マガジンのカバー画像

翻訳のヒント

23
トップスタジオ社内のレビューアーと翻訳者が経験から学んだ、「もっと読みやすい、良い訳文を作るためのコツ」をご紹介します。
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事

【翻訳のヒント】原文の情報を無意識にカットしていないかに注意

こんにちは。佐藤です。私がレビューアーとして翻訳者の方によくお返しするフィードバックの1つに、「読者は原文を読めないので、訳文だけを読んで理解できるようにしてください」というものがあります。この注意だけを見ると、「そんなの当然じゃん。翻訳ってそういうものでしょ?」と思われるかもしれません。しかし、業務歴の長い翻訳者でも、このハードルを越えるのはなかなかの難題です。 なぜ難題か?わりと根本的な意識改革が必要だからです。私自身、長いこと翻訳者として活動した後、レビューの仕事を始

【翻訳のヒント】開けたドアは早めに閉めよう

こんにちは。レビューアーの佐藤です。「英文の意味が正しく訳出されているのに、なぜか読みにくい訳文」というものがあります。そうした訳文によく見られる特徴の1つは、「開けたドアをなかなか閉めない」ことです。翻訳における「ドアの開け閉め」とは何でしょうか?具体例を交えて見ていきましょう。 「開けたドアをなかなか閉めない」翻訳先に説明しておくと、ここで言う「開けたドアをなかなか閉めない」とは、言葉の意味や目的を確定させないまま放置している時間が長いことを指します。ドアを開けたまま、

【翻訳のヒント】「で」の使い方に敏感になろう

こんにちは。レビューアーの佐藤です。以前に「原文の情報を無意識にカットしていないか?」という注意喚起の記事を書きました。これは翻訳者なら誰しもはまる落とし穴であり、非常に改善の難しい問題です(もしまだお読みでない場合は、ぜひそちらを先にお読みください)。前の記事では人称代名詞まわりの表現に注目しましたが、今回は別の角度から、この問題に迫ってみたいと思います。 海でひとりでバナナボートで遊ぶさて、この小見出しを見て何か気づいた点はないでしょうか?日本語話者ならば、この一文を見

【翻訳のヒント】"continue"の訳し方いろいろ

こんにちは。レビューアーの佐藤です。今回は、"continue"という単語の訳し方のバリエーションについて考えてみます。 いつでも「し続ける」でいいのか?ギリシャ神話のシシフォス(シーシュポス)のエピソードを知っていますか?神の怒りを買い、巨大な岩を山頂まで押し上げる苦役を永遠にし続けることになった人物の話です。今日の本題はギリシャ神話ではなく、"continue"という動詞の訳し方ですが、レビューをしていると、この動詞をひたすら「~し続ける」と訳すタイプの翻訳者に出会うこ

【翻訳のヒント】未来を表す現在進行形に注意

こんにちは。レビューアーの佐藤です。翻訳者から提出された訳文をチェックしていてよく感じるのは、「原文の単語を一つひとつ丁寧に訳したんだろうけど、その文で何を言おうとしているかが見えてないな」ということです。個々の単語やフレーズに向き合うのはもちろん大切ですが、狭い範囲だけを見ていると、重要なことを見落としてしまう場合があります。今日はその具体例として、「未来を表す現在進行形」を取り上げたいと思います。 確かに学校ではそう教わった ―― 「be動詞 + ~ing」は「~してい

【翻訳のヒント】日本人脳に注意~よく考えると「海外」って

こんにちは。レビューアーの佐藤です。今回はちょっと短めに、私が以前、無意識に犯していた間違いを告白して反省したいと思います。たぶん、多くの翻訳者がやってしまっている間違いだと思います。 別に問題ないように見えるけど……いろいろ言う前に、まずは例を見てみましょう。あるメーカーのデジタル戦略の実績を紹介する資料からの抜粋です。 ぱっと見た感じ、特に問題はありません。10人の翻訳者がいたら、9人ぐらいは似たような訳を提出してくるのではないかと思います。ただ、「立ち上げ」の主語で

【翻訳のヒント】「食べれば同じ」理論のすすめ

こんにちは。レビューアーの佐藤です。いつも教科書的でない翻訳のヒントを書くよう心がけていますが、今回はまた新たな発想方法として、「食べれば同じ」理論を紹介したいと思います。 技術的な正確性や行儀のよさが重視される案件にはお勧めしませんが、マーケティング系の読みやすさが求められる案件なら、ときにはこんな方法もありです。 「食べれば同じ」理論とは手間を省いた簡単料理で有名な、料理愛好家の平野レミさんをご存じでしょうか。彼女が考案するレシピでよくあるのが、「食べれば○○」パター

