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職場のうるさい、あの子の話/自己理解について

 職場に、声の大きな女性社員がいます。どのくらい大きいのかと言うと、それこそフロアの端まで響き渡るような声で。電話中に近くで話されると、受話器からの音が聞こえなくなるくらいの大音量。

「――電話の声が聞こえないので、ちょっと静かにしてもらえますか?」

 そうお願いすれば、静かにしてはくれるのですが、結局はそのときだけ。しばらくすると平常運転に戻ってしまうので、もう勘弁してよという感じ。でも本人はどこ吹く風で「私、声デカいんですよ~」と自慢げに語る始末。なんだかもう、開いた口がふさがらないのです。

 だいたい、何をそんなに大騒ぎしているのかと思えば、昨日観たドラマがどうだったみたいな雑談ばかり。まぁ、会話の中身まで聞き耳を立てるのもどうかと思うし、僕も一緒になって、おしゃべりに興じることもあるので。自分のことを棚に上げ、偉そうに注意するつもりなど、毛頭ないのですが。

 なんだそのくらい、よくある話じゃない。そう思われるかもしれません。でもこれが毎日続くと、結構ストレスが溜まっていくもので。しかも以前は隣の席だったので、耳が痛くなったり、頭痛がひどくなることもあったり。あれこれ悩んだ末に、最終的には上司に相談し、席を離してもらいました。

 こんなとき、あなたならどうしますか。きっと色んなアプローチがあると思います。本人に直接、困っていると伝える。上司経由で指摘してもらう。別の部署への異動を希望する。目の前で耳栓をしたら、効果的なアピールになるかもしれない。

 ただ、どんな選択肢だろうと、メリットとデメリットがあるものですし、正解はないとも思うのです。むしろ正しさなんかよりも、その選択によって「結果的にどうなるのか(どうなってしまうか)」を想像することの方が、大切なのかもしれません。

 正しさを振りかざした結果、相手が深く傷つき、立ち直れなくなったら。職場の雰囲気が悪くなって、全体のパフォーマンスが低下してしまったら。そう思いながら、お互いに顔色をうかがうような関係も、やっぱり嫌だなと感じてしまいます。

 人にはそれぞれ、キャラクターや人格があるわけですから、物事に対する感じ方だって違います。僕が「うるさい」と感じるあの子の声を「明るくて素敵だな」と思う人だっているはずです。僕の声も「落ち着くいい声だね」と言ってくれる人もいれば、「眠そうな声だな」と馬鹿にする人もいます。

 また同じ人でも、その日のコンディション次第で、感じ方は変わるもの。僕だって心に余裕さえあれば、あの子の声を「今日も元気だな~」なんて、思えるときがありますから。絶対的なものではないと言えますよね。

 なんて無神経なん子だろう。以前はそんな風に思っていました。同時に、自分はなんて神経質で、余裕のない人間なんだろうとも。そうしてお互いの差異を比べては、どちらが正しくて、どちらが悪いかなんてことを、延々と考えてばかりでした。

 でもまずは、「差異は差異として認識できたら」いいのかもしれません。あの子と自分の違いを、違いがあると認識すること。自分とは違うんだと。他者との違いに気付けたら、自分への理解が深まる。自分の感じ方の特徴や考え方の癖がわかれば、それは他者への理解や、尊重につながっていくと。

 元気なあの子も、繊細な自分も、大切にしていきたい。そう思うのです。


撮影ワールド:Halation/ぴ り ー さん

 

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