拝啓、阪神タイガースが大嫌いだったあの頃の私へ
今の私には、あの夏の父がちょっとだけ、分かるかもしれない。
幼少期、夏休みになると、数日ほど大阪にある祖母の家に遊びに行くのがルーティーンでした。夜になると、テレビは阪神タイガースの試合一択。
ですが、私は一度もちゃんとその中継を見たことがありません。
阪神ファンを名乗るようになってまだ一年もちゃんと経ってないし、こんな誰でも見られるオンライン空間で堂々と観戦記を書いている私ですが、つい最近まで大の阪神アンチでした。
理由は、単純に「怖かった」から。
試合を見ている父はいつもどこかイライラしていました。「おっしゃー!」とガッツポーズをしたかと思いきや、目を離している隙に突然、一人失望と憤りが入り混じった声で「バカヤロー」と怒鳴り始める。いつもは温厚な父が怒り狂い、人間でなくなるような姿が大嫌いでした。
けど、なぜか午後6時になると、まるで昨日なんてなかったようにビール缶を片手にテレビの前に座っていました。全然気にしないふりをしていましたが、これが幼少期の私にとっては本当に奇妙で仕方がなかったんです。
あと、選手の名前は全然覚えてないんですが、グレーのユニフォームに書かれた「KANEMOTO」と、背番号「6」の黒い太字だけは強烈に覚えてます。あ、あと途中でユニフォームがなんか真っ黒になった、、、ってこともありましたが。
初めてあの顔を見たとき、どこか背筋がゾッとして、夜眠れなかったのを覚えています。あんな怖い顔している人、地球上におるんか!って。当時小学生でしたが、学校で一番怖いって言われてる先生よりも、何倍も怖いじゃん!って思ってました。
しかも、なんかあの人が出てくる時だけ父が手を叩いて盛り上がり始めるのがまた不思議すぎて、他の選手と何が違うんだろ。そんなことも思った記憶があります。
あと、なぜか夢に出てきたこともあります。内容は覚えていませんが。この出来事から、なんとかすぐ寝よう、、、と頑張るようになります(笑)
私には、そんな阪神タイガースが、本当に本当に恐ろしくて仕方がありませんでした。
ちなみに、父は茶の間タイプのファンですし、夏休みが終わって関東に戻ってからは一度も試合を見ている姿を見たことがありません。そんな感じなので、よく言われる「英才教育」を受けたこともありません。唯一言えるのは、私をアンチ巨人に育てたことかな(父は関係ないと思うけど笑)。ちょうど私の幼少期に父の仕事が一番忙しく、海外にいたことが影響しているのかもしれません。
けど、転機が訪れたのはWBC。あの歓喜がなかなか自分の中で冷めなくて、これからプロ野球シーズン始まるなら、見に行っちゃえ!って思ったんです。関東に住んでいる恩恵に預かって、東京ドーム、神宮球場、横浜スタジアム、ベルーナドーム、ZOZOマリンスタジアム、全部去年の夏制覇しました。
そこで一塁側で見てて思ったのは、あれ、「阪神って結構良いチームじゃない?!」という衝撃的事実。投手は抑えるし、野手は打って守って走れるし。なんか選手がすごくキラキラして見えたんですよね。
こんなチーム、もっと見てみたい・・・。
怒鳴り散らしてる父親を見ながらビビってた自分はどこにいった?って言いたくなる恥ずかしい気持ちを抑え、野球ファン初心者&ぼっちながら、ハマスタの三塁側で見に行ったらすっかり選手と応援の虜に。
得点時に知らない人とも一緒に喜んで楽しめるの、最高じゃん。なんか一人でいると、周りのおっちゃんとか話しかけてきて色々教えてくれるし。確かにちょっと怖い人もいるけど、基本的には親切で優しい。関東でも、どこか関西のノリみたいなものが感じられて、面白い。皆んな、本当に心から阪神のことが好きなんだな…。
こんな思い、私は阪神戦でしか経験したことがありません。
たまたま中継を見ていた8月29日の対DeNA戦で、背番号「12」のプレー姿に一目惚れ。序盤に冷静かつ正確な送球で盗塁を刺したかと思いきや、8回にはしぶといタイムリーヒットでチームに貢献。その時一塁上で見せた、眼光鋭く、闘志みなぎる表情のギャップにやられ、それ以来坂本選手の大ファンになりました。
気づけば、真っ黄色に染まった関東球場の3塁側で背番号「12」のユニフォームを着て、名前の入ったタオルを掲げて、応援バットを叩いてて、なんなら追いかける用の2万ぐらいする双眼鏡にまで手を出していました。
それから自然と現役からOB選手の情報にも詳しくなり、十数年越しで背番号「6」の"本当の姿"を知りました。金本さん、あの頃は本当にごめんなさい。きっと、当時の表情から思うに、本当に目の前のプレーに一生懸命だったんだろうな・・・。それが分からなかった私は、幼稚としか言いようがないです。
ちょうどその頃、学科の友人ら全員が留学に行ってしまって。やっとできた友人らが(いくら10ヶ月程とはいえ)旅立ってしまったのがどこかすごく寂しくて。これからどうしよう?ぼっちじゃんって真剣に悩んでいました。そんなに悩むならあなたも行けばよかったのに、って思われる方もいると思いますが、ずっと転勤族で世界各地転々とした学生生活を送ってきたので、大学時代ぐらいは、どこか一つの場所に留まっていたいなって思って。
