見出し画像

2022年秋アニメ感想 ポプテピピック2期

 早くもマンネリ。

 2018年にアニメ化された『ポプテピピック』は「アニメの定石」を崩したアニメ。いや、アニメの定石そのものをからかった作品だった。前編と後編おなじ内容を放送し、声優は入れ替え。キャラクターは可愛らしいけど、気にせずオッサンの声を入れる。基本的には神風動画によるCG制作アニメだけど、考えられるありとあらゆるアニメのスタイルを内包する。シュールなアニメ「ボブネミミッニ」、高畑勲『かぐや姫の物語』ふうのアニメ、パペットアニメ、サンドアニメ、AC部入魂の高速紙芝居「ヘルシェイク矢野」……。
 ただいろんなアニメスタイルをやってみました……というだけではなく、そのどれもが異様にクオリティが高い。明らかにその分野における一流の人間を呼んでアニメを作っている。なのにどうしようもなくバカな内容。その贅沢さそものが笑いだった。
 日本のアニメといえばペーパーアニメが基本だが、世界的に見ればアニメはそれだけではない。いろんなスタイルのアニメが存在する。そういったアニメを次から次へと楽しめて、それを「ギャグアニメ」という文脈の中で並列させる。日本の標準的なペーパーアニメのスタイルそのものを、ギャグという文脈の上で分解し、様々なアニメスタイルを包括していく。アニメそのものを題材にした作品が『ポプテピピック』だった。

 そんな『ポプテピピック』の第2期は、基本的には第1期と同じことをやっている。そこに新しいものはない。
 ポプ子とピピ美を美少年にしてBL作品ふうにした「Bスタイル」はアニメの界隈ではよくあるネタだ。第2話アニメーター大張正己を起用したパートも、これも日本のペーパーアニメ文化の中のもの。意外性に欠ける。第6話の美少女アドベンチャーゲーム風の映像も驚きはなく、考えればすぐに思いつくようなネタ。どうにも内容が内輪的。これは「わかっている人」は笑えるが、知らない人が見ると「なんぞ?」で終わってしまう。アニメの文化やスタイルそのものをからかってみせた第1期と較べるとどうにもスケールが小さく感じられてしまう。
 それにクオリティもさほど高くもない。スタイルを変えるならばルックの面でまるっきり違うものに変えなければならない。ロボットアニメをやるにしても、とんでもなく高いクオリティのものが出てきたら、呆れとともに笑いも出てくるのだけど、どうにも「ちょっとやってみました」で止まっている。

 どうせなら、「こんなアニメスタイル知らなかった」と言えるようなものが出てきて欲しかった。しかし第2期アニメは8話まで進行しているが、そういうものが出てきそうにない。
 第7話の『ライジング・ヘルシェイクの矢』はクオリティは高いし面白いけれども、第1期でやっていたものの「焼き直し」感が出てしまっている。第1期の頃は突然出てきたから「なんだこれは!」という驚きと感嘆があったのだけど、すでに私たちの方に耐性ができてしまっているので、さほど驚かない。

 どうも第1期で出てきたものの想定を超えるものが出てきていない。私たちのほうにも『ポプテピピック』といえば? という認識ができてしまっていて、たいていのものが出てきてももう驚かない……というのがあるのだけど。そういうのを差し引いても、第2期『ポプテピピック』は新しいことは何もやっていない。どのエピソードも想定の範囲内。ずいぶん浅いところではしゃいでるな……という印象しかない。

 「笑い」はささやかな安らぎを人に与えるが、時に大きな勢力や権力を攻撃することがある。歴史を振り返ると、「笑い」は政治や権力を攻撃するときの武器であった。笑いの本質は「攻撃」。毒をあえて見せることで笑わせると同時に、毒そのものの存在を世に認識させる。笑いとは毒を見せておいて「え?」と思わせて、その次に安心させることで引き起こされる現象のことである。人々に意識の変化を促すことが芸人達の仕事である。
 『ポプテピピック』の笑いはブラックユーモアというのはあるのだけど、それが一歩進んでアニメの文化や表現そのものをネタにしていた。アニメはペーパーアニメだけではないし、アニメのコミュニティは似たようなものばかり日々生産している。日本のアニメが陥っている大枠そのものを揶揄して、笑いにして見せたのが『ポプテピピック』第1期だった。アニメの本質を突けたからの評価だ。

 第2期には第1期のころにあった風刺性は完全に消滅した。同じことの繰り返し、安全なネタばかり。『ポプテピピック』は『ポプテピピック』が作った決まり事を繰り返し、それで満足するような作品になった。
 第2期にはスクウェア・エニックスにキャラクターを提供してもらって作ったネタもあったが、「メーカー公認」は絶対にダメ。あれをやると安全なネタしかできなくなる。むしろチョコボを丸焼けにして、「あードラクエとFFだけで食えるのはうまいなぁ。他で赤字? いいよ、次のドラクエで回収するから」とか言いながら食べるくらいのネタをやらなければ『ポプテピピック』ではない。それが企業が背後に付いてしまうと、せいぜいポプ子とピピ美がチョコボの着ぐるみを着て踊るくらいしかなくなってしまう。そんな大甘なネタが見たいわけではない。
 私が見たいのは「風刺性」のほう。ここでスクウェア・エニックスの会社体勢を揶揄したネタを放り込めば感心もしたし、そこで大笑いもできただろうに。安全なネタは『ポプテピピック』らしくないし、面白くもない。
 カッパ寿司協賛ネタも同じく。なんでそこで大甘なネタをやってるんだ。

 笑いを仕事にする人間はテロリストであったほうがいい。文化や権力を徹底的に攻撃し、その歪みを笑い飛ばし、それで不利益を被っている人々の気持ちをスッキリさせる。もちろん大衆的な笑いを提供するだけで終わる人もいるし、そういう芸人がほとんど。
 でも『ポプテピピック』は文化そのものを攻撃し、笑いに変える……ということは一度はやったのだから、その手を止めちゃいかん。安全運転ではなく、突撃した方が良い。竹書房を爆破したのだから、スクエニ本社も爆破する勢いがなければならない。
 ところが第2期『ポプテピピック』は安全運転のネタばかり。どれも薄味。面白い作品はあるのだけど、それが「うわっ」と来るような驚きに繋がっていない。人気が出ちゃったがゆえの変化かも知れない……と思うと残念だ。


この記事が参加している募集

とらつぐみのnoteはすべて無料で公開しています。 しかし活動を続けていくためには皆様の支援が必要です。どうか支援をお願いします。