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メイドインアビス第2期 第7話の度し難感想 地獄の底で見出そうとした希望は絶望だった

 この感想文シリーズ、飽きたらやめよう、書くことがなくなったらやめよう……とか考えていたのだけど意外と書くことが尽きることもなく、第7話まで来ちゃったね……。このまま最後まで完走か、それとも……。

 さて第7話。オープニングなしでタイトルが登場。第6層の生き物を背景にタイトル……やたらと格好いい。
 お話はガンジャ隊が第6層にやって来て、なにをしたか……。ガンジャ隊の生き残りはその後不老不死になったし、アビスは底へ潜れば潜るほど地上との時間差が生まれる……という設定になっているので、果たしてどれくらい以前の話か定かではない。

 ではガンジャ隊がどうやって第6層に下りてこられたか……。答えはこの生き物。第2期第1話のラストに登場していたけれど、何者だろう……と思っていたがどうやら第5層の祭祀場にずっといたらしい(載せているこの場所は、後にリコがうんち💩をする場所だ)。不老不死の成れ果てで、手にしている白笛はきっと一緒に成れ果てになろうとした誰かであろう。ガンジャ隊以前の冒険者か、それともアビス旧文明人であるか……。アビス旧文明人が残していったもの、とすれば数百年祭祀場に置き去りにされ、ずっと白笛を抱いて、ガンジャ隊がやってきた時代までここにいたということになる。
 その成れ果てを、たまたまポッドの中に連れて行ったら動き出した……というのはちょっとお話がご都合主義っぽいような気もするけど……。

 ポッドで戻ろうとしたら……上昇負荷で怪物になってしまう。
 黄金都市の呪い。昔から財宝には「呪い」が施されていると言われてきた。財宝を手にしたら死霊に狙われる、とか、黄金を手にしようとしたら自分も黄金になってしまう、とか……。
 アビスの底にある黄金都市の呪いは、「帰還不能」。黄金郷の住人になるしかない。しかも「黄金都市」と言いながら「黄金」なるものはそこにない。ただただ理不尽な地獄があるだけだった。

 ……じゃあボンのやつはどうやって第6層まで下りてきたのだろうか……。やっぱりあれは本体ではなく、分身? それともボンしか知らない抜け道があるのだろうか。

 帰還を諦めて、ここで生きる選択をするガンジャ隊。人数減ったなぁ……。第1話で船を出たときはあんなに一杯人がいたのに。あと気になるのは女の子がやたらと多いこと。
 これはなぜだろう? 男は危険な局面で最前線に出るからかな? すると残っているのは相当腕のいい男達……ということになる。

 第6層に残された文字を解読できるイルミューイ。
 でも聞き取れなかったそす。
 これが何を意味しているかというと、イルミューイの民が「後からやってきた人々」ではなく、もともとアビス旧文明の住人だったが、崩壊し、やがて知恵も道具の使い方もわからなくなって狩猟採取の生活まで戻ってしまった人々……ということになる。それでも文字の読み書きの方法は、部族の中で必須の教育として受け継がれてきた。
 通常、こういった狩猟採取民は文字を使わない。文字を使うようになるのは首長制度社会かそれ以上の国家を獲得した社会ということになる。狩猟採取民は文字で情報を残す必要はなく、口語で確実に継承できるという確証がある社会だからだ。イルミューイの民も文字を学ぶけれど、それを使う局面はほぼなかったはずだ。
 もう一つ、私たち社会では狩猟採取民から部族社会へ、首長制度社会、国家社会と一歩一歩ステップアップしてきて、そこから後退したというケースはほぼない。あるとしたらローマ帝国崩壊以後のヨーロッパ。だがローマ時代の知性が完全に喪われないうちに、ヨーロッパ文明はルネサンスを経て復興している。イルミューイの民のように、狩猟採取民まで後退したらどのような社会観になるか……ということは誰にもわからない。
 イルミューイの部族はアビス旧文明がどんなものだったかほとんど伝え残していない。それくらい時間経過が経ってしまったが、文字の読み書きなど、まだ伝え残しているものがあるようだ。

 アビス旧文明はどんな人たちが治めていたのか……?
 イルミューイは語る。
「体に模様がある人みたいな姿だ。村で一人前になったら、体に模様の墨を入れる。黄金郷の住人になる」
 と、語るが……。
 どう解釈するべきだろう……?
 黄金郷の人々には体に模様があった。それでイルミューイの民の人々は黄金郷の人々にある種憧れのようなものを持ち、そのような姿になることが成人の姿とした……ということだろうか。おそらくはイルミューイの民の人々にとって、黄金郷の人々は“神”であるから、年と共に神に近付いていく……みたいに考えていたのかも知れない。
 ただ、黄金郷の人々が入れていた「模様」というものが「元々あったもの」か、果たして「入れ墨」のようなものを後から入れたものだったのか……。そもそも黄金郷の人々というのが本当に人間だったかどうか……。
 とにかくもわかったことは黄金郷は地上にあった。地底にあったわけではない。だが地盤沈下して姿を消してしまった。そしてイルミューイの民は「言い伝え」として、あるかどうかわからない神話のようなものとして、アビス旧文明の記憶を残していった……というところか。

 第1話に出てきた、イルミューイの民の成人の姿。こんなふうに入れ墨を体中に入れている。

 やっぱり似たものといえばレグの体に入った模様。そもそもレグはサイボーグなのかアンドロイドなのか……。もしもレグがアンドロイドで、アビス旧文明の基本的な住人だとすれば、完全なる機械都市……ということになるが。人類はロボットに仕える立場になっていたのだろうか……?

