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スピッツ「紫の夜を越えて」 なぐさめで崩れるほどの ギリギリをくぐり抜けて

2019年から地球全体を襲っている新型コロナウイルス感染症。日本では2020年2月ごろから本格的に感染が広がり始めた。

そこから2年半ほど過ぎた2022年8月現在も、新型コロナの勢いはとどまるところを知らない。

スピッツがコロナ禍、真っただ中の2021年3月25日にリリースしたシングル「紫の夜に越えて」。ライブも大きな影響を受け、スピッツの活動も大きな制約を受けた。

2020年11月、ほぼ10か月ぶりに開かれた有観客のライブ「猫ちぐらの夕べ」で、ライブ解禁の方向に向かうと思われたが、コロナは再び流行。日本全体が沈滞ムードに包まれていた。

「紫の夜を越えて」はそんな時代背景の中で制作された。
リリースに先立ち、2022年1月4日からNEWS23のエンディングテーマに使用されていた。期間は1年間。

歌詞を見ていきたい。
この曲に「毒」はない。「遊び」と「皮肉」の中から、「希望」を提示する手法。
草野さんが、コロナで苦しむ世界が少しでも明るい方向に進んでいけるように、という願いを込めて送り出した曲。そこからは、必死さが伝わってくる。

歌詞を見ていきたい。

「君が話していた 美しい惑星は
このごろ、僕もイメージできるのさ 本当にあるのかも」

ここは遊びと皮肉の部分。僕は「美しい惑星」なんて、「もうない」と思っていた。でも「君」は「ある」って言ってた。そんな「僕」も考え方を変えて「あるのかも?」と思うという形で、「希望」を歌う。見事すぎる。

「いつも寂しがり 時に消えたがり
画面の向こうの快楽 匂いのない正義 その先に」

いつも寂しがっていて、時に消えたがっているのは、誰なんだろう。草野さん?
「画面の向こうの快楽」:何を指しているんだろう。今起きている重大さとはかけ離れているような現実感のないテレビ番組とか、そういうことかしら?
「匂いのない正義」:匿名のネット社会の中で、正義感を振りかざして一部の人たちを徹底的に糾弾する社会のいびつさに心を痛めていることがよく伝わってくる。

サビ

「紫の夜を越えていこう いくつもの光の粒
僕らも小さな 一つずつ」

「紫の夜」:コロナで苦しむ今のことを指しているんだろうな。
で、「僕らも小さな一つずつの光の粒として、越えていこう」っていう励ましを込めた歌詞は本当に感動的です。

「なぐさめで崩れるほどの ギリギリをくぐり抜けて
一緒にいてほしい ありがちで特別な夜」

ああ、なんと良い表現を生み出し続けるのだろう。
なぐさめの言葉をかけてもらうだけで、自分を維持できないぐらいの哀しみ、苦しみの中にいる「今」をなんとか乗り越えて、「一緒にいてほしい」はファンへの呼びかけとも取れる。
「ありがちで特別な夜」:ライブ以外に考えられない。

「従わず 得られるならば 砂の風に逆らい
再び生まれたい ありがちで特別な夜」

「再び生まれたい」:ライブのできない期間は、スピッツとしては死んでいるも同じという苦しみからだろうね。

まだまだ、コロナは収まっていない。むしろ感染者数は過去最多を更新する日々。でも、コロナが始まったころよりはずいぶん社会はいろいろな闘う手段を手に入れたし、いろいろなことを理解した。「動こう」という機運も醸成されつつある。

人って、いつ死ぬか分からないんだよね。
年齢なんて関係ない。ほんと、簡単に死んでしまうこともある。
私にとっては、いまを大切に生きようと思える曲です。

2022年9月3日 トラジロウ

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