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2018年冬アニメ感想 A.I.C.O Incarnation

 セーラー服……いいっすねぇ。セーラー服の女の子は見るだけでも元気が出る。カフスと襟の描き方がちょいおかしいけど。私がセーラー服監修してやんのになぁ(←なに言ってんだ?)

 ファーストインプレッション。
 キャラの線が妙に濃いし、色もやたらくっきり。なんか、最近のアニメじゃないみたいだなぁ。
 カットの流れも、いちいちキャラのアップショットを入れて「はっ!」と合いの手を入れる。私は「声優方言」と呼んでいるのだけど、今時ここまでしつこくやるアニメってそんなないよなぁ。
 やっぱり最近のアニメじゃないみたい。
 世界観はちょい未来の日本。マターと呼ばれるぐちょぐちょした怪物に浸食されつつも、人々は日常を送っている。マリグナントマター浸食域と呼ばれる区域に、ダイバーと呼ばれる人達が人工生体を使用した強化スーツを身にまとい、入っていくわけだが……これがちょっと懐かしい感じのバトルスーツ。昔、こういうアニメよく見たなぁ。バトルスーツを身にまとい、エイリアンと戦うアニメ。それが、今では近未来の日本が舞台だ。
 とにかくも色々あって、生け贄の少女を護衛しつつ、プライマリーポイントと呼ばれる場所を目指して行く……というストーリーだが、この設計もどこかのアニメで見たような気がする。なにを見ても、懐かしさが先に立つ。
 ……うーん。
 このアニメ、ひょっとして元ネタ作品があるんじゃないかな。具体的に「これ」というのは思い付かないけど、どの要素を見ても何かしら記憶に引っ掛かる。
 懐かしいというか……キャラの描き方や台詞の掛け合い、バトルスーツに生け贄少女というモチーフ……見ていると80年代あたりに引っ張り込まれるような感じがする。でも2018年の作品なんだよなぁ、と不思議な気分になる。もしかすると、そういう「ちょっと懐かしのアニメ」みたいなのを目指した作品だったのかも知れない。具体的な作品タイトルが出てこないのだけど……。

 とりあえずアニメの内容について。
 マリグナント・マターと呼ばれる怪物。こういうぐちょぐちょ系の作画は、恐ろしく大変なわりに、アニメではあまり画面映えしないんだ。『A.I.C.O』は相当頑張っている。ぐちょぐちょした生き物が這い回る動きを頑張って描いている。止め絵を使わず、毎回毎回しっかり動いているし、変な作画崩壊もしていない。けれども、思ったほどの効果は出ているようには見えない。なぜなら、アニメは質感が乗らないから。
 アニメは基本、シンプルな線と色彩のみで表現するから、こういうぐちょぐちょ系のモンスターをなかなかうまく表現できない。仕上げ前よりも、むしろ線画段階の方が迫力があったりする(線画の凄みは、線仕上げの過程でどうしても消えてしまう)。昔からよくある表現・キャラクターではあるのだが、うまくいった例を見たのはたった1度だけ。『AKIRA』だけだ(これは天才の作りしものだから、ほぼ参考にならない)。
 『A.I.C.O』のぐちょぐちょ系モンスターは、作品の全編に登場してきて、かなりしっかり動かしている。相当大変だったはずだ。しかし生物的な生々しさは出ていないし、動きも重い。「ぬちょ」という誇張した音だけがいやに目立つ。絵に生々しさが出ていないから、「ぬちょ」音が浮いてしまっている。
 キャラクターとモンスターが絡む場面はどうしても段取り的になる。わざとらしく攻撃を受けているように見えてしまう。脳を持たない生物が突然襲いかかってきて……というショックさがどこにもない。どの動きも、意図的に感じてしまう。
 相対するモンスターが作画困難なぐちょぐちょ系だから、アクション全体がどうしても平坦になりやすい。似たようなアクションの繰り返しになるし、キャラクターそれぞれの位置関係もいまいち把握しづらい。アクションの緊迫感は少なくなるし、物語に合わせた段取り臭くささも出てしまう。
 Netflixは予算が出ているはずだから、このぐちょぐちょモンスターを描画するためのソフトなりツールなりを開発してしまった方がよかったんじゃないだろうか。全編登場し続けるモンスターだし、作画の手間、コストを考えると、そういうソフトを作っても見合うだけの価値はあると思うが。

 バトルの進行は、マターの弱点を解析して、その場で弾丸を製造、撃退する。要所要所に置かれたギロチンのところまで進み、マターの活動を大幅に停止させる。
 ここまでの流れが1つのまとまりになり、1つの区切りになっている。アクションパートがここで一旦終わり、ドラマパートが始まる。
 この展開の作り方はうまい。ちゃんと区切りを作るから、物語の経過を把握しやすいし、アクション一辺倒になりがちの単調さを防いでくれる。対話イベント中は必ず何かしらの物語の進行が起き、キャラクター同士の関係も変化する。
 こういった展開のもので区切りを作り、緩急リズムを作る仕組みが練られているのはいい。
 ちょっと気になったのは、マターへの攻撃が効いているか効いてないのか。この辺りのチュートリアル的な見せ方をもっとしっかりやってほしかった感じはある。マターが攻撃を受けたときの反応・リアクションがいまいちくっきり伝わってこない。ここでもマター作画の難しさが、どうにも足を引っ張っているような感じがする。

 物語は黒部ダムの桐生生命工学第一研究所を目指すことを目的としている。そこに至るまでの過程が本作の全てで、そこに至るまでいろいろ起きるといえば起きるのだが……しかし1つの過程を追いかけているだけの物語だから、どうしても薄く感じる。人物になかなか奥行き感が出ないし、ドラマ感を出そうとしてちょっと無理やり感もでてしまっている。SF短編の映像化……という感じだ。
 こうした物語構造のものを12話シリーズで描く……という課題で考えると、かなりしっかり作られている……といえなくもないのだが。ただ、どうにも企画自体に“突貫”感がある。時間を掛けてじっくり練った……という感じは伝わってこない。内情はどうなのか知る由もないが、構想期間は短かったのではないだろうか。同じ村田和也監督作品の『翠星のガルガンティア』ほどの奥行き感はない。
 『B:The Beginnig』にも感じたことだが、Netflixオリジナルアニメはどちらも突貫工事感がある。Netflixオリジナルアニメ自体始まったばかりだからまだまだこれからだが、ちょっと不安を感じる。なによりも「面白いこと」が一番なのだが、Netflixの中の人はここを理解しているだろうか。


こちらの記事は、私のブログからの転載です。元記事はこちら→2018年冬アニメ感想 後編

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