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2018年夏アニメ感想 はねバド!

 女子バトミントンをかなり硬派なイメージで描かれた作品。良質おっぱいアニメである。

 キャラクターの描き方がいい。リアル寄りな身体表現で、特に試合シーン、腕の筋肉、脚の筋肉の動きがしっかり描いている(脚の筋肉の盛り上がりが描かれている少女キャラは珍しい)。やらしくならない程度に、少女らしい体つきが表現できているのもいい。試合シーンに登場するユニフォームは、洗練された格好良さと可愛らしさ、それからゆるやかなエロさも出ていて、なんともいいがたいデザインになっている。
 線はかなりしっかりくっきり。女の子を主役にした作品としては、珍しいくらいに線の圧が強い。眉間の皺、瞳回りの線もくっきり描かれて、深刻な顔をしているとちょっと男前に見えてしまうこともある。
 身体、筋肉の表現がややリアル寄りな感じもあるのだけど、それでいて大きな瞳、大きすぎるリボン、大袈裟なフリルが付いていたり……と、漫画らしい嘘がいい案配に同居していて、ちゃんと成立している。個性の立たせ方としてもいいし、この思い切ったところが心地よく感じられる。
 なにより、ほどよい大きさのおっぱいだ。変に大きすぎず、服の上にバストラインを描くような変な主張はないが、しかし存在感を示すには充分な大きさと形。動き方・揺れ方もおっぱいだけに視点を集中させるのではなく、全身、特に腕の動きとの連動が描かれ、自然に感じられる。毎話毎話、いいおっぱいを見たな、という好印象で終えられる。素敵おっぱいアニメだ。

 あと、オープニング楽曲「ふたりの羽根」(Yurika)は今期一番のお気に入り。

 圧巻なのが試合シーンだ。こういった激しい動きのあるアニメーションは、腰や膝当たりでフレームを切った方が楽になるのだが、足下まで描かれているカットが多い。足下を描くことで、シャトルを追う視線の動き、脚の動きに嘘をつけなくなるから恐ろしく大変になるはずだ(昔のアニメではコートの大きさはその時々の都合でいくらでも変わるものだった……)。『はねバド!』の試合シーンは、足の運び、シャトルの動き、ラケットを振る手の動き、姿勢の崩し方……そのどれもが妥協なく真っ正面から描いている。もはや執念に近いアニメーションだ。
 おそらくはロトスコープ……実際の選手の動きを撮影して、それからアニメーションに落とし込んだのだと思うが……。某ラジオでそういう話をしていたような記憶がある(何のラジオだったか忘れちゃった)。ちゃんとした映像資料を作った上での制作としても、ここまでのクオリティになると相当な苦労があったはずだ。
(最近のスポーツアニメは、実際の選手の動きをコンテ通りに撮影する……という作業が入るようになった。スポーツアニメは、なんならラケットを振るそれっぽい動きを描いて、あとは全体の流れでそれっぽく見せればらしくなるのだが……もはやそういった小手先のごまかしでは視聴者を納得させられない。時代がアニメにそこまで求めている……ということなのだろう)
 ラケットが追いつかず、端っこでシャトルに当てちゃった時の動きとか、追い切れず転んじゃう瞬間の身体の動きとか……どの動きを見ても見事だな、とただただ感心するしかない。キャラクターの動きが「それっぽい動き」という書き割りではなくて、本当に空間の中を動いて、間違いなく試合をしているという凄みがある。
 それに、やっぱりおっぱいの動き。巨乳キャラの試合シーンは、わざわざ2コマ~3コマ、おっぱいに弾みを作るための動きを余裕として作っている。このささやかな巨乳表現がなんとも品がいい。納得のおっぱいだ。

 試合シーンの最中にもストーリーが進行しているのもいい。回想シーンに頼らず(多少は挿入されたが)、スピーディに試合シーンを進行させつつ、登場人物の感情の変化……葛藤とそれを乗り越える過程が描かれ、場合によってはその周囲の変化もしっかり描かれている。アニメーションとドラマの関わりがうまくはまって、素晴らしい試合の作りになっている。

