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蜘蛛女は、三度泣く/ミュージカル『蜘蛛女のキス』 感想

ミュージカル『蜘蛛女のキス』、推しの村井良大さん初日&二日目を見てきました!
2回見ましたが、どちらも爆泣き。推しも最高だけど作品も座組全体も最高でした。

主観もりもりですが、泣いたシーンについて書きつつ、物語全体についての感想を綴りたいと思います。


オーロラ&蜘蛛女/安蘭けいさん 虚構の中の美・理想・安らぎ・恐れ

オーロラが出てきた瞬間爆泣きしました。

暗くて汚い刑務所の中で、モリーナが夢見る銀幕のスターの姿。辛い現実を忘れる瞬間。
その美しさが、安蘭けいさんのまばゆい魅力をもって、凄まじい説得力と共に迫ってきました。

「その名はオーロラ…」と、石丸さん演じるモリーナが歌う旋律も、本当に甘く、あこがれを感じさせました。

たっぷりのドレープが優美な、舞台奥のカーテンに大きく映し出されたオーロラの姿は、まさに大きくて美しい銀幕のスターそのもの。
そして満を持して、男性ダンサーを率いて現れるオーロラの、銀幕イメージに違わぬ美しさ! やばい。
生きてる~!!!美しい~~!!!ダンスの一挙手一投足も、ダンサーを率いる高貴さも半端なく心惹かれる。
肩甲骨の動き方まで、躍動感がありつつもたおやかで。

ただ美しいから、泣いてしまった。

そしてオーロラが美しいからこそ、対象的に、モリーナの苦しさ、生きづらさが際立って見えたんですよね。
モリーナ、苦しかったんだな。
こんなにきれいなオーロラだからこそ、モリーナは救われてたんだな…と噛み締めて、また泣きました。

オーロラが演じるキャラクターはすべて美しく、それに心惹かれるモリーナの感情が、どのシーンからもよく伝わってきました。
お衣装も全部可愛くてね~!! ロシア革命を扱った『サンクトペテルブルグの炎』の時の、レオタード的な衣装に、たっぷり巻いた髪と毛皮のコートを合わせているボリューム感がすごく好きです。『鳥の楽園』の鮮やかな緑の衣装も! 白い燕尾服は男性的な格好良さも内包してて素敵です。安蘭けいさんのかっこよさバリバリ。
モリーナがウィンドウスタイリストを目指したのも、こんな美しいものに触れていたからなのかなと思いました。

映画とオーロラを語るモリーナの様子はとても愛らしく、バレンティンが夢中になり、「楽しい」という感情を持っていくのもわかる…となりました。

だっても~~~~~美しいし楽しいもん! 泣いちゃうくらい素敵。
オーロラ、銀幕のスター。魅惑すぎる。

そして蜘蛛女!

こちらも魅惑的で…蠱惑的で…怖いけど惹かれてしまう。

肩に蜘蛛の巣をあしらい、肌を見せたドレス。裾も大胆に開いていて、美しいおみ足が見えてキュンキュンしました。
黒のボブカットも美~~~~!! リップは意外とド赤!という色ではなく、ちょっとシック目で、それもまた『キス』だけでなく『蜘蛛女』という存在自体を意識できてよかったです。

映画の話をしているときだけでなく、モリーナの日常全てに顔を覗かせる蜘蛛女の、恐ろしいけどどこか優しくもある存在感が、とても素敵でした。


バレンティン/村井良大さん 自らの人生を生きるたくましさ

※推しの回しか見ていないので推しの話をします。

バレンティン、かっこよくない? 惚れるんですけど。

筋肉質で、粗野でたくましい印象はありつつも、マルクスを読み革命を志す知的な部分もある。
ゲイに対する警戒心は、多少ある。多分。
でも、それよりも、看守が行う人間性の否定に、嫌悪感を強く見せる。それを受け入れるモリーナに怒る。
男が好きかとかは関係なく、人間が、人間として生きることを一番に考えているんですよね。

あとね、筋肉ですよ。

立ち姿がやばいかっこいい。体が引き締まっている。
肌が露わになるシーンが2回(1回目は脚、2回目は上半身)あるのですが、どちらもいい筋肉で…。
脚はしっかりと引き締まりつつも、筋張っていずしなやかで美しく。
上半身は胸筋の高さと腹筋の影の落ち方、そして背筋から腕へのラインがとても美しく素晴らしかったです。

