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好きな人とSNSで繋がると心が病む話

  好きな人とSNSで繋がる

 ――好きな人と24時間ずっといられるような気がして、幸せそうだ。

 そう思う人は、わりと多いのではないかと思う。私もその中の一人で、好きな人とSNSで繋がったときのことを想像しただけで、頭の中はパステルピンクと鮮やかな黄色い花々でいっぱいだった。好きな人のことなら何でも知りたいという好奇心と、自分の思考を相手に知ってもらいたいという自己顕示欲で満たされ、それがなかなか叶わないという状況に置かれたときの人のエネルギーというものはとてつもない。何としてでも繋がりたいと、あれこれ試行錯誤をするものだ。

 仲のいい間柄ならば、「私もTwitterやってるんだけど、アカウント教えてよ」「インスタやってるの?『いいね』するからフォローさせて!」などと気軽に繋がることができるだろう。だが、たいして深い関係でもない人を好きになってしまったら、繋がるまでが一苦労だ。

 繋がるためにできることと言えば、手っ取り早いのが本人に直接聞くことだ。だが、たいして仲が深いわけでもないのに、SNSのアカウントを簡単に教えてくれるだろうか。よくわからない相手には教えたくないと思うのはごく当たり前の反応で、「SNSやってないから・・・」と嘘をつかれてしまえば、二度と好きな人と繋がることは叶わないだろう。したがって、他の方法を考えなければならない。

 他に考えられる方法として、自力で探すという方法がある。自力で探すというのは、本名やニックネームなど、好きな人がアカウント名に使いそうな名前で検索をかけて見つけるというものだ。(ネットに詳しい人であれば、もっと簡単な見つけ方を知っているのかもしれないが・・・)この方法は、相手に拒否されることなく相手のアカウントを見つけることができる優れものだ。フォローや「いいね」をしなければ、自分が好きな相手のアカウントを見ていることすらバレない。ただ、この方法はやられている側からすると、非常に気持ちが悪い。そのため、相互フォローなんて望めないだろう。リアクションを起こそうとしようものならば、ストーカーのレッテルを貼られるに違いない。こんなことで嫌われてしまえば、本末転倒だ。

 最後の希望として、共通の繋がりを利用するということだ。好きな相手のフォロワーが自分のフォロワーでもあったら、突然フォローしたとしても、「この人との繋がりで自分のことをフォローしてきたのかもしれない」と思い、警戒心を解いてくれるかもしれない。リスクが少なく、自然な流れとして相互フォローに持ち込みやすいのではないか。私は幸いにも、好きな相手が友人と繋がっていたので、「友達が『いいね』したのが流れてきたから、フォローさせてもらった!」と言って、相互フォローに持ち込んだ。

 その当時は、嬉しくて嬉しくて仕方がなくて、狭い部屋の中で飛び跳ねながらにやけていた。完全に浮かれていた。これからずっと、好きな相手の私生活を覗くことができると思ったら、舞い上がらずにはいられなかったのだ。気持ち悪いにもほどがある。当時の私も、自分が正気ではないと自覚はしていたが、「知りたい」「知ってほしい」という衝動が抑えられなかったのだ。なんて愚かな人間なのだろう。今思えば、当時の私に「気持ち悪い」と言って、おもいきり殴ってくれる人が現れてくれたらよかったのにと思うくらいだ。だが、「恋は盲目」という言葉があるように、恋というものは恐ろしいもので、簡単に自分を歪ませてしまう。決して抗うことができないのだ。それでも、私は幸せだった。

 念願叶い、やっとのことで好きな人とSNSで繋がることができて、私は暇があれば、タイムラインに目を通していた。好きな人が投稿するたびに、「好きなものを知ることができたから、また一歩あの人に近づけた!」「私と似た価値観を持っていて気が合いそう」などと浮かれていた。反対に、私が投稿したものに対して、好きな人が「いいね」をくれるときもあり、「私に対して好意的だから、チャンスが出てきたかもしれない」と思ったこともあった。「なんともおめでたい頭の持ち主だ」と皮肉を言われても仕方がないほどに、都合のいい解釈をしては喜んでいた。だが、そんな幸せな時間は長く続くはずもなかった。

 「ラーメン食べた!」「箱根に行ってきた!」などという投稿がちらほらと目に入り、そういった数々の投稿には必ずと言っていいほど、誰かの影を臭わせるようなリプライだったり、写真だったりが存在していた。そのうち、片想いを連想させるような投稿が目立つようになってきて、いつしか私は相手にされなくなった。繋がっているはずなのに、好きな人は自分の手の届かないところにいて、私は完全に蚊帳の外だった。

 好きな人に告白もしていなければ、面と向かってフラれたわけでもない。そもそも、好きな人が私の好意に気づいていたかどうかもわからない。それなのに、なぜこんなにもつらいのだろうか、苦しいのだろうか。きっと私は、「お互いを知ることができれば、絆は自然と深まっていくのだろう」と期待していたのだ。だが、現実はそんなに甘くはなかった。私は好きな人のことを少しずつ知り、相手も私の考えを知ってくれた。それなのに二人の距離はほとんど縮まることなく、それどころかそっぽまで向かれてしまった。

 好きな人は相変わらず他の人と楽しそうに過ごしていて、それを見る度に嫉妬と、振り向いてもらえない絶望に苦しめられる。こんな現実を見せられるのならば、初めから繋がらなければよかったと後悔した。正面からストレートに想いをぶつけて砕け散った方がまだましだった。心が沈んで、何も手につかない。本を読んでも、何も頭に入らない。誰かの話を聞いていても、どうでもいいと思ってしまう。好きな人とSNSで繋がると、心がとても憂鬱になる――。

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