【翻訳のヒント】復習したい"with"の訳し方

こんにちは。レビューアーの佐藤です。突然ですが、皆さんは前置詞の"with"に苦手意識はないですか? 私は翻訳の仕事を始めてからずっと"with"が嫌いでした。前置詞全般に言えることですが、用法が多すぎて、どの意味で使われているのか判断に困ることが多いんですね。でもいつの頃からか、迷う場面が少なくなりました。英文を山ほど読んでいろいろな用法に慣れたこと、そして何よりも、書かれている内容についての知識が増えたことが、大きな理由だと思います。 今はレビューアーとして翻訳者の訳文

【翻訳のヒント】シカクいアタマをマルくする ~"by"のセオリーからの解放~

こんにちは。レビューアーの佐藤です。この【翻訳のヒント】シリーズでは、「セオリーに縛られずに最適な表現を探そう」という主張を繰り返していますが、今回はさらに思い切ったセオリー破りを提案したいと思います。それは、"by"は必ずしも「によって」でなくてもいいのでは?ということです。 日能研の電車広告で知られたフレーズ「シカクいアタマをマルくする」の精神で、この鉄板セオリーを見直してみましょう。 まずは基本からセオリーを確認するために、ごくシンプルな"by"の用例を見てみます。

【翻訳のヒント】文字数を減らしてみよう

こんにちは。レビューアーの佐藤です。一般的によく言われる「良い翻訳」の条件の1つは、一文が適度に短く、シンプルであることです。あまりに長い訳文は、どんなに正確であったとしても、読者の気持ちを萎えさせます。単純に短ければいいという話ではありませんが、削れるところは削った方が読者フレンドリーです。 というわけで今回は、「文字を減らす」ことにフォーカスして、明日からすぐに使えるヒントをご紹介します。いわば、文字の断捨離です! ヒント1:「こと」をなくす手っ取り早く文字を減らすに

【翻訳のヒント】containはいつも「含む」でいい?

こんにちは。翻訳者・レビューアの小島です。以前の記事で”include”の訳し方について書きましたが、今回は、類義語の”contain”についてです。 “contain”も「含む」とばかり訳していませんか?そうだという方は、この記事を読めばヒントを得られるかもしれません。今回も、例を見ながら考えてみましょう。 何らかの<情報>や<内容>を含む場合まずはこの2つの例文を見てください。いずれも”contain”を「含む」と訳しています(無生物主語文なので主体を変えてはいますが

あなどれない読点!~「どういう意味に読まれるか?」を意識しよう~

こんにちは。翻訳者・レビューアの小島です。今回は、英日翻訳で訳文を作るうえで避けて通れない「読点」について考えてみます。皆さんは普段、どういうところで読点を打っているでしょうか。原文どおりの位置でしょうか。音読するときに一息置くところでしょうか。 読点の付け方は、究極的には書き手の判断にゆだねられるもので、好みによるとも言えます。ですが、原文の内容を正確に伝えなければならない実務翻訳では、「誤解を生まないための読点の使い方」を意識する必要があります。 いくつかの例を見な

【翻訳のヒント】動詞"target"には2つの意味がある

こんにちは。レビューアーの佐藤です。今日のテーマはタイトルに書いたとおり、動詞"target"の訳し方。広告&マーケ関連の英文でよく見かける単語ですが、実は"target"には、似ているようで実は結構違う2つの意味があります。翻訳原稿をレビューをしていると、ここでつまずいているケースがよく見られるので、過去に「targetって訳しにくいんだよな……」と思ったことがある方は、ぜひお読みいただきたいと思います。 動詞"target"の2つの意味まずは英和辞書を引いてみましょう。

【翻訳のヒント】“include”はいつも「含む」でいい?

こんにちは。翻訳者・レビューアの小島です。昨年11月の記事「【翻訳のヒント】"use"はいつも「使用する」でいい?」をお読みいただけたでしょうか。「この単語はこう訳す」という決まり手にとらわれず、原文のメッセージを的確に伝える表現を探そう、という話でした。今回はその”include”バージョンです。 ”include”の意味を聞かれたら、ほとんどの人が真っ先に「含む」と答えるでしょう。つい反射的に「含む」と訳しがちですが、文脈によってはしっくりこないこともあります。ここでは