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夢迷人~無限地獄~

 私は、なんの取り柄もない地味な高校生だ。毎日、これといって面白いことが起こるわけでもなく、惰性だけで退屈な日々を送っている。この教室には、「友達」と呼べる存在もいない。決していじめを受けているわけではないが、皆、私のことを空気だとでも思っているのだろう。私も、決してそれが嫌なわけではない。ただ、たまに寂しくなるときはある。

 今日も、いつも通り誰にも話しかけられないまま、一人で淡々と過ごしていた。だが、非日常は突然やってきた。

 「ねえ、私、■■■■■。〇〇さんってさ、肉と魚どっちが好き?」

 「えっ......あっ、ええーっと......肉かな......」

 一度も話したことのない相手に対する話しかけ方としては、明らかに不自然であるが、自然と嫌な感じはしなかった。むしろ、昔からの友達のような温かさを感じた。彼女は、今まで私と関わってこなかった時間を一気に埋めるかのごとく、次から次へと話しかけてきた。私も、彼女の期待に応えるように、彼女の問いに答え続けた。


 「じゃあ、また明日ね!」

 「うん、また明日」

 気がつけば、辺りはもう真っ暗だ。いつも学校にいる間は、人と一言言葉を交わすかどうかという程度であるにもかかわらず、今日は慣れないことをした。おかげで、喉はカラカラだ。だが、たまにはそんな日があってもいいだろう。いつもより足が軽く感じた。


 家に着き、夕食も入浴も済ませ、私は自分の部屋で今日のことを振り返った。思えば、《あの子》と長い間話していた気がする。だが、どうしても彼女の名前を思い出すことができない。確かに名乗っていたはずだ。クラスの名簿を見れば思い出せるだろうか――。私はクラスの名簿を引っ張り出したが、結局、彼女の名前を思い出すことはできなかった。


 翌日、また《あの子》は私に声を掛けてきた。私は何とかして、彼女の名前を探り出したかった。どうしようか悩んでいたとき、彼女が口を開いた。

 「今日の夜、空いてる?」

 「空いてるけど......」

 どうやら、彼女は自分が所属している団体に、私を招きたいようだ。私はそれを聞いて、彼女のことをもっと知りたいと思った。好奇心に支配された私は、彼女に言われるがままに、その団体の本拠地へと足を運んだ。


 ドアを開け、中に入ると、私立大学の少人数教室のような空間がそこにあった。壁や机は白く、ホワイトボードが置かれている。10人弱といった人たちが、無造作に席に座り、各々好きなように話をしている。私は、彼女の後に従い、メンバーに軽く挨拶を済ませ、席に着いた。

 やがて、机の上には、部屋とは対照的な色とりどりの食べ物がずらりと並び始めた。そこには、私が好きだと言った肉料理もずらりと並んでいる。私の隣にいた《あの子》は、出された食べ物に夢中で食らいつき始めた。私も彼女に倣って、次から次へと食べ物を口へと運んだ。彼女に「もっと食べないと持たないよ」と言われ、さらに食べた。だが、「もっと食べないと持たない」とは、一体これから何が待っているというのだろうか――。

 机の上の料理がわずかになった頃、私よりも一回りくらい年上だと思われる男性が、皆の前に立って話し始めた。どうやらこの男性が、この組織のリーダーらしい。彼のその様子は真剣そのもので、ただならぬ空気を感じた。周りにいる他のメンバーも、笑いもせず口を結んだまま、前で話している彼のことをじっと見つめている。どうやら、何かの作戦会議のようだが、彼が何を話しているのか、このときの私には全く理解できなかった。

 「よし、行こう」

 リーダーに従い、メンバーたちが部屋を出て行く。私もついていくべきか迷ったが、《あの子》に後に続くように促され、私もついて行かざるを得なかった。


 気がつくと、私たちは高層ビルの展望デッキのようなところにいた。窓から見える景色がきらびやかで、思わず浮かれずにはいられなかった。《あの子》に声をかけ、二人ではしゃいだ。

 「しゃべるな!」

 目で人を殺せるのではないかと思わんばかりの形相で、リーダーが睨みながら注意をしてきた。

 「別にいいじゃないですか」

 友達と少し話したくらいで、なぜこんなにも厳しく怒られなければならないのか疑問に思った私は、彼に対して少し反抗をしてみた。

 「ここの掟を言ってみろ!言えないのなら黙って従え!」

 「............」

 私は何も言い返すことができなかった。「ここの掟」とやらが、記憶の奥底に眠っている気がしたが、どうしても出てこなかった。わかっているはずなのに、何も言えなかった自分がもどかしくて仕方なかった。だが、こんなやり方は理不尽だ。次は、何とかして彼を言い負かせてやろう――。


 ――バーン!!!

 銃声だ!逃げなければ殺される――。

 私は急いで物陰に隠れた。どうやら、相手は中年の男女二人だ。私が必死に隠れている横で、《あの子》も物陰に隠れて様子を窺っていた。恐怖で震えていると、リーダーが銃を持って中年の男女と戦い出した。彼は私の方を向き、少し微笑みながら頷き、敵に銃口を向けて引き金を引いた。それと同時に、中年女性が撃ち抜かれ、床に倒れた。

 だが、次の瞬間、張り裂けるような銃声とともに、リーダーの姿は消えていた。敵の中年の男に、頭を撃ち抜かれたのだ。リーダーが、真剣な眼差しで私に怒っていた理由が、今になってようやくわかった。失ってから気づくなんて、なんて馬鹿な人間なのだと自分を責めた。

 いつの間にか、生き残っているのは、私と《あの子》だけだ。怖くて逃げ出したいが、逃げたとしても逃げ切れないだろう。それに、せっかく友達になった彼女まで失うわけにはいかない。こうなれば、私が戦うしかない。知らぬ間にポケットに入っていた銃を取り出し、物陰に隠れながら、リーダーを殺した《奴》の眉間を目掛けて発砲した。命中した。これでやっと終わりだ――。

 しかし、《奴》は生きていた。確かにあたったはずであるのに、なぜ《奴》は死なないのだろうか。それからも、何度も何度も《奴》の眉間を撃ち抜いた。だが、ゾンビのように何度も何度も立ち上がり、私に銃を向けてくるのだ。私は、終わらぬ戦いに嫌気が差した。いつまで、この終わりの見えない地獄を見なければならないのだろうか。

 こんなことなら、いっそのこと死んだほうがましなのかもしれない――。

 そう思った私は、丸腰のまま《奴》の前に姿を見せた。そんな私に、《奴》は容赦なく銃口を向け、発泡した。

 ――これでやっと終わりだ。

 そう思い、私は銃弾の衝撃に身を任せ、床に倒れた。これで楽になれる。痛いことからも、怖いことからも、やっと解放されるのだ――。

 だが、次の瞬間気づいてしまった。私は死んでいない。銃で撃ち抜かれ、耐え難い苦痛を感じながらも、生きているのだ。目を開けると、周りには血の海が広がり、割れたガラス片や破壊されたインテリアの欠片が、真っ赤に染まっている。その光景は地獄という言葉では足りないくらい、悲惨な光景だった。さらに、今までいたはずの《あの子》の姿も見つからない。もう今の私には、希望の欠片でさえ見出すことができなくなっていた。

 いつになったら私は解放されるのだろうか。永遠に苦しみ続けるのだろうか。こんな世界に生きるなら、生まれてこなければよかった。消えてなくなりたい。早く私を殺してくれ――。

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