結局、色んな意味で日本に残ったのは正解だったと思っていますが、一番にあげられるのが、阪神タイガースを応援できていること。
(いきなりのアレと日本一にはマジか!、という感じでしたが)おかげで、新しい出会いに恵まれたり、他球団ファンの友人と野球談義できるようになったりと、人生21年目にして思いがけないところで「自分の居場所」を手に入れることが出来ました。いつも温かく接してくれる友人ら、ツイッターのFFさんには感謝しかないです😊
そんな中、数日前の夜遅く、父と今の阪神のことで大喧嘩しました。
父は長打を打てる、華のある選手がとにかく大好き。監督のことは一切悪く言わないし、コメントもテキトー(笑)
けど、私は配球、守備とか小技とか、華はあんまりない要素もちゃんと楽しみたいタイプ。あと、おかしいことはちゃんとおかしいって言いたい。
日頃から私のツイートを見ている方は私と父とでは全然試合の見方が違うことはご存知だと思いますが・・・。うーん、声張り上げて怒っちゃったよね。寝ようとしてた母親も起こしちゃったし。
情けないなぁ。
阪神の試合見て、めっちゃ一喜一憂してるじゃん。
心の中では、「明日はきっと」ってわかってる。
けどさ、悔しいよ。
せっかく先発が試合作って、タイムリーも打ったのに、最後に試合がひっくり返されちゃうなんて。なんでここで代打出した??そもそもなんでこんな事態になること、防げなかったの??ずっと一ヶ月前から恐れてたことが現実になるなんて、首脳陣はわかってましたよね??
このやり場のない気持ち、どうすればいいの?
あー、イライラが止まらない。
ん?
あれ?
試合見れなくても、ラジオかスポナビで毎日試合追ってるし…
たかがプロ野球なんてわかってるけど、酷い屈辱的な負け方したら一日は引きずってしまうし…
なんなら、父みたいにテレビだけじゃなくて、毎月2、3回は試合を観に行ってるし…
なんとなく昔の父みたいにはなりたくない、ちゃんとわきまえたファンでありたい、ってずっと思ってたけど。
今の私、あの夏の父と、そんなに変わらなくない?
ということに今朝、気づきました。
父にまだ言われたことに対しては、まだイライラしてるけどね。
とりあえず、事実だけちゃんと認めようか(笑)
阪神ファンはほぼ全員知っているであろうことですが、今年は(はっきりいうて)打ててない。これは、ぶっちゃけあんまりオープン戦から変わってないかもしれない…。打っても、一番あかんところでエラーして、そこからずるずるずる…… と失点して、序盤は耐えていた中継ぎ・抑えが悲鳴をあげている状態です。
「強い阪神なんて、なぁ・・・」
先日、テレビのスポーツコーナーで順位表を見て、ふと父が口にした言葉です。
野球に今は全く興味ない元・ゆる巨人ファンの母も、「阪神は元から強いチームじゃないからね」とよく私に言ってきます。
けどね、それでも私は今の阪神タイガースを諦めたくない。
なにかと阪神を扱ってる本、詩、歌とかって、その「弱さ」について触れてますよね。新米ファンの私にはよく分からない部分が大きいですが、(なんとなく思うに)人生も似たようにそんなトントン拍子で上手くいくことってないじゃないですか。
あともうちょっとのところで、なんか上手くいかない。
どうして?っていうことが、起きてしまう。
どんなに頑張っても、なんか上手くいかない日々がある。
山あり谷あり。
そんな応援している選手たちの人生に、乗っからせてもらって、自分の人生を懸けて応援出来るのって、すごく素敵なことだと思うんです。
今だって、一番悔しい思いをしているのは選手たち。苦しい、最善とは言えない環境下で、日々もがき苦しみながらあのグラウンドに立っている。私にプロ野球の世界を語る権利なんてないけれど、時々選手たちから垣間見える人間性を見ていると、「あともうちょっと、信じたい」。ちょっと自分勝手だけど、そう思ってしまうんです。
祖母は老人ホームにいるので、あのテレビで阪神戦を見る日はもう、一生来ないです。
けど、きっと、あの頃の父が今でも脳裏に焼き付いているのは何かの運命だったような気がしてならないです。この歳になったからこそ見える景色が、ある。喧嘩の話を先にしてしまいましたが、阪神のおかげで海外にいる父と話のネタが出来、昔の話を聴きながら若い頃の父に思いを馳せるのが楽しくもあります。今、こんなに落ち込まずに応援できているのも、父から培った暗黒時代メンタリティもあるかもしれません(笑)
こうして今日も、私はあの頃の父のように、午後6時のプレイボールを待ちわびるのです。
今はすっごく苦しいけれど、止まない雨はない。最後には、あの頃があったから今がある、って笑って話せる日が来るはずだから。
また、今度誘ってみようかな。
「阪神の試合さ、一緒に行かない?」
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