7月15日 実は「アニメ業界の問題を改善して欲しい」とは思われていないのではないか?

「好きなものを仕事にしているのだから、その業界の悪しき因習を全て受け入れろ」
 ……と、いう考え方は嫌い。
 好きな仕事だからこそ、問題点を指摘し、改善したい……というのは普通の発想だと思うのだが。どういうわけだかこの発想は大多数の人にとって「NO!」のようだ。

 よくアニメ業界のブラック体質問題の話になると「そういう業界を自分で選んだんだから自己責任だ」という意見が出てくる。ニュースサイトのコメントを見ると、こういう考え方の人が多数派のようだ。
 あたかも問題があっても声を上げてはならない。我慢すべきだ。業界特有の問題を改善する……という考えを持ってはならない、みたいな意見だ。こうも色んな業界のブラック体質が問題視される昨今だというのに、アニメ業界だけは特別例外。むしろブラックであって欲しい……と言っているようにすら聞こえる。

 これはやっぱりこういうことだろう。
 アニメに関わる人、アニメに携わる人達は、自分たちより下であって欲しい。そういう願望に基づくものだろう。
 この辺りの話も、単行本『ProjectMOE2』のおまけ漫画で描いたけれども。
 自分たちの自尊心のためにも、アニメを作っている人達は底辺であってほしい。より身近に感じる職業に関わる人が自分より下だと安心できる……自分たちの立場が悲惨だと思わずにいられるから。作っている人達の生活も、作品と同じくらい安っぽいものであって欲しい。
 そういうところだろう。
 詳しくは『ProjectMOE2』のおまけ漫画で。

 アニメ業界の問題を改善するには?
 これは下っ端がどうこう言っても解決しない。トップに立てた人が問題意識を持って取り組むことだ。「正しいことをしたければ偉くなれ」とあの老刑事も言っていた。
 問題は、この業界でトップに上がった人の中で、コンプライアンスを口にする人が全くいないこと。変える気のない人達がトップに立ってしまっている。

 賃金問題にしても……私が知っている時代は動画1枚150円だったが……これって今でも同じなのかな?(その後、調査していないんだが)
 その前の20年くらいずっと同じ賃金で、その後も同じ賃金……。世の中の物価がこれだけ変動したのに、賃金が変わってないって相当クレイジーなのだが、クレイジーであることに内部の人はほとんど気付いていない。「それが当たり前だ」と思い込んでしまっている。普通の企業なら賃上げがあってもいいもの。

 アニメ業界を改善させる手っ取り早い方法を挙げると、(これまでにも書いてきたけど)儲けることだ。儲けて、その儲けをきちんと自分たちのところに入れることだ。
 アニメの問題であり奇跡は、マネタイズに失敗し続けたことだ。失敗し続けたのにも関わらず、なぜか出資する人が絶えず現れ、現在まで存続し続けた。こうも赤字を垂れ流してきて、よくも絶えることなく(産業として文化として)生存できたものだな……とは思う。
 しっかり儲けて、儲けた金で設備投資、技術革新、賃金問題解決。もっとも、「アニメで儲ける」ことが一番難しいのだが。
 「技術革新」の問題はあまり挙げる人がいないのだが、そろそろ従来の技術では厳しくなってしまっているところがある。従来のやり方のままだと、どうしても舞台のスケールが小さくなる。広げることができない。どうしてアニメは日常ものばかりなのか、というと小さなスケールでしっかり作り込めるからだ。下手にスケールの大きな話をすると、舞台設計がガタガタと崩れて、紙芝居になってしまう。活劇シーンも、キャラクターもちょこちょこっと動かすだけ。今までのやり方だとどうしてもこの辺りが限界になってくる。観ている側も飽きる。今までにないものを見せるために、新しい技術は絶対に必要だ。
 スケールの話だけではなく、やっぱり同じ技術だと、どうしても似たり寄ったりな作品ばかりになるのは当然。せいぜい「絵柄」が少々違う……くらいの個性しか生み出せない。新しい技術でルックスそのもの、絵の質感を変える……という発想は大事だ。

 これまでのやり方で本当に正しいのか。例えば、アニメは今、AmazonプライムやNetflixを通じて世界が視聴者になっている。雑誌のインタビューで見たが、Netflixアニメの視聴者は海外のほうが多いそうだ(Netflixは再生数や視聴者数を公開していない)。
 「アニメは世界で人気」これは本当だ。しかし日本に向けて、小さくグッズを売るくらいしかやっていない。もっと世界に向けて商売する方法はないのか、考えるべきじゃないだろうか(中の人はとっくにやっているとは思うが)。

 差し当たっては、業界トップでもない私たちにできることは、「こういう問題がある」という事実を拡散していくことだろう。どうも製作委員会の中には、自分たちの仕事を請け負ってくれている人達がどういう状況で働いているのか、把握していない、理解していない人が本当にいるらしい……という話を聞いたことがある。そういう人達に向けて、「コンプライアンス」の意味を含めて、業界の問題を知らせることが大事だろう。

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