 イルミューイはさらに語る。
「でもイルミューイ、子供できない体。入れたの、捧げ物の墨だった……」

 度しがたい話だ……。
 狩猟採取民の世界では、森で得られる食料の限界値というのは決まっている。それ以上に子供が生まれてきた場合、能力の低いと見なされた子供は“処分”されてしまう。
 アチェ族の場合は10歳までに殺される男児の割合は14パーセントほどで、女児となると23パーセントにもなる。女の子は狩りの生活の上で戦力になりづらく、“処分”の割合も増える傾向にあった。

 拠点に畑を作る。
 しかし問題は土と水。第6層はアビス旧文明の痕跡があちこちに残されていて、地面がタイル状になっている。柔らかいところがほとんどないし、植物もほとんど生えてないので栄養に欠ける。さらにどうやらアビス6層は雨が降らないらしい。こんな場所での農業はそうそううまくいかないし、実ったとしても痩せ細ったものしかできないだろう。

「母さんの匂い。たくさんの人と交尾した匂い」
 この台詞からわかることは、イルミューイの民は乱交型の社会だったこと。特定の夫がなく、誰構わず男と性交し、子供を作り、生まれてきた子供は集落のみんなで丁重に育てる。
 ヴエコがそんな母親と同じ匂いがする……というのはヴエコも子供時代にたくさんの男を相手にしてきたから。イルミューイにしかわからない、体に染みついた匂いというものがあるのだろう。
 子供時代のイルミューイは、集落で大事にされてきた。これは集落が子供を大事にする文化だったからだ。とりわけ女の子であるイルミューイは、部族の数を増やすために必要な人材だった。しかもどうやらイルミューイ世代の女の子は1人しかおらず、より大事にされたようだ。
 しかし子供が産めない体質だとわかった途端、村人達の態度が急変する。こういう妙にドライなところは小規模血縁社会によくありがちなことだ。どんなに愛着や情があっても、立場が変わるとパッと意識が変わってしまう。スイッチを入れたように切り替わる。そういう文化観の人たちの感情は、私たちにはよくわからないものがある。
 そんなイルミューイに対して、母性的な情を見せるヴエコ……。
 ヴエコはごく幼い頃から、度しがたい男達から慰みものにされてきた。“道具扱い”を受けてきたが、しかし一方で男達の一番ナイーブな一面も見てきた。暴力と弱みはいつも裏返しだ。それがヴエコの人情を育むことになったのだろう。男達への恨みと同情心をどのように折り合いを付けてきたのか……それはわからない。

 やっぱり子供ができない体質になっていたヴエコ。だからこそ、「子供が産めない」少女を庇ったのだ。

 ちょっと気になるのは、ガンジャ隊の女達が意外とヴエコを頼っていること。そういえばヴエコは3賢の1人だったわけだし、ガンジャ隊の中では意外と地位があったということだろうか。もしかすると女達を指揮する立場だったかも知れない。ヴエコ特有の人情が、女達にとって頼りがいのある人と見なされたのかも。

 間もなく“発症”してしまうイルミューイ。ガンジャ隊の人々も、同じタイミングで発症しはじめる。

 ガンジャ隊が「飲み水」にして来た液体は、「液体」ではなく「生物」だった。飲むことで宿主に規制し、その体内で卵を産み、さらに別の物体へと変質させてしまう。
 似たような生き物……といえばカタツムリの寄生虫がある。この寄生虫はカタツムリに寄生すると、自ら鳥に食べられに行き、食べられたら鳥の体内で産卵・孵化し、糞として排出され、またカタツムリに寄生する。
 その寄生された状態のカタツムリというのがどんでもなくグロテスクで、もう二度と見たくない。画像検索はお勧めしない。
 この液体の形をした生き物も、同じように飲んだ生き物の体内に寄生し、産卵し、孵化する。それだけではなくもともとあった水場へ行き、周囲にある岩場に一体化する。なぜ岩場になるのかというと、栄養として少しずつ水の中へ染み出すためである。こうやってこの生き物は栄養を得て生きている。しかし人類には「知能」があるので、行動をコントロールするところまではできなかったようだ。

