定の作りも雑で、超能力設定が活用されたのは最初のうちだけで、その後は完全に忘れられる。超能力設定が残っていた頃で、唯一クリティカルに思えたシーンが、超能力あっち向いてほい。作画の良さと超能力設定、描写の面白さが噛み合った唯一のシーンだろう。

 間もなく超能力設定は忘れられ、中学生の日常物語になっていく。ヒナは定期的に超能力を使わないと暴走する設定があったが、それもなくなってしまう。
 アンズはホームレスとして生活していくことになり、重い荷物を毎日運んでいるが、なぜそこで超能力を活用しないのだろうか……と疑問に思う。という以前に、登場した瞬間のあの強気で快活な性格はどこへ消えてしまったのだろう。ヒナの設定にしてもアンズの設定にしてもあまりにも軸がぶれすぎ。

 作品の特色として、中学生があまり一般的ではない社会に触れていく物語……というものがある。ヒナはヤクザだし、アンズはホームレスだし、瞳はスナックのバーテンダー……バーテンダーはまあ一般社会に接しているが、中学生が就く仕事ではないだろう。中学生が社会体験していく、という展開に面白さは確かにあるし、作品の個性になっている。
 ただ描写自体が雑。ヤクザはいつの時代のヤクザだ、という感じだし、ホームレス時代のアンズは暴走族の衣装だが、その暴走族もいつの時代だよ、という感じ。もっと現代のヤクザなり暴走族(今いるのか?)なりをきちんとリサーチした上で描くべきだったんじゃないだろうか。
 ギャグ作品は固定概念として拡散しているものを読み取り、それをパロディとしての笑いに変えていく……というのが基本的な作り方だが、パロディが描くイメージがさすがに古すぎる。90年代頃のお話だろうか……と思ってしまった。
(あまりにも最新の世相を取り入れるとわからいという人が出てしまうし、生々しすぎて笑えなくなる……ということに対する配慮かも知れない)
 中学生が大人社会に接する、という面白さはあるのだから、この社会の描写にもう少し“現代”を取り入れて欲しかった。小手先の笑いに終始し、その笑いもたいして面白くない……この辺りが残念なところだった。

 絵の良さや設定の面白さは間違いなくあるのだが、肝心のギャグが弱い。ギャグに驚きがないし、テンション感がおかしいから、ここに面白さをなかなか見出せない。
 ただやっぱりシリーズ作品らしい成長の物語がある。ヒナとアンズの設定ブレに目を瞑れば、2人の女の子の成長物語として読み取ることができる。感情の起伏がなく、他人に無関心だったヒナが少しずつ情を持ち、新田もヒナをやっかいな同居人というよりほぼ娘として受け入れるようになり、この関係性にドラマが生まれていくる。
 アンズは初期の攻撃的な性格からの挫折、転落を経験し、ホームレスでの生活で生きていく苦労を知り、他人への感謝を知り、そのうえで中華料理屋店主に引き取られていく。流浪の物語であり、流浪の末にごくごく普通の暮らし、日常を獲得していくドラマである。初期設定はどこへ消えたのか? という疑問はずっとつきまとったままだが、物語として見ると良かった。
 不思議なポジションにいるのが三嶋瞳だ。なぜかバーテンダーをやることになり、そこから様々な大人の職業体験を通して、思いがけぬ社会性、才能を見付け出していくことになる。ここにドラマはないのだが、瞳の設定はちょっと面白い。三嶋瞳はある意味で“成功者”になっているのにも関わらず、自身でその才能を自覚していないのだ。
 中学生が“非日常”の社会を体験する……という物語カテゴリーの中に放り込んで見ると、三嶋瞳のパートはかなり個性的なポジションを持っている。この切り口は私もかなり気に入っていて、面白い描き方だと思った。

 3人の中学生がそれぞれ大人の社会を経験していくコメディだ。この切り口は面白いが、ギャグ作品として見るとちょっと弱い。が、後半、初期設定が完全に死んで、新たな設定に刷新する頃になると不思議と笑いも乗ってくる。初期の落ち着きのなさがなくなり、安定した面白さを持つようになった。
 変節していく設定、各キャラクターの立ち位置の変わりようなど、展開自体は面白いし、面白い視点を持っている作品だと感じられた。それをコミカルなイメージで柔らかく語り綴っているのもいい。足りないのは現代という視点、それぞれの社会が持っているディテールだろう。こうしたところにもう少し厚みがほしかった。

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