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真顔の理由

 頭が押しつぶされる。いっその一思いに殺してくれ――。


 朝から激しい頭痛に見舞われている。頭の一部が強く締め上げられているような、そんな感覚がする。本当に、誰かが私の頭にいたずらでもしているのではないかと思い、何度も自分の頭をさすってみる。だけど、そこには自分の髪以外の物は一切存在しない。

 「痛みに表情を歪める」なんて言葉があるが、私は真顔だ。笑いもしなければ、歪めもしない。ひたすら真顔で過ごす。

 別に、強がっているわけではない。誰にも心配してもらえず、機嫌が悪いというわけでもない。ただ、表情筋を使うと、頭に負担が掛かるというだけのことだ。少しでも表情を変えようものなら、頭が締め付けられる。声を発するだけでも、激しい鈍痛が頭を襲う。だから、極力人と話さず、真顔でいる。

 実は、この仕組みを知ったのは、今日が初めてだ。「頭痛のときは、真顔で乗り切るのが得策だ」なんて、誰も教えてくれなかったし、世間の認識としても、「痛みがあれば、表情を歪めるのが普通」というのが一般的なイメージではないかと思う。何度も頭痛に悩まされているくせに、今頃になって気付くとは、我ながらぼんやりしすぎだ。

 それはともかく、新事実を知ってからというもの、口数の少ない真顔の人を見る度に、「この人は、毎日頭痛に耐え忍んでいる人だ」と思えて仕方なくなった。まあ、そんなわけはないのだろうが、私の中で、完全にその人のあだ名は「頭痛の人」になっていた。本人も周りの人も、私がそんなあだ名を付けているなんて誰も知らない。

 なんてくだらないことを考えているのかと思い、そんな馬鹿な自分に、少しおかしくなった。油断していたら、少し笑ってしまった。それと同時に、鈍い痛みが激しく頭を襲った。これは、人に変なあだ名を付けてしまった報復なのだろう。少し反省した。

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