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細めの雪にはなれなくて 10 第一部学生編 完

 高校二年も後半に差しかかる冬の大晦日、かおりは他校に行った友人の葉子と幼馴染の孝一と一緒に、地元の神社を訪れていた。最近始めた水彩画も、進藤と一緒に色々な所を周りながら着々と腕が上がってきており、本格的に趣味となりつつあった。何よりもかおりにとっては、進藤と一緒に、というところが大きく、一緒にスケッチに出かける度に、進藤の抜けたところや、穏やかな人となり、何よりも彼の醸す不思議な雰囲気に引き込まれていたのだ。

 今日は小学校時代からの友人との久しぶりの再会と初詣を楽しみにしていた。特に葉子は高校も違うためなかなか会うことができず、お互い話したい事ばかりだった。「そういえば、恋愛はどうなの??お二人さんは?」そう葉子が二人に話をふると、孝一は「俺はうまくいってるよ。一年のときからつきあってる先輩と。でも向こうが卒業で進学しちゃうからね。ひょっとしたら別れるかも。それに…いや、なんでもない。」「なんでもないってなによ。気になるから。」葉子が茶化すように突っ込む。「私は好きな人…多分、そうだと思うんだけど、うーんどうかな。」孝一はかおりの話を少しうつむき加減に聞いている。「ほうー、なんか報われない恋って感じかあー??」やはり葉子は茶化すが、孝一は浮かない顔で遠くを見始めていた。

 「そう言う加藤さんはどうなの??恋人は?」孝一が尋ねると「いや、私は恋人どころかプロポーズされちゃったから。オッケーしたら高校卒業後は新妻です。」本日一番の爆弾発言に顔を見合わせるかおりと孝一。「お、おめでとう。」と孝一。かおりも続けて「うん、うん、ほんとにおめでとう。いい返事、するつもり??」「うーん、、、うん。一応親に相談してから返事するよ。ちなみに相手は同級生だしね。卒業したら働くって言ってるし。二人は知らない人だけど。」葉子のカミングアウトに驚く中、もう間もなく年をまたぐ時間となっていた。

 カウントダウンをし、お互い挨拶をしあった後、大勢が並ぶ中神社のお参りを済まそうとしていたかおり達。ふと、かおりが神社の隅の階段付近に目をやると、そこに進藤の姿があった。まさかこんなところで進藤に会えるとは思っていなかった。密かにかおりが想いを寄せていたのは彼だった。

 かおりは周りに女性がいないか気にしながら進藤を目で追った。どうやら一人で来ている様だったので葉子と孝一に告げた。「ごめん、二人とも。実は知り合いが来ているのが見えて。それで、できたらその人とお参りしたいんだけど……だめかな??」とても言いにくそうに絞り出すかおりに何かを察した葉子は「いいよ、私達は。かおりがこの場でそう言うってことはよっぽどなんでしょ?」少しにやけた様子の笑顔で答える葉子。孝一の方を見ると、彼も小さく首を縦に振った。「二人共ありがとう!それとごめん。特に葉子は久しぶりなのに。じゃあ、行くね。」そう言って列を離れ小走りに向かう先に青年がいた。葉子はかおりの様子をみて小さく微笑んだ。

 「進藤さん、あけましておめでとうございます。一人ですか??」辺りを見回している進藤に声をかける。「え!?かおりちゃん??おお、あけましておめでとうございます。うん、一人だよ。そっちは??」「友達と来ました。でも抜けました。よかったら進藤さん、一緒にお参りしてくれませんか?」意外な提案におどろきながらも進藤は快諾した。葉子や孝一よりは大分後列になってしまい時間はかかったが、二人はお参りを済ませた。お神酒を受け取り、帰路に向って歩いていく。

 かおりは決心して、ほんの少し前を歩く進藤に声をかけた。「進藤さん、お願いがあります。新年早々でびっくりするかもしれませんが、私は進藤さんに感謝をしています、絵のこととか。感謝だけじゃなくて、その、惹かれてもいます。よかったら…私とお付き合いして頂けませんか?…」初めて自分から異性に告白をした。なんとなく始まるものではなく、自分から動いて相手を自分のものにしたい、と思う程に惹かれたのだ。沈黙する進藤、不安から逃げ出したいかおり。

 「僕は今25歳だよ??周りに気づかれたら何を言われるかもわからない。それでもいい?」いつものゆったりとした雰囲気ではなく、凛とした口調でかおりに問いかける。「はい!関係ないです。何と言われようと。」「じゃあ、、、宜しくお願いします。」そう言ってそっとかおりの手を引き、軽く抱きしめた。

 神社からの帰り道、周りは人がまばらだがその中に葉子と孝一がいた。二人をみて興奮する葉子と、少し決まりの悪いような顔をした孝一。

 季節は真冬の深夜。気が付けば細雪が降り始め、辺りの音を遠ざける。止まっていれば身震いする寒さの中、それでもかおりは進藤の腕の中で、これまで感じたことのないぬくもりの中にいた。


学生編 完

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