肌を露わにした際の芝居も、どちらも良くて…

これはモリーナ…惚れるよな…という説得力がありました。
私も惚れました。

は? 好き。
男らしさの権化。

モリーナに、自分の知っている映画=自分自身の人生を語ってみせるバレンティン。

貧しいながらも神に感謝していた子供時代から、苦しさに気づいて感謝を忘れ、そして革命家に出会って「怒り」を知った今……
バレンティンの半生を歌う、「あしたこそは」というナンバーは、たくさんの感情や強い怒り、未来への切望を感じさせる歌です。

村井良大さんのリアリティのある芝居と、喉の強さを生かした歌唱が見事に融合した様子と、それによって伝わってくるバレンティンの熱い生き様にまじで泣きました。

推しなのでもっと語りたい気持ちはあるのですが、今回は「泣いたポイント」でまとめているので、一旦切ります!!
モリーナとの一夜がどえろくて、生唾飲み込んで好き…と噛み締めた話も…したいね…。


モリーナ/石丸幹二さん その愛と決断の美しさ

モリーナ…可愛すぎる。

モリーナは作品の終盤、刑務所の壁の外へ出ます。
オカマと蔑まれ、自由もなく、暴力にさらされ、そして愛しいバレンティンの秘密を暴くように執拗に言われる環境から、大好きなママのもとへと帰るのです。
前から好きだった人からは突き放されるけれど、仕事もあるし、ママもいる。そのまま穏やかに過ごせば、最高ではないけれど、少しは幸せになれたかもしれない。

でも彼女は、バレンティンとの約束を果たします。
そして、尾行していた看守たちによって、刑務所に戻されてしまう。

バレンティンはモリーナを利用しようとしたこと、それが引き起こした結果を嘆き、後悔します。でもモリーナは後悔しない。
バレンティンを愛しているし、彼のためならなんだってやりたいから。

銃声、モリーナの死、そしてフィナーレ。

舞台上に映画館の椅子が並べられ、観客席と対面するように、バレンティンたちが座ります。彼らは皆笑顔で、互いを称え合っているように見えました。

満を持して現れるのは、純白の燕尾服を身にまとったモリーナ。
たくさんの拍手と歓声に迎えられ、モリーナは銀幕のスターになったのです。

もうここでやばいくらい泣いた。

ずっとオーロラという銀幕のスターに憧れ、現実逃避していたモリーナが、今度は自分の人生という映画で、立派にヒロインとして生き抜いた。
それが美しくて、健気で、可愛すぎて泣きました。

バレンティンがモリーナに歌うんですよ。
「その名はモリーナ」
そう、「その名はオーロラ」と同じメロディで!
エモすぎる…バレンティンが歌うというのも含めて…!!

そしてモリーナは、あれだけ恐れていた蜘蛛女を受け入れ、タンゴを踊り、そのキスを受けいれ、物語は幕を閉じます。


わたしたちもまた物語を生きる

ミュージカル『蜘蛛女のキス』は、まじで泣けます。

でも、ただ泣けるだけじゃなくて、自分の人生に持ち帰ることもできる。

フィナーレで舞台上に映画館の椅子が並べられ、観客席と対面するように、バレンティンたちが座るのは、物語の中の彼らも、私達同様に物語を見るものであると伝えるためだと思っています。
彼らは見られるだけでなく、彼ら自身を(そして私達を)見ている。
それはつまりは、私達自身も物語の中にいるものだということでもある。

モリーナは映画を愛しました。と、同時に、暗く苦しい人生から逃れる場所にもした。
でも彼女は、最後には、その空想の中に逃げ込むのをやめて、自分の人生を生ききった。
その姿を愛す私達もまた、今大変苦しい状況にいると思います。ままならないこともたくさんある。今では『オカマ』という別称を使う人は減りましたが、別の苦しみは残されているでしょう。女性だからいいことも、悪いこともある。
だからこそ、モリーナの姿に涙した目で、今一度自分の人生を振り返ってもいいのかな、と思っています。
彼女と同じように。

ミュージカル『蜘蛛女のキス』、本当に素晴らしい作品でした。
また見に行きます。


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