 日常シーンも素晴らしく、第1話の冒頭、教室の中を移動カメラふうの動きで机を捉え、主人公が登場するまでが描かれる。次のカットで望遠レンズ風の描写で主人公のいる前列にピントが合わせられ、2列目以降がピンぼけしている。ちょっとした見せ方だが、小粋だ。なんでもない見せ方だが、アニメでこういうふうに描く人が本当になかなかいなくて……。
 第2話だったと思うが、部室のシーンで、キャラクターの移動をハンディカメラ風に作られている場面があった(ただしくは付けPAN)。足下の動きが怪しくなりやすい描写なのに、よく描くな……と感心してしまった。
 キャラクターの歩く場面でも、『はねバド!』は足下まで描かれることがかなり多い。最近のアニメでは、腰から上でフレームを切って、上下のローリングだけで表現されることが多いのだが、『はねバド!』は意外とこの手法を使わず、ちゃんと足の運び、肩の動きを描いている。
 惜しいのはその時のパースがあやふやになっているシーンがややあるのと、動画マンの力量。中割絵が崩れがち。線割くらいきっちり描け!って言いたくなる。動画マンの育成がうまくいってないのだろうか……とか思ってしまう。(動画中割がうまくはまっていると、いい動画になるのだが)

 気になるのはストーリー。
 主人公は羽咲綾乃だが……羽咲の葛藤や解放があまり描かれない。第2の主人公である荒垣なぎさのほうが主人公らしく見える。
 羽咲との試合でスランプに陥った荒垣が、試合を通して解放され、元の自分を取り戻していく。その後、荒垣は仲間達を助け、膝が故障するかも……というリスクを抱えながら、羽咲との試合に挑もうとする。と、主人公らしいプロットがしっかり描かれる。
 一方の羽咲は、劇中最強キャラ、という「設定」として出てくるだけで、あまり主人公らしいドラマはない。「才能」1つで勝ち上がってしまうキャラなので、荒垣のように練習練習を重ねて這い上がっていくようなドラマがない。羽咲は主人公キャラというより、主人公のライバルキャラ……というポジションに見える。
 羽咲のキャラクターはどちらかといえば「狂人」。物語を追いかけていっても、葛藤と、それを乗り越えるプロセスがほぼ描かれない……なにしろ実力はずっと最強のままだからだ。最強で、そのうえに精神的に病んでいる。荒垣のように苦労を重ねて……みたいな描写すらない。見た目がかわいい意外にあまり魅力的ではない。

 行動原理がいまいち読みづらいキャラクターたちがいるのも残念なところ。コニーはさんざん羽咲を挑発して、それが原因で羽咲は精神的に狂っていったのだが、9話では「家族になろう」と誘う。コニーというキャラの軸がどっちなのかわからないし、「お前のせいで面倒なことになったんでしょうが」と言いたくなる。
 問題なのが羽咲母・有千夏。ある日、(病気で寝込んでいる)娘に何も言わずに海外へ行き、その先で出会った少女を「娘」にしてしまう。実の娘については手紙すら寄越さず数年間放置で、ある日戻ってきたと思ったら「家族になろう」と言い始める。さすがに殴りたくなる。(思えば羽咲が原因で荒垣もおかしくなっていた頃があったし、その羽咲がおかしくなる原因を作ったのがこの母親……諸悪の権化じゃないか)
 第8話、石澤のうるさいコーチ。試合終わり際になって、人格がコロッと変わる。なんなんだお前は。

 クライマックスは2話にわたる羽咲と荒垣の壮絶な試合シーン。描写があまりにも見事。リアルな立ち回りと、アニメーションでしか描けないようなクローズアップ、アクションがうまく組み合っている。体力の限界を越えた試合を続ける荒垣。次第に顔が男前になっていく羽咲。ただ試合シーンを描くのではなく、キャラクターが持っているドラマと見事に噛み合っているし、試合を通して葛藤を乗り越えていく過程が描かれている。いきなりバトミントンアニメの決定版が生まれてしまった。
 その結末として、悪(男前)の性質を体内に飲み込んで、自身の1つにしてしまう羽咲。これも成長物語の1つの形なのかな……と妙に腑に落ちるものがあった。

 引っ掛かるポイントはあるけれども、その他の多くの選手のドラマは本当に素晴らしく、惹き付けられるものがあった(引っ掛かるポイントが主人公グループ……というのが気になるところ……)。圧巻の試合シーンと選手の感動のドラマ、スポ根アニメらしい熱さと清々しさのある作品。そして、注目べきおっぱいアニメ。いい作品に巡り会えて良かった。

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