 ガンジャ隊にとってはその水を取ってもアウト。取らなくてもアウト。どうにもならない状況に陥った。煮沸してもダメ。第6層の生物は生き死にがデタラメだから、100度の温度くらいでは死なない。
 この水を撒いた畑はきっと実らないだろう。

 普段から昆虫食っているやつの体質はよくわからん。たぶん、胃の中にすでに別の寄生虫がいて、そいつが液体寄生生物を撃退するんだろう。まともな体質ではない。だが、こんなまともじゃないやつが生き残っていたおかげで、ガンジャ隊全滅を免れたのも事実で……。

 調査隊に出た者達が、奇妙なものを持ち帰ってきた。
「丸い遺物は願いの形。ささやかなものまで強いものまで。それ、とても強いもの」
「違う。どんな願いでもない。それは《欲望の揺籃》。君たちふうにいうと、願いを叶える卵だ」

 こういう卵形の使途不明の遺物はアビスの浅いところにもよくあったけれども……。「欲望の揺籃」の不完全な形……というわけかな。
 そんなものがアビス中のあちこちにあって、周辺ほど特に効果のない「お守り」程度のものとして人々が持っていた……ということは。
 アビス旧文明はこの地底ずっと深いところにある「呪い」の効果をすでに知っていて、それを利用してこういった道具を生産していたのかも知れない……。でもそれは「どうやって?」という疑問があるが……。

 成人した人間はあまりもの念が雑多なので、使用すると奇怪なものになりかねない。使うなら“幼体”に限る……。
 これで村の人が回復するかも知れない。その願いを込めて、イルミューイに託すが……。

 ああ、度しがたい。第2期始まって以来、もっとも度しがたい描写だ。つくしあきひと卿はなんてものを描きやがる。
 「子供が産めない体」として集落から排斥されてしまったイルミューイ。ヴエコはイルミューイに懐かれて、子供を産めなくても母性が満たされる局面はあった。しかしイルミューイは、永久に「生物として欠陥品」というレッテルを受け続けることになる。
 そんなイルミューイが心の底で願ったもの。それは子供を産める体。

 産み落とそうとした生き物はもちろんこれ。幼いイルミューイにとって、「人間の子供」はリアルなものではない。この小さな生き物を手に取ったとき、一瞬感じた“母性”……。その感覚が忘れられなかったのだ。
 しかし生んだ子供は不完全な生き物でしかなく、食料を得るための器官を持ち得ないためにその日のうちに死んでしまう。
 たぶん生き物としてどのように成立しているか、知識が足りなかったからだろう。内臓がどのようになっているか、どのようにこの環境下で生きられるのか……とか。イルミューイの知識では中途半端な生き物しか生まれず、生まれてすぐに死んでしまう。
 子供を産めたという喜びと、子供が死んだという絶望を、毎日のように繰り返すようになったイルミューイ。地獄の底で希望を願ったら、絶望で返ってくるのだった。

 ここでピンと来たのだけど、ファプタのねぐらに、謎のオブジェが山ほど作られていたけれど……あれ、墓だったんだ。石に刻まれていた爪痕は、あの生き物の頭に付いていた模様だ。それがわかった上で見ると、しんどい描写だな……。
 それと、やっぱりレグとの性交はあったかも知れない。子供の産めないイルミューイは性交の相手にもされなかったはずだから、レグは「性交したい」という願望を満たす相手になっていたかも知れない。

「……イルミューイごめんね。得体の知れないやつに願いを蝕まれるあなたを……、あなたを置いて……、あなたのことを想いたいのに……、もう、ただただ……水が……ほしい」
 毎日子供を産んで子供が死ぬという絶望を繰り返し続けるイルミューイ。そのような体にしたのは、他ならぬヴエコ自身。そんなイルミューイを案じることができず、今は自分のことしか考えられない自分が許せない。

 そんなヴエコに“何か”を食べさせるワズキャン。

 いったい……何を食べさせたんだ……。

 人間は自分が食べるものがなんであるか、常に注意を払う。得たいの知れない食べ物は食べない。
 こんな話がある。とある部族が別の部族に救助された。しかしその部族の食べ物は「自分たちの食べ物ではない」といって死ぬまで拒否を続けた。これは食べ物にアイデンティティが結びついてくる、という話だが、自分の知らないものは食べたくない……という意識に基づくものとも言える。
 一方、我々現代人はなんでも食べる。元の食べ物かなんであるか、何も知らなくても食べてしまう。流行ってさえいれば、原料がなんなのか知らなくても食べる。それは生産の場に対するリアリティを喪ってしまったからだ。
 しかしまったくの不安を感じているわけではなく、ある時ふっと都市伝説的に「あの食べ物は実は……」みたいな噂話が“不安の具現化”みたいに広まっていく。これも生産の場というリアリティが喪失してしまったがゆえの現象だ。
 とにかくも、原材料がなんなのかわからないものは食べたくない。うっかり食べさせられたとき、人間は得体の知れない不安を感じてしまう。
 ワズキャンはいったい何を食べさせたのか……その答えは次回だ。

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